日沼諭史の体当たりばったり!
第20回
壁掛けテレビへの道(後編)。(大変だけど)壁掛け最高。伸縮もいいぞ!
2018年4月20日 08:20
「テレビを壁掛けにする」というだけで、前・中編の2回を前置きに使ってしまった。長々とやってきたが、ようやく今回で一区切り。55インチの4Kテレビ、ソニー「KJ-55X8500E」(以下、X8500E)を壁に掛けるにあたり、使用する壁掛け用金具の選定から施工、そして実際に使ってみた感触をレポートしていきたい。なお、今回の壁掛け金具の施工については、テレビ用壁掛け金具メーカーSANUSの製品を取り扱うネットワークジャパンにご協力いただいた。
機能を絞った安価なフラットマウントか、機能豊富なフルモーションマウントか?
さて、我が家のテレビの視聴スタイルから考えると、リビングのソファから見る、というのがほとんどだ。キッチンからテレビが見える位置にあるので、料理しつつテレビもちょっと見る、みたいな使い方もしているが、それでもテレビの向きを変えるほどではない。だから、壁に掛けたとしても角度調整の自由度が高い必要はなく、SANUSのラインアップで言えば半固定の「フラットマウント」で十分ではある。
ネットワークジャパンによると、「最近はディスプレイ性能の向上でテレビの視野角が広くなっているので、向きを大きく変えられる必要性は少ないとも言える。そういうこともあってフラットマウントのニーズも高い」とのこと。たしかにほとんど真横からでも見えるX8500Eなら、いつも通りの使い方をしている限りフラットマウントでも不満に感じることはなさそうだ。
しかしである。我が家のリビングの壁に入っている下地を、壁にケーブルを通すための穴を開けた際に改めて確認したところ、厚みが25mm前後あることが判明。これくらいあれば、強度の面ではフル機能の「フルモーションマウント」も問題なく固定できる。ちょうどテレビを掛けようとしている壁の中心に間柱も通っていたので、これも活用すれば完璧だろう。とはいえ、価格面では「フラットマウント」といくつかの調整機構をもつ「ティルティングマウント」が実売価格1万4,000〜1万5,000円であるのに対し、フルモーションマウントは同4万円からと、差はなかなか大きい。
価格を考えても、必要十分な機能をもつ金具を選ぶという意味でも、フラットマウントで決まりのはず。はずなのだけれど、ここで「せっかく壁掛けするのに、機能に妥協するなんてもったいないよなあ」という思いが頭をもたげる。前回の中編で「どんな風に使うかわからないから、とりあえず調整機構の多い高機能な製品にする」ことに疑問を呈しておきながら、舌の根も乾かないうちにこれはどうなのかと思わなくもない。でも、こんな買い物は一生にきっと何度もないのだ。やるときにはやるべきである。やるべきですよね?
そんなわけでネットワークジャパンにアドバイスいただき、我が家の55インチX8500Eの壁掛け金具として選んだのが、SANUSのフルモーションマウント「VLF628」(実売価格55,000円前後)。46~90インチ、68kgまでのテレビに対応した製品だ。取り付け後も水平方向のスライド、マイナス15度(下向き)からプラス5度(上向き)のチルト、プラスマイナス2度の回転、プラスマイナス62度のスイーベルに加え、奥行き方向に8.3〜71.1cmの範囲で伸縮させることも可能になっている。正直、機能が多すぎて使いこなす自信はない。
ちなみに、SANUSの壁掛け金具は、こういった製品に多いとされる曲げ加工ではなく、鋳造が基本となっていて、重量のあるテレビも余裕で取り付けられる強度を誇るのも特徴だ。ネットワークジャパンが試してみたところでは、耐荷重が60kg前後の製品に試験的に200kgの荷重をかけてもびくともしなかったという。むしろそこまでいくと壁の強度の方が心配になるけれど、ともかく製品としての信頼性は想像以上に高そうだ。
壁掛け金具の施工。高さ位置は慎重に決めたい
施工は、わざわざ説明と取り付けのために我が家に来ていただいたネットワークジャパンの中尾氏ともう1人のスタッフにお願いした。通常は購入店舗や専門の施工会社に工事を依頼する形になり、取り付け工数は(壁に問題がなければ)だいたい1〜2時間程度とのこと。SANUS製品は量販店などでも取り扱っているため、購入してユーザー自ら施工することも不可能ではない。
ただ、特にフルモーションマウントの場合、金具だけで20kgをゆうに超え、現にVLF628は約24.7kgもある。これを1人で持ち上げながら壁にネジ留めするのは至難の業というか、まず無理だし、危険。できるだけ購入店舗や施工会社にお願いするのが良いだろう。実際、我が家の場合も3人がかりでハァハァ息を切らしながら設置した。
