西田宗千佳のRandomTracking

第558回

「PlayStation Portal」と新ヘッドセットを実機体験。狙いを探る

PlayStation Portal リモートプレーヤー

ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、開発中であった「Project Q」とヘッドセット2製品の詳細を公開した。

Project Qの正式名称は「PlayStation Portal リモートプレーヤー」。価格は2万9,980円(199.99ドル)で、年内発売。近日中に予約を開始する。

ヘッドセット商品は2つある。

1つ目は、5月に公開済みだった、PlayStationブランド初の完全ワイヤレスヘッドセット「PULSE Explore(エクスプロワ)ワイヤレスイヤホン」。価格は2万9,980円(199.99ドル)で、こちらも年内発売だが、予約開始日は未公開。

PULSE Explore(エクスプロワ)ワイヤレスイヤホン

2つ目は新しく発表されたもので、オーバーヘッドタイプの「PULSE Eliteワイヤレスヘッドセット」。価格は1万8,980円(149.99ドル)。こちらは発売日・予約日とも未定だ。

PULSE Eliteワイヤレスヘッドセット

今回いち早く、これらの実機を体験することができた。また、狙いや技術的詳細を開発者に確認しているので、その辺もお伝えしていきたい。

コントローラーも画像も「忠実PS5体験」を目指す「Portal」

まずは「PlayStation Portal」から行こう。冒頭に述べたように、5月の発表時には「Project Q」と呼ばれていたものだ。

PlayStationは、PS3の時代(2006年末)からリモートプレイを実装している。PS5でも同様で、PC・スマホなど多数のデバイスから利用可能だ。

だが、PS5での体験とリモートプレイが同じか、というと結構異なる。

レイテンシーなどが問題なのではない。コントローラーの機能や表示などをすべて再現できるか、というとそうではないからだ。

というわけで「できるだけPS5の体験をそのまま持ち込めるリモートプレイ専用機器」として開発されたのがPlayStation Portalだ。

手に持って遊んでみると、そのことがはっきりわかる。

コントローラー部は、純正コントローラーであるDualSenseそのものと言っていい。振動(ハプティックフィードバック)とアダプティブトリガーの挙動も全くそのままだ。アナログスティックの高さはDualSenseと若干異なるのだが、操作感が違うわけではない。外見通り、「DualSenseの間に8インチディスプレイを搭載した」感覚だ。

PlayStation Portalをさわってみた
PlayStation Portalは、DualSenseの中央に8インチ・1080pのディスプレイが入ったような構造
上から。まさにDualSenseを中央で引き伸ばしたような印象だ
トリガーもDualSenseとまったく同じ

ディスプレイが大きいことも重要である。

コントローラー部もほぼ同じ。スティックは若干高い

リモートプレイのもう1つの欠点は「テレビサイズの画面向けに作られたものを、そのまま使う」ことにあった。スマホでもゲームプレイ自体は快適にできるのだが、画面が小さいと文字やUIも小さくなり、プレイしづらくなる。設定を変えて大きくできるゲームも増えているが、PS5 + テレビでプレイ時とリモートプレイで設定を変えるのも大変だ。

だがPlayStation Portalの場合、ディスプレイサイズが8インチとかなり大きめなので、UIも問題なく読める。解像度は1,920×1,080ドットで、フレームレートは最大60Hz。この部分では「PS5そのまま」とはいかないわけだが、バランス的には良い。

重量など細かなスペックは開示されなかったが、十分に「持ちやすい」「遊びやすい」範囲だと感じた。

充電はUSB Type-Cから行ない、隣には3.5mmのオーディオジャックがある。DualSenseと同じ構造、と考えていい。

Bluetoothでのオーディオ接続には対応しないが、後述の純正ワイヤレスヘッドフォン「PULSE」シリーズとの接続は可能になっている。

電源ボタン(右)の隣に、純正ヘッドフォン「PULSE」シリーズと接続するための専用ボタンがある

ワイヤレスでリモートプレイに特化

すでに述べたように、PlayStation PortalはPS5とリモートプレイで接続し、遊ぶための機器だ。

接続は基本的にWi-Fiで行ない、自宅内のPS5と接続することを前提とする。

携帯電話網につなぐためのSIMスロットやeSIMには対応していないが、テザリングや公衆Wi-Fiなどを使って屋外から自宅のPS5に接続することは可能だ。ただしその場合には、現状のリモートプレイと同じく、通信環境や設定によって「つながらない」こともある点にご留意願いたい。

