第151回:フルHD 3Dで約20万円の価格破壊機?
~WirelessHD対応 エプソン「EH-TW6000W」~
EH-TW6000W。WirelessHDトランスミッタ、3Dメガネが付属 |
今回取り上げるのはエプソンのdreamio「EH-TW6000W」。実売価格は20~23万円程度で、エプソンが得意としているエントリークラス向け製品といえる。
とはいっても「フルHD解像度リアル対応」、「3D立体視にも対応」という妥協なきスペック。さらに、型番末尾に“W”が付与されるこのEH-TW6000Wは、無線で映像を伝送できるWirelessHD対応モデルだ。
なお、WirelessHDに対応しないEH-TW6000も、無線ユニットが付属しない以外は共通仕様となっている。こちらは実売で20万円を切る店舗もあり、フルHD/3D対応プロジェクタとしては最安クラスだ。
■ 設置性チェック ~レンズシフト機能なし。3mで100インチの短焦点投射性能
EH-TW6000W。伝統の横長ボディ |
本体デザインはdreamioシリーズ伝統の横長デザインを踏襲。サイズ寸法は420×365×137.3mm(幅×奥行×高さ)で、重量は約6.2kg。エントリー機としては標準的なサイズだ。
底面の前部にはネジ式の高さ調整機構があるが、後部の脚部は固定式のゴム足になっている。前後の脚部の距離は約23cm。本体の奥行きも約37cm程度なので、そこそこ大きめな棚であれば、その天板に本体の天地を逆転させて設置する、疑似天吊り設置が可能だ。
背面には10W×2出力のフルレンジスピーカーが組み込まれており、本体のみでの2chのサウンド再生が可能となっている。天地逆転設置した際の左右チャンネル反転再生モードも搭載されているのが心憎い。音質自体は、上級なPCスピーカーくらいはある。実際の使用局面においてはかなり便利に使えるかも知れない。
背面側に吸排気口はないが、壁に寄せて設置してしまうとサウンドは反射音を聴くことになってしまう。エプソンとしてはユーザーの前にあるリビングテーブル等に設置し、ユーザー側にスピーカー部を直接向ける利用スタイルを奨励しているのだと思われる。
底面の様子 | ネジ式高さ調整機構付きの脚部 |
後面にはステレオスピーカー | 音声の再生を左右逆転させることも可能 |
天吊り金具も純正オプションとして設定されている。1つは2005年モデルのEMP-TW600から幅広く対応している「ELPMB20」(47,250円)、もう一つは、デザインがモダンになった「ELPMB22」(52,500円)だ。デザインが異なるため、高天井用のパイプはそれぞれ別型番の製品が設定されている点に注意して欲しい。いずれにせよ、過去製品向けの天吊り金具が流用できるのはありがたい。
投射レンズはマニュアル式1.6倍ズームレンズ(F1.51-1.99/f:18.2-29.2mm)を採用する。長らくズーム倍率2倍レンズを採用してきたエプソンにしては倍率が控えめだが、短焦点特性は維持されており、最短約3mで100インチ(16:9)の投射に対応している。100インチの最長投射距離は4.8mで、従来機が6m超だったことを考えると控えめだ。ただ、この製品が入門機と言うことを考えれば、あまり広大な部屋で利用されることは想定されていないはず。6~12畳クラスの部屋での利用ということであれば、問題はないはずだ。
レンズシフト機能なし。ズームやフォーカスの調整は手動式 |
ただ、価格を抑えるために入門機に重要視されるレンズシフト機能がバッサリと省略されてしまったことには賛否がありそうだ。EH-TW6000は投射映像の打ち上げ角度が固定式なのである。
投射映像は、光軸上に映像の下辺が乗るような投射角度となっている。正確には、光軸から若干の下広がりはあるが、140インチ(16:9)に拡大して下方向1cmに下がる程度なので、スクリーンの下辺に光軸が来るような設置を心がけ、あとは微妙な高さ調整をすれば良いだろう。
レンズシフトはないが台形補正機能は搭載されている。調整範囲は上下左右30度で、かなり調整範囲は広いが、これは光学補正ではなく、デジタル画像変形処理になるため、調整をすればするほど映像の解像度情報が欠落する。上下方向の傾きから生まれる台形補正に関しては自動補正機能まで搭載するが、フルHD解像度の液晶パネルをそのまま楽しむためには、なるべく使わないほうがいい。
