樋口真嗣の地獄の怪光線

第44回

海老名THXシアターで『ヘイル・メアリー』バッチリきめてきたぜ!

樋口監督の初THXシアター作品は『アビス』でした
(C) 2024 20th Century Studios.

思い返せば一番最初に見に行ったTHXシアターは香港の今は亡き星光影院(確か)。仕事で香港に滞在していた時にジェームズ・キャメロン監督の『アビス』を封切りで観に行ったのでした。

『アビス』の頃はジョージ・ルーカス率いるスカイウォーカーサウンドが世界の映画音響ヒエラルキーの頂点に君臨していた時代です。

それが1989年で、それから日本に帰国してしばらく経って1993年の海老名のワーナー・マイカル・シネマズ、それから立川のシネマシティ、チネチッタの8番スクリーンチネ8、それと前後して、現像所のIMAGICA第一試写室、音響仕上げの東京テレビセンター・407スタジオにも導入されました。

劇場も本八幡のニッケ工場跡地にオープンしたショッピングモール・コルトンプラザ内の新築のTHXシアターを擁する外資系シネコン、ヴァージンシネマズは、まさかの東宝が全館買収してTOHOシネマズに看板を掛け替え、その勢いに乗じてこれまた海老名にワーナー・マイカルの向こうを張って完成させたTOHOシネマズ海老名は全スクリーンTHX認証と露骨なワーナー・マイカル潰しを仕掛けますが、それから四半世紀を経るとTOHOシネマズのTHXは全面撤退。まあ認証受けるコストを切っただけなんですけども。

そんな群雄割拠、シネコン三国志の風雲際会を乗り越えてきたTHX最初にして最後の砦、ワーナー・マイカル・シネマズ(現イオンシネマ)海老名の7番スクリーンで早朝『プロジェクト・ヘイル・メアリー』バッチリ決めてきましたよ。

映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』予告

入居しているイオンモール海老名がそもそも建て直しのために閉店。

初めて来た時は駅前なのに周りは何もなく、そんな荒野に煌々と輝くワーナー・ブラザースマークのネオンは当時稀有なアメリカンな映画体験を予感させてワクワクしたものですが、今や回りはタワマンやもっとデカいビナウォークなるショッピングモールに囲まれてまるで絵本の「小さいおうち」のようです。

駅からモールに入ると「売りつくし」と墨痕鮮烈に記された巨大な垂れ幕が悲壮な決意を醸している訳ですよ。

そしてモールの入り口にはTHXシアター独自の広告が貼られていて、その文言―――おそらく劇場の誰かが認めたものだと推測できるのですが、泣けます。

優れた音響空間で素晴らしい映画体験を。

抜群の静音性
外部の音やエアコンの音などが映画鑑賞環境の邪魔にならないことを確認済みです。静かなシーンは本当に静かです!

響く重低音
製作者がこだわって作った音響を体験!座席から伝わる迫力の重低音は、本編前の「THXトレーラー」でも体験いただけます。

作品を選ばない
洋画に限らず、邦画やアニメでもTHXの力を体感できます。作り手の意図を正しく再現できる、それがTHXのすごさです!

実に端的に言い表しているではありませんか。

他のラージフォーマットは独自性を優先するあまり、専用の上映用パッケージに変換しなければ上映すらままならないのですが、まさかこんな世の中になるとは誰も想像していなかった三十年以上前のあの時代にはTHXが落とし所込みで“ちょうどいい塩梅”の高品質上映形態だったのです。その冗長性が、まさかの三大特徴の一つとしてカウントされることになります。

これを“上映中!”で案内しているのが『劇場版ひみつのアイプリ まんかいバズリウムライブ!』と『超かぐや姫』。

まさしく作品を選ばない凄さでありますが、今やアニメの方が大箱を支える観客をガッチリ掴んでいるのでしょうし、その後劇場に入って痛感する空席の多さを鑑みると、正直うらやましいです。

出迎えてくれた、売り尽くしマネキン
イオン海老名店の通路を進んでいくと……
イオンシネマ海老名のロビーに到着!
グッズ売り場にも「THX」ロゴが燦燦と!
『ヘイル・メアリー』きめてきますよ

そしてTHX上映の『ヘイル・メアリー』、先付けのディープノートで始まるTHXロゴリールは、どっかの惑星のヘンテコな植物みたいな楽器が次々に音を鳴らすCGでした。アメイジング・ライフという名の13年前に作られたリールで、もうすでに更新されることもなかったのか、今まで他の劇場に浮気して申し訳ないような気持ちでいっぱいになります。

THX Deep Note Trailer: Amazing Life

で、本編が始まりますが散々ドルビーシネマやIMAXで慣れてしまったというかコンプ効きまくりの羊羹波形のデジタル音圧中毒になってしまった耳には物足りなく、時代遅れに感じるのではないかと思いきや、むしろそのアナログ的というか、結構な音圧なんだけどアコースティックな柔らかく包み込まれるような、体験したことのない音になってました。30年以上の歳月を経て熟成というか醸成されたような感じでした。

もう一回『ヘイル・メアリー』を上映するかはわからないですが、さよなら企画で『スターウォーズ』シリーズとかやるみたいですね。お別れにもう一回行きたいもんです。

ありがとう!海老名THXシアター
樋口真嗣

1965年生まれ、東京都出身。特技監督・映画監督。'84年「ゴジラ」で映画界入り。平成ガメラシリーズでは特技監督を務める。監督作品は「ローレライ」、「日本沈没」、「のぼうの城」、実写版「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」など。2016年公開の「シン・ゴジラ」では監督と特技監督を務め、第40回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。