三浦孝仁のサウンドスケッチ

三浦的“注目機”はコレ! 本格ピュアオーディオの祭典「HIGH END」を振り返る

本格的なピュアオーディオのショウの代表格「HIGH END」

今年も恒例の本格ピュアオーディオショウ「HIGH END」が開催された。場所はドイツ・ミュンヘンの北部にあるM.O.C. (ミュンヘン・オーダー・センター)。会期は2019年5月9日(木曜日)~13日(日曜日)の合計4日間である。ショウを主宰・運営するのは、1981年に創設された、ドイツのハイエンド・ソサエティ。オーディオ専門誌やオーディオメーカー(ブルメスター創業者の故ディーター・ブルメスター氏)などの有志が興した団体が年を追うごとに成長し発展してきたという経緯がある。

私が最初に訪れたのは、フランクフルト市郊外の由緒あるケンピンスキ・ホテルで開催されていたころだ。市街からの交通手段は車やチャーターバスに限られる高級ホテルだったが、全体の雰囲気が良くハイエンドショウらしい充実した出展内容だったと記憶している。問題は法律順守のドイツらしからぬ来場者の路上駐車がとても多かったこと。ホテルの駐車場ではカバーしきれないのは明らかで、それが常態化していたことでその筋からの指導があり、やむなく開催場所を移すことになったと漏れ聞いている。ミュンヘン市内の M.O.C.は電車の最寄り駅からも遠くはないし、地下には広い駐車場を備えている。

ピュアオーディオのショウを取材するのが好きな私は、米国のCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ)と、このドイツのハイエンドショウの2つを毎年訪れるようにしている。かつてCESは夏季のシカゴと冬季のラスヴェガスという年2回の開催だったが、それは1月のラスヴェガスに集約されてしまった。2019年はピュアオーディオの出展社が驚くほど少なくなってしまい、私は30年間ずっと通い続けたCESに別れを告げた。

本格的なピュアオーディオのショウでよく知られているのは、独ミュンヘンのHIGH ENDを筆頭に東京と香港、そして米国デンヴァーのRMA(ロッキーマウンテン・オーディオ・フェスト)や米国イリノイのAXPONA(オーディオエキスポ・ノースアメリカ)などである。最近は東南アジアで開催されるオーディオショウも活況というが、行ったことはない。

“有料オーディオショウ”の特徴

ハイエンド・ソサエティが主宰・運営するHIGH ENDは、オペレーションの洗練さに関して文句なくハイレベルと断言できる。オーディオショウに限ることではないが、多くのショウで重要なことは購買層である熱心なユーザーと直接コンタクトできる場であることに加えて、国内外の業者との商取引を行なうこと。そのため、HIGH ENDでは4日間の会期のうち初日をビジネス専用日に設定している。その日に入場できるのは国内外のディーラーや輸入業者と報道機関であるプレスのみ。翌日からの3日間はオープンになっている。

感心してしまうのは、きっちり有料のオーディオショウということだ。一般の入場料は初日の金曜日と翌日の土曜日は15ユーロ/日。終了時間が早い最終日の日曜日は5ユーロ、3日間有効のチケットは25ユーロである。けっこう高い入場料ではないか? たとえば、東京で開催されるインターナショナルオーディオショウや大阪の大阪ハイエンドショウは入場無料であるが、会場費や運営費などすべてを出展企業が負担していることになる。ドイツの例を見ていると、有料のショウにしているほうが来場者であるオーディオファイルの真剣度合いが高いように感じられるのだが。

一方、米国のCESは完全なビジネスの場なのだ。国内外のディーラーや輸入業者、そして報道関係だけが入場できるBtoBのショウで、一般向けではない。実は一般の来場者を受け入れた年が一度だけあった。ところが、BtoBにすっかり慣れてきた出展社からはかなり不評だったようで、結局それっきりになってしまった。世界最大の家電見本市であるCESは年々栄えてきているが、メインのLVCC(ラスヴェガス・コンベンションセンター)とは別の正規会場(ヴェネチアンホテル)で行われてきた本格ピュアオーディオの分野はそこから離脱したかっこうである。すでにディーラーや輸入元が決まっていれば出展する必要性は少ないし、ラスヴェガスという非日常的な場所と出展に関わる諸費用の高さが災いしたようである。