試遊は5GHzのWi-Fiで接続している状態で行なったが、非常に快適だった。レイテンシーはゼロではないと思うのだが、顕著ではない。この辺も、今のリモートプレイ環境とほぼ同じ。技術的にも「変更が加えられているわけではない」(SIE担当者)そうで、当然同じになるわけだ。

ただし、PlayStation Portal自体が「リモートプレイをする」ことだけに特化しているので、スマホなどでの動作に比べ品質が安定しているところはありそうだ。

Androidで動いているが「リモプ専用」、価格もギリギリまで下げる

PlayStation Portalはリモートプレイ以外の機能を持たない。今回は起動画面などが開示されてないので正確なところは不明だが、スマホやPCでリモートプレイを始めるのとは異なり、「非常にシンプルに」(SIE担当者)リモートプレイを始められるという。

PlayStation Portal自体は、コアOSとして「AOSP」を使っている。AOSPとは「Android オープンソース プロジェクト」の略。だからPlayStation PortalはAndroidで動いていることになる。

しかしこのことは、「スマホのようにアプリを追加できる」ことを意味しない。将来のことについてSIEはコメントしなかったが、基本的には「リモートプレイ以外に対応するつもりはない」と考えていい。だから、PlayStation Portalは「携帯ゲーム機」ではなく、あくまで「PS5の周辺機器」ということになる。

そうなると、なぜわざわざ「リモートプレイにしか対応しない機器」を作ったのか……という疑問を持つ人もいそうだ。

その答えは、SIE的には「PS5のリモートプレイをそのまま体験できるものを作るため」ということなのだろう。スマホやPCにコントローラーをつなぐのは煩雑だし、体験もイコールにはならない。

たしかに、「リモートプレイ専用機」のニーズはニッチだろう。

だが逆に言えば「ギリギリまで値段を下げた公式周辺機器」として世に出せるなら、そういう市場もアリ、という時代になったということでもあるだろう。ポータブルゲーミングPCやAndroidベースのポータブルゲーム機も、ニッチではあるが無視できない市場になってきている。

リモートプレイ専用機ならポータブルゲーム・プラットフォームを立ち上げるよりはるかに低いコストで展開できるから、SIEとして勝算あり、と考えたのだろう。

スマホでプレイする人は今後もいるだろうし、それが多数派だろうが、もっと快適にリモートプレイを使いたい人向けに「自社で最適な製品を売る」ことに決めたわけだ。

だから、PlayStation Portalは「199ドル」なのだと認識している。多くの人はもっと高いと予想したのではないだろうか。円安傾向の中、日本での2万9,980円という価格もギリギリまでがんばった価格だろうとは思う。

ヘッドセット「PULSE」をリニューアル、ロスレス対応に

さて、同時に公開されたヘッドセット製品はどうだろうか?

完全ワイヤレス型「PULSE Explore」とオーバーヘッドタイプの「PULSE Elite」

冒頭でも紹介したように、発売されるのは完全ワイヤレス型の「PULSE Explore」と、オーバーヘッドタイプの「PULSE Elite」。形状は異なるが、同じような特徴を持つ。

完全ワイヤレス型の「PULSE Explore」
オーバーヘッドタイプの「PULSE Elite」

SIEはPlayStationの純正ヘッドセットを「PULSE」ブランドで展開しているが、今回の2製品はそれをリニューアルする存在になる。

共通の特徴は3つある。

1つは、新しい独自のロスレスワイヤレス接続技術である「PlayStation Link」を採用したことだ。

これは、PS5などに専用のUSBドングルをつけ、ヘッドセットと無線通信する規格。Bluetoothに比べ遅延が少なく、16bit/48kHzでのロスレス接続に対応する。当然ながら、PS5の3Dオーディオ技術「Tempest 3Dオーディオ」にも対応する。

PlayStation Link用のUSBドングル。PS5はもちろん、PCやMacでも利用可能

PlayStation Portalは前述の通りBluetoothには対応しないものの、PlayStation Linkには対応しており、専用ボタンを押すだけで繋がる。

さらに、新PULSEは、2機種とも、PlayStation LinkとBluetoothの同時待受・同時受信に対応している。スマホなどとはBluetoothで接続し、そちらでの通話やボイスチャットを流しつつ、PS5などでのゲームの音はPlayStation Linkで……という使い方もできるわけだ。

