西田宗千佳のRandomTracking

第452回

ボーズがサングラスで始める“音のAR”を試す。 オーディオとしても優秀「Bose Frames」

ボーズは、「音のAR」を実現するBluetoothを組み込んだサングラス「Bose Frames」を日本でも10月3日に発売した。

Bose Frames。日本での販売価格は25,000円

元々この商品は、アメリカで2019年1月より販売開始していた商品で、日本では少し遅れての発売となった。

ボーズが取り組む「音のAR」とはどのようなものなのか? 実機で確かめてみた。

音に絞って軽量かつシンプルな「サングラス型」に

Bose Framesは、ごらんの通り「サングラス」そのものの外観をしているのが特徴だ。購入したのはクラシックなデザインの「Alto」と呼ばれるもの。日本ではAltoのみが販売されるようだが、海外では丸いシェイプの「Rondo」もある。ちなみに、デザインが違っても販売価格は変わらなかった。

シンプルでクラシックな形状の「Alto」というモデルのみが日本では販売される
海外では発売されている「Rondo」

けっこうしっかりした合皮のケースに入っていて、パッケージもなかなか高級感がある。

パッケージ。シンプルだが高級感がある
Bose Frames本体が収められたケース。かなりしっかりしていて、使い勝手もいい

それに比べると、Bose Frames自体はかなり簡素なプラスチック素材仕上げで、見た目だけでいえば25,000円(アメリカでの価格は200ドル)のサングラス、という感じはしない。光を遮る「サングラスとしての機能」も、数千円以内で買えるものレベルでしかない。結論めいているのだが、Bose Framesの最大の欠点はこの「安っぽさ」である。

かけてみた。ほんとうに普通のサングラスという印象。これだけでは正直25,000円の価格に相応しい高級感はない

だが、そういう部分を割引いても、Bose Framesは非常に面白く、価値がある。サングラスとしてでなく、オーディオ機器としての部分にこそ意味があるからだ。

外観上、普通のサングラスと違うのは、ツルの部分が大きくふくらんでいることだ。ここにバッテリーやスピーカー、Bluetoothでの通信機構にモーションセンサーといった、「普通のサングラスとは違う部分」がつまっている。

ツルの部分がぐっと太くなっていて、ここに本体が。特に耳側の部分には充電専用の端子や操作用の小さなボタンもある
内容物。ケースに入ったBose Frames本体の他、電源ケーブルが付属。ケーブルは手前の小さな巾着袋に入っている

とはいえ、Bose Framesは一般的な「スマートグラス」と呼ばれるものに比べ、かなり軽く、普通のサングラスに近い。重量は45gで、一般的なメガネ(20g以内)に比べて多少重い程度。他のスマートグラスは軽いものでも100g前後なので、かなりの差だ。違いは「ディスプレイがない」ことにある。あくまで音によってインタラクションする機器なので、この重さでもいいのだ。それでも、普通のサングラスやメガネに比べ「ずり落ちてくる」感覚があるので、やはりこの種の製品は難しい。

充電は専用ケーブルを使ってUSB経由で充電する。バッテリー動作時間は3.5時間と長くはない。つけっぱなしにするというよりは、必要な時だけ使うイメージだろう。

充電ケーブル。USB接続で、マグネット式の専用端子につける形のもの。長さは50㎝程度

すでに述べたように、Bose FramesはBluetoothを使って接続する機器で、スマホといっしょに使う必要がある。対応スマホはiPhone(iPadでも使えるがiPhoneの方が向く)とAndroid。ボーズのスマホ連動アプリ「Bose Connect」を使って接続する。使うプロトコルはA2DPなので、そういう意味では「普通のBluetoothヘッドフォン」といってもいい。

アプリはボーズのヘッドフォンに共通の「Bose Connect」を使う

だがもちろん、単にヘッドフォンである、というだけではない。

耳の周りに音が広がる独特の音響体験

「単にヘッドフォンであるだけでない」と書いておいて矛盾するようだが、まず、Bose Framesの面白いところは「非常に面白いヘッドフォンである」という点にある。

Bluetoothヘッドフォンなので、スマホとペアリングし、音楽プレイヤーなりストリーミング・ミュージック系アプリなりを使えば普通に音楽が再生できる。他のボーズ製ヘッドフォン同様、対応コーデックは明記されていない。おそらくはSBCだ。

だが、ことBose Framesについては、そういう細かいスペックはどうでもいい。他のヘッドフォンとはまったく違う音が聞こえるからだ。

音を鳴らすと、いきなり顔の周りに大きな大場のボールができたような感覚に襲われる。スピーカーで聞くのともヘッドフォンで聞くのとも違う、「音に包まれているのだが解放感がある」という体験だ。

同種のことは、ソニーの「Xperia Ear Duo」や「SBH82D」のようなオープンイヤー型ヘッドフォンでも感じられるのだが、Bose Framesの場合には、より広がりがあり、響くような音がする。こんな表現でおわかりになるかはなはだ不安なのだが「もっとずっとボーズっぽい」音だ。

当然、周囲の音はそのまま聞こえてくる。人と話ながら使うのも問題ないし、街中の環境音も聞こえる。「ながら利用」でも問題ない。

こうした形式だと、ヘッドフォンと違い「音漏れ」は原理状防げない。だが率直にいって、意外なほど周囲の人には音は聞こえない。

静かな室内で試した場合でも、スマホ側でのボリュームが「全体の3割」でごく近くで音が聞こえる、という感じ。普通の環境だと、同じ音量だとまず周囲には聞こえない。「全体の5割」で音漏れが気になり始めるかな、という感じだ。一方自分への聞こえ方は、室内なら音量3割で十分大きく聞こえるし、屋外でも5割だと相当に大きい。「音楽以外聞こえない」ような状態にしたいなら音漏れを気にする必要があるが、自然に聞こえてくる音量ならそこまで気にする必要はないだろう。

操作はスマホからできるほか、Bose Framesからも行なえる。といっても、右側のツルにある小さなボタン1つしか操作系はなく、再生/停止/曲送りなどが行なえるだけである。このシンプルさも、本体の軽さにつながっているのだろう。

Bose Connectの操作説明画面より。小さなボタンで音楽の再生や停止が可能。本体の操作要素はそれだけ

モーションセンサーで向いている方向を検出

Bose Framesは「音のAR」を標榜している。それはなにも音が出ることを示しているのではない。音と自分の向いている方向が同期するから価値があるのだ。

一番わかりやすいアプリとしては、Boseが提供している「RADAR」がある。このアプリでは、自分を中心に360度から流れてくる音が楽しめる。例えば、最初は正面から流れてきた音が次第に頭の後ろへと回り込み、左手の方からはバイオリンの調べが聞こえてくる……といった、空間を活かした音が楽しめるのだ。海辺の音などの環境音もあるが、やはり楽しいのは「音楽」だ。事務椅子などのクルクル回りやすい椅子に座り、首を動かしながら聞くと面白い。

ボーズが無料配布している「RADAR」。Bose Framesの「方向検知」能力を活かした立体音響を楽しめる

こうしたことができるのは、Bose Framesの中にスマホとは独立したモーションセンサーが入っていて、「自分が実際に向いている方向」を検知できるからに他ならない。自分が向いている方向が分かれば、それに合わせた音を出すのも難しくない。ボーズが「音のAR」と言っているのはこの要素だ。

Bose Framesの方向認識技術を活かすため、モーションセンサーのキャリブレーションが必要になることも

ボーズはBose Framesのモーションセンサーをアプリで使うための開発情報を公開しており、開発者はそれを使って「音のAR」要素を持ったアプリを開発できる。

一番わかりやすい例は「ナビアプリ」だろう。「Walc」はGoogleマップを活用した徒歩ナビアプリだが、Bose Framesとの連携機能を持つ。画像をご覧いただきたい。進路とは90度違う方向を自分が向いているのがおわかりいただけるだろうか。これはまさに、Bose Framesのモーションセンサーで自分の方向を認識しているから出来ていることだ。

Bose Framesに対応した徒歩ナビアプリ「Walc」。スマホを取り出していなくても、向いた方向をベースにナビする

スマホの徒歩ナビでは、スマホをちゃんと歩く方向に向ける必要がある。そうしないと、ナビのためのコンパスがうまく働かないからだ。結果的に、スマホの画面を見ながら「歩きスマホ」をすることになる。

しかしBose Framesを使ったWalcの場合には、自分の向いている方向はBose Framesから取得し、位置はスマホのGPS情報から取得することで、画面を見ている必要がない。次にどちらへ曲がるべきかは、Bose Framesのスピーカーから音声で通知がある。

現状、Walcを含め、Bose Framesに対応したアプリは皆英語のものばかりで、日本語でのナビはできてない。ぜひどこかが日本語対応してくれればと思う。

この他にも、ニューヨークの特定の場所に来るとそこの観光案内を声で知らせてくれるアプリや、エクササイズの様子を声で知らせてくれるアプリなどがある。

まだまだアプリそれぞれの完成度は低く、発展途上だと感じたし、自分の向きも、ほぼ90度単位でしか認識していないように思えた。反応も遅い場合がある。だがそれでも「スマホそのものを使う」のとは違う可能性が感じられて面白い。

イヤフォンでもヘッドフォンでもない「オープンイヤー型」には、今後もかなりの可能性を感じる。またそこで、スマホと連動し、声などで情報を聞く要素も有用だ。Bose Framesはそうした可能性のフロントエンドにいる。

Amazonも同じような製品を「Echo Frames」として開発中だ。ただしこちらは、音楽ではなく「声での機械とのコミュニケーション」に特化しているそうで、オーディオ機器的な楽しみはなさそうなのが残念だ。

そして、今後登場するAR系スマートグラスには、ディスプレイと同時に、オープンイヤー型スピーカーとしての価値が追加されていくことになるだろう。

そうした数年後の未来を先取りするものとして、Bose Framesは十分な価値がある。他にない体験を与えてくれるおもしろいオモチャである。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
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