さて、前置きが長くなってしまったけれども、私の視点から眺めたHIGH END Munich 2019を紹介していこう。まずは、アナログターンテーブル&アナログプレーヤーから。

今年も盛り上がるアナログプレーヤー

世界的にアナログディスク再生は盛りあがっている。数年前から、この会場でも安価なアナログプレーヤーから超弩級プレーヤーまで花盛りなのである。そのなかでもナンバーワンと断言できる抜群の評判だったのが、日本のテクダスが開発した「エアー・フォース・ゼロ」だった。

テクダスが開発した「エアー・フォース・ゼロ」

すでに国内で発表されている製品ではあるが、米国でのお披露目からミュンヘンに運び込まれた機体は、荘厳という言葉こそ相応しい威容。マッシヴな外観には隙のない精密感が宿っており、厚さが約16cm、120kgもの金属製の複層プラッターを空気で浮上させるエアーベアリング構造が凄い。特殊なベルトでプラッターを回す大型モーターは独パプスト製で、これはプロ用テープデッキのキャプスタン・モーター用に開発された未使用のヴィンテージ品。こちらも空気浮上させる構造が与えられているので、音には圧倒的な静寂さが宿っている。

テクダス製アナログプレーヤーのデザイナーであるステラの西川英章会長は、高級アナログプレーヤーで一世を風靡したマイクロ精機の出身。そこでやり残したことがあるということで、エアー・フォースのシリーズを積極的に開発してきた彼の集大成が「エアー・フォース・ゼロ」というわけだ。やり残したこととは、おそらくクォーツロックDDに匹敵する精確な回転の維持だったのではないだろうか。この「エアー・フォース・ゼロ」を目の当たりにすると、ほかの超弩級ターンテーブルがどれも霞んでしまうくらいだ。最初に造られる10台はすぐに予約済みになってしまい、次の10台もほぼ行き先が決まっているという噂だった。

SAT「XD-1」

テクニクスが新規開発した「SP-10R」は、DD(ダイレクトドライブ)方式を再評価するきっかけを与えたような気がする。世界最高峰のトーンアームとして名高いSAT(スウェーデン)は、同社初の「XD-1」という3本脚部のDD方式ターンテーブルを発表。実はこれ、テクニクスのSP-10Rに大幅に手を加えて移植したものなのだ。特に電源部を含んだコントローラーはSP-10Rそのものといっていい。「なるほど、その手があったか!」と思わせる手法である。

ウィルソンベネッシュ「GMT-ONE」

DD方式は優れた制御技術があれば大手メーカーでなくても開発できる。それを実践したのは英国ウィルソンベネッシュのGMT-ONEというアナログプレーヤーだ。とりわけ私が注目しているのは回転系で、これは大規模なDD方式に違いない。少し暗いので見えにくいだろうが、デモ用の透明なアクリル製プラッターから透けて判るのは駆動用の電磁石コイルがいくつも外周に並んでいる大掛かりな構造。スピンドルシャフトを含む主だった構造体は精密な切削技術で造られているようだ。テクニクスのように初期コストの大きいダイキャスト構造でなくでもDD方式モーターが構築できるという見本である。このGMT-ONEはトーンアームにも特徴が多いらしく、2019年の第4四半期には登場するようだ。

Grand Prix Audioの「MONACO V2.0」ターンテーブル

DD方式をもうひとつ。米国コロラド州にあるGrand Prix AudioのMONACO V2.0ターンテーブルだ。KUZMA製トーンアームを装着している本機は、オイル曹でダンプされているモーターシステムに特徴がある。プラッターはマグネシウム製ということだ。実は最初期のオリジナル機は1台だけ日本に正規輸入されたことがある。

SME「ガラード301」のプレーヤーシステム

古き良きアナログ再生の時代を思わせたのは、英国SMEが展示していたガラード301のプレーヤーシステム。創業者で超がつくほどの個性的なオーディオファイルだったロバートソン・アイクマン氏が逝去されてからSMEはオーナーが変わっており、彼らはブラジルにあったガラードの商標権を手に入れて301の再生産に乗り出すというのだ。ガラード301や401を使っていた方なら判ると思うが、アイドラー駆動の内部構造はけっこう複雑でモーターが大きく、部品点数も少なくない。それを蘇らせようという心意気は称賛するが、価格はどうなるのだろうか?

