樋口真嗣の地獄の怪光線

第20回

樋口監督鬼門の地・池袋に都内最高の劇場爆誕! 迷わず行けよ、行けば分かるさ!

別れ話、オヤジ狩り、劇場トラップ、楽屋監禁……樋口監督の苦い池袋伝説

眠らない街・池袋

もともと、池袋って街にあまりいい思い出がないんです実は。

高校時代付き合ってた彼女と卒業後に池袋でデートしたら、別れ話を切り出されたり。今や世界的巨匠になった某監督と一緒にその某監督の熱心なファンとおぼしき女子大生ズと4人で飲んで、酔った勢いも手伝って近所のコンビニで花火買って公園でやってたらお巡りさんに見つかったので走って逃げたり(←良くない行為です)。オヤジ狩りにあって、巻き上げられそうになったり(この時も走って逃げた)。

観に行くコンサートが東京芸術劇場だと思って西口に降りたところで、本当は上野の東京文化会館だと気付いて大慌てしたり(この時は走って間に合った)。観に行く舞台が東京芸術劇場だと思ったら、東京オペラシティだったり(この時もまた走って間に合った)。

後輩の熱心な若者が作った映画のトークショーに出て終わったら、みんなロビーでサイン会やってて、俺だけ楽屋に閉じ込められて、仕方ないから非常出口から脱出したり。酔っ払いに絡まれたり自分が酔っ払って終電逃したりは茶飯事として、相性が悪いのでしょうか。まさしく鬼門で、池袋に来ても良いこと1つもなかったような気がします。

約5年の歳月を経てついに完成した「グランドシネマサンシャイン」

そんな街、池袋に計画発表から約5年の歳月を経てオープンしたのが、複合型映画館「グランドシネマサンシャイン」です。

池袋・東口に新たにできた新商業施設「キュープラザ池袋」。ここの4階から12階に「グランドシネマサンシャイン」があります

池袋の映画館といえば、我々おっさんにとっては名画座の雄・文芸坐です。洋画中心の文芸坐、邦画中心の地下劇場(文芸座2)、柱が邪魔だった小劇場ル・ピリエとか。あるいは日勝文化劇場とかテアトルダイヤとかでしょうか。

いずれにしても池袋は、ロードショウから時間が経った二番館や二本立てで見逃した映画を見るために行く街でした。なぜなら渋谷パンテオン、新宿ピカデリー、新宿ミラノ座、新宿プラザといった“キャパ1,000人オーバー”の巨大映画館が渋谷・新宿に待ち構えており、自ずと池袋以外に足が向いてしまいがちだったのです。

2003年に閉館した東急文化会館「渋谷パンテオン」(2002年撮影)

ところが前述の大型艦……じゃなくて、大型館が相次いで閉館。取って代わってできあがったシネコンは、採算優先という事情に加え、避難通路などを確保しなければいけない消防法の縛りもあって一箇所に観客を集める施設を建設するのがなかなか難しくなったのです。

そんなシネコンによって顧客ニーズの多様化に対応した、小回りの効く劇場運営が広く浸透。それでも映画館ならではのアドバンテージを最大限活かすために高品位の上映……例えば、IMAXやドルビービジョン、あるいはシネコン独自規格であるTOHOシネマズのTCXやイオンシネマのULTIRA(ウルティラ)、劇場単位でも本連載1回目に登場した立川シネマシティの極上音響/爆音シリーズやチネチッタ川崎のlive ZOUNDなど、シネコンによるインフラの平均化画一化(悪い印象の言葉だけどこれができることって実はすごいことなんだけどね!)を足がかりに、徹底的な差別化戦略が打ち出されるようになりました。

もはやテーマパークのアトラクションとも言える4DX、MX4DにスクリーンXといった3D上映の進化系というべき体験型上映システムもエンターテイメント系映画の上映バリエーションとして定着しているように思います。

極上音響/爆音を上映するシネマシティ
3面スクリーンと4DXを融合させた「4DX with ScreenX」(グランドシネマサンシャインのシアター4)