大まかな設置手順は、「付属の紙シートで設置場所を仮決め、下穴を開ける」「テレビ側の金具を取り付ける」「壁側の金具を取り付ける」「アームを壁側の金具に取り付ける」「テレビをアームにセットする」という流れ。ただし、取り付け後もさまざまに調整できるとはいえ、高さの変更だけは難しい(テレビ側の金具のネジ留め穴を変えれば変更可能。mm単位の微調整は不可)。なので、最終的にどの高さにテレビが来るようにしたいのか考慮しながら、各金具の高さ位置をあらかじめ厳密に決めておくのが望ましい。
ネットワークジャパンによれば、最適な高さは、普段の視聴スタイルで目線を水平にしたところにテレビの中心があるか、やや見下ろすくらいにある状態。我が家では、筆者がソファに座ったときの目線の高さがだいたい95cmになる。なので、テレビ画面の中心が95cm以下になるとベストと言えるだろう。
参考までに、我が家に取り付けた55インチX8500EとVLF628の組み合わせでは、壁側の金具の下端が床から61.5cmの高さにあるとき、テレビの下端(中央のLEDランプの底面)が床から47.3cmの高さにくる状態となった。画面の中心はおよそ83.5cmの高さ。もちろんこれはテレビ側の金具の取り付け位置によっても変わってくるし、VLF628のような奥行き方向に伸縮できるタイプだと、縮めている時と伸ばしている時とで高さが変わる(伸ばすと垂れる)ことがある。これらの注意点も念頭に置きつつ位置決めする必要があるわけだ。
しかし、この位置決めの際に問題が発生した。中編では「取り付ける壁を念入りにチェックすべし」と書いた。下地や柱(間柱)が壁掛けを想定している箇所にきっちり入っていないと、壁掛け金具の取り付けが不可能だからだ。我が家の場合、建築中に何度も現地に足を運んで施工状況をチェックしてきた。石膏ボードを貼る前のリビングを見て、「ここに下地を入れてください」と大工さんに直接お願いし、その後実際に下地となる板が入っていることも確認していた。
でも今振り返ってみれば、面倒なヤツだと思われてもいいから、その時にもっと余裕のある大きさの下地を入れるよう細かく指示すべきだったと後悔している。というのも、確認したはずの下地が、今回のVLF628を取り付けるのに十分な大きさがなかったのだ。本来なら、確認していた下地の位置と大きさは、中編でもお伝えしたように以下の写真にあるような感じだった。
ところが、実際に金具を取り付けようと下穴を開けてみたところ、以下の写真のように不思議な形で下地が入っていることが判明した。
このために、本来なら数cm高い位置に固定するはずだったところ、下げざるを得ず、さらに壁側の金具右下には一切ネジ留めできないという状況になってしまった。結局のところ、壁掛けの際に最も負荷が加わるのは金具の上側なので、間柱も活用する形でここをがっちりネジ留めできれば、最悪下側は左半分だけでもネジ留めできれば問題ない。とはいえ、取り付け方としてあまり気持ちのいいものでないのは確かだ。
下地の右下が欠けたような状態になっている点について原因は不明だが、おそらく下地を入れて石膏ボードを貼る直前に、電気工事などで下地をカットする必要があったのではないかと想像している。これから家を新築するという人は、下地には可能な限り(最低でも25mm以上)厚みのある補強板を使い、上下左右方向に可能な限り余裕のある大きさで(例えば柱と柱の間全体に)入れてもらうよう、施工会社や建築士に依頼してほしい。そして、依頼した通りに下地が入っていることを最後に入念に確認してほしい。
チルトやスイーベルより活躍する伸縮機構
予想外のトラブルに苦慮しながらも、最後にはガッチリ取り付けが完了したVLF628。そこに掛けられたX8500Eは、まるで空中にぽっかり浮かんでいるかのよう。最初は少し違和感があったものの、慣れてしまえばいい意味で以前と変わりない自然な見栄えになっている。というか、苦労して自作した小型AVラックが相変わらず前方に張り出しているので、ぱっと見の違いが少ないのかも……。
しかし、さすがは機能モリモリのフルモーションマウントである。マイナス15度(下向き)からプラス5度(上向き)まで変えられるチルト機構のおかげで、ソファーに寝そべった状態でも正対できるし、プラスマイナス62度のスイーベル機構を使うと、隣の寝室やバルコニーからほとんど正面に捉えることができる。プラスマイナス2度の回転は……金具が水平に取り付けられている以上使うことはほとんどないので、できるだけ回転が固くなるよう裏面の六角ボルトで調整した。
