西田宗千佳のRandomTracking

第597回

iPhone 16シリーズ4機種をチェック。実機で分かったカメラの価値とは

iPhone 16 Plus(ピンク)と16(ウルトラマリン)

iPhone 16シリーズ4機種のレビューをお届けする。今年のiPhoneについて、アップルは「Apple Intelligenceを前提にした新しい世代のiPhone」としている。我々が選ぶときにも、2025年にやってくる「日本語対応Apple Intelligence」が動くことを念頭に置かざるを得ない。

iPhone 16 Proと16 Pro Max。カラーはどちらもデザートチタニウム

とはいうものの、2025年まではまだずいぶん時間がある。iPhone 16を買う意味がApple Intelligenceだけと考えるのはもったいない。

iPhone 16はカメラなど、いろいろな部分に特徴的な進化が見られる。そして、スタンダードモデルにはスタンダードモデルの、ProモデルにはProモデルの価値がある。

一部の情報はすでに記事化しているのだが、それがどんな使い勝手なのか、実機を使って色々試している。

過去のiPhoneとどう違うのか、16シリーズと16 Proシリーズの間にどんな差があるかを見ていこう。

16 Pro Maxは大型化、全機種空間ビデオ対応

まずシンプルな話、外観から行こう。

筆者は普段iPhone 15 Pro Maxを使っている。これを含め、写真でお見せしたい。

パッケージは近年アップルが採用している「紙パッケージ」。中には本体とUSB-Cケーブル(USB 2.0仕様)のみが付属しており、アップルロゴのシールはなくなった。

16(左)と16 Pro(右)のパッケージ
16 Proシリーズのパッケージ
16シリーズのパッケージ
iPhone 16 Plusのパッケージの中身。他の3機種も入っているものは同じだ

iPhone 16と16 Plus、16 Proと16 Pro Maxのサイズ感の違いは似たような印象だ。iPhone 16 Pro系の方が画面は大きいので、画面の縁はProの方が狭くなっている。

左がiPhone 16 Plus、右が16
左がiPhone 16 Pro、右が16 Pro Max
iPhone 16(左)と16 Pro(右)を比較すると、縁はProの方が狭い

iPhone 15と16はほとんどサイズに変更はないものの、iPhone 15 Pro Maxと16 Pro Maxでは、若干サイズが大型化している。ディスプレイも0.2インチ大きくなった。

それぞれ単体で見ると気付かない程度の差ではあるのだが、並べてみると意外と差がある。ケースやフィルムなどの互換性も失われているので、気をつけてほしい。

iPhone 15 Pro Max(左)と16 Pro Max(右)を比較
16 Pro Max(左)と15 Pro Max(右)を立てて比較すると高さの変化がわかりやすい
16 Pro Max(左)と15 Pro Max(右)の画面サイズを見ると、16 Pro Maxの方が少し大きい

アメリカモデルはSIMカードスロットがないが、日本モデルは今回もSIMカードスロットが存続している。

左側面。SIMカードスロットは存続し、アクションボタンも全機種にある

左側の音量ボタンの上には、どのモデルにも「アクションボタン」がある。そして、右側下方には「カメラコントロール」が増えた。カメラコントロールはサファイアガラスで覆われており、ボタンではあるが出っ張りはない。

本体右側には「カメラコントロール」が増えた

なお、カメラの出っ張りの高さに大きな変化はない。iPhone 16 Proは配列にも変化がないが、iPhone 16・16 Plusは2つのカメラが並ぶ形に変わっている。この結果、ProシリーズだけでなくiPhone 16シリーズでも「空間ビデオ」「空間フォト」の撮影が可能になっている。

カメラコントロールと空間ビデオ・空間フォト対応の話は、また後ほど詳しく述べる。

カメラ部。iPhone 16、16 Proは縦に並ぶ形になり、空間ビデオ対応に

AI性能は4機種とも同じ、進化ポイントは「放熱」か

iPhone 16シリーズの性能はどう変わったのだろうか? これはベンチマークソフトの結果を見るのがわかりやすい。

今年は「底上げの年」であるように思う。

Geekbench 6などの結果を見るに、処理速度自体は上がっているもののそこまで大幅なものではない。だが、スタンダードモデルであるiPhone 16については、昨年モデルであるiPhone 15のプロセッサー性能が高くはなかったため、グッと高速化した印象が強い。

GPUについてはiPhone 16 Proシリーズの方が速いが、これはある意味当然。ゲームを快適に遊びたいならProシリーズを選んだ方が良い、ということでもある。

