日沼諭史の体当たりばったり!

第36回

ゲーム用サラウンドヘッドフォンの進化がスゴイ、ASUS「ROG Theta 7.1」、JBL「Quantum ONE」

サラウンドヘッドフォンでもっとゲームに熱中したい!

PS4の「FINAL FANTASY VII REMAKE」や、PC用レースゲームの「MotoGP 20」なんかを購入したものの、FFはティファとのイチャイチャっぷりが目に余るし、MotoGPの方は難易度が異常に高くMoto3クラスの最下位でくすぶっているしで、気力が湧かずになかなか進められない今日この頃。他にもクリアまでやり通せず、“積みゲー”になっていくものがどんどん増えていっている。このままではいかん! 何かゲームをしたくなる刺激がないと!

発作的にそう思い、次なる物欲のターゲットにしたのがサラウンドヘッドフォンだ。最初はPCにサラウンドスピーカーを組み合わせようと考えたのだが、PC内蔵のアナログサラウンド機能を使うスピーカーセットはどうやら絶滅の危機に瀕しており、将来性もなさそうだった。AVアンプとHDMIでパススルー接続する方法もあるけれど、コストが爆上がりになってしまうので、そこそこの投資で簡単にサラウンド化できるヘッドフォンに注目したわけだ。

世の中のゲーミング市場の盛り上がりに合わせて、サラウンド、特にバーチャルサラウンドに対応するゲーミングヘッドフォンが次々に登場してきている。仲間とボイスチャットしながらプレイすることもあるFPS系のゲームを意識して、マイクを標準装備したヘッドセットタイプも多い。最近ではテレワーク環境におけるビデオ会議用途で、あえてこうしたゲーミングヘッドセットを選ぶパターンも増えているようだ。

「バーチャルなんだから本当のサラウンドスピーカーのようには聞こえないでしょ」という筆者の思い込みもあり、これまで手を出してこなかったサラウンドヘッドフォン。本当にリアルっぽいサラウンドを体験できるのか、比較的新しい各社フラッグシップモデルのなかから、ASUS「ROG Theta 7.1」(実売3万円前後)とJBL「Quantum ONE」(同2万5,000円前後)の2機種をお借りして体験してみることにした。

JBL「Quantum ONE」(左)とASUS「ROG Theta 7.1」(右)

結論から言えば、2機種ともメーカーに返却してしまった今、再びゲームをプレーする意欲がダダ下がりするくらいには“サラウンドヘッドフォンロス”を感じてしまっている。早くどちらかを買わないとティファとのイチャイチャの続きを楽しめないし、エアリスにも会えない。どうしてくれるんだ、まったく……。

“リアル”サラウンドに近いROG Theta 7.1と、機能盛りだくさんのQuantum ONE

Quantum ONE(左)とROG Theta 7.1(右)。ROG Theta 7.1はかなり大ぶりの筐体

そんなわけで、最初に今回の2機種の特徴を簡単に説明しておこう。まずASUSのROG Theta 7.1は、“バーチャル”なものが多いゲーミングヘッドセットのなかでも、珍しく“リアル”に近いハードウェアを備えたサラウンドヘッドセットだ。左右ハウジングそれぞれに、4個のドライバーユニット(スピーカーユニット)を内蔵。それらがフロント、センター、サイド、リアを担当し、これにバーチャルなサブウーファーを加えることで7.1chサラウンドを実現する「7.1chモード」が利用できるという。

ROG Theta 7.1は片側に4つのドライバーユニットを搭載する

ただ、1つのドライバーでサラウンドを再現するバーチャルサラウンド対応ヘッドフォンと同様に、耳に近接したハウジングの中に全てのドライバーユニットが収められていることに違いはないわけで、最終的に両耳に届く音声信号には計8つのドライバーユニットに最適化された形での信号処理が行なわれているものと考えられる。

実際、バーチャルサラウンドの機能も別に用意されており、Windowsでは7.1chモードとバーチャルを切り替え可能で、それ以外のプラットフォーム(PS4などのゲーム機)ではバーチャルのみとなる。7.1chモードがリアルサラウンドにどれだけ近いのかが気になるところだ。

