西田宗千佳のRandomTracking

第667回

Meta・キーパーソンにきく「VRグラス」と「AIグラス」の未来

Meta Connect基調講演を待つ人の列

先週開催された「Meta Connect 2026」では、「Meta VR Glasses」をはじめとした多くのハードウェアが発表された。筆者も速報レポートを書いている。

Meta VR Glassesを発表する、マーク・ザッカーバーグCEO

イベント自体の主軸はハードウェアとサービス。サービスの軸になるのは、9月8日にアメリカでスタートした「Meta Muse」である。

この点は詳細を僚誌・Impress Watchで記事にしたので、そちらを併読いただきたいが、このあと概要は本記事でもお伝えする。

さらに現地では、VRデバイスとAIグラス、それぞれのキーパーソンに取材することもできたので、その内容を中心にお伝えする。インタビュー内容からは、Metaがこれらのハードウェアをどう考えているのか、より明確なビジョンが得られた。

メタバースからパーソナルAIへ舵を切るMeta

まずは、Metaのビジネス全体を俯瞰してみたい。

2014年、Facebook(当時)はOculus VRを買収し、VR関連ビジネスを加速した。この前後から開発を続けていたAR/VRの研究・開発部門は「Reality Labs」として積極的な技術開発を、今も継続している。

Facebookは2021年に社名を「Meta」へと変更、ソーシャルメディアとその上の広告事業に集約されていたビジネスを多角化し、仮想空間と現実を紐付けたコミュニケーション・スペースである「メタバース」への投資を加速すると発表した。

2018年に発売した、スタンドアローン型のVR機器「Oculus Quest」を軸にしたビジネスは、このメタバース構想の中に組み込まれる。製品ブランドは「Meta Quest」に変わり、ゲーム機的なビジネスモデルを軸にした積極展開が続く。

ただ、メタバース自体は必ずしも普及していない。メタバースのような世界であるVRChatや、オンラインゲームの上でコミュニケーションを楽しむ人は多くいる。しかし、ソーシャルメディアやウェブのように「誰もが生活の中で当たり前に使うインフラとして普及した」と考えるにはほど遠い状況だ。

Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは基調講演の中で次のように述べている。

「私たちがグラスデバイスの開発を始めた当初、物理世界とデジタル世界を統合するというアイデアであるメタバースは、AIよりも先に実現すると考えていました。高度なAIは後から来るだろうと予測していたのです。しかし現在では、パーソナル・スーパーインテリジェンスが先に到来するだけでなく、そちらの方がはるかに大きく重要であることが明確になりました。そのため、私たちはパーソナル・スーパーインテリジェンスに最適なデバイスを構築することへと戦略をシフトしました」

要は率直に戦略ミスを認め、AIを軸にしたサービスに先に注力する、としたわけだ。

その注力先こそが「Meta Muse」だ。

「Meta Muse」のキャラクター

このサービスは、AIとチャットすると「自分が求める作業をしてくれる」もの。予定を確認したり、メールの内容に従ってアポイントを確定したり、行きたいスポーツイベントのチケットを購入してくれたりする。この種のサービスはトレンドであり、多くの企業からどんどん登場するのは間違いない。

Meta Museは9月8日にアメリカでスタートしたばかりだが、いきなり人気が爆発している。非常に実用性が高く、簡単に使えるからだ。

キャラクターが非常にかわいいのも特徴。アメリカのテック企業のものとは思えないほどだ。

これを持ち歩いて簡単にコミュニケーションをとるための「Muse Charm」も年内に発売される。

Muse CharmをもつザッカーバーグCEO

ただし現状、Meta Museはアメリカ国外で展開されておらず、日本でも使えない。そのため、こうしたサービスを体験できるようになるには、まだしばらく時間がかかりそうである。

