西田宗千佳のRandomTracking
第595回
iPhone 16について「AV的に」知っておきたい5つのこと
2024年9月13日 15:06
iPhone 16シリーズはApple Intelligenceのために作られたiPhone、とされている。
もちろんそのことはとても大切だ。とはいうものの、日本語では「2025年提供」とちょっと先だ。
では、Apple Intelligence以外に面白い点がないかというと、そんなことはない。
ここでは特に、発表後の取材で得られた「AV的(撮影・録音含む)に興味深い機能」をまとめておきたい。
その1:強化された「フォトグラフスタイル」
今回のカメラ機能では「フォトグラフスタイル」に注目だ。
この機能自体は2021年発売の「iPhone 13シリーズ」からあるもので、iOS 18やiPhone 16から登場するものではない。
簡単に言えば写真の色味を変える機能なのだが、単純に変えているわけではなく、顔や背景などを認識し、その上でスキントーンを考慮して自然な変更を加えている。
この機能がiPhone 16・16 Proの両方で大きく改良される。
これまでのフォトグラフスタイルは、スタイルを「決められたパターンの中で選ぶ」ものだった。しかも、変えられるのは撮影中だけで、撮影後の変更はできない。
しかしiPhone 16に搭載された機能では、選んだスタイルからさらに調整ができる。調整した内容はそのまま残るので、別の撮影時に呼び出し、適応することもできる。
撮影後の適応・編集も可能だ。しかも、この変更は「非破壊」。撮影時の情報は残したままフォトグラフスタイルを適用するため、いくら変更しても問題ない。
撮影後の編集については、MacやiPadの「写真」アプリにも搭載されるので、より大きい画面で編集することも可能だ。
その2:「Pro」のポイントは4K/120fps
iPhone 16と16 Proを分けるものとして、カメラ性能がある。センサーの数や光学ズームが特徴的だが、それ以外の点として今回特に注目しておきたいのは「4K・120fps」撮影だ。
読んで字の如く、毎秒120コマの動画撮影が可能になるものだが、撮影可能なのはiPhone 16 Proシリーズの方で、iPhone 16シリーズは60fpsまでだ。
120fpsになるとなめらかな動きの動画が撮影できるのはもちろんだが、速度を変えることでスローモーション表現が豊かになることも大きい。アップルが発表会でアピールしたのもその方向性だ。
撮影後の動画を編集する際、再生速度を変えるUIが変更になり、「撮影時の何%で再生するのか」という指定になった。こちらの方がわかりやすい。
一方、4K・120fpsとなるとデータ量は多くなる。そういう撮影をする場合には、iPhone 16 Proに外付けSSDをつけ、そこに保存するのが一般的になっていきそうだ。60fpsの時以上に需要が多くなるのだろうな……と予測している。
こうした使い方をするとUSB 3接続であることが重要になるわけだが、USB 3に対応しているのは今回もProシリーズのみ。案外この辺の用途の違いが、アップルの考える「USB 2か3か」問題の切り分けなのかもしれない。
その3:iPhoneだけで「空間オーディオ付きビデオ」を撮影
動画向けの機能という意味で個人的にも興味があるのが「オーディオミックス」機能だ。
これは、オーディオ付きでビデオ撮影をしたのち、「録音された空間オーディオのミックスを変える」もの。iPhoneには4つのマイクがあるが、それらで空間オーディオの収録を行なう。
取得した音は「撮影した映像を機械学習して得られた、人物の配置など」をベースに空間配置される。だからこの機能は音声だけの収録では機能しない。映像があってこその機能なのだ。ボイスメモアプリで空間オーディオを録音できても良さそうに思えるが、現状では対応していない。
音声は「写真」アプリから編集時に「オーディオミックス」を選ぶことで、音の聞こえ方を変えられる。
例えば「フレーム」はフレーム内にいる人の声だけにフォーカスし、「スタジオ」はマイク録音したような印象を与え、「シネマティック」は映画っぽく、周囲の音声をスクリーンの手前側に強調する。
これらは「空間オーディオ」なので、AirPods Proなどの空間オーディオ対応ヘッドフォンで聞くとより効果が高く感じられるという。
動画ファイルには互換性の高いステレオ音声と同時に、新しい空間オーディオ・コーデックである「Apple Positional Audio Codec(APAC)」が記録される。オーディオミックスで使う音声はこちらの方だ。書き出しをすれば他のプラットフォームなどでも聞ける、汎用的なビデオになる。
「写真」アプリでの変更は、フォトグラフスタイル同様に「非破壊」。なので、オーディオミックスは何度でも変更できるし、撮影時の状況に戻すことも可能だ。
その4:ミュージシャン歓喜の「ボイスメモでマルチトラック収録」
録音に使われる「ボイスメモ」アプリも強化される。
ボイスメモというとまさに「メモ」と思いがちだが、意外なほどアーティストが音楽を作るのに使っている。思いついたフレーズを鼻歌などで録音しておくのに便利だからだ。
iPhone 16向けのボイスメモで強化されるのは、2つの音声トラックを持つ機能。いわゆるマルチトラックレコーディングだ。
1つはステレオトラックで、もう1つはモノラル。モノラルトラックは主にボーカルの収録に使う。
ボイスメモの中での編集もできるが、今後ソフトウエアアップデートにて、Mac上で動作するオーディオ編集ソフトである「Logic Pro」に書き出し、編集・マスタリングができるという。
なお、音楽以外の機能としては、音声書き起こしがある。ただしこちら、現状では英語のみ。アメリカ英語でApple Intelligenceが搭載されると、さらに要約が可能になる。日本語でApple Intelligenceが使えるようになる頃には、日本語での書き起こしにも対応してほしいのだが……。
その5:「カメラコントロール」はサードパーティーアプリでも
iPhone 16で新たに追加されるのが、カメラ操作用の「カメラコントロール」。シャッター操作のほかに、ズームや撮影設定切り替えにも使える。前出の「フォトグラフスタイル」切り替えにも有用だ。
指をすべらせて操作するのだが、これは「スワイプ」ではなく「スライド」。あくまで左右に動かすことで、スマホの画面を指で操作するのとは少し違うから……という話のようだ。
なお、カメラコントロールはアップルだけが使える閉じた機能というわけではなく、デベロッパーにAPIが公開されるという。
すでにBlackmagicが「Blackmagic Camera」をカメラコントロールに対応すべく作業中だそうで、ルック変更などのBlackmagic Cameraらしい機能がカメラコントロールから行なえるという。
なお、アップルの純正ケースは、カメラコントロールが使いやすいよう、その部分にサファイアガラスを入れ、タッチセンサーが問題なく動くようになっている。だからその部分に穴がない。
サードパーティーのケースはいまのところ「カメラコントロールのところに穴が空いている」形が多いようだ。両者は操作性が変わってくる可能性が高く、少々留意が必要そうだ。