Quantum ONEは片側にドライバーユニット1つ。LRがわかりやすい

一方のQuantum ONEは、JBLとしては初となるゲーミング向けブランドQuantumの最上位に位置付けられるバーチャルサラウンド対応ヘッドセット。独自の360度音響技術である「QuantumSPHERE 360」によって臨場感のある立体音響を実現するほか、「DTS Headphone X 2.0」にも対応するモデルだ。周囲のノイズを低減するアクティブノイズキャンセリング機能(ANC)や、チャット音声用のサウンドデバイスも用意してゲーム音声とミックスできるダイヤル型インターフェースも用意するなど、機能てんこ盛りの製品となっている。

こちらは1つのドライバーユニットを用いたバーチャルオンリーの製品となっており、QuantumSPHERE 360がどれほどの立体感、臨場感を出すのかがポイントとなるだろう。ANC機能がサラウンドサウンドにどんな影響を与えるのかもチェックしてみたい。

高いフィット感で派手さ控え目のROG Theta 7.1。スイッチ操作に注意

ASUS ROG Theta 7.1

ROG Theta 7.1の第1印象は、ゲーミングヘッドセットのわりに「地味だな」というもの。ぱっと見のデザインは無骨で大柄、LEDで光る部分も両ハウジングのカバーに1箇所ずつで、光量も少なくおとなしめだ。ガンガン光らせたい人にとっては物足りないかもしれないが、ビジネス用途でオンライン会議などにも使いたいのであれば、むしろ安心感のある外観であるとも言える。

周囲を暗くしてもライティングはそれほど目立たない

しかしその無骨な見た目からは想像できないほど、装着したときのフィット感は高く、ストレスが少ない。密閉型ながら開放型のように優しく包まれ、メガネをかけていても圧迫されることは全くなかった。標準でイヤークッションが2種類付属し、取り替えることで自分にとって最も快適な使い方ができるようになっているのもうれしい。ゲームを長時間プレーするなら、この快適さは見逃せないだろう。

かなりボリュームのあるハウジング
素材の異なる2種類のイヤーパッドが付属する

PCやゲーム機などのデバイスとの接続はUSBのみ。ヘッドセットから伸びるケーブルはType-Cで、デバイス側にType-Cポートがあれば直で接続できる。PS4などのUSB Type-Aポートしかないゲーム機には、同梱されている変換ケーブルで接続することが可能だ。PCでは2種の専用ユーティリティを使って設定する形で、7.1chモードとバーチャルサラウンドの切り替えや、イコライザー、各種エフェクトなどの調整が行なえる。

ケーブルはUSB Type-C
Type-Aへの変換ケーブルも付属
ブームマイクは取り外し可能
マイクを装着したところ

ゲーム機、たとえばPS4に接続するときは、PS4の設定画面にある「周辺機器」の「オーディオ機器」でサウンドの出力先としてROG Theta 7.1を選び、続いて「サウンドとスクリーン」の「音声出力設定」で「Dolby」や「DTS」を選ぶことで、ゲームのサウンドをバーチャルサラウンドで聞けるようになる(後述のQuantum ONEも同様の設定手順)。PCでもゲーム機でも単純にUSBケーブルを接続するだけでよく、簡単にサラウンドを体験できるのはありがたいところだ。

PS4では接続後、「オーディオ機器」の設定でヘッドセットを選ぶ
次に「サウンドとスクリーン」の「音声出力設定」でDolbyなどを選択

ただし、注意しておきたいところがいくつか。ROG Theta 7.1の左ハウジングに用意されている7.1chモードと2chステレオを切り替えるスイッチは、必ずデバイスにケーブル接続する前に操作しておく必要がある。PCと接続するときは上側の「PC/NB」に、その他ゲーム機と接続するときは下側の「PHONE」に切り替える。「PC/NB」の状態でPS4と接続しても認識されず、反対に「PHONE」の状態でPCと接続しても2chステレオ(バーチャルサラウンド)しか使えない。接続中にスイッチを切り替えても反応しないので気をつけよう。