なお、USBドングルはPS5の他、PCやMacに接続して使うこともできる。インターフェースはUSB Type-A。USBドングル自体の単体販売も予定しており、PS5とPCで使い分けることも可能だ。

PCやスマホとの連携も可能。PlayStation LinkとBluetoothの同時待受・同時受信ができる

こうした仕様はハイエンドなゲーミングワイヤレスヘッドセットに多いが、新PULSEもそれに倣った格好である。

プレーナーマグネティックドライバー採用、マイクはAIでノイキャン

2つ目の特徴が「音質」だ。

新PULSEは、どちらの機種も、独自設計の「プレーナーマグネティックドライバー」を採用している。

プレーナー(planar。オーディオ系記事ではプラナーと表記される場合も多い)とは、平たい板状のドライバーユニットのこと。新PULSEで採用しているのは磁気を使って振動させるものであり、マグネットで振動板をサンドイッチしているような構造になる。

形状や構造によって音質は変わるが、一般論としては、歪みが少なく、急峻な立ち上がりの音に強いとされている。

短時間聴いてみた範囲だが、音質はどちらも好ましい。音楽用というより、ゲーム向けに、定位や広がりをはっきり感じさせるもの、と言っていいだろう。

過去のPULSEは、正直音質が今ひとつだと思っていた。新PULSEは短時間の試聴だったが、より好ましい音質だった。

3つ目の特徴は、マイクに「AIノイズリダクション」が採用されていることだ。

AIノイズリダクションとは、マイクから入ってきた音のうち、声以外の成分を分離して小さくする機構のこと。例えばキーのタイプ音や、スナック菓子の袋に手を突っ込んだ時のノイズなどが、ほとんど感じられないくらいに小さくなる。

この種の機能はPCにソフトとして組み込まれることが多いが、ヘッドフォンへの搭載も増えている。ソニー製品としては「LinkBuds」や「WF-1000XM5」などが内蔵している。

音声にも補正がかかって声が歪みやすいというトレードオフがあるのだが、新PULSEの場合、短時間の印象ではあるが、あまり声は劣化していないように感じる。

実は小技も色々、高コスパなゲーム向け

オーディオ品質面・機能面での強化が目立つが、細かな使い勝手面での工夫も見られる。

完全ワイヤレス型の「PULSE Explore」は、90度前の方に倒れている感じで耳に挿入し、縦に回して固定する。少し慣れが必要な着け方だが、長時間使っても負担が小さい装着方法を考えた上でのことだという。イヤーピースはサイズごとに4種類が付属する。

PULSE Explore
充電用のケースが付属
着けてプレイ中。前から捻って垂直に入れる感じで装着

オーバーヘッド型の「PULSE Elite」は、耳当てが非常に柔らかくなっており、つけ続けた時の負担がかなり小さくなっている。

つけ心地はかなり良く、長時間使えそうだ

マイク部は引き出して口元まで伸ばすこともできる。また、ミュートボタンはマイク部に取り付けられている。

マイク部は口元まで伸ばせる

面白いのは充電方法だ。

USB Type-Cケーブルを直接つないでも大丈夫なのだが、付属の「チャージングハンガー」を使い、「かけておくだけで充電」もできる。チャージングハンガーには接点が内蔵されていて、ヘッドセット頭頂部にある接点を介して充電できるわけだ。USB Type-Cの電源は、チャージングハンガー側につながる。

チャージングハンガーで、ケーブルを本体に繋がず充電

チャージングハンガーは机や壁、ディスプレイなどに引っ掛けられる構造になっているので、自分の好みに合わせて取り付ける。

好きな場所にチャージングハンガーをつけて使う

チャージングハンガーの「取り付け部」の3Dデータが公開される予定もあり、3Dプリンターで、より自分の環境に合った固定部を作れるようにもなるという。

どちらも安価な製品ではないが、「ハイエンドゲーミングヘッドセット」としてはかなりコストパフォーマンスが良いように思う。PS5向けではあるが、USBドングルは多くの製品で使えるので、「高コスパ」として注目しておいて損はない。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、GetNavi、デジモノステーションなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。
 近著に、「顧客を売り場へ直送する」「漂流するソニーのDNAプレイステーションで世界と戦った男たち」(講談社)、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「ソニーとアップル」(朝日新聞出版)、「スマートテレビ」(KADOKAWA)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Twitterは@mnishi41