Apple Intelligenceの基盤となるAI推論処理をする「Neural Engine」の処理能力は、iPhone 15 Pro Maxに搭載されている「A17 Pro」から、「A18」「A18 Pro」になってグッと向上している。ただし、A18とA18 Proでの差はほとんどない。すなわち、Apple Intelligenceを使うなら、iPhone 16と16 Proの差はあまりないだろう……と推測できる。

むしろ、テストしてみて感じたのは「発熱・放熱」の状況だ。

以下の画像はスマホ接続型サーモグラフィ「FLIR」で撮影したもの。3D Markでのベンチマークを行なう前・最中、そして終了4分後のものである。室温は25度でテストしている。

テスト前。写真左からiPhone 15 Pro Max、iPhone 16 Pro Max、iPhone 16
テスト中
テスト後。発熱と放熱の状況が見えてくる

iPhone 15 Pro Maxは一部が強く発熱しているが、iPhone 16 Pro Maxは発熱の度合いが少し低く、全体に拡散している。しかも、テスト終了後には速やかに温度が下がっている。処理負荷の低いiPhone 16はさらに下がっている。

iPhone 16シリーズは半導体製造プロセスが進化し、消費電力や発熱が下がっている。さらに熱拡散技術の導入もアピールしている。サーモグラフの様子からは、そういう部分での進化が読み取れる。

進化点はカメラの「機能」に集中

Apple Intelligenceに向けた要素を除くと、iPhone 16シリーズの進化点は意外なほど「カメラ」に集中している。

それはなにもカメラの画質が上がった、という話だけではない。むしろそれ以外の要素、カメラのユーザーインターフェースや編集機能などの方が充実している。スマホの差別化点がカメラになって久しいが、今回のiPhoneはちょっと様相が異なる。

先に画質の話をしておこう。

iPhone 16 Pro Max
iPhone 15 Pro Max
iPhone 16 Pro
iPhone 16 Plus
iPhone 16
iPhone 16 Pro Max
iPhone 15 Pro Max
iPhone 16 Pro
iPhone 16 Plus
iPhone 16
iPhone 16 Pro Max
iPhone 15 Pro Max
iPhone 16 Pro
iPhone 16 Plus
iPhone 16

【編集部注】写真のHEIF形式データは、以下よりダウンロードできます
撮影サンプル元データ:newsource.zip(44.00MB)

明るく条件が良いシーンでは良い写真が撮れる。これは以前から変わらない。iPhone 16では暗いシーンなどでの画質が改善した印象だ。

iPhone 15の時は「Proは光学3倍、Pro Maxは光学5倍」だったが、iPhone 16ではPro・Pro Maxともに光学5倍になっている。サイズだけを考慮して選べば良くなったので、この点は朗報だ。

特にiPhone 16 Proシリーズは、超望遠での暗所性能改善が大きい。

さらに面白いのは、ついに「レンズゴーストへの対策」が始まったことだ。

スマホでは小さなレンズを組み合わせて光学系を作る。するとレンズの間で光が反射し、本来は存在しない光が写真に写ることがある。これが「レンズゴースト」。サイズの大きなレンズでは対策がしやすいし、レンズにコーティングなどをして低減を図ることもできる。

iPhoneは伝統的になぜかレンズゴーストが他のスマホより目立ちやすかった。筆者はこれがずっと気になっていたのだが、iPhone 16 Proではここに改善が加えられたようだ。

東京駅前のレンズゴーストが出やすい場所で、iPhone 15 Pro Maxで無造作に撮った写真。派手にレンズゴーストが出ている
同じ場所で同じように、iPhone 16 Pro Maxで撮影。レンズゴーストはゼロではないが、かなり抑えられている

派手にレンズゴーストが出る場所で撮影して見ると、iPhone 16 Proでは他モデルに対してかなり出づらくなっているのが確認できた。完全に出なくなるわけではないが、改善されているのは間違いない。

なお、レンズゴーストの低減は16 Proと16 Pro Maxにのみ搭載されており、16と16 Plusではこれまで通りとなっている。

同じ場所で、iPhone 16 Plusで撮影。こちらにはレンズゴーストが出ている

Proの強みは4K・120fps動画

iPhone 16 Proシリーズのメリットとしては、「4K/120fpsでの動画撮影」が挙げられる。従来は4K/60fpsまでだったが、今回は倍になった。

iPhone 16 Proシリーズは120Hz駆動のディスプレイを採用しているので、動きが滑らかに見える。

ただ効果としては、一部をスロー再生した時の「ドラマチック感」がより高まることが大きい。

HD(1,920×1,080)であれば毎秒240fpsで撮影できたが、今回は4K/120fpsも追加された。これだと通常の動画の感覚で撮影し、再生速度を変えることで「一部をスローにした」感覚のビデオを作れる。