Meta MuseのようなAI Botはあらゆるところに存在し得る。クラウドに本体があり、それをスマートフォン経由で利用する。

だが、スマホもある種のゲートウェイに過ぎない。

AI BotとはAIグラスを介してコミュニケーションをとることもできるし、VR機器の中にいてもいい。Muse Charmのような専用機器にいてもいい。

Meta VR Glassesのデモより。空間のなかにMeta Museのキャラクターがいる

AIグラスにもVRデバイスにも、様々な用途がありつつも、「現実とネットの接点となるMuseを使ってもらう」のが、Metaの現在の戦略である。

Meta VR Glassesは「ブレイクスルー」

ここからはインタビューに入っていこう。

まず一人目は、VR・Product Management担当バイスプレジデントであるアンジェラ・チャン(Angela Chang)氏だ。

Meta・VR・Product Management担当バイスプレジデントであるアンジェラ・チャン氏

Metaはメタバース関連投資にブレーキを踏むが、全てを止めるとは言っていない。

ザッカーバーグCEOは、「VRデバイスの製造数を減らし、真のブレイクスルーが生じた時にのみリリースするということ」と説明している。

要は、その「真のブレイクスルー」の最新作がMeta VR Glasses……ということになる。

Meta VR Glasses実機

では、チャン氏とのインタビューに入ろう。チャン氏がMeta(旧Facebook)に入社したのは9年半前のこと。VR製品の中でも、PC接続のモデルである「Oculus Rift DK2」の出荷を除き、すべてのハードウェア出荷に関わってきた人物だ。

――まず、OSについて。Meta VR GlassesのOSは、Meta Quest 3に使われている「Horizon OS」と同じものですか? 互換性も保たれている、という理解で大丈夫ですか?

チャン氏(以下敬称略):はい、根本にあるOSはまったく同じです。唯一の違いとして考えられるのは、入力の観点ですね。なぜならMeta VR Glassesにはアイトラッキングが搭載されているからです。Meta Quest 3Sにはアイトラッキングがないので、そのジェスチャーは利用できません。Meta VR Glassesでもコントローラーを使用できますが、オプショナルです。

――すなわち、ソフト開発のハードルは低い、と。

チャン:はい。開発者が最も幅広いユーザー層向けにアプリケーションを展開・開発できるように意図的に設計しました。もちろん、現時点ではQuest側が依然として最大のユーザー層であり、最大の販売台数を持っていますので……。

――価格について伺います。正直、非常に魅力的な価格設定だと思いました。どのようにしてこの価格に辿り着いたのですか?

チャン:血と汗と涙の結晶です(笑)。

冗談はさておき、製品コンポーネントを可能な限りプレミアムに保ちつつも、最終的な価格帯がどうなるかを意識しながら、細かな決定を積み重ねてきました。

成功すればするほど赤字が膨らむような構造であってはなりません。ビジネスを長く続けて行きたいからです。ですので、この製品は基本的に「原価(at cost)」で販売されています。そのために数多くの調整を行なわなければなりませんでした。大半のハードウェア企業はマージン(利益)を乗せて販売しますので、そこが1つの違いです。

他にも違いはあります。例えばApple Vision Proは、複数のSoCを搭載していますし、素材にも非常にプレミアムなものを採用していますが、残念ながらそれが重量の増加にも繋がっています。例えば、本体が金属製であったり。

それは我々とは異なるプロダクト上の決断であり、これこそが、私たちのチームが長年にわたってVRを構築し出荷し続けてきた経験から来るものです。どの部分を妥協してはならず、どの部分で異なる選択ができるかを理解する上では、経験が本当に重要です。

――最も高価な部材はなんです?

チャン:マイクロOLEDディスプレイですね。圧倒的に高価です。

マイクロOLEDが高価である理由は、すべてのピクセルの背後にあるバックプレーンがシリコンチップだからです。業界では「歩留まり損失(yield loss)」と呼ばれますが、特に製造経験が十分にない場合は非常に高くなり得ます。

そのため、歩留まり損失を下げ、原材料の損失が少ない状態に達するまでに、微調整に長い時間がかかります。そしてシリコン価格が上昇したりすると、当然これらの価格も上がります。

さらに、これらを製造できるベンダーは極めて少数です。大半は中国にあり、ソニー、そして韓国のサムスンなどがありますが、彼らと投資して製造ラインを立ち上げ、製造に応じてもらう必要があります。

――Meta VR Glasses向けにマイクロOLEDを製造しているパートナーを明かすことはできますか?

チャン:私たちは複数のソース(供給元)を利用しています。

――つまり、マルチベンダー構成だということですね? それは興味深い。視野角やピクセル密度、解像度などを教えていただけますか?

チャン:はい。

視野角は対角84度、水平70度、垂直66度です。グラス型のフォームファクタとしては群を抜いて最大の視野角です。例えばバードバス(Birdbath)光学系は、原理的に垂直方向に大きな制約があります。

Pixels Per Degree(PPD)は37です。伝統的なTV画面が使うような純粋なPixels Per Inch(PPI)で言えば3,660 PPIになります。

形状の変化が新しいニーズを生む

――高品質な体験をグラスの形状へと持ち込むには、どのような技術的課題がありましたか?

