樋口真嗣の地獄の怪光線

第43回

『ヘイル・メアリー』がIMAX GTで見れん!そしてさよならワーナーマイカル海老名!

IMAXデジタルシアター

嬉しい話でもあるのですが、映画を“ラージフォーマット”で楽しむという習慣が当たり前のようになってきました。

「アイマックス(IMAX)」、「ドルビーシネマ(Dolby Cinema)」、「4DX」に「MX4D」に「スクリーンX(ScreenX)」、これらはその専門劇場で上映するために各々の規格に合わせて上映用データを作らなければならないのですが、ソースを問わないシネコンチェーン系列は高品質上映形式でシノギを削っています。TOHOシネマズの「TCX」、シネマサンシャインの「BESTIA」、イオンシネマの「ULTIRA」といった独自路線です。

どこもそのシネコンに於ける最大の大バコを供出しているので、劇場としてはその膨大な客席数を可能な限り埋めたいのが人情。そうするとどうなるかというと、今日び一日中同じ映画を上映するよりも時間帯に合わせて映画を変える変則的な興行になります。

これもデジタル上映になったから許されるやり口です。

フィルムだったら映写室を何本ものフィルムを持って、行ったり来たりになるので現場からやめてくれとの声が出ること必至だし、映画の配給会社からも独占的に上映して欲しいと圧がかかっていましたが、今では力関係がかなり変わってきて、洋画の配給会社の競争も弱まった代わりにアニメ映画のメガヒットが相次ぎ劇場本位で自由な番組編成が可能になった結果、洋画の新作超大作がアニメ映画に寄って早朝上映や終わったらもう電車が走ってない深夜帯に押しやられているのが実情です。

嘆く暇があったら映画館に観に行けよって話なんですけども、これも現実。

それでもラージフォーマットの劇場から予約は埋まっていきます。

公開から時間が経つとその成績によってモブ劇場に格下げされてしまいます。その前に何としてでも大箱大画面大音響で堪能したいではありませんか。そんなことを考える同志によって予約は瞬殺、最前列の寝転びシートしか空いてないではありませんか!

たとえ辺鄙な時間の上映しかなくても観たい人は来る、という劇場の読みはあながち間違ってなかったのです。

で、まあ有り体に言うと難民です。

グランドシネマサンシャイン 池袋のIMAX GTレーザーでないと公開中のSF大作『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は完全な画角で見ることができないという情報が出ちゃったもんですから、もう席が取れません。

ラージフォーマットの一方の雄、ドルビーシネマも同様ですし、元々数が少ないスクリーンXも言うに及ばすソールドアウト。

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』監督たちのプレミアムラージフォーマット映画館ツアー

だとしたら見るべき劇場はどこかあるか?

この時点で既に立川シネマシティの爆音で観ちゃったから何処かなと探してると、こんなニュースが!

イオンシネマ海老名がイオンモール建て替えのため閉館!

おお、イオンシネマ海老名。

かつての名は「ワーナー・マイカル・シネマズ 海老名」。

1993年にオープンした日本最古のシネコン……シネマコンプレックス。

そこの最大容積を誇る「スクリーン7」に日本で初めて導入されたTHXシアター。

「ワーナー・マイカル・シネマズ 海老名」時代の外観
現在のイオンシネマ海老名
イオンシネマ海老名の館内
スクリーン7入口

その字の並びで反応するのは相当の古株。

スターウォーズの生みの親、ジョージ・ルーカス監督が映画の音響的採集作業のダビング……それは日本独自の言い方だけどセリフ、効果音、音楽をほぼ編集が完成した状態の映像と同期させて音量、定位等のバランスを取りつつ整えていく映画制作の最終段階であり良き理想の映画を作る戦いの最終局面。

そこで調整した音がその後公開されたらなぜかあの時聞いた音ほど良くない。なぜだ?

