日沼諭史の体当たりばったり!

第35回

「これが高級PCスピーカーの世界」自粛ストレス解消! クリプトン「KS-55/KS-9Multi+」を自宅で

クリプトンのPCスピーカー「KS-55」と「KS-9Multi+」を自宅のあちこちに置いてみた

在宅勤務が続く筆者の最近のBGMは、ほとんど子供の話す声か叫び声、もしくは泣き声である。我が家の子供たちが小学校や保育園に通うことができず自宅にいるため、非常にダイナミックレンジの広い生音が日夜響き渡っており、心が乱される。とても落ち着いて仕事ができる状況ではないが、それでも締め切りは待ってくれないので頑張るしかない。

そんなこんなで、ここ最近はめっきり“イイ音”を聞いていないなぁとふと思ったのだった。新型コロナ問題のずっと前から環境整備に精を出していた自宅の仕事部屋にはちゃんとしたスピーカーがない(モニター内蔵のスピーカーくらいのもの)。毎日自宅にこもって仕事することになるとは思ってもいなかったため、必要性をあまり感じていなかったのだ。

でもそろそろ癒やしがほしい。イイ音に包まれて浸りたい。ヘッドフォンでは得られない開放感のなか、極上のサウンドを堪能したい(子供に邪魔される可能性は高いけれども)。安価なスピーカーセットでも今よりサウンド環境の質はアップすることは間違いないが、せっかくなら“本当のイイ音”を手に入れたいところだ。そこでクリプトンのアクティブスピーカー「KS-55」と「KS-9Multi+」をお借りして、自宅のあちこちで試してみることにしたのである。

クリプトン渾身のPCスピーカー「KS-55」と「KS-9Multi+」

「KS-55」と「KS-9Multi+」は、高級オーディオ機器メーカーのクリプトンによるPC向けのアクティブスピーカーだ。価格はKS-55が92,500円(税込101,750円)、KS-9Multi+が280,000円(税込308,000円)で、総額で言えばほぼ40万円。いずれもPCスピーカーの枠を超えたハイクラスなモデルと言える。

KS-55
30mmのツイーターと63.5mmのウーファーの2ウェイ
KS-9Multi+
30mmのツイーターと84mmのウーファーの2ウェイ

外観の滑らかな曲線フォルムは両者に共通しているが、中身の機能はそれぞれに特徴がある。ざっくり違いを言えば、KS-55が192kHz/24bitまでのハイレゾ音源とBluetoothに対応する製品。

KS-9Multi+が、MQAやDSDなどの超高音質なハイレゾ音源のフルデジタル再生にも対応する製品だ。カジュアルに高級ピュアオーディオのようなサウンドを楽しめるのがKS-55で、そんじょそこらの高音質では満足できないコアなユーザー向けがKS-9Multi+、というターゲット分けになるだろうか。

アルミ押し出し材による美しい、高剛性の筐体
カーボン製のインシュレーターが装着されたオーディオボードが付属
両モデルともリモコンを標準装備

なので、今回の筆者のように家庭内のさまざまな場所で使うことを想定するのであれば、比較的安価なこと(と言っても10万円は気軽に出せる値段ではないが)と機能面から、KS-55がベストな選択肢になりそうだ。KS-55のBluetooth接続では高音質なaptX HDに対応し、ワイヤレスであってもKS-55のポテンシャルを十分に活かすことができる。スマートフォンでの音楽再生にも大いに活躍してくれるだろう。

もちろんPC向けスピーカーなのでUSB接続が可能なほか、光デジタルやアナログでの接続も可能。デスク周りに限らずリビングのテレビ用スピーカーにしてもいいし、寝室に置いたっていい。オーディオアンプなしで設置できるアクティブスピーカーで、そもそもPC向けスピーカーとしてデスク上に置くことを前提としているので小回りがききやすい。こうした設置方法や使い勝手の自由度の高さもKS-55の魅力と言えるだろう。

正面のインジケーターで現在の入力を把握できる
KS-55の背面。USB、光デジタル、アナログの各端子にケーブル接続可能。Bluetooth用の外部アンテナも装備する

一方のKS-9Multi+は、小型ではあるもののKS-55に比べると筐体がひと回り大きい。Bluetoothなどのワイヤレス接続には対応しないのでケーブル接続で利用することになるが、USB、光デジタル、アナログに加えてHDMI入力も可。HDMI接続ではパススルーの機能も備えているため、Blu-rayオーディオプレーヤーなどと組み合わせて使うのもOKだ(PCと接続してモニターにパススルーした場合、PC上からは音声出力先にモニターを選ぶ形になるが、音はKS-9Multi+から出力される。WQHD解像度の映像も問題なくスルー出力した)。