以下のサンプルを見ていただくとわかりやすいだろう。

iPhone 16 Proをによる4K120fps撮影

当然、これを撮影するとデータサイズがどんどん大きくなる。実撮影データのサイズは、1分あたり340MB。HEVCでの撮影でこれなので、本格的に撮影するなら、iPhoneに外部ストレージを接続した方が良さそうだ。

iPhone 16 ProシリーズはインターフェースがUSB 3.2に対応している。それに対し、4K・120fps撮影に対応していないiPhone 16シリーズはUSB 2.0までだ。Apple ProResでの撮影も考えると、外部ストレージは必須。インターフェースの選択は、この辺の事情で決まっているのかもしれない。

カメラコントロールは大きな飛躍

カメラ機能については、意外と「16と16 Proで共通」の部分も多い。

カメラコントロールはその典型例だ。

カメラコントロールは、機能としては「シャッターボタン」に近い。そうしたボタンを備えたスマホは他にもある。

ただ、カメラコントロールの役割はより複雑で、単なる押しボタンではない。

構造も複雑だ。単にボタンなのではなく、表面はタッチセンサーになっている。出っ張りはなく押し込む幅はとても狭いのだが、振動による錯覚と組み合わせることで、「深く押し込む」「半押し」感覚の両方が表現されている。

カメラコントロールは、画面上にはこのように表示される
カメラコントロールの操作を動画で

写真を撮るときは被写体に集中しやすい方がいい。そのため、一眼カメラなどは操作系を「シャッターの周り」に寄せている。カメラコントロールは、スマホでこれを実現するために生まれたのだろう。

シャッターは「押し込み」で再現されているが、左右にスライドすることで「ズーム」「露出変更」などが行なえる。設定切り替えは「軽く2回押し」だ。

正直最初はかなり戸惑った。シャッターを切る分には問題ないのだが、メニューを切り替える「軽く2回タップする」操作にも、左右に滑らせる操作にも慣れは必要だ。

コツはシンプルなことだった。

ズームや露出変更などを行なう場合には、指を左右に滑らせるのだが、「じわじわと動かす」操作と「サッと滑らせる」操作では意味するところが異なっている。

例えばズームの場合だと、サッと滑らせると「0.5倍」「2倍」などの光学ズームが効くキリのいいところへ動く。中間で止めたい時にはじわじわ動かす。タッチパッド的な操作ではなくあくまで「スライド」だと思うと理解しやすい。

ちょっと奇妙なのは、現状では一眼カメラなどでいう「半押しによるフォーカス・AEの固定」機能は搭載されていないことだ。これはやはりないと違和感が強い。

しかし「半押しでのフォーカス固定」は、年内にはアップデートで搭載されるという。組み込まれれば操作への違和感ももっと小さくなるだろう。

カメラコントロールを活かすには「ケース」にも注意

カメラコントロールについて、1つ注意が必要な点もある。ケースの対応に注意が必要なのだ。

カメラコントロールをボタンとして捉えると、ケースには「穴」を開けたくなる。そのためか、本体発売よりも先に発売されているサードパーティー製のケースの多くが、カメラコントロール部に穴を開けて対処している。

上の2つがサードパーティー製の、一番下がアップル製のiPhone 16 Pro Max用のケース

これでも操作はできるのだが、穴の形状によって操作感が変わってくる。

今回、iPhone 16発売前から出荷されているものを2つほど購入してみた。

案の定、「穴」だとちょっと使いづらい。もちろん操作はできるのだが、穴の形状によっては指を滑らせづらいし、より深く押し込まねばならないので違和感が大きい。

ケースをつけずにカメラコントロールを利用
アップルの純正ケースだと、使用イメージは同じ
穴を開けた形でも使えるが、押し込みやスライドの使い勝手はちょっと劣る

アップル純正のケースには穴がない。カメラコントロールの部分にサファイアグラスが埋め込まれていて、スライド操作を伝えるようになっている。こういう形式だと、ケースなしで使う時と同様の使いやすさが維持される。

価格なども変わってくるので「穴はダメ」と断言はしないが、「穴が開いたものより、そうでないものの方が操作性はいい」のは間違いない。

フォトグラフスタイルなどの「非破壊編集」が強化

今回、iPhoneのカメラ機能では「非破壊編集」的な機能が増えている。

まず「フォトグラフスタイル」。以前からある機能だが、位置付けは完全に変化している。

これまでは撮影時に色味を変えるもので、撮影後の変更ができなかった。また、色味を細かくカスタマイズすることもできなかった。

しかし新しいフォトグラフスタイルでは、色味を細かく自分で変更可能になっただけでなく、「色味を撮影後に自由に変える」こともできる。タッチパッド的なUIで色を変えられるのは面白い。

