樋口真嗣の地獄の怪光線

第19回

ついにラストだよ「午前十時の映画祭」と眩しすぎる日本語字幕問題の話

2010年2月からスタートした「午前十時の映画祭」。旧作映画五十本を一週間づつ朝イチのシネコンで一年かけて上映するイベントで、名画座がなくなって“名画を映画館で見る機会がなくなった”と嘆くオールドファンに応える形で始まったけど、存外に幅広いファンを獲得したらしく、翌年も、その翌年も開催されました。

ラスト・チャンスですぞ! 「午前十時の映画祭」

その頃はちょうどシネコンもフィルム上映からデジタル上映に切り替わる時期……というよりも、フィルム上映そのものがシネコンからなくなってしまったので、続行が危ぶまれたけど、デジタル上映でさらに続きます。

映画祭を立ち上げた中川敬さんは、ガメラ第1作のころの東宝の宣伝部長で、その後東宝スタジオの社長になって10年かけてスタジオ設備の大改造の陣頭指揮を取り、軌道に乗ったところでTOHOシネマズの社長になってこの映画祭のプロデューサーとして会社や国境を越えてあの映画やこの映画のプリントを集めた、スゴい人です。

洋画に限らず、邦画も含め、これまで上映された作品の本数は234本。のべ391本におよぶそうです。

ビデオやDVDでは絶対体験できない劇場体験ができる貴重な機会だったのですが、10年続いたところでとうとうファイナルです。そんな10年目に「日本のいちばん長い日」(もちろん1967年岡本喜八監督版)がなんと4Kリマスター版で上映するので、4K上映のシアターを探して行ってきました。

「日本のいちばん長い日 4Kデジタルリマスター版」
(c)1967 東宝

いやー、それこそ好きな映画だし、暇さえあれば傍らのモニターに流しながらコンテ切ってたりして、もう映画というよりも、点滴のように四六時中注入していました。スクリーンでも何回も見てたはずなんですが……4Kの威力ですよ。

その強烈な演技を強烈なクローズアップの応酬が、かつてない解像度で映画館の大画面で再見すると、今まで見ていたものとはまるで違う映画ではありませんか。岡本監督の、どちらかといえばシニカルなスタンスから繰り出すその演出に、かつての私たちはテクニカルな熟成としての面白さを楽しんでいたのかもしれません。

しかし、この35mmモノクロフィルムに刻み込まれた壮絶なテンションの演技が、そのキャメラワークやモンタージュの妙を凌駕。かつてのようには全く楽しめず、むしろ敗戦を前にした老人の疲弊と後戻りできない若者の焦燥、そして(恐らく理想に燃えて戦争遂行してきた)中堅の諦観が織りなす一夜の狂騒の果ての暴力。

聖域を守るために、名もなき軍靴に蹂躙される聖域の畳み掛けに戦慄します。スゴいことはもちろん知ってたし、それこそ何十回、何百回と見てきた映画に潜在していた不発弾のようなものが浮かび上がってきたことに驚きです。

同様のショックは4Kで木村大作キャメラマン自らがグレーディングをした「八甲田山」でも味わえるでしょう。泣いても笑っても今年度が最後なので早起きして見に行きましょうよ皆さん。

お家でもいいけど映画館でも4Kですよ。

「八甲田山 4Kデジタルリマスター版」
(c)1977 橋本プロダクション/東宝/シナノ企画

映画「八甲田山 4Kデジタルリマスター版」と「日本のいちばん長い日 4Kデジタルリマスター版」は、「午前十時の映画祭10-FINAL」にて7月11日(木)まで上映中。全国上映劇場と上映スケジュールは映画祭公式サイトを参照のこと

字幕を眩しくする必要って、なくなくないですか?

で、前回までのドルビーシネマの素晴らしさ、その黒さ、その眩しさに新しい映像のあるべき未来を感じたのですけども、そこが素晴らしければ素晴らしいほど、どうしても気になることが浮かび上がってくるわけですよ。

字幕。

日本語字幕。

この問題、字幕なんか読まずに済むほどの英語力があれば、なんの問題もなかったのでしょうがそこは置いといてですな。ドルビーシネマの繊細で大胆な映像の中に、本当に土足で踏み込むように眩しい白でビカーッと鎮座しているわけですよ。いつものように、いや、いつも“異常”に眩しく。

あれ、なんとかならないのでしょうか? あそこまで眩しくある必要って、なくなくないですか?

ちなみに今使ってる4K UHDプレーヤー。サブメニューで字幕の位置と輝度を調整できるんですよ。だからシネスコフレームの映画であれば画面外ギリギリに字幕2行分を追い出せるし、誰がどう使うのかわかんないけど、画面のど真ん中にも持ってこれるんですよ。

その上輝度も12段階調整だから、控えめなコントラストで邪魔しない感じになるのですごく重宝してるんだけど、ディスク入れ替えるたびにリセットされちゃうのでいちいち設定しなきゃいけないのがめんどくさいなあ。位置情報記録しといてくれたらいいのに、聞こえるかしら。

通常の字幕位置と輝度
字幕位置「マイナス15」、字幕輝度「マイナス12」の場合

でも最近家人が見始めている配信系のドラマの字幕が何が起きたのかってぐらい控えめで、まだまだ発展途上のYouTubeの自動翻訳もそのぐらいのフォントサイズ感だし、これで字幕として機能するんだろうか? と思ってたんだけど人間慣れるもんですなあ。

小さい字幕に慣れたらこのぐらい小さいといいのにと思い始めるんですけど、配信をテレビに回すために繋いでるApple TVは、字幕調整機能が豊富みたいなんですな。

その一方で、リモコンのすごくいい位置にデーンと鎮座する配信会社のボタンを備えるUHDプレーヤーは、配信の字幕調整ができませんでした。

Apple TV 4KでNetflixを再生する場合、スタイル(一般→アクセシビリティ→字幕とキャプション)で字幕の調整が可能。新しいスタイルを作成すれば「フォント」「サイズ」「色」「不透明度」が選べる。詳しくはNetflixのヘルプを参照のこと

配信でもフォントのサイズ、位置、明るさがユーザーが選べるようになってるとすごくいいのになあ。もう21世紀になって20年になるんだし、そろそろいいんじゃないかなあ。

もうそろそろついでで言うと、字幕の量も、みんなの画面上の文字を読む速度って高速化してると思うんだよなあ。ゲームのテキストとか、テレビ番組のテロップフォローとか。いい加減「1秒4文字」とか「2段10文字」みたいな縛りとかなくして、どのぐらい読めるか、実験して見たらいいと思うんだよなあ……。

ちなみに海外の映画祭での「シン・ゴジラ」の外国語字幕(音声は日本語だったので字幕をつけてもらってます)は、あの早口のセリフの字幕の応酬に加えて、場所や人物、会議の名称の紹介字幕も加わって、ニコ動の弾幕みたいに字幕まみれになっていて、それは圧巻でした。読めるかどうかを越えた一大事感を表現するグラフィカルな演出になってました。

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。