KS-9Multi+はKS-55よりひと回り大きい
KS-9Multi+の背面。HDMI入力とスルー端子を備えている

KS-9Multi+は純粋にPCで音楽を楽しみたい人、音楽を作る人、もしくは据え置き型オーディオプレーヤーなどと組み合わせてコンパクトにハイエンドなオーディオ環境を構築したい人におすすめできる製品かと思われる。が、正直に言えばこの30万円のアクティブスピーカーは筆者の手に余るスペックで、どう扱うのが正しいのかわからない。10万円と30万円でどのくらい音が違うのか気になったというのも、お借りした理由の1つだ。

結局のところKS-9Multi+をスマートフォンとアナログ接続やUSB接続で使ったりしてもいいわけだし、こちらもテレビ用のスピーカーにするのもアリのはず。対してKS-55についても、DSDなどのフルデジタル再生機能がないとはいえ、クリエイターが音楽制作に使うのにも十分なポテンシャルを持っているだろうし、まごうことなきハイエンドの仲間だ。どちらもPCスピーカーと銘打たれてはいるけれど、設置場所はいずれもデスク上に限定する必要はなく、オーディオ機器と接続できる場所ならどこに置いてもいいに違いない。

KS-9Multi+とスマートフォンを簡単にUSB接続でき、デジタル再生が可能

ちょっとした機能や性能の違い、ちょっとどころではない値段の差はあれど、目を引く個性的なデザインとコンパクトさを兼ね備える2種類のスピーカーは、どちらもあらゆるユーザーが望む、あらゆるシチュエーションにぴったりハマってくれるに違いないのだ。さて、筆者の場合はどこに置こうか……。

仕事部屋のPCスピーカーにしてみる

まずは、当初の目的だった仕事部屋にKS-55を置いてみることに。主な用途としては仕事中のBGM再生……なのだが、デスクが幅120×奥行き60cmと決して広くないうえにモニターが2台あるせいで、コンパクトなKS-55といえども設置場所が無く……急遽レイアウト変更してデスク両サイドにワゴンを追加し、リスニング環境を整えることにした。

KS-55のために机の両サイドにワゴンを追加して環境を整えた

おかげでデスク周りがこれまでにないほどすっきりし、スピーカーからの音を遮るものがない、ゆとりのある作業・音響空間を作り上げることができた。スピーカーだけを載せている両サイドのワゴンは幅30×奥行き60cmで、KS-55専用台としては余裕ありすぎ。なんだかKS-55が一段と小さく見える。

こうして置いてみるとコンパクトさを実感する
ブラックやブラウンのデスクに映える深い赤。個性的なデザインではあるけれど、自己主張は強くなく、溶け込んでいる

が、ひとたび音を出してみると、小ぶりなボディを全く感じさせないボリューミーなサウンド。単なる音量の大小の問題ではなく、音がしっかり出て欲しいところは出て、不要な時はサッと消える、「静と動」のコントラストや表現力の豊かさを実感する。澄みきった高音に惹きつけられ、そして深く厚みのある低音も「なぜこの小ささで……」と疑問に思うくらいにしっかり響かせている。

不思議なほどに力強い低域を響かせる。そして実に雰囲気がいい

デスクをまたいだ左右スピーカー間の距離は150cmほど。チープなステレオスピーカーの場合、左右をここまで離すと、リスニングポイントが近いだけに音の広がりは作れるのだけれど、まとまりのない、ぼやけたサウンドになりがちだ。ところがKS-55では、ボーカルや各楽器が極めて高精度に定位し、手を伸ばせばそれに触れられそうに思えるほど音1つ1つの解像度が高い。あまりの次元の高さに、「これで10万円はもしかしたら安いんじゃないの……」と思い始める。

時にはお気軽にスマートフォンとBluetooth接続して楽しむのもいい

バーチャルサイクリングに使ってみる

いやいや、まだ仕事部屋でいつもの曲しか聴いてないぞ。もっといろいろ聴いてみないことには良し悪しの判断をつけるべきではない。ということで、今度は同じ仕事部屋にあるバーチャルサイクリングに使ってみることにした。筆者の仕事部屋にはスマートサイクルトレーナーがあり、これにPC上で動作させたバーチャルサイクリングソフト「Zwift」を組み合わせることで、仕事の合間に室内でいつでもサイクリングできるようにしているのだ。