気になりだすけど、その当時はそもそもフィルムの光学録音。ダビング作業時はマルチトラックレコーダーに磁気録音して完成した音原版を光学録音機で再録音する工程があるのでどうしても音質的に劣化するし、それを見越した音響設計も数多の映画館にプリントがばら撒かれるとそれぞれの劇場の都合で勝手な音量に設定されたものを観客は目にするわけです。

ジョージの怒りもごもっとも、俺も幾度となくどうなってんじゃオラー!と映写室に突撃をかました血気盛んな20代でございましたが(もちろん自作で、です)何とかせにゃと思い立ったジョージはスターウォーズの映画とマーチャンダイズで儲けた金を注ぎ込んで、音響工学の権威であるトムリンソン・ホルマン博士に製作者の意図を漏らすことなく再現できる、映画館の音響に関する基準づくりやその測定の方法などを作らせ、1983年にはルーカスフィルムの子会社として、映画館の規格認定を行なうための一部門であり上映規格として「THX」が活動を開始しました。

まさしくジョージの1971年の監督デビュー作『THX1138』から引用されたと思しき由緒正しい今でいうところのラージフォーマットハイクオリティシアターの先駆け(と思ったら博士のイニシャルと実験、experienceをくっつけてもTHXだから単なる偶然らしいんですな)。

THXについて(イオンシネマ)

とはいっても他のアイマックスやドルビーのように専用の機器を介したり専用の規格に変換した上映用データを必要としない、上映環境そのものを規格化するというものでした。ありがとうジョージ!

自作のダビングを行なうカルフォルニア州マリンカウンティにあるスカイウォーカー・ランチと同じ条件を揃えさせる、と至ってシンプルだけど険しく厳しい掟のようなルールが課せられていたのです。

イオンシネマ海老名のTHXシアター(スクリーン7)
客席
壁に設置されたJBLスピーカー

THX劇場に必要な条件とは、、、

室内の暗騒音――空調・換気や上映機材を運転させている状態でのノイズ量。

遮音。場内の足音や近隣施設から伝わってくる雑音が基準値まで遮れるか?

残響時間。反射しにくい内装設計の音響内装になっているか?

ダビングステージで使用している指定された機材の使用。

スピーカー、アンプ、ベースマネージメント・コントローラ、イコライザ、ディレイ、さらにはスピーカーケーブルの銘柄も決まっていますし、もちろん映写機やスクリーンも同様で、この基準をクリアしないとTHXシアターの称号は与えられなかったのです。

というかそれについては本連載第2回目で日本で2番目に導入された立川シネマシティですでに触れていましたね。

そんな思い出のワーナー・マイカル・シネマズ 海老名……じゃない。イオンシネマ海老名を見納めに行かなければ……と調べたら、『ヘイル・メアリー』、スクリーン7では朝の8時25分からの一回きりであとは全部劇場用アニメ!

なんと。しかしそれでも一度やるのであれば行かねばなるまい!

ロマンスカーミュージアムもあるし!

イオンシネマ海老名 ロビー

※編集部注:イオンシネマ海老名 スクリーン7での『プロジェクト・ヘイル・メアリー』上映は、4月9日で終了しています。

イオンシネマ海老名 イベント情報

2026年5月17日をもって営業終了する「イオンシネマ海老名」では、『スター・ウォーズ』シリーズ全11作品をTHXシアターにて4月24日より順次上映する。作品の上映日時は、後日ホームページにて発表される。

また、最後の「スター・ウォーズ」上映に合わせ、イオン海老名店内に“海老名「スター・ウォーズ」ロード”を設置。正面入口からイオンシネマ海老名までの導線を「スター・ウォーズ」一色にラッピングし、来館者が劇場に入る前から「スター・ウォーズ」の世界観を楽しめるようにする。「スター・ウォーズ」関連商品の販売も行なう。

さらに、最終上映日の5月17日の鑑賞者には、もれなく「イオンシネマ海老名オリジナルのクリアファイル」(非売品)が配布される。

イベントの詳細は劇場ホームページを参照のこと。

樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。