チャン:最大の挑戦の1つは、従来のQuestコンテンツや没入型コンテンツとの互換性を保ち、長年投資してきたコンテンツを切り捨てずに済むような十分な広さの視野角と、グラスというフォームファクタに収まる小ささとの「完璧なスイートスポット」を見つけることでした。

私たちは無数の異なる視野角サイズ・解像度・形状をテストし、ディスプレイや光学スタックのイノベーションをチームに強く求めてスイートスポットに辿り着きました。最も困難なことの1つでしたが、非常に誇りに思っていることの1つでもあります。

視野角が非常に没入感高く感じられ、すべてのコンテンツが引き続き利用可能でプレイでき、しかも100gのグラス型フォームファクタになったという点で、正しく実現できたと思っています。

もう1つは、先ほど説明したように、マイクロOLEDディスプレイ技術全般ですね、特にこの小さなパネルサイズでは、容易ではありません。

そして3つ目は、有線(テザー)での体験を正しく構築することです。

(一体で提供される)スタンドアローンから有線に移行することで、ケーブルが邪魔になるのではないかという懸念が生じます。そのため、着席時だけでなく、モバイルで歩き回る際にも、多くのデータ帯域幅が上下に流れるカスタム光ケーブルでありながら、絡まない程度に柔らかくしなやかであり、同時に背中にしなやかに垂れてパックをポケットにクリップで留められ、ファンの排気口が上を向くようにしてポケットやバッグの中で熱がこもらないようにするなど、ユーザー体験を熟考する必要がありました。

熱設計や一般的なユーザー体験において、初めて真剣に考え抜かなければならないことが山ほどありました。

――なぜ金属のケーブルでなく、光ファイバーを採用したのですか?

チャン:必要なデータ帯域幅をサポートできる唯一のケーブルだからです。光学シースルーグラスは、現時点では没入型体験を満足に実行できませんからね。

――パックの部分……あれの正式名称は「パック」でいいんですかね? 重量はどのくらいになりますか?

チャン:単に「パック」で大丈夫です。重量は300gで、バッテリーも内蔵しています。3時間くらいの動作が可能ですが、もちろん、電源をつないだままでも動きます。

――パック単体での販売予定はありますか?

チャン:現時点では予定していませんが、保守性などを考えると、検討はできます。おそらく必要でしょうね。

――将来的に、より性能が高いパックに交換して使う、といったことは考えていますか?

チャン:いい着眼点ですね。確かにその方向性を、私たちも考えてきました。

ただこの第1世代においては、一挙に多くのイノベーションの飛躍があったため、グラス側とパック側の両方でかなり独自性の高いインターコネクト(接続規格)を使用せざるを得ませんでした。他の標準的なインターコネクトと簡単に互換性があるわけではありません。

将来の世代では、パックとグラスの間により標準的なインターコネクトを採用し、組み合わせられるようにすることを、私たちは目指しています。

左にあるパックとグラス部は交換も視野に入れた開発がなされているが、第一世代製品では難しそうだ

――グラス部をさらに小型化することは可能ですか?

チャン:小型化はできますが、トレードオフとして解像度や視野角などが犠牲になります。

これは変数の多い物理方程式のようなものです。変数のそれぞれで多く選択肢がありますが、最終的に、実際に信頼できる優れた製品に着地する決断の組み合わせはどれなのか。そこが難しい部分なのです。

――体験的な観点から、Meta QuestとVRグラスの主な違いはどこにありますか?

チャン:大きな違いの1つは、一方がスタンドアロンで、もう一方が有線(テザー)体験であることだと思います。ですので、よりダイナミックな動きを伴うユースケース、ゲームやフィットネスのような体験も含め、スタンドアロンの方が依然として優れており、その世界により没入して没頭できます。

Meta VR Glassesは、多くのことを行ない、多くのことを非常に優れてこなせる汎用コンピューティングプラットフォームに向けて長年取り組んできた私たちのビジョンであり、単一のユースケースに特化して最適化されているわけではありません。

仕事をしたければそれができ、映画を観たければ観ることができ、どこへでも持ち運びたければ持ち運べるようにしました。

一方でQuestは、ゲーマーという特定のターゲット層と、ゲームやフィットネス、ダイナミックな動きを伴う没入体験という特定のユースケースのために作られた、より特化型の製品です。

