西田宗千佳のRandomTracking
第597回
iPhone 16シリーズ4機種をチェック。実機で分かったカメラの価値とは
2024年9月18日 21:00
iPhone 16シリーズ4機種のレビューをお届けする。今年のiPhoneについて、アップルは「Apple Intelligenceを前提にした新しい世代のiPhone」としている。我々が選ぶときにも、2025年にやってくる「日本語対応Apple Intelligence」が動くことを念頭に置かざるを得ない。
とはいうものの、2025年まではまだずいぶん時間がある。iPhone 16を買う意味がApple Intelligenceだけと考えるのはもったいない。
iPhone 16はカメラなど、いろいろな部分に特徴的な進化が見られる。そして、スタンダードモデルにはスタンダードモデルの、ProモデルにはProモデルの価値がある。
一部の情報はすでに記事化しているのだが、それがどんな使い勝手なのか、実機を使って色々試している。
過去のiPhoneとどう違うのか、16シリーズと16 Proシリーズの間にどんな差があるかを見ていこう。
16 Pro Maxは大型化、全機種空間ビデオ対応
まずシンプルな話、外観から行こう。
筆者は普段iPhone 15 Pro Maxを使っている。これを含め、写真でお見せしたい。
パッケージは近年アップルが採用している「紙パッケージ」。中には本体とUSB-Cケーブル(USB 2.0仕様)のみが付属しており、アップルロゴのシールはなくなった。
iPhone 16と16 Plus、16 Proと16 Pro Maxのサイズ感の違いは似たような印象だ。iPhone 16 Pro系の方が画面は大きいので、画面の縁はProの方が狭くなっている。
iPhone 15と16はほとんどサイズに変更はないものの、iPhone 15 Pro Maxと16 Pro Maxでは、若干サイズが大型化している。ディスプレイも0.2インチ大きくなった。
それぞれ単体で見ると気付かない程度の差ではあるのだが、並べてみると意外と差がある。ケースやフィルムなどの互換性も失われているので、気をつけてほしい。
アメリカモデルはSIMカードスロットがないが、日本モデルは今回もSIMカードスロットが存続している。
左側の音量ボタンの上には、どのモデルにも「アクションボタン」がある。そして、右側下方には「カメラコントロール」が増えた。カメラコントロールはサファイアガラスで覆われており、ボタンではあるが出っ張りはない。
なお、カメラの出っ張りの高さに大きな変化はない。iPhone 16 Proは配列にも変化がないが、iPhone 16・16 Plusは2つのカメラが並ぶ形に変わっている。この結果、ProシリーズだけでなくiPhone 16シリーズでも「空間ビデオ」「空間フォト」の撮影が可能になっている。
カメラコントロールと空間ビデオ・空間フォト対応の話は、また後ほど詳しく述べる。
AI性能は4機種とも同じ、進化ポイントは「放熱」か
iPhone 16シリーズの性能はどう変わったのだろうか? これはベンチマークソフトの結果を見るのがわかりやすい。
今年は「底上げの年」であるように思う。
Geekbench 6などの結果を見るに、処理速度自体は上がっているもののそこまで大幅なものではない。だが、スタンダードモデルであるiPhone 16については、昨年モデルであるiPhone 15のプロセッサー性能が高くはなかったため、グッと高速化した印象が強い。
GPUについてはiPhone 16 Proシリーズの方が速いが、これはある意味当然。ゲームを快適に遊びたいならProシリーズを選んだ方が良い、ということでもある。
Apple Intelligenceの基盤となるAI推論処理をする「Neural Engine」の処理能力は、iPhone 15 Pro Maxに搭載されている「A17 Pro」から、「A18」「A18 Pro」になってグッと向上している。ただし、A18とA18 Proでの差はほとんどない。すなわち、Apple Intelligenceを使うなら、iPhone 16と16 Proの差はあまりないだろう……と推測できる。