フィルム上映時代から大型上映フォーマットの嚆矢として先陣を切り開いてきたIMAXも、既存シネコンの施設を転用する関係で本来のポテンシャルを十全に生かす環境とは言い切れない形の、いわば“都市型IMAX”のような劇場が次々に生まれています。

これって、ファーストガンダムの増加装甲型飛行ユニットGアーマーの運用バリエーションにおける“Gスカイ・イージー”とか、ガンダムに対する“GM(ジム)”っぽい位置付けなんだけど、説明すればするほど知らない人にはなんだか解らない話になっていくのでもう止めます。むしろ成田のような郊外に建設されたIMAXデジタルシアターの方がIMAXらしいのではないかと思いつつも、利便性とどちらを取るか? 悩ましい問いに答えは出ません。

グランドシネマサンシャインのIMAX劇場に次ぐ、スクリーンサイズを誇る成田のIMAXデジタルシアター(成田HUMAXシネマズ)

劇場エントランスにある熱血社長の檄文を刮目せよ

そんな悶々としている最中、2015年に大阪は万博記念公園エキスポランド跡地の109シネマズのIMAXシアターが、4K映写の二台撃ちという次世代レーザープロジェクターと高さ18m超、横幅26m超というとんでもないスクリーンサイズで完成したのです。

もう正直言いまして、都内のどのIMAXシアターが束になっても叶わない質と量。しかもIMAX“フィルム”カメラで撮影された作品に関しては、上下の画面が切られることなく、スクリーンいっぱいに写されるのです。これがIMAXフィルム本来の、撮影時のアスペクト比! この辺のことはバックナンバーを参照して下さいな。

IMAXフィルムカメラ撮影の「ダンケルク」をフルサイズで見るべく、特撮西遊記の面々と大阪へ(17年秋)

いいなあ大阪府民は! ノーランの「ダンケルク」や「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」などの“上下目一杯IMAX”を簡単に観ることができて! とホゾを噛みつつ大阪に行ったついでに、いや、ついでどころか、作品によっては上下目一杯で観るためにわざわざ大阪に出向いて、その巨大画面とそれを射抜くようなレーザー映写の鮮鋭な画質を堪能して参りましたが、その労苦ともいよいよお別れでございます。

そう。俺にとって鬼門だった池袋に、大型映画館グランドシネマサンシャインが、そして国内最大のIMAXシアターが完成したのです。

見てくださいこのデカさ! まるで人間が○○のようだ!

賑わいがなくなったわけじゃないけど、映画街だった日比谷や渋谷は再開発で落ち着いた雰囲気になり、規模こそ大きいけれど新宿ですら歩留まり優先の発想で作られた堅実な劇場が軒を並べる中、“巨大劇場空白地帯”だった池袋に忽然と現れたシネマサンシャイン系列の旗艦劇場。そのIMAXスクリーンは、都心に有りながらビル6階分の高さに匹敵する縦18.910m・横25.849mという国内最大サイズを実現したのです!

グランドシネマサンシャインは、かつてのサンシャインシネマを通り過ぎて左に行くと、まるで屋上にゴジラのいない歌舞伎町のTOHOシネマズみたいな雰囲気の巨大なビルが、目の前に現れます。

JR池袋駅東口から、(ヤマダ電機隣の)サンシャイン通りを進んで左側。サンシャイン60通りから、東急ハンズ手前の角を左に曲がっても行けます

ビルの最上層部には、ガラスごしにフロア幅いっぱいのLEDディスプレイを設置。こけら落としの「天気の子」の予告が流れていました。このLEDは、上に登ったときに天井いっぱいを覆う「天気の子」になるんですが、これがもう凄いとしか言いようが無く。

12階ラウンジスペースの天井にある10×30mのLEDディスプレイ「Motion Ceiling」
天井に設けられたLEDディスプレイは、遠く離れた場所からもハッキリと見えちゃいます