光源ランプの交換用ハッチ |
光源は新型の230Wの超高圧水銀ランプを採用。交換ランプの型番は「ELPLP68」で、価格は31,500円。最近の機種としては標準的な交換ランプ価格だと言える。消費電力は372W。従来のエプソン機と比較して100Wほど高い。
エアフローは正面向かって右側のダクトから吸気して、左側のダクトから排気するデザインだ。側面、背面、底面、上面には一切のダクトがないので、設置時のクリアランス要件は緩めだ。これは初心者にとっては嬉しい配慮かも知れない。なお、騒音レベルは最小24dBという公称値になっている。明るさ切換「ノーマル」(高輝度)に設定した高輝度モードでは若干の排気音量が上昇するが、2mも離れてしまえば気にならない。逆に1m程度の距離では耳を傾ければ聞こえる程度の騒音はある。「エコ」(低輝度)では1m程度の距離でも騒音が気にならない。
右から吸気して左から排気 | 奥に見えるのが吸気フィルタ | 側面には吸排気スリットがない |
付属する3Dメガネ |
3D立体視用のために3Dメガネと表示映像との同期を取る3Dエミッタは投射レンズをぐるりと囲むように実装されている。かなり強力な赤外線信号が発せられており、現実的な視聴範囲では3D同期を失うことはなかった。一応、オプションとして外付け3Dエミッター「ELPIE01」(10,500円)が設定されているが、特殊な環境下以外では必要に迫られることはないはずだ。
ところで、この赤外線3D同期信号がスクリーン前面の空間全体に充満してしまうためか、全ての赤外線リモコンの効き(反応)が著しく低下してしまう現象に見舞われた。筆者宅では、エアコン、電動スクリーン、そして本機のリモコン自身までほとんど効かなくなるという状態になった。こうした現象は、実は他機種でも確認されている。エプソン機に限ったことではないが、プロジェクタの3Dエミッタはそろそろ電波式の採用を検討した方が良いのではないかと思う。
3Dメガネ「ELPGS01」(10,500円)は標準で1個が付属。また、筆者の実験では私物の東芝レグザ用3Dメガネ「FPT-AG01」が流用できた。
ELPGS01 | 使用ボタン電池はCR2032 | 3Dメガネの電源ボタン |
■ 接続性チェック~別ユニットでWirelessHDに対応
接続端子パネル |
端子類は背面に備えている。入力端子はHDMI×2、D-Sub 15ピン×1、コンポーネント×1、コンポジット×1、アナログ音声×1。
PC入力端子(D-Sub15ピン)をXbox 360で試してみたところ、1,920×1,080ドットは正しく表示されないが、1,360×768ドット、1,280×720ドットなどは正常に表示できた。ただし、画面の左右表示位置の自動調整がうまくいかず、ずれてしまうこともあった。「映像」メニューの「表示位置」設定で調整できるが、あくまで簡易的な対応という印象だ。
PCとのデジタルRGB接続には、HDMI端子の利用も可能だ。オーバースキャンのキャンセルや、HDMI階調レベルの設定は「映像」-「アドバンスト」にて行なえる。HDMI階調レベルは「HDMIビデオレベル」という項目で設定でき、「通常」設定が16-235階調レベル、「拡張」が0-255階調レベルになる。PCとの接続時には「拡張」を選ばないと暗部がつぶれ、明部が飛び気味になるので注意されたし。
アナログビデオ入力に並んで音声入力端子があり、ここに接続した音声が本体内蔵スピーカーで再生される。これはコンポジット、コンポーネント、アナログRGB入力の3入力で共有される。USB端子は、USBメモリやデジカメ機器などのストレージクラスUSBデバイスを接続するためのもので、JPGファイルの静止画の表示のみに対応する。
Ethernetと同形状のRJ-45端子は外付け3Dエミッター「ELPIE01」の接続専用端子。EH-TW6000/W6000Wにネットワーク機能はない。RS232C端子はターミナルソフトなどを使ってリモート制御するためのもの。
USBメモリによる写真閲覧機能。スライドショーもあるので簡易プレゼンならばPCいらず |
WirelessHDトランスミッタ |
以上が、本体側の接続端子だが、EH-TW6000Wの注目の機能がWirelessHDによる無線接続だ。