むしろ、テストしてみて感じたのは「発熱・放熱」の状況だ。
以下の画像はスマホ接続型サーモグラフィ「FLIR」で撮影したもの。3D Markでのベンチマークを行なう前・最中、そして終了4分後のものである。室温は25度でテストしている。
iPhone 15 Pro Maxは一部が強く発熱しているが、iPhone 16 Pro Maxは発熱の度合いが少し低く、全体に拡散している。しかも、テスト終了後には速やかに温度が下がっている。処理負荷の低いiPhone 16はさらに下がっている。
iPhone 16シリーズは半導体製造プロセスが進化し、消費電力や発熱が下がっている。さらに熱拡散技術の導入もアピールしている。サーモグラフの様子からは、そういう部分での進化が読み取れる。
進化点はカメラの「機能」に集中
Apple Intelligenceに向けた要素を除くと、iPhone 16シリーズの進化点は意外なほど「カメラ」に集中している。
それはなにもカメラの画質が上がった、という話だけではない。むしろそれ以外の要素、カメラのユーザーインターフェースや編集機能などの方が充実している。スマホの差別化点がカメラになって久しいが、今回のiPhoneはちょっと様相が異なる。
先に画質の話をしておこう。
【編集部注】写真のHEIF形式データは、以下よりダウンロードできます
撮影サンプル元データ:newsource.zip(44.00MB)
明るく条件が良いシーンでは良い写真が撮れる。これは以前から変わらない。iPhone 16では暗いシーンなどでの画質が改善した印象だ。
iPhone 15の時は「Proは光学3倍、Pro Maxは光学5倍」だったが、iPhone 16ではPro・Pro Maxともに光学5倍になっている。サイズだけを考慮して選べば良くなったので、この点は朗報だ。
特にiPhone 16 Proシリーズは、超望遠での暗所性能改善が大きい。
さらに面白いのは、ついに「レンズゴーストへの対策」が始まったことだ。
スマホでは小さなレンズを組み合わせて光学系を作る。するとレンズの間で光が反射し、本来は存在しない光が写真に写ることがある。これが「レンズゴースト」。サイズの大きなレンズでは対策がしやすいし、レンズにコーティングなどをして低減を図ることもできる。
iPhoneは伝統的になぜかレンズゴーストが他のスマホより目立ちやすかった。筆者はこれがずっと気になっていたのだが、iPhone 16 Proではここに改善が加えられたようだ。
派手にレンズゴーストが出る場所で撮影して見ると、iPhone 16 Proでは他モデルに対してかなり出づらくなっているのが確認できた。完全に出なくなるわけではないが、改善されているのは間違いない。
なお、レンズゴーストの低減は16 Proと16 Pro Maxにのみ搭載されており、16と16 Plusではこれまで通りとなっている。
Proの強みは4K・120fps動画
iPhone 16 Proシリーズのメリットとしては、「4K/120fpsでの動画撮影」が挙げられる。従来は4K/60fpsまでだったが、今回は倍になった。
iPhone 16 Proシリーズは120Hz駆動のディスプレイを採用しているので、動きが滑らかに見える。
ただ効果としては、一部をスロー再生した時の「ドラマチック感」がより高まることが大きい。
HD(1,920×1,080)であれば毎秒240fpsで撮影できたが、今回は4K/120fpsも追加された。これだと通常の動画の感覚で撮影し、再生速度を変えることで「一部をスローにした」感覚のビデオを作れる。
以下のサンプルを見ていただくとわかりやすいだろう。
当然、これを撮影するとデータサイズがどんどん大きくなる。実撮影データのサイズは、1分あたり340MB。HEVCでの撮影でこれなので、本格的に撮影するなら、iPhoneに外部ストレージを接続した方が良さそうだ。