大型ホーン採用機が多いスピーカー

スピーカーシステムはオーディオ機器で最も目立つ花形的な存在だ。かつて長岡鉄男氏は、オーディオとはスピーカーを鳴らすことだと述べたとか。ドイツは大型ホーンのスピーカーが盛んなことでも世界的に有名であり、まあホントにホーンを使った製品の多いこと。

STEIN Musicの最上級スピーカーシステム

フォノカートリッジでも知られているSTEIN Musicの最上級スピーカーシステムである。タワー型のサブウーファーはDSPコントロールによる3,000Wのアクティヴ駆動。金属製かと思わせるエンクロージュア素材はウッドだという。

TuneAudioのAVATON Horn Loudspeakers

TuneAudioのAVATON Horn Loudspeakersは、なかなかの浸透力を秘めた音を聴かせてくれた。横には120Hz以下を鳴らすサブウーファーのエンクロージュアがあり、1,100Hz以上はホーン型ツイーターが担当。ドイツの製品化と思いきや、同社はギリシャのオーディオ工房とのこと。ギリシャにはイプシロンという有名なアンプメーカーもある。

ASKJA-AUDIOの製品

スピーカーシステムだけでなくアンプまでコンプリートにラインナップしていたのは、以前にも見ているASKJA-AUDIOの製品。フランスのオーディオメーカーで、エンクロージュアなどは主宰するDidier Kwak氏がスイスのフォーミュラワン(F1)技術者と共同開発したという。15インチ口径のウーファーは日本のTAD製のようだった。これはHIGH ENDの会場ではなく、コバンザメ的に独自のオーディオショウを開催しているハイファイ・デラックスの会場にて。

ESD Acoustic(隱士音響)のスピーカー

積層形成したカーボンファイバー織布のホーンが特徴の製品は、中国の浙江省にあるESD Acoustic(隱士音響)が手掛けたもの。ホーンはベリリウム製ダイアフラムを搭載するフィールド型(電磁石)という。同社は大型ホーンやデジタル機器、そしてチャンネル・ディバイダーを含むエレクトロニクス機器もリリースしている。

BLUMENHOFER ACOUSTICSというスピーカー工房の作品

BLUMENHOFER ACOUSTICSというスピーカー工房の作品。ミュンヘンから南に下ったところにあるメーカーで、30年以上の歴史を誇るという。主宰者はThomas Blumenhofer氏といい、来る自社の40周年を記念する大型スピーカーシステムを計画している。

シルテックの大型スピーカー「SYMPHONY」

銀線を使うなど高価なスピーカーケーブルで知られるオランダのシルテック。この大型スピーカーシステムは、シルテックが開発したSYMPHONYである。会場では1台だけの回転展示だけだったが、5ウェイ・13ドライバーという大規模さも手伝ってか多くの来場者が見入っていた。ケーブルメーカーで小型スピーカーも製品にラインナップするクリスタルケーブルとシルテックは同じ企業体に属している。

YGアコースティクス初のサブウーファー

米国YGアコースティクスの製品で注目すべきは、右側にある同社初のサブウーファーだ。これは2段重ねした状態で直径約53cmという巨大な自社製ドライバーが凄い。バスケットと振動板は自社のCNCマシンで精密に切削加工。それをデンマークのスキャンスピークに移送して製造してもらうのだという。大きすぎて日本市場向きではないと思うので、おそらく輸入元はデモ機を導入しないのだろう。ボイスコイル径などのスペックや実際の低音域の質感など興味深い製品である。

JERNの試作スピーカー

一体成型の鋳鉄製スピーカーとして異彩を発揮するデンマークのJERN。日本にも輸入元(今井商事)があり、本国の発音からヤーンと呼ばれている。JERNは鉄という意味だ。私は同社のJERN14シリーズを1台所有している。高さは30cm程度だが鋳鉄のため約13kgと重い製品だ。