フォトグラフスタイルでは色味の変更自由度が大きく上がった

ここで写真の色味を変えても、データ自体は変わらない。以前のモデルからは写真のデータを表示するパイプライン自体が変更になっており、それを使って「写真に付属するデータで写真の色味を変えて表示する」わけだ。だから写真のデータ自体は変更されておらず、何回でも色味を変えられる。

ただし、この変更自体はアップル純正の「写真」アプリの中だけで変更が可能なものとなっている。iPhoneでの写真撮影の幅を広げてくれるものではあるが、他の環境で編集できるわけではない。

もう一つの「非破壊編集」が「オーディオミックス」だ。

iPhone 16では本体に組み込まれた4つのマイクを使い、ビデオ撮影時に音声を「空間オーディオ」的に収録する。iPhoneのスピーカーで聴いてもよくわからないが、空間オーディオに対応したAirPodsなどで聞くと、音の位置がよりリアルに記録されているのが感じられる。

この時の音は、ビデオの中で人がどこにいるか、ということを加味して再生される。映像があることを前提にした空間オーディオ、と言ってもいい。

ビデオには互換性維持のためのステレオ音声と、「Apple Positional Audio Codec(APAC)」という新しい形式による空間オーディオがセットで記録される。

APACコーデックを使った場合、音の配置は調整が可能だ。

フレーム内に音を収める「フレーム」、スタジオ内でマイクを使って声を収録した場合に近い「スタジオ」、映画的に全体の音が自分の前に集まったように聞こえる「シネマティック」の3パターンが用意され、それぞれで微調整をかけられる。

オーディオミックスの変更画面

この変更は「写真」アプリ内で行なう場合「非破壊」で、何回調整してもいい。

ただ、外付けマイクでの収録が不要になる性質のものではない。ノイズ除去なども行なわれる関係で、声が劣化してしまうこともあった。特に屋外で収録したものは注意が必要だ。

空間ビデオに加え「空間フォト」にも対応

iPhone 16シリーズでは「空間ビデオ」「空間フォト」の対応が強化されている。

空間ビデオはiPhone 15 Pro Maxで撮影可能になったもので、簡単に言えば「右目と左目用の映像を1パックにして撮影したもの」だ。Apple Vision ProやXREAL Airなどのサングラス型ディスプレイなどで視聴できる。

意外なことと思われそうだが、iPhone 15 Pro Maxでは「空間ビデオ」は撮影できるのに「空間フォト」は撮影できなかった。

しかし今回、iPhone 16では機能が拡充され、空間フォトと空間ビデオの両方が撮影できるようになっている。

以前はカメラアプリの「ビデオ」の中でアイコンを押すと空間ビデオ撮影になる、という形式だった。だがiPhone 16からは、カメラアプリの撮影項目の中に、ビデオや写真と同じように「空間」という項目ができる。ここに切り替えることで、空間ビデオ・空間フォトの撮影ができる。

iPhone 15 Pro Maxでの空間ビデオ撮影。ビデオの機能に含まれる形だ
iPhone 16での「空間」撮影機能。写真とビデオの両方に対応
空間ビデオのサンプル動画

【編集部注】空間ビデオのMOV、HEIF形式データは、以下よりダウンロードできます
撮影サンプル元データ:newsample3d.zip(21.60MB)

この機能はiPhone 15 Pro Maxには提供されず、iPhone 16シリーズでのみ利用可能だ。

冒頭で述べたようにiPhone 16・Plusもカメラの配列が変わったため、全機種で空間ビデオ・空間フォトの撮影が可能だ。

以下に撮影したデータを用意しておくので、見られる環境のある方はダウンロードしてご覧いただきたい。

結局選択のポイントは「カメラ」に

このように、iPhone 16シリーズの価値は驚くほど「カメラ」にある。カメラの画質を活かすならProシリーズの方が良いのは間違い無いだろう。

一方、ズームや120fpsでの撮影に興味がないなら、新しい要素の多くはiPhone 16でも十分に楽しめる。

今回は多くの人にとって「iPhone 16がお買い得」だと感じるが、それはApple Intelligenceとカメラ関連、両方で言えることである。

Apple Intelligence狙いなら値下がりしたiPhone 15 Proを……という選択もあるが、新しいカメラ関連の機能がもったいない。

そういう意味でも、今回はiPhone 16もしくは16 Plusを選ぶのがおすすめ、ということになりそうだ。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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