西田宗千佳のRandomTracking
第596回
ANC搭載・形状変更でベストセラーが価値向上、「AirPods 4」レビュー
2024年9月16日 21:00
アップルは同社のベストセラーワイヤレスイヤフォン「AirPods」をリニューアルした。9月20日に発売となる「AirPods 4」のレビューをお届けする。
AirPods 4はアクティブノイズキャンセリングANC機能(ANC)搭載のものと、非搭載のものの2つがある。アップルから貸し出しを受けた評価機材はANC搭載のものなので、そちらをテストしている。
アップルは今秋、AirPods以外にもオーディオ製品で色々な動きをしている。試用機材は届いていないが、「USB-C対応AirPods Max」についても、取材で得られた情報をお伝えしておきたい。
なお、「ヒヤリング補助機能」がAirPods Pro 2(第2世代AirPods Pro)にソフトウエアアップデートで搭載される件については、Impress Watchの連載にて詳しく説明しているので。そちらも併読いただければ幸いだ。
ベストセラーの「AirPods」がよりコンパクトに
AirPodsが「完全ワイヤレス型ステレオイヤフォン(通称TWS)」を一般化させた存在であるのは疑いない。AirPodsが最初のTWSではないが、TWSとはなにか、という認識を定着させたのはAirPodsだ。現在もっとも売れているTWSがAirPodsシリーズであるのも間違いない。
初代AirPodsが登場したのは2016年のこと。8年の間に「AirPods」の名を持つ製品は世代交代を重ね、今回が都合「第4世代」となる。
アップルは製品名を固定し、「何世代目の製品か」を前や後ろにつけて呼称することが多かったが、今回はわかりやすく「AirPods 4」としている。同時にAirPods Pro(第2世代)も「AirPods Pro 2」と呼称されるようになっている。明確に変更アナウンスがあったわけではないが、おそらくはアップルも「こちらの方がわかりやすい」と考え直したのではないだろうか。
今回は手元に「AirPods(第3世代)」と「AirPods Pro 2(USB-Cモデル)」を用意し、比較しながら見ていきたい。
まずはケースから比較してみよう。
AirPods(第3世代)はAirPods Proが出た後であることからか、ケースのデザインをAirPods Proの方に寄せていた。後述するが、マイクのある「棒」の部分が短くなり、同じようなサイズになったのもこの頃からだ。実際にはAirPods(第3世代)の方がちょっと横に短いのだが、差は大きなものではない。
それに対し、AirPods 4は大幅に横幅が小さくなった。高さはほとんど同じだが、ケースサイズは30%小さくなったという。
これでも、ケースを使用しての再生時間は「最大30時間」で変わっていない。AirPods 2も「最大30時間」なので、アップルはこの時間が1つの基準、と考えているのだろう。
ケースをよく見ると、AirPods 4にはあと2つ変化があるのだが、これはあえて後で解説する。
ケースの充電端子はUSB-Cであり、Lightningは使われていない。これは今の製品であれば当然のことではあるが。
ANC対応のAirPods 4と非対応のAirPods 4では、形状こそ似ているものの、製品の仕様がかなり異なる。イヤフォンそのものがANC対応か否か、ということもあるが、ケースの仕様もかなり違う。
今回使っているANC対応モデルは、QiとApple Watchのワイヤレス充電規格に対応、「探す(Find My)機能」でどこにあるかを確認するためのスピーカーも内蔵している。そのため、ケース底面にスピーカーのための穴がある。この穴はANC非対応モデルにはないため、両者の区別は「スピーカーの穴」でつけるのが良さそうだ。
ちなみに、ケースが小さくなった分パッケージも小さくなった。充電用のUSB-Cケーブルも付属しない。
微妙に変わったイヤフォンデザイン、耳への収まり方も変化
イヤフォン本体の外観も比べてみよう。