画像はJERN14よりもひとまわり大きな試作機で、ボイスコイル+ボビンが楕円の円筒形状というスキャンスピークのElipticor(楕円という意味)シリーズのドライバーを搭載。JERNでは鋳鉄製のサブウーファーも完成させたようで、私は輸入されたらオーダーしようかと考えている。

CABASSEの最高傑作「La Sphere」の断面

フランスを代表するスピーカーメーカーはFOCALとCABASSEだろう。これはCABASSEの最高傑作であるLa Sphereという4ウェイの同軸型スピーカーの断面。アクティヴ・プロセッサー(チャンネル・ディバイダー/エレクトリック・クロスオーバー)と8台のモノーラル・パワーアンプを組み合わせた壮大なシステム構成であり、私は1度だけ理想的な条件で美音を聴いたことがある。

ファインオーディオ「F1-12」

このところ人気急上昇なのがスコットランドのファインオーディオ。特に小型の同軸型スピーカーは安価ながらもピシッとフォーカスの整った点音源再生で注目されている。ファインオーディオはタンノイ出身の精鋭が結集したスピーカーメーカーで同軸型ドライバーに関する知見の高さが大きな強みだ。これはF1-12という新開発30cm口径同軸ドライバーを搭載するフラグシップ機。高音域は3インチ口径の金属振動板を持つ高能率コンプレッションドライバーが担当する。

FinkTeamのWM-4

独FinkTeamのWM-4という大型スピーカーシステム。ミッドレンジとトゥイーターはダポリット方式の仮想同軸配置になっている。15インチ口径のウーファーと5.5インチ口径の平面型ミッドレンジは自社開発ドライバー。AMT方式のトゥイーターは良質のクロスオーバー素子で知られるムンドルフ製だ。

接続されているモノーラル・パワーアンプにも注目してほしい。現在はマランツやデノンと同じくサウンドユナイテッド傘下にあるクラッセの新型機なのである。クラッセはカナダで誕生したエレクトロニクス企業だったが、B&Wとの関係が切れたときにサウンドユナイテッド傘下となった。新生クラッセは日本で製造されるという。

Kaiser GmbHの大型スピーカーシステム

日本のオーディオノートとタッグを組んでいることが多い、独Kaiser GmbHの大型スピーカーシステム。同社HPにもまだ登場していない新製品で、ツイーターはカスタム仕様のRAAL製ピュアリボン・トゥイーターが各2基あり外周にホーンロードがかけられている。

旭化成やロームなどの新DAC、ディスクリートDACにも注目

デジタルオーディオがメインストリームの音源であることは揺らいでいない。初出展となった旭化成エレクトロニクスによると、同社ハイエンドDAC素子である「AK4499」の紹介は好評でビジネス的にも大成功だったという。ハイファイ・デラックスでDAC素子を展示していた日本のロームも手ごたえを感じていたようである。

一方、ハイエンド機器のトレンドとしては高性能DAC素子の採用に加えて、R2R抵抗ラダーなどによるディスクリートDAC基板の開発が進んでいる。微小レベルでのリニアリティ=直線性に関しては高性能DAC素子のほうが有利なのではと思われるが、オーディオファイル的な観点でディスクリートDACは魅力的に映るのも確かだ。

エソテリックの「GRANDIOSO D1X」が搭載するディスクリートDAC基板(試作バージョン)

すでに公表されているので新鮮味が薄らぐかもしれないが、これはエソテリックの最高級モノーラルDAC、GRANDIOSO D1Xが搭載するディスクリートDAC基板(試作バージョン)である。8エレメントのディスクリートDACが基板上に4基マウントされている。大規模な基板でコストもかかっているので同社の高級機にしか搭載できないと思われる。

aqua acoustic qualityのFormula xHDというDAC

イタリアのミラノにあるaqua acoustic qualityのFormula xHDというDAC。最大の特徴はFPGAをベースにするディスクリートR2RのDAC基板を4モジュール搭載すること。マルチビットのサインマグニチュードということなので、TI(バーブラウン)の「PCM1704」をディスクリート化したというイメージなのかもしれない。同社はCDトランスポートも製品にありUSB入力も持っているが、ネットワーク再生には対応していないようだ。