WirelessHD機能は無線でHDMIを飛ばす機能で、EH-TW6000WにはWirelessHD受信機を内蔵、AVアンプや映像機器などと接続するWirelessHDトランスミッタ(送信機)が付属する。出力機器とWirelessHDトランスミッタとの接続は、通常のHDMIケーブルを利用する。2mのHDMIケーブルが同梱される。入力はHDMI 1系統のみとなる。
WirelessHDは60GHz帯のミリ波電波を使用し、3Dを含めた非圧縮1080p映像の伝送に対応。公称スペック上は遅延はない(無視できるレベルに抑え込まれている)ことになっている。トランスミッタをBDプレーヤー/レコーダなどのHDMI出力に接続することで、プロジェクタ側に非圧縮で映像/音声を伝送できるため、プレーヤー/プロジェクタ間の長いケーブル配線が不要になる。ケーブルを天井や床に這わせなくていいというのがそのメリットといえる。
ただ、60GHz帯の電波なので無線LANとの干渉はないものの、無線技術でありながらも遮蔽に弱いという特性もある。スペック上は直線距離で10mの送受が可能なことになっているが、遮蔽物には気を付けて設置したい。
WirelessHDトランスミッタ | WirelessHDトランスミッタ側のHDMI入力端子は1系統のみ |
今回も幾つか条件を変えて実験してみたが、わずか直線距離にして3mの距離であってもテーブルの下などに配置するとうまく送受できないことがあった。天吊り設置にした場合はWirelessHDトランスミッタもそれなりに高い位置に設置した方がよいだろう。
また、EH-TW6000W側のWirelessHDの受信機は吸気口の開口部奥に設置されているため、トランミッタをEH-TW6000Wの背後に置いた場合はほとんど受信できない。部屋の家具の配置やAV機器の設置位置によっては、安定した送受位置を確保するためには、試行錯誤が必要になるかもしれない。
使用には付属するACアダプタを利用する | PS3との接続事例。PS3とWirelessHDトランスミッタを接続するだけでOKだ | WirelessHDメニュー |
■ 操作性チェック~リモコンはデザインを一新。2画面機能も搭載
リモコン。太く幅広いしっかりとしたデザインに。 |
リモコンはEH-TW4000系から一新され、幅広のやや太めのデザインになった。メニュー操作用の十字ボタン、機能調整用ボタンがリモコン下部に配置され、入力切換関連やHDMI CEC(HDMIリンク)関連のボタンが上部に配置される。
実際に使ってみると、このリモコンはやや使いにくい。というのも、底面の凹みが、下部に配置された十字ボタンのリモコン側にあるので、手に取ると必然的にリモコンの下側を持つことになる。なのに、使用頻度の高い入力切換が上部に配置されているので親指をめいっぱい動かさないと、指が届かないのだ。おそらく、HDMIリンクへのアクセスを重視したデザインだと思うが、使用スタイルによっては操作しづらいと感じるかも知れない。
それと、[音量UP]ボタンの上にある[MUTE]ボタンは、EH-TW6000のスピーカー出力を一時的に消すミュートボタンだと思いきや、全く効かない。説明書によれば、これはHDMIリンク専用のボタンというが、HDMIリンク関連のボタンも本機の音量調整ボタンも、そして[MUTE]ボタンも、黒色でややこしい。リモコン最下部には、画面と音の両方をカットオフする[A/V MUTE]ボタンがあるのだが、これまたHDMIリンクボタンと同一色の黒色で色分けで塗装されている。細かなことだが、改善した方がいいポイントだ。ユーザーが手に触れる部分の質感を高めることはブランドを高めることに繋がるので安価なモデルでも配慮が欲しい。もっとも、使っていて気になったのはそれくらいで、あとは大きな不満はない。
全ボタンがオレンジ色に自照式に発光 |
ライトアップボタンを押せば全ボタンが自照式で点灯するし、入力切換は指が届きにくいが、全ての入力系統に個別ボタンが割り当てられているので、希望の入力系統に1発で切り換えられる。切換所要時間はHDMI→HDMIで約6.0秒、HDMI→コンポーネントビデオ入力で約6.0秒、HDMI→PC(アナログRGB)で約6.0秒であまり早くはない。
電源オンにしてからHDMI入力映像が投射されるまでの所要時間は約43.0秒。こちらも最近の機種としてはやや遅めだ。