いわゆる「棒」の部分の長さはほとんど変わっていない。AirPods 4のイヤフォンだけを見ると、過去の機種との変化がわかりづらいくらいだ。
だが並べて見るとけっこう違う。
AirPods(第3世代)が全体に丸みを帯びた形状であるのに対し、AirPods 4は「角を丸くした四角」に見える。耳に入れたことを認識するための「接触センサー」が入っている黒い部分も、サイズが小さくなった。逆に音が出るスピーカーの穴がある部分(こちらも黒い)は、AirPods 4の方が大きくなっている。
その結果として、耳につけた時の印象も変わった。
つけている様子を外から見ても、差はあまり感じられないかもしれない。しかし、耳に「あたる感触」には違いがある。
AirPods(第3世代)は「丸いものを耳介にグッと押し込む」感じ。丸いものが耳介を広げて止まっている印象に近いだろうか。
それに対してAirPods 4は、「いくつかの丸みを帯びた角が複数の点で耳介と接している」感触に近い。
あくまで筆者の耳に対する感覚だが、AirPods(第3世代)は「ちゃんと入れるために耳介の中で位置を合わせていく」感じで、AirPods 4は「耳介の中に乗せると自然と摩擦で止まる」感じがする。
そしてもちろん、AirPods Pro 2のようにイヤーピースを耳穴に入れる形式ではなく「オープン型」なので、耳の開放感はAirPods Proよりも良い。こちらの感覚はAirPods(第3世代)もAirPods 4も同様である。
耳の形は個人差が多く、AirPods 4が全員に最適、と断言するのは難しい。しかし特徴の違いを考えると、2つの考察が成り立つ。
これまでのAirPodsは固定のために耳にしっかり入れようとしてうまくいかず、「つける時に落とす」ことがあった。そして、しっかりはまっていないが故に固定が甘く、途中で外れる。
それに対してAirPods 4は、よりスッと耳介に入るのでつけるときに落としづらく、しっかりはまりやすいので結果的に落ちづらい。
形状的に見れば、そんな風なロジックで「改善」しているのではないかと考えられる。
AirPods 4のANCは効果絶大、Pro 2との違いは「オープン型か否か」
iPhoneやiPadでAirPods 4を利用するには、iOS 18/iPad OS 18の正式版が必要となる。ANCのついたAirPods 4はちゃんと「ANCあり」で、AirPods Pro 2と同じようなUIになる。空間オーディオや首を振っての応答などにも対応する。
肝心な音はどうか?
まずAirPods同士で、ANC抜きで比べてみよう。
音の性質はかなり似ている。カジュアルな聞き疲れしにくい音だ。AirPods Proなどと比較すると、音の厚みや幅は狭く、「どの領域でも豊かに鳴らす」という感覚は受けない。しかしカジュアルなTWSとして考えると、妥当な音が出ていると感じる。オープン型なので「耳への負担が小さい」というのも、カジュアルさという面ではプラスであり、バランスが取れている感じだ。
それが、今回のウリであるANCを効かせると一気に印象が変わる。
AirPodsはANCがなかったので、「カジュアルに聴くにはいいが周囲の音が邪魔」と感じるシーンが多かった。しかしAirPods 4でANCを使うと、そのあたりの不満が一気に消し飛ぶ。周囲のノイズがサーッと消え、音楽が圧倒的に聴きやすくなる。やはりANCの効果は絶大だ。
ではAirPods Pro 2と同じか……というとそうではない。
AirPods Pro 2の方がノイズキャンセル効果は高い。いわゆる「耳栓」効果によってそもそも外音が聞こえづらい上に、ANC自体の効果も少し違うようだ。曲を止めて耳を澄ますと、AirPods Pro 2は全体に音が消えているのに対し、AirPods 4は高音(例えば食器がぶつかる音など)が消えきっていないのがわかる。ハンズオン会場では「初代AirPods Proに近い感じ」とアップル担当者に説明を受けたが、確かにそんな印象かもしれない。
とにかく精度の高いANCを、というのであればAirPods Pro 2の方がいいし、音質もAirPods Pro 2の方が好ましい。しかし、オープン型の開放感(耳穴への圧力は、筆者もコロナ禍以降苦手になってきた)はAirPods 4の方が好ましく、これはこれでアリなバランスかと思う。