PCで使う時はスイッチを「PC/NB」に、それ以外のPS4などで使う時は「PHONE」に切り替えてからケーブル接続する

また、PC用ユーティリティとして「ROG Armoury」と「Armoury Crate」の2つが用意されており、ROG Armouryは音質調整等、Armoury Crateは音質調整やライティングのカスタマイズができるようになっている。が、筆者の環境ではArmoury Crateによる音質調整は正しく反映されないことが多かった。ROG Armouryは音質調整に、Armoury Crateはライティングのカスタマイズに、という形で分けて使うのが無難そうだ。

専用ユーティリティ「ROG Armoury」で音質調整するのがおすすめ。ウィンドウ左下の「Stereo」を「7.1ch」に切り替えれば7.1chモードになる。バーチャルサラウンドを“重ねがけ”することもできるが、どちらか片方だけをオンにすることで正しい聞こえ方になる
「Armoury Crate」でも音質調整できるが、ライティングの設定にのみ使うのが良さそう

歪みの少ない“リアル”サラウンドを実現するROG Theta 7.1

映像・音楽コンテンツやゲームなどでいよいよ試してみる

では、ROG Theta 7.1の実力はどうなのか。開放型のような快適さがある分、感覚的には周囲のノイズが入りやすい。けれど7.1chモード時は、そんなウイークポイントをあっという間に忘れさせてくれるほどの正確な音像定位とサラウンド感を発揮する。初めに5.1chサラウンドの映像・音楽コンテンツを視聴したところでは、圧倒的な「音に囲まれている感」が得られ、バーチャルサラウンドで時々発生する「前面に出てくるべき音がなぜか控え目になる」ような、いわば“ごまかし”っぽいところがない。どの音もはっきり、キレよく鳴らす迷いのなさが好ましい。

立体感を再現するための過剰なリバーブエフェクトみたいなものも感じられない。どんなジャンルの映画や音楽も違和感が少ないサウンドで再生し、そういうバーチャルにありがちな細かなストレスが蓄積されていくこともないから聞き疲れしにくい。結果的に長時間の聞きやすさにもつながるから、ゲーマーにはぴったりだろう。

しかしリアルサラウンドに近いかと言われると、正直なところ個人的には音場の広さや空間的なリアリティはそこまでではないかな、というところ。もちろん、今回試したゲームのうちFPS系の「Apex Legends」では、前後左右上下からの音を区別することはできる。たとえば左前方の遠くの方で交戦中の射撃音が聞こえるから、建物や崖を壁にして右側の方から迂回して向かおう、という判断が直感的にできる。物音から仲間がどの方向にいるかも把握しやすい。

「Apex Legends」。いきなり本番だとパニクって音の評価ができないので、まずは射撃訓練から……

ただ、囲まれているように聞こえるとはいえ、どの音もヘッドフォンを装着している頭とその周囲数十cm程度の範囲に止まり、近いか遠いかの判断はその狭い範囲のなかで相対的に判断することになる。個人差はあるだろうけれど、どんなに遠くからの音であっても「モニターの向こう側から音が聞こえる」というような感覚はないので、正確に聞き分けて戦略に活かすためにはある程度経験を積む必要もありそうだ。

レースゲームのMotoGP 20では、ほとんどがエンジン音や排気音、風切り音のような連続的なノイズで占められる。バーチャルサラウンドではそういった単調な音が歪んで聞こえるような場合もあるのだが、7.1chモードではそれがない。元々がノイズを狙った騒がしい音なので、自然……と表現するのはちょっと違うかもしれないが、自分のマシンのエンジン音も、抜き去られて遠ざかっていくライバルの排気音も、あるいは置いてきぼりにされてどこか遠くから響いてくる集団の走行音(悲しい)も、常に違和感なく聞こえてくる。相変わらず音が鳴っている範囲は頭部の周囲に限られるが、レーストラックの雰囲気はたっぷり味わえる。

なんだこの臨場感。7.1chは最高だな!