プリセット画調モード(カラーモード)は[Color Mode]ボタンでカラーモードメニューを開いて希望するカラーモードを上下ボタンで選択する方式。切換所要時間は約2.0秒。これと同様に、アスペクトモードは[Aspect]ボタンを押してアスペクトメニューを開いて、希望するアスペクトモードを上下ボタンで選択する方式だ。切換所要時間は約1.0秒とまずまずの速さだ。
基本的なメニュー設計、調整項目のラインナップはEH-TW4000系から大きな変更はないが、細かく仕様が変更されている部分もあるので、本稿ではそちらをフォローすることにしよう。画質調整項目やアスペクトモードなど、共通仕様となっている部分については本連載「EH-TW4000編」や、「EH-TW4500編」を参照して頂きたい。
「画質」メニュー | 「映像」メニュー | 「設定」メニュー |
「拡張設定」メニュー | 「情報」メニュー | 「初期化」メニュー |
型番こそ上がっているが、EH-TW6000W/6000は、EH-TW4000系に搭載されていた高度な画質調整機能の一部がカットされている。カットされた機能としては超解像、補間フレーム機能、ブロックノイズ、MPEGノイズリダクション(モスキート・ノイズ・リダクション、ブロックノイズ・リダクション)など。
これはEH-TW6000が入門機と言うこと、そしてエプソンがハイエンドは反射型液晶パネル採用機のEH-Rシリーズに対して形成していくため、の両方の理由があるのだと思われる。
ただ、必要な機能はちゃんと残っているし、エプソン機らしい、マニアックな機能の一部はEH-TW6000にも受け継がれている。
「ガンマ」補正機能は2.0/2.1/2.2/2.3/2.4というプリセット代表値から選ぶ以外に9バンドのグラフィックイコライザーのような操作画面で好みのガンマカーブも作り出せる「アドバンスト」モードは残っている。
また、色出力特性をRGB、RGBCMYで、オフセットとゲインレベルの調整で作り込めるこだわりの色調整モードは「映像」-「アドバンスト」メニューにしっかりと継承されている。
「RGB」 | 「RGBCMY」 | 「ガンマ」 | 「シャープネス」 |
一般的なプロジェクタ製品では「シャープネス」は強弱設定ができるだけだが、ディテール部(高周波)、エッジ部(低周波)、横縞(水平)、縦縞(垂直)のシャープネスを個別に設定できるマニアックな調整方式もちゃんと残っている。
ノイズリダクション機能も、アナログ信号に乗りやすい時間方向のノイズを低減させるノイズリダクション機能は引き続き搭載されている。
何から何までカットと言うわけではなく、上級ユーザーにも人気の機能は一通り搭載されているといっていい。原信号至上主義のユーザーにとっては、超解像やフレーム補間機能はもともと「余計な機能」ともいえるので、良い捉え方をすれば、「贅肉を落とした」といえるかもしれない。
「画質」メニューや「映像」メニューの「アドバンスト」メニュー階層下の高画質化機能はシンプルになった | メモリー |
ユーザーメモリの管理方式は、EH-TW4500の方式を踏襲している。エプソン機では、画作りに介入する「画質」メニューと、表示方式に関与する「映像」メニューからなっているが、TW4000まではユーザーメモリには「画質」メニューの調整結果のみが記憶され、「映像」メニューの調整結果が保存されないというクセが存在した。EH-TW4500ではこれが改善され、「映像」メニューの調整結果も保持されるようになった。この改善はちゃんと今回のEH-TW6000にも継承されている。
「2画面表示機能」も装備。これは2つの入力系統からの映像を1画面に同時に表示するもので、薄型テレビ製品ではお馴染みの機能だ。TW6000Wの2画面機能は「HDMI入力とそれ以外」の組み合わせを基本としており、2系統のHDMI入力の同時表示には対応していない。ちなみに、"それ以外"というのはコンポジット、コンポーネント、PC(アナログRGB)だ。
表示方式は2画面を横に並べて表示させるサイドバイサイド方式しか選べないが、2画面の各画面のサイズの大小調整は可能だ。映画を見ながらWebサイトをチェックしたり、あるいは攻略サイトを見ながらゲームをプレイする……と言ったことに使えそうだ。薄型テレビの2画面機能とは違い、大画面で利用出来るという点でも実用的だ。