ただ、ANCのないAirPods 4はちょっと物足りないと感じそうだ。
今回実機でのテストはできていないが、アップルによれば「ANCをオフにした状態と、ANCのないAirPods 4はまったく同じ状態になる」という。とすると、過去のAirPodsとの差も非常に小さいものだということになる。
ケースの違いも含め、ANCなしのAirPods 4は「とにかく安価にAirPodsが欲しい」人向けと言えそうだ。AirPods(第3世代)は意外と高く、Lightning充電ケースのものでも2万6,800円した。それと比較すると、ANCなし版の「2万1,800円」というのは競争力のある価格と言えるし、ANCありの「2万9,800円」という価格も悪くない。
買うならANCありをお勧めする。プラス1万円上であるAirPods Pro 2(3万9,800円)とどちらを選ぶかは好みや予算次第、というところだろうか。別記事で説明している「ヒヤリング補助」機能はAirPods Pro 2に提供されるので、そちらを勘案して選ぶのもアリだろう。
ケースからはLEDの穴とボタンがなくなった
なお、今回のAirPods 4のケースには細かい変化もある。
表面をよく見るとわかるが、他のモデルにある「充電確認のLEDランプ」が見えない。
ではLEDがないのかというとそうではなく、充電を始めたりふたを開けたりするとちゃんとLEDが光る。表面からはLEDの存在が目立たないという、細かい工夫がなされているのだ。
また、Bluetoothでのペアリングを強制的に行う「ペアリングボタン」もなくなっている。
iPhoneだとケースを開けば簡単にペアリングが始まるが、それ以外の機器、例えばAndroidやWindowsではどうなるのだろうか?
実はペアリング作業はボタンではなく、ケースを「ダブルタップする」操作に変わった。機器の側でペアリング操作を待ち受けてから、AirPods 4のケースのふたを開け、ふたの下あたりを「トントン」と叩くと、AirPods 4側でもペアリング操作が始まる。
間違って「トントン」した時はケースのふたを閉めればいいし、かなりはっきりと「トントン」という操作をしてもペアリングは始まらない。
ボタンの方がわかりやすいとは思うが、ボタンと違って故障しにくいし、ボタンの周囲が埃などで黒ずむこともない。これはこれでよくわかる選択だ。
AirPods MaxのUSB-Cは「いまのところ給電専用」
最後に、USB-C対応になった「AirPods Max」についても説明しておこう。
基本的な変化は「LightningからUSB-Cになった」ことと「新色になった」ことだけ。オーディオ的な特性や重量などにも変化はないという。
ちょっと気になるのは、LightningからUSB-Cになることで「有線接続はどうなるのか」という点だ。Lightningではアダプターを使うことで、3.5mmのオーディオケーブルでつなぐことができた。
ではUSB-C対応になったAirPods Maxでの有線接続はどうなるのか? 場合によっては、USB-CでMacと直結したり、別途DACをつないだりできるのでは……と妄想が広がる。
結論を言えば、「いまのところ、USB-Cは『給電のみ』に使われる」とのこと。DACなどをつないでも動作しないし、ケーブル1本でMacにつながって有線再生できたりはしない。
しかしポイントは「いまのところ」というフレーズがついていること。ここには大きな意味がある。というのは、Lightningモデルでは使えた有線接続が使えなくなる……ということ自体はアップルも課題と考えているようで、なんらかの手段で対応を検討しているようだ。
とはいえ、そのことがDACやMacとつないでの「フルデジタルでの有線接続」に至る話なのか、というと、そこまでの話ではなさそうだ。
もしかすると「なにか使える」ようになるのかもしれないが、その点を期待して今から購入するべきではない。
あくまで「AirPods MaxはAirPods Maxであり、世代交代はしていない」ということでもある。