7.1chモードはWindows PCとの接続時のみで、PS4では2chからのバーチャルサラウンド再生となる。PCと同じゲームで試せないので直接的な比較はできないものの、「音に囲まれている感」は7.1chモード譲り。ファイナルファンタジーVII リメイクでは、雑然とした狭苦しい雰囲気の7番街スラムを歩いていると、周囲で話している人の前後左右の位置や、後ろを付いてくるティファの位置がはっきり認識できるだけでなく、漏電している電線の音が頭上から来ていることもわかる。

FF7リメイクの7番街スラムの雑然とした雰囲気が音から伝わってくる

「バトルフィールド」では、左右の壁の向こう側に敵がいるな、というのにもあらかじめ気付けるので、しっかり心の準備ができるというメリットもある。ただし、戦闘中は視界のアングルを頻繁に変えるのと、目立つ効果音が多重に鳴って指向性を感じにくくなるため、どの方向に敵がいるのか、どこから攻撃されているか、というのまでは判断しにくい。それで不利になるというほどでもないので、FF7リメイクの場合、少なくとも戦闘中のサラウンドの正確性はさほど重要ではないということだろう。

ユニークなヘッドトラッキングと、2つのデバイスの使い分けが可能なQuantum ONE

JBL Quantum ONE

JBLのQuantum ONEは、ROG Theta 7.1とはまったく方向性が異なるというか、ド派手なゲーミングデバイスのイメージを体現したような見た目が特徴の製品だ。どことなくDJ風のテイストが漂うデザインで、光量は抑えめながらもハウジングのほぼ全体が光りまくる。サイズはROG Theta 7.1よりは小ぶりで、密着感は強めということもあり、メガネをしている筆者は装着時に少し気を使う。

本体と同梱品
本体はやや小ぶり
デバイスと接続するとハウジングのあちこちが光りまくる

接続方法はUSBがメインで、3.5mmプラグのオーディオケーブルによる接続にも対応する。PCやPS4本体とはUSBケーブル(デバイス側はType-A)で接続するのが基本となり、PS4についてはコントローラーと3.5mmプラグで接続してもいい。別途両端がType-CのUSBケーブルを用意して、PCなどのType-Cポートをもつデバイスと変換ケーブルなしで接続することも可能だ。ヘッドセット側はケーブル着脱式で、収納もしやすい。

USB Type-Cポートに付属のケーブルを接続する
3.5mmプラグのオーディオケーブルはUSB接続できないデバイスや、PS4のコントローラーと接続するときに使える

付属USBケーブルは中間部分にダイヤルが設けられている。これは、ゲームの音とボイスチャットの音のバランスを調節するためのもの。Quantum ONEをPCに接続すると2つの音声デバイスが認識され、1つはゲーム用、もう1つはチャット用として扱えるようになっている。ダイヤルを使えば、それぞれの音量のミックス度合いを簡単に変えられるのだ。

たとえばWindowsのメインの音声出力をゲーム用に割り振っておき、もう1つの音声出力を他のボイスチャット用ソフトの音声出力に割り振っておけば、ダイヤルをゲーム側・チャット側に回すだけで音量バランスを変えられる。仲間とチャットしながら協力プレーするLANパーティ、あるいはDiscordを使ったボイスチャットでは、かなり便利な機能かもしれない。2つのオンライン会議を同時並行でこなす超多忙なビジネスマンにも向いている……だろうか。

USBケーブルの中間部分にダイヤル
左に回すとゲームのサウンドが、右に回すとチャットの音声がそれぞれ大きくなる
ブームマイクは着脱式

Quantum ONEの一番のポイントは、「QuantumSPHERE 360」という独自技術で7.1ch対応のバーチャルサラウンドを実現していることだろう。で、この機能のなかで面白いのは、内蔵センサーによるヘッドトラッキング機能だ。たとえば、ヘッドトラッキング機能のない通常のサラウンドヘッドフォンで右前方から音が聞こえた場合、それはあくまでも画面内(ゲーム空間)の右前方から音が聞こえている、という意味になる。もしプレーヤー自身の身体(頭)が右斜めに向いていたら、画面外のさらに右の方から音が聞こえるかもしれない。仮想空間と物理空間との間で音の位置にズレが生じるわけだ。

専用ユーティリティ「JBL QuantumENGINE」で「QuantumSPHERE 360」をオンに。頭部の幅や身長を設定する項目もあるが、試したところではサイズの違いによる差は感じられなかった

ところがQuantum ONEのヘッドトラッキング機能を有効にすると、身体が右斜めを向いていても、画面外ではなく、画面内の右前方から音が聞こえてくるように本来の音が左方向へ位置補正される。したがって、プレーヤーがどの方向を向いていようとも、それに応じて物理空間における正しい方向から音が聞こえるのだ。

