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数字は言わず“タイトル”で語る4年目のPS4。ハードは無くても満足のE3会見

 E3レポートの2本目は、Sony Interactive Entertainment America(SIEA)のプレスカンファレンス詳報をお伝えする。結論から言えば、SIEはまったくハードウェア関連の発表をしなかった。6月11日の段階で、PlayStation 4の全世界累計実売台数が6,040万台に達したことが発表されているが、それは会場ではなにも触れられなかった。

会場となったShrine Auditorium

 SIEAがアピールしたのは、徹底的に「タイトル」だ。だが一方で、カンファレンスを見ていたようなファンには確実に、ある種の満足感を与えるものになっていたのではないかと思う。

プレスカンファレンスを「ショー」に、トレイラーと演出で全編を構成

 このところ、SIEAはプレスカンファレンスの後、会場で短く試遊時間を取ることが多かった。もしくは、それがない場合もあったが。とにかく、スタート前はゲームそのもののアピールはせず、食事や飲み物を振る舞ってリラックスしてもらうようなパターンが多かった。

 だが、今年のカンファレンスは違った。

 記者が会場に招き入れられると、最初に入ったのは広大な試遊スペースだった。そこには、「グランツーリスモSPORT」や「エースコンバット7」、「New みんなのGOLF」といった多くのタイトルが試遊可能な形で並べられており、飲食をしつつそれらのゲームを体験できる形になっていた。多くの魅力的なタイトルがあり、ゲームメディアであればそれぞれをじっくりプレイした上で記事にしたいところだろう。

入場すると巨大な「△○×□」がお出迎え
会場には多数の試遊ブースが設けられ、まずは「今年出る期待の新作」を体験できた

 だが、なによりも重要なことがある。ここで試遊対象となっていたゲームのほとんどは、プレスカンファレンスでは「紹介されなかった」ということだ。発売を控えたタイトルや、すでに内容が知られたものが中心である。SIEAは、それらのタイトルはあえて先にプレイさせ、本当の驚きは会場に残しておく……というパターンを採ったのである。

 会が始まると、あとはひたすらトレイラーを流す形だった。途中2度ほど、SIEAプレジデントのショーン・レーデン氏が登壇してプレゼンテーションを行なったが、数字の話もパワーポイントの画面もなし。PlayStation 4がゲームデベロッパーとゲーマーの支持を得ていて、「Best Place to Play」であることだけをアピールした。

SIEAプレジデントのショーン・レーデン氏。登壇時間はごく短く、ステージに出たのは彼だけだった

 ストリーミングでご覧になっていた方々にどのくらい伝わったかはわからないのだが、会場での演出はとにかく凝っていた。

 まずはシタールの演奏から始まったステージは、プロジェクションマッピングを天井に映し、トレイラーに合わせて舞台の背景を変え、ゲームの演出によっては銃弾の破裂音を再現し、床から天井へ炎を吹き上げる。手を変え品を変え、凝った演出でゲームの世界を描きだし、トレイラーに華を添えていた。「プレゼンテーション」ではなく、すでに「ショー」といった趣だ。

カンファレンスはシタールの生演奏からスタート
会場の背景は、ゲームの内容にあわせてどんどん変化していった
床から炎が吹き上がり、背後で破裂音がする演出も
最後に公開された「Spider-man」のデモでは、画面の進行に合わせ、背景にあるクレーンも倒れていく、という手の込みよう

 数字や発売日などの話はほとんどなく、ゲームの映像に流され、観客が歓声をあげるのを聴いているうちに、プレスカンファレンスは終了していた。

タイトルの量をアピールする戦略、問題は「発売時期」がいつか

「PS4にゲームタイトルがある」ということをアピールする意味では、SIEAのプレスカンファレンスは見事だった。おそらく、日本からカンファレンスの中継を見ていた方も、そう感じたのではないだろうか。マイクロソフトも同じように魅力的なゲームタイトルを紹介していたのに、これほどは心に響かなかった。ゲームに対する説明はマイクロソフトの方がずっと丁寧であったのに、SIEAは演出の上手さで聴衆の心を掴んでしまった。

 そして特に目立ったのは、SIEがプロデュースする「ファーストパーティータイトル」の強さだ。最後にアピールされた「Spider-man」も含め、多くのタイトルがファーストパーティーによるもので、それはとりもなおさず、PS4のみに提供されるタイトルである、ということになる。もちろん、カプコンの「MONSTER HUNTER WORLD」を中心に、サードパーティーの魅力的なタイトルも多かった。だが、SIEが投資して作ったゲームタイトルが光っていたのがこのプレスカンファレンスであり、逆にいえば、SIEAはそこに注力してカンファレンスを組み立てていたのだろう。

 SIEはPlayStation 4 Proを昨年発売しており、「4K世代」をマイクロソフトより先に迎えている。マシンパフォーマンスではもちろんXbox One Xに劣るわけだが、カンファレンスではそのことについて一切触れなかった。というよりも、「ゲームタイトルそのもので語った」といってもいい。今年はハードウェアについて語ることがないのだから、そうなるのが必然である。市場に先に出ており、開発でも先行している分、ゲームタイトルは充実しやすい。そうした点こそが、「会場に入る前に試遊させる」「試遊したタイトル以外に強力なものがたくさんこれから出てくる」という、今回のプレスカンファレンスの構造の狙いだったのだろう。実にうまいやり方だ。

 一方、カンファレンスで公開されたゲームタイトルの多くは、発売時期が明示されていない。その多くが2018年になるのだろう……と予想されるが、その点が気にはなった。そこも含め「数字にこだわらない」プレスカンファレンスを、SIEAは指向したのだろうか。

 E3会期中には、SIEのゲームソフト開発の中枢である、ワールドワイドスタジオ・プレジデントの吉田修平氏へのインタビューも予定している。残る疑問についてはそこで答えてもらうことにしよう。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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