iPhone 16 ProシリーズはインターフェースがUSB 3.2に対応している。それに対し、4K・120fps撮影に対応していないiPhone 16シリーズはUSB 2.0までだ。Apple ProResでの撮影も考えると、外部ストレージは必須。インターフェースの選択は、この辺の事情で決まっているのかもしれない。
カメラコントロールは大きな飛躍
カメラ機能については、意外と「16と16 Proで共通」の部分も多い。
カメラコントロールはその典型例だ。
カメラコントロールは、機能としては「シャッターボタン」に近い。そうしたボタンを備えたスマホは他にもある。
ただ、カメラコントロールの役割はより複雑で、単なる押しボタンではない。
構造も複雑だ。単にボタンなのではなく、表面はタッチセンサーになっている。出っ張りはなく押し込む幅はとても狭いのだが、振動による錯覚と組み合わせることで、「深く押し込む」「半押し」感覚の両方が表現されている。
写真を撮るときは被写体に集中しやすい方がいい。そのため、一眼カメラなどは操作系を「シャッターの周り」に寄せている。カメラコントロールは、スマホでこれを実現するために生まれたのだろう。
シャッターは「押し込み」で再現されているが、左右にスライドすることで「ズーム」「露出変更」などが行なえる。設定切り替えは「軽く2回押し」だ。
正直最初はかなり戸惑った。シャッターを切る分には問題ないのだが、メニューを切り替える「軽く2回タップする」操作にも、左右に滑らせる操作にも慣れは必要だ。
コツはシンプルなことだった。
ズームや露出変更などを行なう場合には、指を左右に滑らせるのだが、「じわじわと動かす」操作と「サッと滑らせる」操作では意味するところが異なっている。
例えばズームの場合だと、サッと滑らせると「0.5倍」「2倍」などの光学ズームが効くキリのいいところへ動く。中間で止めたい時にはじわじわ動かす。タッチパッド的な操作ではなくあくまで「スライド」だと思うと理解しやすい。
ちょっと奇妙なのは、現状では一眼カメラなどでいう「半押しによるフォーカス・AEの固定」機能は搭載されていないことだ。これはやはりないと違和感が強い。
しかし「半押しでのフォーカス固定」は、年内にはアップデートで搭載されるという。組み込まれれば操作への違和感ももっと小さくなるだろう。
カメラコントロールを活かすには「ケース」にも注意
カメラコントロールについて、1つ注意が必要な点もある。ケースの対応に注意が必要なのだ。
カメラコントロールをボタンとして捉えると、ケースには「穴」を開けたくなる。そのためか、本体発売よりも先に発売されているサードパーティー製のケースの多くが、カメラコントロール部に穴を開けて対処している。
これでも操作はできるのだが、穴の形状によって操作感が変わってくる。
今回、iPhone 16発売前から出荷されているものを2つほど購入してみた。
案の定、「穴」だとちょっと使いづらい。もちろん操作はできるのだが、穴の形状によっては指を滑らせづらいし、より深く押し込まねばならないので違和感が大きい。
アップル純正のケースには穴がない。カメラコントロールの部分にサファイアグラスが埋め込まれていて、スライド操作を伝えるようになっている。こういう形式だと、ケースなしで使う時と同様の使いやすさが維持される。
価格なども変わってくるので「穴はダメ」と断言はしないが、「穴が開いたものより、そうでないものの方が操作性はいい」のは間違いない。
フォトグラフスタイルなどの「非破壊編集」が強化
今回、iPhoneのカメラ機能では「非破壊編集」的な機能が増えている。
まず「フォトグラフスタイル」。以前からある機能だが、位置付けは完全に変化している。
これまでは撮影時に色味を変えるもので、撮影後の変更ができなかった。また、色味を細かくカスタマイズすることもできなかった。
しかし新しいフォトグラフスタイルでは、色味を細かく自分で変更可能になっただけでなく、「色味を撮影後に自由に変える」こともできる。タッチパッド的なUIで色を変えられるのは面白い。