このヘッドトラッキング機能を(2chステレオ音源の)動画視聴時に使ってみると、ユーザーがどの方向を見ていてもモニター側から音が聞こえる。表現としては大ざっぱだが、据え置きしているスピーカーで再生しているのに近いイメージになる、と言えばいいだろうか(左右90度横に向くと、LとRのどちらかからしか聞こえないので、ステレオ感は損なわれる)。実用上のメリットがあるかどうかは別として、なかなかユニークな体験ができて楽しい。ただ、使っているうちに若干センターがずれてくるので、そのときは画面の中心部に正対し、専用ユーティリティや本体のボタンでリセンタリングを行ない修正する必要がある。

2chステレオの動画を視聴。正面から見ているときはいつもどおりだが……
このように思いきり左を向いても、音が聞こえるのは自分の右側、モニターの方向からになる
センターがずれてきたときは、写真中央あたりに見える○ボタンでリセンタリングすることで元通りに

もう1つ、ユニークなものが、このQuantumSPHERE 360の精度を高めるキャリブレーション機能だ。6月末頃のアップデートで提供されるとのことで、今回の試用期間では試すことができなかったのだが、これも楽しそうな機能の1つ。すでに紹介したとおり周囲のノイズを低減するANC機能、本体のボタン操作で周囲の声をすぐに聞こえるようにするトークスルー機能などもあり、こうした多彩な機能が使えるのはQuantum ONEならではの大きなメリットであることは間違いない。

同梱されているキャリブレーション用のアイテム。耳穴にはめて使うようだが、詳しい設定方法はまだ不明だ

音質はクリアだがコンテンツを選ぶ性格か

Quantum ONEを試す

サウンドの質としては、Quantum ONEはかなりゲーム用途に特化しているという印象だ。5.1chの楽曲再生では、QuantumSPHERE 360で聴くと壁を1枚挟んだ向こう側でドンシャリ鳴らしているような感じが強く、音の厚みも臨場感も薄い。この場合はどちらかというと専用ユーティリティでDTS Headphone X 2.0に切り替えた方が癖のないサラウンドらしい迫力が得られるだろう。

しかし個々の音の粒度、解像感は恐ろしく高く、高音域のサウンドのクリアさが際立っている。このあたりはANCをオンにしたときに特に目立ち、周囲のノイズが抑えられることが音質の向上にどれだけ貢献しているかがよくわかる。全体的な音の厚みは控え目ながら、なぜか極低音はROG Theta 7.1では聞こえないようなものまで響いてくるという独特の味付けも感じられる。映像・音楽鑑賞用途としてはコンテンツを選ぶところがありそうだ。

音場の広がりはROG Theta 7.1以上にあり、頭部周辺であることには変わりないが、それより1段階広い立体感が得られる。音像定位も明瞭で、「Apex Legends」では高さ方向の音をより区別しやすくなるイメージ。これもANCが効果を高めていそうだ。おかげで、崖の上の方で交戦中らしいから、隠れるようにしながら真下を通過して、反対側に位置取りして攻めよう、なんて行動も取れるようになる。

Apex Legendsでも音場の広さを感じられる

ヘッドトラッキングもうまく機能し、音が聞こえる方向に物理的に頭を向ければ正面から聞こえてくるようになる。戦闘中にいきなり真横に頭を向けるようなことはないにしても、画面の左右端から何か聞こえてきたときに、そちらへ視線と一緒にとっさに頭を動かすことくらいはあるはず。その瞬間、また別の方向から音が聞こえてきたとき、頭のなかで音の正確な位置を瞬間的に判断して視点変更し、素早く様子をうかがうのは難しいだろう。ヘッドトラッキング機能があれば、それも直感的に可能になるのだ。

あっ! どこだっ! という瞬間に視線だけでなく頭ごとそちらに向けてしまうこともある

しかしながら、ヘッドトラッキングが有効活用できるかどうかはゲームによっても異なりそう。Apex Legendsでは確かに音の方向としては期待した通りの効果が得られるが、ゲーム自体が位置や距離を音の強弱でシミュレートしている部分もあるのか、真横から聞こえるものを正面で捉えようとすると音が小さくなってしまう。このあたりがシビアな戦闘を繰り広げているなかでどこまで影響するか、今の自分のFPSスキルではなんとも言えない。

