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暑かった夏を、いい音のアニソンで振り返る。スタァライト、すのはら荘など

猛暑が列島を襲った2018年夏。7月クールのアニメは、そんな夏に負けない熱く夢中になれる作品が多かった。そんな作品の中で登場した、音楽的にも音質的にも注目のアニソンを紹介する。

今回は、部活系の作品を2つ取り上げた。仲間達と部活に打ち込んだ日々は、大人になっても決して色褪せない。現実は、アニメのように恋愛も友情もドラマチックに……とまではいかないかもしれないが、端から見ているだけでも結構ときめくものだ。

なお、今回より試聴システムに新たな機材が加わった。音源を入れるデータ倉庫にあたるNASを、アイ・オー・データ機器のSoundgenic(SSD 1TB)へと変更した。その高いポテンシャルについては、以前のレビュー記事で紹介しているので、興味のある方は参考にしてほしい。

Free!-Dive to the Future- ED主題歌「GOLD EVOLUTION」(96kHz/24bit)

京都アニメーションが制作したテレビアニメの第3期。2期目放送の後、映画と特別版を挟んで、ついに新章に突入した「Free!」シリーズ。舞台を東京、オーストラリア、鳥取と変えながらも、一人一人のストーリーが緻密に重なり合っていく見事な群像劇だった。個人的には、新入部員を迎えた岩鳶高校のシーンが微笑ましくて好きだ。部長に就任した玲くんが頼もしく成長していて、ますます筆者のイチ押しキャラになった。

GOLD EVOLUTION/STYLE FIVE

EDは岩鳶高校水泳部のスターメンバーによるSTYLE FIVEが歌う。作曲はArte Refactの本多友紀、編曲は脇眞富が担当している。広い音場の中に、打ち込みトラックが所狭しと炸裂している。各トラックの前後感がより際立っているのはLantisらしい音作りだと感じた。結果として、楽曲のパーティームードをより高めてくれる。

本楽曲の旨味はやはり声優のボイス。徹底的に味わうならヘッドフォンで聴くのがオススメだ。音数が多い曲なので、音像が曇らない解像感の高いモデルを選びたい。

スピーカーでも聴いてみたが、若干リズムのキレがもたつく感じがあった。これは筆者の環境によるものだ。一方、音のシャワーを浴びているような気分になれて、部屋の空気を鳴らして聴くのも存外悪くはない。

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・STYLE FIVE/GOLD EVOLUTION

少女☆歌劇 レヴュースタァライト OP主題歌「星のダイアローグ」(48kHz/24bit)

ミュージカルを原作としたメディアミックス展開のアニメ版。「ミュージカル×アニメーションで紡ぐ、二層展開式少女歌劇」という新しい試みに興味をそそられた方もいるだろう。アニメ放送が始まるやいなや、喋るキリンをはじめ謎のオーディションに対する考察が飛び交い盛り上がっていた。

星のダイアローグ/スタァライト九九組

何と言っても、舞台少女たちが歌劇に賭けるそれぞれの想い、ライバルだけど同じクラスで絆を育くむ仲間という要素が織り成すドラマが見所。仲間でありライバル――その繊細で絶妙な距離感はリアルに描かれており、何かしら舞台に関わったことのある方は共感ポイントもあったのではないだろうか。

OPは主演キャストによるユニット「スタァライト九九組」が担当。作編曲はArte Refactの本多友紀。1分半の中で転調が何度も繰り返される構成は、ともすると違和感に繋がってしまうと思う。しかし、筆者はフルバージョンを聴いてもそれをまったく感じなかったし、アニソンとしても実にカッコいい楽曲だと思い選曲した。オーケストラセクションを贅沢に使用し、ワルツのリズムを取り入れたりと、歌劇を題材とした作品に見事にマッチしている。

ハイレゾ版の聴きどころは、アコースティック楽器の存在感。オーケストラの広がりや抑揚の変化など、マスター音源ならではの説得力だ。ミュージカルをイメージした変化に富む楽曲の中で、特に鳥肌モノなのが間奏からの大サビ。ひかりと華恋の交互のボーカルに全員のコーラスが加わってクライマックスへと登り詰める。その強烈なカタルシスはハイレゾ版でこそ味わってほしい。