ここで写真の色味を変えても、データ自体は変わらない。以前のモデルからは写真のデータを表示するパイプライン自体が変更になっており、それを使って「写真に付属するデータで写真の色味を変えて表示する」わけだ。だから写真のデータ自体は変更されておらず、何回でも色味を変えられる。
ただし、この変更自体はアップル純正の「写真」アプリの中だけで変更が可能なものとなっている。iPhoneでの写真撮影の幅を広げてくれるものではあるが、他の環境で編集できるわけではない。
もう一つの「非破壊編集」が「オーディオミックス」だ。
iPhone 16では本体に組み込まれた4つのマイクを使い、ビデオ撮影時に音声を「空間オーディオ」的に収録する。iPhoneのスピーカーで聴いてもよくわからないが、空間オーディオに対応したAirPodsなどで聞くと、音の位置がよりリアルに記録されているのが感じられる。
この時の音は、ビデオの中で人がどこにいるか、ということを加味して再生される。映像があることを前提にした空間オーディオ、と言ってもいい。
ビデオには互換性維持のためのステレオ音声と、「Apple Positional Audio Codec(APAC)」という新しい形式による空間オーディオがセットで記録される。
APACコーデックを使った場合、音の配置は調整が可能だ。
フレーム内に音を収める「フレーム」、スタジオ内でマイクを使って声を収録した場合に近い「スタジオ」、映画的に全体の音が自分の前に集まったように聞こえる「シネマティック」の3パターンが用意され、それぞれで微調整をかけられる。
この変更は「写真」アプリ内で行なう場合「非破壊」で、何回調整してもいい。
ただ、外付けマイクでの収録が不要になる性質のものではない。ノイズ除去なども行なわれる関係で、声が劣化してしまうこともあった。特に屋外で収録したものは注意が必要だ。
空間ビデオに加え「空間フォト」にも対応
iPhone 16シリーズでは「空間ビデオ」「空間フォト」の対応が強化されている。
空間ビデオはiPhone 15 Pro Maxで撮影可能になったもので、簡単に言えば「右目と左目用の映像を1パックにして撮影したもの」だ。Apple Vision ProやXREAL Airなどのサングラス型ディスプレイなどで視聴できる。
意外なことと思われそうだが、iPhone 15 Pro Maxでは「空間ビデオ」は撮影できるのに「空間フォト」は撮影できなかった。
しかし今回、iPhone 16では機能が拡充され、空間フォトと空間ビデオの両方が撮影できるようになっている。
以前はカメラアプリの「ビデオ」の中でアイコンを押すと空間ビデオ撮影になる、という形式だった。だがiPhone 16からは、カメラアプリの撮影項目の中に、ビデオや写真と同じように「空間」という項目ができる。ここに切り替えることで、空間ビデオ・空間フォトの撮影ができる。
【編集部注】空間ビデオのMOV、HEIF形式データは、以下よりダウンロードできます
撮影サンプル元データ:newsample3d.zip(21.60MB)
この機能はiPhone 15 Pro Maxには提供されず、iPhone 16シリーズでのみ利用可能だ。
冒頭で述べたようにiPhone 16・Plusもカメラの配列が変わったため、全機種で空間ビデオ・空間フォトの撮影が可能だ。
以下に撮影したデータを用意しておくので、見られる環境のある方はダウンロードしてご覧いただきたい。
結局選択のポイントは「カメラ」に
このように、iPhone 16シリーズの価値は驚くほど「カメラ」にある。カメラの画質を活かすならProシリーズの方が良いのは間違い無いだろう。
一方、ズームや120fpsでの撮影に興味がないなら、新しい要素の多くはiPhone 16でも十分に楽しめる。
今回は多くの人にとって「iPhone 16がお買い得」だと感じるが、それはApple Intelligenceとカメラ関連、両方で言えることである。
Apple Intelligence狙いなら値下がりしたiPhone 15 Proを……という選択もあるが、新しいカメラ関連の機能がもったいない。
そういう意味でも、今回はiPhone 16もしくは16 Plusを選ぶのがおすすめ、ということになりそうだ。