でもって、VLF628の最大の特徴は、やはり奥行き方向に8.3〜71.1cmの範囲で伸縮させられることだろう。こうしたタイプに多いアーム1本ではなく、なんだかバイクのスイングアームを思わせる見るからに頑丈そうなダブルアームで、カッチリ、スムーズに作動する。およそ18.6kgある55インチのX8500Eを軽々と前後に動かすことができ、心配していた伸ばしたときの垂れも手計測した限りではゼロだった。
この前後移動、あまり使うことがないのでは? なんて思うかもしれないが、どっこい、我が家では一番使う機能になりつつある。というのも、フルHD解像度のテレビの場合は「画面の高さ×3」、4Kテレビの場合は「画面の高さ×1.5」が、テレビでの迫力ある視聴に最適な距離と言われている。55インチのX8500Eは、画面の高さがだいたい68cmなので、画面から102cm離れたところが“最適距離”ということになる。
だが、常に102cmの距離から見るのは現実的ではない(疲れる)。なので、普段は離れた場所から見て、映画鑑賞のときはできるだけ“最適距離”に近づけて見たい。しかし、テレビにAVラックに置いた状態や、フラットマウントのように壁付けにしている状態だと、この“最適距離”を作り出すには、AVラックごと手前に動かすか、ソファを動かして自分が近づくかしかない。映画を大迫力で楽しむため、とは言っても、いちいちそこまでして視聴環境を変える手間をかける人はあまりいないだろう。
VLF628だとそんな手間をかけることなく“最適距離”に近づけることが可能になる。テレビを手前に引き出すだけで60cm以上自分に近づけることができるのだ。我が家の場合、日常使用は壁付けで、ソファに座ったときの距離はだいたい200cm。映画鑑賞時はさっと引き出して、135~140cmくらいの距離まで詰められる。ベストの102cmには届かないけれど、これだけ近づけられれば迫力は十分だ。
また、最大71.1cmまで伸ばせるおかげで、スイーベル機構を有効活用できることにもつながっている。スイーベル機構をもつ多くの壁掛け金具は、壁からテレビを離すことができないせいで角度がかなり制限されてしまう。角度をつけようとすればすぐにテレビの端が壁に当たってしまうためだ。ところがVLF628の場合は、大きく手前に引き出すことで大胆に角度をつけることができるのである。
隣の寝室やバルコニーからテレビを見る、というのも、まあ半分はネタではあるけれど、決して無理のある使い方ではない。実際、大谷選手が完全試合ペースで快投を演じている早朝のメジャーリーグ中継も、寝室からばっちり見ることができた。季節外れの晴れた日には、バルコニーで日光浴しながらNetflixでテラスハウスを楽しんだりもする。おいおい、そこまで2人きりでラブラブデートしてて恋愛感情ないとかありえないし、オレのつば冴に何し(以下略)。
あとおまけで、隣の寝室に子供が寝ている夜、テレビを見たいときにアームを伸ばして寝室から遠ざけることで、テレビスピーカーからの音を多少なりとも寝室に届きにくくする、といった使い方も可能だ。この伸縮機構だけでも、ちょっとお高いVLF628にした甲斐があったと思う。
AV機器類を置いておくAVラックが悩みのタネ?
筆者の視聴環境ではオーバースペックかもしれない機能豊富なフルモーションマウントを選んでしまったが、伸縮できる利便性や応用の幅広さは使ってみて初めて実感できるものだ。壁の頑丈さにもよるとはいえ、テレビのある生活をもっと楽しみたいなら、こういったさまざまな視聴スタイルを実現する調整機構の多いモデルを選ぶのもアリだろう。
多くの人にとって壁掛けにする目的の1つとなる、「できるだけ部屋を広く使う(見せる)」というのもある程度は実現できたわけだけれども、今回壁掛けしてみて改めてわかったことは、やはりAVラックがネックになるということ。横方向にはコンパクトにはできても、オーディオアンプやゲーム機などは奥行きがそれなりにあり、AVラックのサイズもそれに合わせざるを得ない。
これを解決する方法としては、壁などに配線を通し、リビングから離れた別の場所、例えば隣の部屋なんかにそっくり移動してしまうことが考えられる。が、そのためには壁をいったん剥がして配線をやり直さなければならず、一気にハードルが高くなる。配線が長くなるため、信号の減衰を抑えられるケーブルを選ぶ必要も出てくるだろう。必然的にコストも跳ね上がる。
現状、配線を隠せていないこともあるし(モールを設置するなど下準備だけはしたが)、テレビの視聴環境を完全にスタイリッシュな雰囲気に仕上げるにはまだまだやるべきことは多い。けれども、まずはその第1段階のテレビを壁掛けにするという大きなステップを踏んで、ようやく次の段階に進むことができそうだな、と感じている。ゆくゆくはAVアンプにして、サテライトスピーカーや天井スピーカーもきれいに配置して、Dolby Atmos環境構築!……ができればいいんだけれど。