2画面機能。左がHDMI入力の映像、右側がコンポーネントビデオの映像 | 2画面モード時専用メニュー | 表示モードはサイドバイサイドのみだが、左右の画面サイズを変更できる |
■ 画質チェック~8倍速480Hz駆動によって1080/24pの3D映像のクロストークは最低限に
液晶パネルは0.61型/解像度は1,920×1,080ドット。世代的には「D9」のHTPS(High Temperature Poly-Silicon:高温ポリシリコン)透過型液晶パネルになる。対応駆動速度は8倍速の480Hzで競合製品よりもだいぶ高速だが、補間フレーム機能は搭載されておらず、この8倍速駆動は純粋に3D立体視表示のためだけに活用される。
レンズ構造がシンプルになったためか光学的な画質は良好だ |
投射される画素は、透過型液晶パネル特有の格子筋がやや目立つが、思いのほか、フォーカス感がよく、色収差も少ない。TW6000系の投射レンズは、ズーム倍率を控えめにしておりレンズシフトも省略しているが、構造がシンプルになったことでその分、投射映像のフォーカス感も向上したのかもしれない。
最大輝度は2,200ルーメンと、リビングルームで使用することを想定して輝度重視の性能が与えられている。この明るさはもはやデータプロジェクタレベルといった感じで、ランプモードを高輝度モード(明るさ切換=ノーマル)に設定し、画調モードを「ダイナミック」にすれば、蛍光灯照明下でもけっこう十分なほど投射映像が明るい。
コントラスト性能は4万:1。この値は動的絞り機構(オートアイリス)を有効にしたときの値になる。
2年前のモデルであるEH-TW4500がオートアイリス有効時に20万:1だったことからも分かるように、「何十万:1」とか「何百万:1」といったスペックを謳う機種が多くなっている中では、やや控えめな値だといえる。透過型液晶パネルも進化したので、コントラストを避ける要因である迷光はかなり抑え込むことはできた。しかし、透過型液晶の場合、画素面積の半分を占める画素周辺の駆動回路に光が当たって迷光を生み出す構造上の特性はついて回り、2,200ルーメンという高輝度性能がどうしても“絶対量としての迷光”を多くしてしまう。事情を考えれば、むしろこの4万:1というスペックはがんばっている方だろう。
ただ、オートアイリスが賢く働くので、完全な真っ黒画面を表示しない限りは「あからさまな黒浮き」というものを目にすることはあまりない。この辺りのチューニングはうまい。
漆黒の画面の中央に白マスを表示してオートアイリスの効果を確認。有効にしたときのクロの締まり具合に注目。「標準」設定と「高速」設定は表示映像に対するオートアイリスのレスポンスを設定するもの |
ランプモードの高輝度モードと低輝度モードとでは、若干、画質の傾向が異なるので、インプレッションを分けて書いておくことにしよう。
まず、高輝度モードからだ。高輝度モードでは、暗部と明部が同居している映像では暗部が明部に引っ張られて沈み込みがもう少し欲しい気がすることもあるが、高輝度な分、明部の伸びが鋭いため、よほど意識しなければ気にならない。
階調特性もそのあたりをうまく配慮して設計されているようで、明部の伸び重視で階調のバランスが作られている印象だ。
ランプモードによらず色ダイナミックレンジは良好だ。漆黒近い色でも、黒浮きに負けず、ちゃんと色味が与えられている。二色混合グラデーションも美しく、擬似輪郭などの目立ったアーティファクトもない。
発色は高輝度モードでは明色に行けば行くほど水銀系ランプの特性が顔を出し、赤や肌色に黄味が増す傾向を感じる。低輝度モードでは、こうした印象がだいぶ改善され、肌色は黄味が消え自然な白味が帰ってくる。
難しいのは低輝度モードでは色ダイナミックレンジが幾分下がってしまう点だ。鮮やかな色あいが支配的なシーンは高輝度モードの方が美しい。
ランプモード(明るさ切換)=エコ(低輝度モード) | ランプモード(明るさ切換)=ノーマル(高輝度モード) |
こうして色々と評価していると、EH-TW6000Wでは、高輝度性能があるからこそ、視聴するコンテンツによってランプモードを使い分けたくなってくることに気づかされる。つまり、ランプモードを切り換える頻度が多いということだ。
ただし、ランプモードの切換設定はいちいちメニューを潜る必要がある。できればこの設定はリモコンでワンタッチで切り換えたかった。本機に限らず、3D対応の高輝度プロジェクタ製品ならば、ランプモード切換頻度が上がるはずなので、メーカーにはそうした「気軽にランプモード切換が出来る操作系」の搭載をお願いしたいものだ。