MotoGP 20だとノイズ的なサウンドが多いせいか、音質に金属的なものが感じられ、バーチャルサラウンドの“作り物感”が少し出てきてしまうようだ。極低音があるおかげでそこまで違和感はないけれど、やや聞き疲れしてしまうところがある。音場の広さは感じられるだけに、ちょっともったいないな、という感じ。

レースの臨場感や迫力はもちろん感じられるが、人工的な音が目立つときもあり、疲れてしまうかも

PS4では、解像感が高く極低音が響く音質ということもあって、FF7リメイクの街中でのささいな効果音から空気感まで精緻に表現してくれる。音像定位の精度もROG Theta 7.1との差はほとんど感じられないので、サラウンドサウンドという面では甲乙付けがたし、といったところだろうか。ANCについてはどのプラットフォームでも有効にできるので、ゲームに集中するにはもってこいのヘッドセットと言える。

遠くから聞こえる列車の音、大気のノイズなど、再現力の高さは抜群だ
戦闘シーンではROG Theta 7.1と同じく、あまりサラウンドサウンドが有効と思える機会がない

ただこういったRPGだと、効果音の定位の正確さよりもキャラクターボイスやBGMの聞き心地の方が重要だろう。そういう意味ではQuantum ONEの実力を発揮しにくいジャンルのように思うし、ヘッドトラッキング機能もPS4(PC以外)では利用できないので宝の持ち腐れみたいなところがあるかもしれない。やはりQuantum ONEはPCで活用したいところだ。

一度試すとサラウンド以外でプレーしたくなくなる満足度の高さ

ROG Theta 7.1とQuantum ONEの2機種は、同じサラウンドヘッドセットというカテゴリーでありながらも、性格は大きく異なり、活躍する場面も変わる。ROG Theta 7.1は7.1chモードでのサラウンドのキレに加えて、ゲームのほか、映像・音楽コンテンツもオールマイティに扱えるバランスの良さが持ち味。音像定位が重要なFPSだけでなく、RPGのようなBGMをしっかり楽しみたいジャンルのゲームにも向いている。プライベートだけでなく仕事にも使いやすい性能、デザインは、ゲーミングデバイスといえども万人におすすめしやすい。

対してQuantum ONEは、その機能性の高さが活かせる用途が見つかれば、魅力にあふれたヘッドセットと言える。映像・音楽鑑賞が中心の人にはあまり向かないかもしれないけれど、ゲームをより広い音場で楽しみたい人、ボイスチャットを活用しつつ、ヘッドトラッキングによる直感的な空間把握で有利にバトルを展開したい人には特に適している。ANC機能も、FPSなどでは集中力を高めるのに効果的なはずだ。

はっきり用途が分かれたことで、筆者としては実に選びにくくなってしまった。基本性能と仕事での使いやすさも考えるとROG Theta 7.1だが、Quantum ONEの将来のキャリブレーション機能も含めたガジェットとしての機能性の高さ、面白さも捨てがたい。ただ1つ言えることは、2機種とも返却して手元からなくなってしまった今、どちらかを購入しない限りゲームをプレーする気がこれっぽっちも湧いてこない、ということである。

2chステレオの味気ないサウンドではもう満足できない。ゲーム(仕事)するならサラウンドじゃないと! というマインドになってしまい、そもそもサラウンドじゃない環境でわざわざゲームをプレーする意味があるのか!? と疑問に思うほど。まだエアリスに再会できていないのに、どうすればいいのか、困ったものだなあ。

日沼諭史

Web媒体記者、IT系広告代理店などを経て、フリーランスのライターとして執筆・編集業を営む。AV機器、モバイル機器、IoT機器のほか、オンラインサービス、エンタープライズ向けソリューション、オートバイを含むオートモーティブ分野から旅行まで、幅広いジャンルで活動中。著書に「できるGoProスタート→活用 完全ガイド」(インプレス)、「はじめての今さら聞けないGoPro入門」(秀和システム)、「今すぐ使えるかんたんPLUS+Androidアプリ 完全大事典」シリーズ(技術評論社)など。Footprint Technologies株式会社 代表取締役。