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・スタァライト九九組/星のダイアローグ

すのはら荘の管理人さん OP主題歌「Bitter Sweet Harmony」(96kHz/24bit)

一迅社の同名コミックを原作としたテレビアニメで、制作はSILVER LINK。男らしくなりたい中学生椎名亜樹くんに、学生寮の管理人さんをはじめ多数の美少女たちが公然と“かわいがり”を働くおねショタラブコメ。出てくる女性キャラクターはみんな魅力的だが、亜樹くんはどうやら管理人さんが気になる様子。どんなにスキンシップが激しくてもグッとこらえる忍耐はさすだが、多少の反撃はかわいさで許されると思うのは私だけだろうか。本編では季節が巡っていたが、ここは”サザエさん時空”で同じ歳をずっと繰り返して欲しいものである。

Bitter Sweet Harmony/中島愛

オープニング曲は、自身も小薗井舞子役で出演する中島愛が担当。作詞・作編曲はkz。本楽曲は、中島愛ソロ名義では初の96kHzによる楽曲となる。4thアルバムを区切りとして、以後の楽曲はすべて96kHzセッションで作るのかもしれない。96kHzは、まだまだ当たり前になっていないので、ぜひアニソン業界のスタンダードにしてほしい。ハイレゾ版を聴くと、中島の息遣いまで分かりそうなリアルな“口元感”に耳を奪われる。近接マイキングによる表現という側面もあるだろうが、肉厚な音像と滑らかな質感は圧縮音源では味わえない。ミックスは、打込みトラックとボーカルの融和を意識した聴きやすい仕上がり。コーラスも音数の多さに埋もれていない。

カップリング曲「悲しみと共に」は、オーディオファイルにも名の知れたジャズトリオ「H ZETTRIO」が作編曲と演奏のすべてを手掛ける。音圧こそリード曲に合わせているようだが、ピアノ・ドラム・ベースの一発セッションの生々しさは素晴らしい。ぜひとっておきのオーディオシステムで聴いて欲しい。

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・中島愛/Bitter Sweet Harmony/知らない気持ち

最後に7月クールの最中に起きた、アニソン関連のトピックを紹介したい。8月8日にストライクウィッチーズのテーマソングコレクションがハイレゾ版でリリースされた。これは、日本コロムビアが48kHz/24bitのマスター音源を独自のORTマスタリング技術で96kHz/24bitにリマスタリングしてリリースしたものだ。

ストライクウィッチーズ テーマソング・コレクション【ORT】/V.A.

ハイレゾ配信はコラボヘッドフォンと同時発表されたため、ご存じの方もいるだろう。シリーズの中でも特に印象深い、劇場版の主題歌「約束の空へ~私のいた場所~」を聴いてみた。ORTマスタリングは倍音を復元する技術で、元のマスターにある音楽情報には極力手を触れず、音色や響きなど制作過程で失われてしまった本来の情報を復元するという点がウリだ。

この楽曲をサントラのCD盤と聴き比べたが、まるで別物だ。広がりや奥行き感、ダイナミクスが格別で、音場も整理されていて聴き心地はすこぶる良い。ローエンドはCD盤よりも深く伸びており、タイトに締まって密度感もある。48kHz/24bitのオリジナル2mixの時点でかなり音がよかったのかもしれないが、ORTマスタリングはエンジニアが楽曲に合ったパラメーターを綿密に吟味しているそうだ。

倍音復元によってボーカルの空気感は向上しているが、適度な案配に収まっていると感じた。全体的にナチュラルで無理矢理感がないのが好みである。本作は、配信ランキングでも上位をマークした。音の良い、過去の資産はまだまだきっとある。商業的に成功すれば、次に繋がるだけに我々ファンも買って応援したいものだ。

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・V.A./ストライクウィッチーズ テーマソング・コレクション【ORT】


    【使用機材】
  • NAS「Soundgenic RAHF-S1」SSD 1TB (アイ・オー・データ機器)
  • ユニバーサルプレーヤー(ネットワーク再生)「BDP-103DJP」(OPPO Digital Japan)
  • AVアンプ「AVR-X6300H」(デノン)
  • スピーカー「MENTOR2」(DALI)

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト