西田宗千佳のRandomTracking

第568回

PlayStation Portal実機レビュー。みやすい画面で快適プレイ。「専用機」の良さと課題

PlayStation Portal リモートプレーヤー。価格は2万9,980円

11月15日に発売される「PlayStation Portal リモートプレーヤー」のレビューをお届けする。

以前開発中の段階での実機体験をお伝えしたが、今回は製品版をレポートする。

PlayStation 5(PS5)と連動して使う周辺機器であり、その位置付けは多少わかりづらい。

実際に使いながら、その価値を確かめてみよう。

大きい画面にDualSenseをセット

「PlayStation Portal リモートプレーヤー」(以下Portal)は、前述のように、PS5と連動することが前提とされている。

PS5には「リモートプレイ」という機能がある。すごく簡単に言えば「PS5を遠隔地から使えるようにする」もの。ネットを介してPS5の画面を機器に伝え、操作は逆にPS5へ伝える。テレビなどがつながったPS5の前にいなくても、好きな場所でPS5を遊べるわけだ。

ただ従来からいくつか課題はあった。

そのうちの2つが「煩雑である」「画面が小さくなりやすい」ということだった。

リモートプレイが登場した当初(PS3の時代)にはPSPがあり、そのあとにはPlayStation Vitaがあった。携帯ゲーム機なら簡単に遊ぶことができた。

だが現在、SIEは携帯ゲーム機を作っていない。リモートプレイを使うには、スマホ/タブレット+DualSense(PS5専用コントローラー)か、PC/Mac+DualSenseを使う必要がある。それはそれでいいのだが、複数の機器を使うのはどうしても面倒だ。

スマホでリモートプレイのコントローラーをどう扱うか、という課題があるが、専用機のPortalは一体型

多くの場合リモートプレイはスマホで使われるが、スマホの場合にはどうしても画面は小さくなる。リモートプレイはPS5の画面をそのまま転送するからだ。PS5向けのゲームはテレビや外付けディスプレイクラスを想定して作られているため、小さな画面では文字やUIが見づらくなり、プレイしづらい。

こうした課題を解決するためにSIEが作ったのがPortalだ。8インチのディスプレイを備え、左右にDualSenseの機能をそのまま詰め込んでいる。本体とコントローラーが分離しておらず、画面サイズも大きめなのでプレイしやすくなる。

わかりやすい欠点もある。

ネットにつながっていない場所では使えないこと、そして、PS5を持っていないところでは使えないことだ。

そんな特徴を理解した上で、製品を見ていこう。

昨今はデジタル機器も簡素な箱が増えているが、Portalはかなりしっかりしている。内箱を引き出すタグまでついているくらいだ。

Portalの外箱
内箱もしっかりしている。一方で内容物はとてもシンプル。本体と簡易マニュアルの他には、充電用のUSB Type-Cケーブルが入っているだけである
中身はシンプル。本体の他にはUSB Type-Cケーブルが付属するくらい

コントローラー部は本当にDualSenseと全く同じ大きさ。操作感も握り心地もほぼ同じ。若干アナログスティックの高さが異なるかな……と思う程度だ。

Portal本体

コントローラーを左右にくっつけた関係から、「PS」ボタンやタッチパッドは位置が変わる。PSボタンは左側の上になり、タッチパッドは「画面全体」になる。ディスプレイがタッチ対応なのだ。といってもゲーム中自由にタッチが使えるわけではなく、両手の親指が届く部分が「DualSenseのタッチパッドの左側と右側」として認識される。

本体右側。ボタンなどの配置・サイズはDualSenseと同じ
本体左側。「PSボタン」はここに移動している
本体右側を上から。中央部上にあるのはスピーカー用のスロット
本体左側を上から。電源ボタンの隣にあるのは、専用ヘッドフォンを「PS Link」でつなぐためのボタン
本体上部

本体背面には、USB Type-Cの充電端子と、3.5mmのヘッドフォン端子を備えている。

本体背面を下から。黒で見えづらいが、中央にUSB Type-C端子があり、その左に3.5mmヘッドフォン端子がある。配置はDualSenseと同じ

サイズをNintendo Switch(有機ELモデル)やSteam Deckと比較してみよう。ボディの大きさで言えばSteam Deck(2022年出荷開始の液晶モデルで、発表されたばかりの有機ELモデルではない)に近く、Switchよりは二回りほど大きい印象だ。

上からNintendo Switch(有機ELモデル)、Portal、Steam Deck。画面オフの状態だとサイズ感はSteam Deckに近く見える

ただ、ディスプレイをオンにするとちょっと印象も変わる。

Steam Deckはディスプレイが7インチクラスなので、ボディサイズに比べると画面は小さい。Switchとの差も小さく感じる。一方でPortalは画面がグッと大きく、このバランスは悪くない。詳しくは後述するが、PS5向けゲームの視認性は、8インチクラスになるとずいぶん変わる。少なくともスマホよりはだいぶいい。

ディスプレイをオンにしてみた。Portalの画面が大きいのが目立つ

持ってみると、さすがにSwitch(有機ELモデルは約420g)に比べると少し重い。スペック上は520gとなっている。Steam Deckは約670gなので、かなり差はある。

それぞれを片手で持ってみた。Steam Deckはやはり重さをずっしり感じる

これはどの製品にも言えることだが、片手で持つと重さを感じやすいものの、コントローラー部を両手でしっかり持つと、重さを感じづらくなる。コントローラーの形状が手にしっかりと馴染むからだろう。特にPortalは、他の機種以上にコントローラー部が立体形状であり、がっしりと握れる。

設定は「PS ID」で簡単、Wi-Fiは2.4GHzと5GHzに対応

もう少し実際の使い勝手に踏み込んでみよう。

Portalはリモートプレイ専用機なので、まずその設定が必要になる。電源を入れると次のような画面が現れる。まずはWi-Fiに接続、その後はアップデートなどを行なうと、ログイン画面が現れる。

まずWi-Fiを設定
ソフトウェアのアップデートもここで
PlayStation IDでログインし、PS5と連携

要はPlayStation NetworkへアクセスするIDとパスワードを入れればいいだけだ。昔のリモートプレイは設定が面倒だったが、今はPlayStation IDで連携し、「リモートプレイで連携可能な自分のPlayStation」を探して設定してくれるようになっている。ネットワーク環境などを意識する必要はあまりない。もちろん、PS5側でリモートプレイが無効化されているとダメなので、そこは確認しておこう。

事前にスマホの「PlayStationアプリ」をインストールしてログインしておくと、QRコードの読み取りだけですむのでそちらがおすすめだ。

スマホの「PlayStationアプリ」を使うと簡単

設定項目も非常にシンプルだ。ゲーム以外に覚える操作は非常に少ない。

設定項目は非常にシンプルで、ゲーム以外の項目はない

左上にある電源ボタンを押し、その後にPSボタンを押すとPS5へログインし、接続が終わったら「×」ボタンで操作を開始する。あとはリモートプレイなので、PS5の操作と全く同じである。どんな感じかは動画をご覧いただきたい。PS5の世界に入る時はやっぱり「ポータルを開く」ので、お約束のように「火花がぐるぐる」するエフェクトが現れる。

接続時にはまずPSボタンを押す必要がある
PortalからPS5への接続と切断を動画に

接続状態やWi-Fiの切り替えなどの設定をゲーム中に呼び出す場合には、画面右上から指を滑らせて、専用の画面を呼び出す。覚える必要があるのはこのくらいだろうか。

画面の右上からスワイプ動作をすると、Wi-Fi設定や切断のメニューが出てくる

繰り返しになるがPortalにはリモートプレイの機能「しか」ない。OSはAOSP(Android Open Source Project)であることが公開されているが、あくまで専用機器として作られているので、他のアプリは搭載されていない。

また現状、PortalにはBluetoothでのオーディオ接続機能がない。これは少し残念な点だ。おそらくは遅延対策と思われる。

ただし、日本では後日出荷されるSIEのワイヤレスヘッドフォン「PULSE」シリーズとはワイヤレス接続できる。これは、低遅延かつ高音質な「PS Link」という専用の接続方式のみを採用しているためだ。ゲーム関連機器を含め、最近は「2.4GHz帯や5GHz帯を使うオリジナルプロトコル」を使う機器が増えているが、SIEも同様のアプローチを採る。

日本でも後日発売となる「PULSE」シリーズとは無線接続できる

自然で快適な操作性、遅延はゼロではないがコマ落ちは少ない

操作感はどうだろうか?

一言で言えば「かなりいい」。振動も操作感もPS5そのものだ。

画面解像度は最大1,920×1,080ドットで、PS5の4Kからは落ちる。また、色域はかなりちゃんとしているもののHDRではない。この辺はリモートならではの妥協、というところだろうが、ゲームのプレイフィールを大幅に削ぐものではない。「どこでも遊べる」こととのトレードオフである。通信品質に依存するものの、フレームレートは最大60fpsで、コマ落ち感なども少ない。

Portalは基本的に家庭内で使うものだ。PS5とPortalを同じLANの中に配置するのがベスト。PS5はLANに有線で接続することが推奨されている。

スペック上、接続方式は「Wi-Fi」とだけ表記されているが、2.4GHz帯と5GHz帯に対応しており、どちらかを選んで使うことになるようだ。6GHz帯には対応していない。必要な帯域は15Mbps程度とされているので、スペック上問題はない。

どんな感じなのか? 今回はiPhone 15 Pro Maxも用意し、Portalとの違いを動画にしてみた。接続には5GHz帯のWi-Fiを使っていて、PS5の方は有線接続だ。

リモートプレイを使う場合には、PC・スマホなどの対応機器の他に、SIE純正のDualSenseコントローラーが必要になる。だが、スマホ用のコントローラーである「Backbone One」は公式に認証を得ており、DualSenseを使わずともプレイができる。これも比較用に使っている。

テストにも使ったスマホ用コントローラー「Backbone One」

結果は動画の通りだ。通常のプレイの場合、画質はどれも良好。ディスプレイに表示された(すなわちリモートでないPS5の)表示と比較すると若干の遅延はあるのだが、比較対象がなければ違和感はほとんどない。

カプコンの「ストリートファイター6」のトレーニングモードを使って表示遅延を確認。スローにしないと「確かに遅れているが……?」というレベル

毎秒240コマのスロー表示だと、iPhoneでのリモートプレイで8コマ前後(60分の1秒単位で2フレーム)の遅延が見られる。Portalの場合で約10コマ(同じく60分の1秒単位で2コマ半)と、遅延はわずかに伸びている。

専用機器でそれはどうなのか……と思うかもしれない。

だが動画をよく見ると、iPhone側では不可解な「コマのスキップ」が見られる。それに対してPortalはコマのスキップがない。

両者はまったく同じ環境でのテストだ。遅延がごくわずかに増えても、コマ跳びなどがなく違和感が小さいのはPortalの方だ。コントローラーの操作感も、Portalの方がいい。Backbone Oneには「軽い」「汎用機器が使える」という利点があるものの、やはりDualSenseの体験とはちょっと異なる。

自宅外からも「Wi-Fi+インターネット」で接続可能

LAN内で使うなら、前述のように操作は快適だ。

ただ実際には「リモートプレイがつながればいい」。

例えば自宅外からも、公衆Wi-FiやホテルのWi-Fi、スマホのテザリングを使えば接続できる。その場合、どうしても遅延は大きくなるし、画質・音質も回線品質に大きく依存する。前述のように、上り下りそれぞれで15Mbps以上が安定的に出ている環境が望ましい。

テザリングと他のLANからの接続、両方で試してみたが、プレイ自体は問題なくできた。ただ遅延は状況によっては「はっきりわかる」レベル、数分の1秒単位まで広がることがあったので、激しくリアルタイムな反応を求められるゲームには向かない。

専用機ならではの「快適さ」と「コスパ」のジレンマ

Portalでのプレイ感は非常に快適だ。

ただし課題は「リモートプレイ専用」であることにある。

リモートプレイはゲームだけに限定されていて、テレビ視聴アプリ「torne」や映像配信アプリなどの利用はできない。それらのアプリを動かした時は以下のような画面が出る。これは従来からあるリモートプレイの制約だ。

動画配信や音楽再生、torneなどはリモートプレイからは使えない

Portal自体でもリモートプレイだけが動作するので、他の用途にも使えない。サイズも大きいことから映像なども見たくなるが、そこは残念だ。

逆に言えば、8インチディスプレイ搭載を実現しつつ、日本円で29,980円・米ドルで200ドルという低価格を実現するには、「リモートプレイ以外の機能を搭載し、動作を保証する」ことを切り捨てる必要があるのだろう。DualSenseだけでも現在は9,480円で売られており、その分のコストもかかる。性能的にもおそらくギリギリの設定なのだろう。タブレットなどと比較してみると価格イメージもなんとなく見えてくる。

Portalは非常にニッチな製品だが、ニッチだけに価格は抑えて試してもらう必要がある。SIEとしてもバランスに苦慮しつつ「トライ」した製品であると感じる。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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