西田宗千佳のRandomTracking
iPhone 7のSuica対応を分析する。「カード版Suica」を置き換え、日本独自モデルで展開
2016年9月8日 12:00
今回、iPhone 7の発表の中でも、日本でもっとも注目を集めているのは「FeliCa・Suica対応」ではないだろうか。現地でのハンズオンはなかったが、担当者から詳しい話を聞くことができたのでまとめてみたい。説明していくと少々複雑だが、ユーザーにとっての「できること・やること」は意外とシンプルになっている。
対応するのは「Suica」、狙いは「物理カードの置き換え」
まずハードウエアについて。
今回は、iPhone 7シリーズとApple Watch Series 2にて「FeliCa対応」が行なわれる。これは具体的には、NFC type-AおよびBに加え、NFC type-Fにも対応する、ということだ。ただし、これは「日本で発売される製品」に限られる。短期的に言えば、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクという三大キャリア版およびアップルが国内で販売するるSIMフリー版のiPhone 7シリーズとApple Watch新モデルが対応、ということだ。海外で購入したものはFeliCaに対応しない。
次になにができるのか。
まずはっきりしているのは、「Suicaの物理カードを置き換えること」だ。
Suicaの物理カードには、それぞれ固有のIDや残高情報、定期券情報などが記載されている。それをiPhone 7などに写し取り、物理カードの内容をそっくりiPhone 7やApple Watchに持たせることができる。チャージは、Apple Payに登録したクレジットカードを介して行える。定期券の更新も同様だ。
写し取ると元のカードは使えなくなり、写し取ったデータを別の機器と共有することはできない。iPhoneとApple Watchの両方でSuicaを使いたい場合、それぞれ別のカードとして登録する必要がある。一方で、移行作業はアプリで行ない、カードをかざしてタップしていくだけだそうで、特に難しいものではない。
ここで注意が必要だが、あくまで「Suicaに対応」であり、PASMOやICOCAなど、別の交通系カードに対応したわけではない、ということだ。物理カードを「写し取れる」のはSuicaに限られる。
ただし、JR東日本などSuciaが直接使える路線以外でも、現在は相互運用がなされているので、カードの登録さえ終わっていれば、経路内で決済を行なうことはできる。
「じゃあ、Suicaの物理カードを持っていないとつかえないじゃないか」
そういう話になりそうだが、そこはちょっと違う。JR東日本が別途アプリを提供予定で、そこから、Apple Payの中で使えるSuicaを発行できるようになるという。
今回はあくまでSuica対応であり、他の日本の交通系ICカードからの発行に対応していないため、地方からの目線で見ると、少々わかりにくい状態である。
が、いったん設定が終われば、あとはまさに「Suica」だ。改札を通るのも、店舗での支払も物理カードのSuicaや、これまでのモバイルSuica対応機器と変わりない。電車に乗った後、チャージが切れそうな場合には教えてくれる機能もあるという。
そこで気になることもある。
Apple Payでは、指紋認証機能であるTouch IDに指を置き、本人確認しながら使うのが基本だ。認証スピードはずいぶん速くなっているものの、日本、特に都市部の改札スピードはちょっと異常なほどで、間に合わない可能性がある。
そのため、Apple PayのWalletに登録したSuicaのうち一枚を「Expressカード」(某社とも、PCの拡張カードとも関係ない)設定する、という機能が用意された。Expressカードでは、指紋認証を使わずに決済を通すようになっている。だから、普段改札を通る場合には、iPhoneやApple Watchの電源を入れることもなく、ただ「改札にタッチ」でいい。
Apple Payでの対応は「モバイルSuicaではない」ため、特急券のオンライン購入など、モバイルSuicaで出来ていることが「同じようにはできない」可能性がある。だが、そうした部分の多くはJR東日本側が提供するアプリでカバーすることもできるようで、実際に「モバイルSuicaでできることのどこまでがカバーされているか」は、JR東日本側のアプリの機能も合わせてチェックする必要がある。
「iD」「QUICPay」として動く日本のApple Pay
では、クレジットカード決済はどうなっているのか?
他国ではApple Payがすでにスタートしているが、日本でも10月下旬から、クレジットカード・プリペイドカード決済としてのApple Payをスタートする。Apple PayはNFCによるクレジットカード決済、のひとつだが、日本においては、「QUICPayまたはiD」への対応としてスタートする。
QUICPayはジェイシービーおよびイオンクレジットサービスが開発した決済プラットフォームで、iDはNTTドコモが開発したクレジット決済プラットフォームだ。それぞれ、日本の店頭で広く使われている。
自分の手持ちのクレジットカードをApple PayのWalletに登録すると、クレジットカード会社側で「QUICPayもしくはiD」にサービスが紐付けられ、それらのサービスで使えるようになる。すなわち、日本ではQUICPayもしくはiDの加盟店ならば、Apple Payが使える、ということになる。
この紐付けは自動で、ユーザー側でなにかをする必要はない。その代わりに、クレジットカード会社によって紐付け先は決定され、選ぶことはできない。Walletに登録された自分のクレジットカードには、それが「iD扱い」なのか「QUICPay扱い」なのかが表示されるという。
そして、それとは別に、Apple Payのなかのひとつのサービスとして「Suica対応」がある、という建て付けなのである。だから、店頭でApple Payが使えるのは「QUICPay」「iD」「Suicaとその相互接続事業者」の決済が使えるところ、ということになる。
現状、上記の紐付けも含め、VISAの対応が遅れており、スタートでは対応しない。だが、「検討は進めている」とのことで、将来的にはメジャーなクレジットカードのほとんどが対応することになるだろう。
登録さえすれば使うのはシンプル、海外事とのすりあわせに疑問も
文字で書くと、なんとも複雑な仕組みに見える。
だが、アップル側の狙いを聞くと、なるほど、と分かることもある。
「日本でのチャレンジは、現金での支払をなくすこと。それを実現するために、できるだけ日々の利用がシンプルになる方法を考えた」
アップルの担当者はそう話す。
確かに、「Apple PayのWalletにSuicaと自分のクレジットカードを登録する」ということさえやってしまえば、あとは「QUICPay」「iD」「Suicaとその相互接続事業者」でiPhoneをタッチするだけ、ともいえる。これらのサービスに対応している事業者は多く、NFC Type AおよびBベースのタップ&ペイは、日本では環境が整っていない……との判断と考えられる。
一方で、すでに説明した「Suica以外の交通系カードの取り込み対応」や、「海外から訪日した人々の利用」「海外端末を使いたい日本人の対応」という問題点もある。特に、海外の規格との相互利用についてはわかりにくい上に大変だ。
サービス開始までにはもう少し詳しい話もわかるとは思うが、現状アップルは、「日本でできる限り多くの利用者がすぐ使える」ことを重視し、少々アクロバティックな手法を採ることになったのだ……と筆者は理解している。