リクエスト・オーディオ「The Raptor」

スイスのリクエスト・オーディオは「The Beast」(獣)という超弩級ネットワークプレーヤー兼ミュージックサーバーでデビューした。主宰者はかつてアコースティックラボというスピーカーメーカーを興したゲルハルト・シュナイダー氏。昨年はプロトタイプだったが、今年は完成した「The Raptor」(猛禽)という製品を披露。ディスプレイを持たないため小型化が可能になり精悍さが増している。

dCSのリングDAC基板

こちらは英国dCSのリングDAC基板。信号の流れは下から上に向かうかたちで、5bit処理のデジタルデータを特許技術のリングDACでアナログ電圧信号に変換するのである。左右独立のFPGAから送り込まれる電荷(電流パルス)は固定抵抗を経由することで電圧信号になるわけだが、dCSのリングDACでは固定抵抗の回路を多く装備している。これは抵抗器単体やその温度変化により変動する抵抗値の偏差を最小化にするため。FPGAから超高速&ランダムに電荷を送ることで抵抗値の偏差が最小化できるというテクニックなのだ。

右がカリスタのドリームプレイ・ストリーム

メトロノーム・テクノロジーの名前で知られている彼らは、最近になってカリスタ・オーディオという名称も使うようになった。右側にあるのはカリスタのドリームプレイ・ストリームというネットワークプレーヤーだ。Roon Readyでストリーミングにも対応する製品だが、詳細はいまのところ不明。左にボケて写っているアナログプレーヤーは、オーストリアのPro-Jectの協力を仰いで開発したというプロトタイプだ。

マージング・テクノロジーのCDトランスポート試作機

スイスのマージング・テクノロジーはCDトランスポートの試作機を展示していた。本音をいうとSA-CDのマルチチャンネルにも対応したディスクトランスポートを開発したいということなので、私は帰国してからヒントになるような提案をしている。画像は上から試作CDトランスポートのMERGING DISC、MERGING NADAC(D/Aコンバーター)、MERGING CLOCK、そしてDACの専用外部電源であるMERGING POWER。

excel digital audio「エヴェレストDAC」

excel digital audio(exD)は香港を拠点にしているようだ。このマッシヴなDACはエヴェレストDACという製品名で35kgもある。ネットワーク対応機でUSBとネットワークでは768kHzのPCMと22.6MHzのDSD512を再生可能という。興味深いのはオプション設定で超高性能クロック素子である日本電波工業のDuCULon Super OCXOモジュールが搭載可能ということ。

一見地味だが充実した製品が多かったアンプ。オープンリールも!?

アンプリファイアはいくぶん地味な存在だったかも知れない。画期的な増幅技術の革新というのが特に見当たらないのがそう思わせているのかも。しかしながら、充実した製品が多かったのも事実である。HIGH END Munich 2019のショウリポートを締めくくるのは、アンプリファイアとフォノカートリッジ関連&ペリフェラルだ。

プレイバックデザインズの超巨大なステレオアンプ「SPA-8」

米プレイバックデザインズは、スイス出身のアンドレアス・コッチ氏が主宰するオーディオメーカー。名字のコッチ(Koch)は本国ではコッホと発音する。彼はスチューダーやEMM、SONYなどでデジタルオーディオのエンジニアとして活躍していた時期がある。ここで紹介する超巨大なステレオアンプはSPA-8という800W+800W(4Ω負荷)の試作機。左側にあるセパレートSA-CD機がミニコンポに感じられるほどの大きさで、幅は73cmもある。あくまでもプロトタイプということでサイズや内容の変更が考えられるが、2020年には発売したいという意向だ。

コード・エレクトロニクス「ULTIMA2」

英国コード・エレクトロニクスは同社のメインストリームであるパワーアンプの新製品を発表。画像はモノーラル・パワーアンプのULTIMA2で出力は750W(8Ω負荷)、1,305W(4Ω負荷)というミドルクラス。トップエンドのULTIMA1は高さが倍になっている重量級モノブロックだ。