フレーム補間機能は無いが、1080/24pのような毎秒24コマコンテンツに関しては、各フレームを2回ずつ描画して毎秒48コマ化して表示する「2-2プルダウン」機能が搭載される。オン/オフの設定が出来るが、オフ時の2-3プルダウンされて毎秒60コマ化された映像よりも、オン時の毎秒48コマ化された映像の方が映画独特のフィルムジャダーが等速になってスムーズに見える。ここは映画視聴時には是非ともオン設定にしたいところだ。
エプソン独自の3D駆動表示「Bright 3D Drive」 |
本機はエプソンにとっては初の3D立体視対応モデルになる。それだけに画質が気になるわけだが、さすがに後発なだけあって、エントリークラス向けのモデルとはいえレベルの高い仕上がりを見せている。
8倍速駆動によってより高速にフレーム描画を行ない、両目全閉時間を劇的に短縮することで、より長時間、適性フレームを対応する目に見せることが出来る、というエプソン独自の3D駆動表示「Bright 3D Drive」は、確かに効果が大きい。2,200ルーメンの高輝度性能と相まって、プロジェクタ製品としてはトップレベルの明るい3D映像を見ることが出来た。
3D立体視の調整項目でポイントとなるのは「3D設定」メニュー階層下の「3D明るさ調整」と「3Dカラーモード」だろう。
3D明るさ調整は、3D映像自体の輝度を変えるのではなく、3Dメガネ側の液晶シャッターの開閉タイミングを調整するものになり、「高・中・低」の3段階調整が可能だ。高設定は確かに明るくなるがその分クロストークが大きくなり、低設定はクロストークが激減するがその分映像が暗くなる。中設定はその中間という位置づけだ。
「3D設定」 |
クロストークが最も分かりやすいと言うことで筆者がよく評価に用いている「怪盗グルーの月泥棒」のジェットコースターシーンでは、高設定は僅かにクロストークを感じる。中設定になると意識を集中するとクロストークの存在が分かるが、平常の視聴状態ではほとんど分からないレベルだ。低はかなり意識を集中してもクロストークは見えるか見えないかというレベルでかなり表示品質は高い。暗室で見ているのであれば低設定でも「暗すぎる」と感じることはないはずだ。結論を言えば映画視聴時は中設定で常用OKということになる。
ただ、これは毎秒24コマの1080/24p映像の場合。毎秒60コマの720/60pのゲーム映像だとやや状況は違う。
720/60pでは低設定にしても、1080/24pでの高設定くらいのクロストークが見えてしまうのだ。今回の評価では、PS3の「グランツーリスモ5」と「アンチャーテッド3」の3D立体視モードで評価したが両ソフトとも同じ見え方をする。ゲームプレイ時は「3D明るさ調整」の低設定が必須といえる。もう少し720/60pの3D映像のクロストークは減らして欲しいと感じた。
それと、今回、3D機能を使い込んでみて感じたのは、この「3D明るさ調整」機能の設定頻度が高いということ。この設定をいちいち「映像」メニューから潜って設定するのは煩わしい。リモコンにもこの調整機能は欲しかったと思う。
3Dカラーモードは、いわば3D立体視専用のプリセット画調モードになるわけだが、EH-TW6000/TW6000Wでは「3Dダイナミック」「3Dシネマ」の2種類のモードが用意されている。
それぞれ「ダイナミック」と「シネマ」の画調を3D立体視モードで再現したもので、3Dダイナミックは明るさ重視、3Dシネマは色再現性重視という設定になる。
3Dダイナミック。黄緑感が写真でも分かるほど強く出ている |
3Dシネマ。色再現性を重視するにはこちらの常用をお勧めする |
3Dダイナミックは、2D時のダイナミックと同じで水銀系ランプの特性が牙をむく画調で、全体的に黄緑色が強い画調になってしまう。部屋を暗く出来ないときに3D立体視を行なう際に利用すればいいだけのモードで、ちゃんとした映像鑑賞を行なう向きには3Dシネマの方がお勧めだ。こちらは、3D眼鏡を掛けた状態であっても、2D時のシネマと同等の色再現性になっており、事実上の3D立体視の標準画調モードといっていい。
2D時のプリセット画調モードはラインナップこそEH-TW4500と似ているが、全体的にチューニングを変更してきたようなので、インプレッションと活用方針を改めて述べておくことにする。
ダイナミック |
「ダイナミック」は、最大輝度が得られる画調で、当然、ランプモードは高輝度設定になる。色温度は6500K設定なのだが、色調は黄緑に振れるのであまり、その値に正確性はなく、色再現性にやや難が出る。黒浮きは顕著になるが階調のリニアリティはうまく維持されている。
明るい環境で視聴する場合や、会議室での仕様など、データプロジェクタ的な活用をする場合に利用するモードだ。
リビング |
「リビング」は、ダイナミックの水銀系ランプの特性を抑え込みつつも最大輝度を確保した画調モード。色温度は7500Kで、ちゃんと7500Kらしいホワイトバランスになる。色再現性はダイナミックよりはだいぶ正確だ。
完全暗室にはできない状況下で、それなりに正しい画調で映像を楽しみたいときにお勧めできる。
「ナチュラル」は、実質的に標準画調モード。ランプモードは低輝度設定になり、色温度は6500Kに設定される。発色は非常に素直なモニターライクな傾向になり、人肌も自然な発色になる。常用モードとしてお勧め。
「シネマ」はほとんどナチュラルと変わらない画調モード。TW4500ではナチュラルとは色温度が違ったのだが、TW6000では色温度も同じ6500Kだ。色温度を5000Kか、5500Kあたりにまで落とすと他機種で言われているシネマっぽい画調になる。
ナチュラル | シネマ |
最後に表示遅延について触れておこう。
EH-TW6000/TW6000Wには、低表示遅延を謳ったゲームモードが存在しない。本連載ではお馴染みとなったLCD Delay Checkerを用いた表示遅延測定では、ダイナミック、リビング、ナチュラル、シネマの全ての画調モードで60Hz時、約5フレームの遅延が確認された。最近のテレビ製品では遅延の大きいものでも3フレーム程度だ。
3D時の表示遅延は、60Hz時、約4フレームとなり、2D時より改善される。これは3D表示時に、映像エンジン内で、高画質化ロジックの強制スキップが行なわれるためのようだ。
WirelessHDの表示遅延は、画調モードによらず、これも60Hz時、約5フレーム。WirelessHDによる無線伝送遅延はなく、EH-TW600Wに入力されてから遅延が出ていると言うことだ。
本製品は、ホームエンターテインメント向けに訴求する製品なだけにここはもう少しがんばって欲しかったと思う。残念ながらタイミング重視の格闘ゲームや音楽アクションゲームのプレイには向かない。ただ、今回プレイしたレーシングゲームやアクションアドベンチャーゲームのようなそれほど操作タイミングがシビアでないゲームは問題なくプレイはできた。
HDMI接続時。全ての画調モードで表示遅延は約5フレーム | 3D時の方が遅延が少なくなる | WirelessHD接続時。ワイヤレス接続の遅延は無視できているが、TW6000W側の遅延が大きい |
■ まとめ~フルHD×3Dを20万円で。入門機に最適な1台
EH-TW6000Wは、「フルHD」で「3D対応」といういままさに旬なスペックを持ちながら実勢価格約20万円という、魅惑のコストパフォーマンスをひっさげて登場した製品だ。まさに「3Dプロジェクタの価格破壊」と呼ぶに相応しいモデルだと言える。
3Dの画質は映画を視聴する分には満足のいくレベルだし、2Dの画質はそれまでのエプソンのハイエンド機と拮抗する画質を持っている。なにより、2,200ルーメンという高輝度スペックは3Dにはもちろんだが、ホームユースでは何かと便利だ。まさに初心者向けの1台目のプロジェクタ入門機として推薦できるモデルになっている。
逆に、ミドルアッパークラス以上の2D対応機を使ってきた中級者以上のユーザーにとっては、EH-TW6000/TW6000Wの「価格を下げるためにそぎ落とした」部分が気になってしまうかも知れない。レンズシフト機能の省略は、既に常設している手持ちのモデルをシンプルに交換するには障害になるだろう。
もっともそうした人のためにも、上位機EH-TW8000/TW8000Wや、2012年発売の反射型液晶機のEH-R4000/R1000などが用意されている。これらの登場を見極める、というのもいいだろう。いずれにせよ、今期のエプソンのプロジェクタラインナップは強力だ。
(2011年 11月 11日)