そして劇場のエントランスには、佐々木興業の佐々木伸一社長による檄文、じゃなくて決意表明のような熱いメッセージが壁に刻まれています。あまりにカッコいいので全文引用。

新たな発見を楽しんでいただく 映画館をめざして

グランドシネマサンシャインに、ようこそお越しくださいました。
映画とは、本来一度しか経験することができない人生を、いくつも体感させてくれます。
私たちは、映画を介して、ひとびとの多様な考え方や価値観に触れ、
驚きや感動を共有することができます。
そして「新しい私に出会う きっかけ」を映画は与えてくれます。
そんな映画が、私は大好きです。

映画が誕生してから、たくさんの名作が生まれました。
当館では、観客を魅了してきた名作のポスターをコレクションしています。

都市型シネマコンプレックスとして、
都市と連続する「空中劇場街」をつくりだすために、
五つのテーマを持った劇場を立体的に積み重ねることを試みました。
アカデミー賞、カンヌ・ヴェネチア・ベルリン三大映画祭、
タイムレスをコンセプトとしたIMAXシアターの五テーマで構成しました。

各劇場ゾーンをつなぐエスカレーターをギャラリーとして見立て、
映画の黎明期から現在に至る数々の名作のポスターを過去から現在まで展示、
映画の歴史を振り返る タイムトラベルスペース としました。

懐かしい作品に対面して昔の記憶をふと思い出したり、
観ていない作品との出会いを求め、調べる動機づけになったりと、
皆さんと映画の出会いを提供する場になれたら、とてもうれしいです。

そして、映画との出会いの場にとどまらず、
映画を愛する皆さんの「交流の場」を生み出していくことができるような
新しい映画館をめざしていきます。

どうか、人生を豊かにする映画の時間をお楽しみください。

令和元年七月
佐々木興業株式会社 代表取締役社長
佐々木 伸一

4階のエントランスに記載されている社長の檄文

いいに決まってんじゃん! 池袋のグランドシネマサンシャイン。都内最高なことは保証するよ!

スゴイです。これぞ映画愛、そしてこれぞ娯楽の王道。

会議室で合議制や根回しや調整をして導き出した結論ではありません。紛れもなく社長の熱量で押し切った結果です!(たぶん)

でも、いいんですこれで。ディズニーランド然り、宝塚然り、全ての娯楽の始まりはヤマっけにあふれた大胆な発想、思い切りの良い実行力なんです。

その発想が、愛情が、ビルの中にぎっしり詰め込まれて溢れています。

池袋の街が一望できるIMAXのフロアにあるカフェも、“レンチン”とかではなく、手の込んだ料理をきちんと出してるから映画のついでじゃ勿体ないほどです。ちなみにこのカフェ、IMAXの特別席を取ったらミールクーポンが付いてきて劇場内にも持ち込めるらしいよ。まるでかつてのヴァージンシネマのファーストクラスみたい!

12階レストラン「バール パノーラマ」

その贅を尽くした空間、ダンボール製のスタンディを置いたら台無しになるんじゃないかといらぬ心配をしたら、全てデジタルサイネージに集中させているのでスタンディは置かないらしい。なんたるプレステージ感!

その劇場で体験したら映画はどうなるか……いいに決まってんじゃん! どういいのか……そりゃ見なきゃわかんないよ! だから見たほうがいいよ一度は! 間違いなく都内最高なことは保証するよ!

まだまだいっぱい書けるけど、映画館をじっくり観る時間を取ったほうがいいから、ぜったいに時間ギリギリにこないほうが楽しめるよ! (ホントはエレベーターやエスカレーターがそんなに“太く”ないから、混んでたらなかなか上のフロアにいけなくなるかもしれないような気がするんだよね!)

グランドシネマサンシャイン開業記念オリジナルショートフィルム「TRANSPHERE」の予告編。ALEXA LFの「LFオープンゲートモード」で撮影することで、IMAXフルサイズを実現している。

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。