自転車の正面に設置し、バーチャルサイクリングソフト「Zwift」の音をリアルにしてみる

Zwiftは、自分の自転車にセットしたサイクルトレーナーやセンサーと連携することで、3Dグラフィックで描かれたサイクリングコースをひたすら走りまくることができるゲーミング要素のあるトレーニングソフト。グラフィックはそこそこリアルだし、自転車の走行音やコース脇にいる観客(NPC)からの声援、豪快な滝の流れや鳥のさえずりといった環境音も流れ、街中や自然のなかでのサイクリングを仮想体験できるのだ。

Zwiftの世界では環境音もしっかり再現されている

とはいえ自転車トレーニングが主眼のソフトなので、サウンドはあくまでも雰囲気を高める1要素として、過剰なリアリティはもたせていない。のだけれど、KS-55で聞くと世界が一変! 周囲のざわめきや鳥のさえずり、タイヤがアスファルトを切りつける音なんかが完璧な環境音となって、まさにその場にいるかのように……というのは言い過ぎかもしれないが、実走感はマシマシだ。特に石畳や板張りの路面になると、突き上げるような低音で段差が表現され、なんとなく身構えてしまうほど(スマートサイクルトレーナー自体が動きで段差を再現するようなことはない)。

プレイ中は熱中症防止のサーキュレーターの騒音にサウンドがかき消されるので、ボリュームを上げる方向で

ただ、サウンドのリアリティが増したからといって記録が伸びたり、トレーニング効果が上がったりするかというと、実際にはおそらく逆効果だ。石畳のような凸凹路面のノイズはむしろ現実世界と同じようにストレスを覚えるし、地吹雪が襲いかかる山岳地帯の寒々しい激坂では、脚が削れるうえに心まで削られる。Zwiftのプレー時は、過剰にリアリティを追求するより、無関係な底抜けに明るいノリノリの音楽を流した方がいいのかもしれない……。

凹凸のある石畳セクションに入ると、身体に響く低音でまるで本当に段差があるかのようにストレスを感じる
山岳地帯の寒々しい環境音も心を削る

リビングのテレビ用スピーカーにしてみたら

KS-9Multi+は、リビングのテレビ用として設置してみることにした。テレビが55型で左右スピーカー間もそれなりに離さざるを得ず、距離はだいたい2mほどとなかなか遠い。しかし左右スピーカーを接続する付属の専用スピーカーケーブルはたっぷり3mあるので問題なし。デスクに置くときは少し太く長すぎるけれど、このように離して配置しなければならない場面でも余裕で届くのはありがたい。

KS-9Multi+をリビングのテレビ用スピーカーに
太く長い専用スピーカーケーブル。デスクで使う分には長すぎるけれど、必要な場面では離して配置できるという点では助かる

KS-55より若干大きめの筐体をもつKS-9Multi+だが、それでも大画面テレビの隣に並べてみると、非常に小さく、見た目はややアンバランスな感じに……。とはいえこんな見た目であるにも関わらず、そこから出てくる音は恐ろしく分厚い。KS-55とも一時的に差し替えて聴き比べてみたが、KS-9Multi+はやや大きいエンクロージャーのせいかKS-55より一段と濃密なサウンドで、“塊感”のある音が身体にずしっと届く。

KS-55を上回る、より濃密なサウンドを引き出すKS-9Multi+

“低音寄り”というわけではもちろんないのだけれど、ダイナミックレンジをKS-55より大幅に拡大したようなイメージで、中・高音域の描写の鮮明さにもハッと心に突き刺さるものがある。KS-9Multi+を設置後、ゴルフゲームをプレーしていた我が子の「(キャラの声が)映画みたいで怖い」という感想が、KS-9Multi+が再現する音の生々しさを表しているような気がしてならない。

キャラの声が「映画みたいで怖い」と子供がびっくりする音の生々しさ。実際に映画コンテンツを見たところでも、2chスピーカーとは思えない劇場のような空間を作り出した
KS-55も置いてみた。小ぶりだがKS-9Multi+に匹敵する劇場感を演出。オールマイティな使い勝手の良さが感じられる

スマートスピーカーと接続してキッチン・ダイニング用に

本当は仕事部屋よりも先にサウンド環境を改善したいと思っていたのが、キッチン・ダイニングだ。朝、昼、夜と、食事時には家族が必ず揃って過ごす場所。ここにはスマートスピーカー(とスマートディスプレイ)が置いてあり、ほとんど1日中ラジオや音楽を流している。ただ、スマートスピーカーはたいていモノラルスピーカー。ストリーム配信のラジオや音楽の音質にそろそろ物足りなさを感じてきていた。一番音を聴く場所だからこそ、やはりもっとイイ音にしたい。

ラジオや音楽を聞いている時間の最も長いキッチン・ダイニングにKS-55

スマートスピーカー(Google HomeやAmazon Echoなど)はLINE出力から外部スピーカーに接続したり、Bluetoothスピーカーと連携して音声出力できるようにする機能がある。ただスピーカーをキッチンに直接置いたり、ダイニングテーブルに置いてしまったりすると、水がかかって壊れるかもしれないし、少なくとも簡単に汚れてしまうことが想像できる(スマートスピーカー自体が濡れたりするのは……もう諦めている)。なので配置を柔軟に選べるワイヤレスな製品で、イイ音のセパレートなステレオスピーカーがほしいなあ、となるわけだ。そんな用途に、今回のKS-55はまさにうってつけなのである。

スマートディスプレイと組み合わせてみた

そんなわけでKS-55が濡れたりしないよう、スマートスピーカーから離れたキッチンの棚の上に設置。スピーカー本体はコンパクトなので、奥行きのない棚であっても電源ケーブルやスピーカーケーブルなどを配線しても余裕で収まる。

そして、スマートスピーカーと連携させて聴くラジオや音楽は、予想していた通り絶品だ。ストリーミング再生の圧縮音源ではあるけれど、KS-55は耳なじみのいいバランスの良い音にして聞かせてくれる。

奥行きのあまりない棚だったけれど、ぴったり収まった

一般的に、ハイレゾ対応のスピーカーだと、原音を忠実に再生できるだけに、劣化している圧縮音源のノイジーな部分まで強調されてしまうきらいがあったりする。ところがKS-55だとそんな敏感さが前面に出ることがない。ビットレートの高くない圧縮音源であっても、ハイレゾ音源であっても、どちらも等しく全域にわたって均整のとれた“行儀のいい音”で出力してくれる。

なによりスマートスピーカー内蔵の広がりのないモノラルサウンドから、圧倒的に高解像でステレオ感のある環境になったことで、いつもラジオを聞いている妻の満足度も大幅アップ。在宅が続いてストレスを貯めやすい今の状況では、こういったイイ音で家族みんなが癒やされる環境作りがけっこう大事なのでは、と思ったりするのだ。

なんだろう、10万円が安く感じてきた……

さすがに30万円のKS-9Multi+は、オーディオマニアやプロ向けの性格が強そうで、「家庭内のどこにでも置いて気軽にイイ音を楽しむ」用途にするのは気が引ける。なので、筆者的な本命はやはり10万円のKS-55となるだろう。PCやゲームのサウンド環境の充実、リビングにあるテレビの音のグレードアップ、スマートスピーカーと組み合わせたリッチなラジオ再生といったように、さまざまな用途にフットワーク軽く活用できて、しかも想像を超えるパフォーマンスを発揮してくれるのは、コンパクトでありながら高級オーディオ並みの性能を誇るKS-55ならではだ。

高精細な描写力とサブウーファーの必要性も感じない力強さをもちあわせるKS-55は、楽曲ジャンルを問わずに使えるオールラウンダーな製品ではある。が、そのなかでも個人的に一番のお気に入りは、仕事中にカフェで流れているようなBGMを極小の音量で再生するような使い方だった。ノイズが極めて少なく、音量を思い切り絞っても音の解像感は保ったまま。筆者の耳にだけかすかに心地よく届く抑えた音量で、デスクワークの集中力を切らさず、しかも家族に気兼ねなく音楽鑑賞できるのだ。

「なるほど、これが高級PCスピーカーなのだな」と改めて気付かせてくれる納得のクオリティ。機能の多彩さも考えれば10万円でもお安いのでは!? と結論付ける次第である。自宅で過ごす時間が長くなっている今、“イイ音”という観点から物欲……じゃなかった、ストレスを解消する方法を考えてみるのもいいと思う。そういえば、10万円ってナントカ給付金もそれくらいだったような気がするなあ……。

KS-9Multi+でさらなるハイクオリティを目指すもよし。代わりにKS-55を3セット購入し、自宅のあちこちに置く手もアリか!?

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。