マークレビンソン「No.5802」と「No.5805」

マークレビンソンは、No.5802とNo.5805というインテグレーテッドアンプの新製品を展示していた。両機ともUSB入力を含むデジタル入力が充実しているけれども、ネットワーク機能は持っていないようだ。CES2019で発表されたときにはMQAのロゴがなかったようだが、展示機にはMQA対応ロゴが表示されている。

割り切ったなと思わせるのはNo.5802のほうで、アナログ入力基板を持たないデジタル入力専用アンプになっていること。クラスABの電力出力段はバイポーラ・トランジスターによるもので、125W+125W(8Ω負荷)とじゅうぶんなパワー。回路デザイナーがクレル出身のトッド・アイケンバウム氏になってからのマークレビンソンは元気いっぱいだ。

ダン・ダゴスティーノ・マスター・オーディオ・システムズのプログレッション・インテグレーテッドアンプ

クレルの創業者で現在はダン・ダゴスティーノ・マスター・オーディオ・システムズを主宰しているのが、ダニエル・ダゴスティーノ氏だ。彼の最新作であるプログレッション・インテグレーテッドアンプは背面にWiFiアンテナを装備している。出力は200W+200W(8Ω負荷)で400W+400W(4Ω負荷)とのこと。オプションでDAC基板が搭載できるようで192kHzのPCMや11.2MHzのDSD256にも対応するようだ。

本家クレルのフォノイコライザーアンプ「K-300p」

こちらは本家クレルのK-300pという新製品のフォノイコライザーアンプ。現在のクレルは共同創設者であるロンディ・ダゴスティーノ女史がオーナーで、マークレビンソン出身のウォルター・スコフィールド氏がCOOを務めている。回路設計は古くから在籍している経験豊富なエンジニアのデイヴィッド・グッドマン氏が担当。K-300pは本格的なディスクリート回路構成になっているという。

オルトフォンは高価なダイアモンド製カンチレバーを、MC Annaに搭載。左にあるのは3Dプリンターで製作されたMC Anna・ダイアモンドの巨大なオブジェ

デンマークのオルトフォンは、100周年記念の「The MC Century」に使われた高価なダイアモンド製カンチレバーを、MC Annaに搭載した。The MC Centuryの空芯ムービングコイル磁気回路は元々MC Annaのそれをベースにしているので、ダイアモンド製カンチレバーを奢ることは既定路線だったのかも。左にあるのは3Dプリンターで製作されたMC Anna・ダイアモンドの巨大なオブジェ。

LUNDAHL TRANSFORMERSのMC型フォノカートリッジ用の昇圧トランスフォーマー。右側が新製品

スウェーデンのルンダール(LUNDAHL TRANSFORMERS)は、オーディオ用トランスフォーマーで特に有名な存在だ。会場ではMC型フォノカートリッジ用の昇圧トランスフォーマーが展示されており、右側が新製品という。コア材に非晶質のアモルファス・コアを採用した高級志向や銀線を巻いているタイプも用意されている。

トーレンスの「TM1600」

最後に紹介するのは、トーレンスの「TM1600」というオープンリール・テープの再生専用機だ。これも新製品なのである。近年は地味にオープンリール・テープ再生が人気となっており、マスターテープからデュプリケートした音楽ソフトも少ないながらもオーディオファイル向けに販売されている。そこに目を付けたのか、トーレンスは自社の長い歴史のなかで手掛けたことのないオーテープデッキを開発した。3モーターの本格派で再生専用の磁気ヘッドがひとつあるだけなので、録音や消去という誤動作から解放されている。

駆け足的にHIGH END Munich 2019紹介してきたが、いかがだっただろうか? ハイエンド・ソサエティの公式発表によると、今年の入場者数は6.5%アップの21,180名。ビジネス目的の訪問客は世界72カ国から8,208名だったという。また、世界42カ国から551の出展社数があったと報告されている。HIGH END Munich 2020は、同じM.O.C.を会場に5月14日から17までの合計4日間が予定されている。

三浦 孝仁

中学時分からオーディオに目覚めて以来のピュアオーディオマニア。1980年代から季刊ステレオサウンド誌を中心にオーディオ評論を行なっている。