多くの意味で、Meta VR Glassesは、多様なニーズを満たすというビジョンの、ほぼ最初の表現形態と言えます。

まだ完全な光学シースルー技術は存在しませんし、Meta VR Glassesを掛けて街を歩くようなものではありません。

しかし、現実世界や環境と混ざり合うこうした拡張・仮想体験が、最終的にはVRのより没入感のあるモードと外出用のモードを切り替えられるような光学シースルーグラスとしても提供されるようになる未来を想像できるはずです。それが夢ですね。

本当の問題は、技術的に可能というだけでなく、人々が継続的にお金を払いたくなるような真に魅力的な製品として結実するまでに、あと何年のディスプレイ・光学技術のブレイクスルーが必要になるか、ということです。

――映像について、映画会社などの取り組みが変わってきたように思います。Metaの取り組みの変化もあると思いますが、いかがですか?

チャン:Meta Quest 3においても、エンターテインメントや映画の視聴が、自然発生的に成長していることは見えていました。しかしMeta Quest 3の場合、長時間快適に着用・使用できるように最適化されたデバイスではないことも分かっていたことです。

映画やエンターテインメント、スポーツというユースケースが、年齢や属性に関わらず、誰にとっても広く当てはまるものであることは明白です。

ですから、長時間快適にそのユースケースを提供できる適切なフォームファクタがない中で、エンターテインメントコンテンツ側に多額の投資をすることはあまり意味がありませんでした。

そして、Meta VR Glassesにおいて、この製品の見通しが立ったとき、「ああ、映画丸々1本観るために3時間着用し続けられるほど軽い製品を作れるなら、すべてのスタジオやストリーマーパートナー、スポーツパートナーと連携してコンテンツをこのプラットフォームに持ち込むために一気に投資を倍増させる意味がある」となったのです。

コンテンツホルダーも、パンデミックの数年間を通じて、より幅広い観客に体験を届けるための様々なデジタル技術を試してきました。

ですので、パンデミック前よりもオープンマインドになっており、新しい技術を使ってより多くの人に、より斬新な方法で自らの体験を届けることに前向きになっています。

映画などの配信も、グラス型ゆえの変化で拡大

――平面で利用するキーボードは、飛行機の席にある小さなトレイテーブルや、教室にあるような小さなテーブル付きの椅子のような状況でも、うまく機能しますか?

Meta Quest 3とMeta VR Glassesで搭載される、机の上をキーボードにする技術

チャン:問題ないですね。サイズはあまり重要ではなく、主に手をどこに置いているかが大切です。

より重要なのは素材とコントラストですね。表面のコントラストが高いほど良い結果が得られます。暗闇だと難しいですね。照明が非常に低い場合、例えば5〜10ルクスを下回ると、手のトラッキングが難しくなります。低照度でのハンドトラッキング用に特別なLEDを搭載していますが、それでも、そのレベルの暗さではキー自体を見ることすら難しくなると想像されます。人間の目にとっても5〜10ルクスを下回ると見えにくくなります。ただ、それ以上であれば何の問題もありません。

――市場は拡大すると考えていますか?

チャン:誰もが使うようになってほしい、と夢見ています。

しかし、私たちは非常に現実的にとらえてもいます。新しいテクノロジーがスケールするにはある程度の時間がかかるものです。

これまでの皆さんや他の方々とのデモを通じて、製品全般に対する受容性の高さに非常に勇気づけられていますし、今や真に「汎用(ジェネラルパーパス)」であることが確認できています。

このデバイスが私のような女性層を含め、より幅広い観客に訴求することを願っています。私自身、ストラップを装着して髪型やメイクを崩すのが好きではありませんでした。ですから、ターゲット市場やユーザー層への訴求力という観点において、この製品ははるかに広く、大きいと感じています。

全般的な販売の観点で言えば、価格やメモリの変動、電子機器全般の値上がりがある一方、消費者の財布の紐は変わらないため、予測が少し難しいです。私たちは楽観視していません。

より重要なのは、VRが非常に盛んで健在であることを世界に示し、このカテゴリにおいて歴史を定義するような製品を送り出し、時間とともにそれがさらに良くなっていくことを示すことだと考えています。

――私の理解では、Meta VR GlassesはQuest Proの後継機のように感じられます。この感覚は正しいですか?

チャン:そのように考えていただいて差し支えありません。

私は元々Quest Proのプロダクトマネージャーでもありました。これが常に私たちのビジョンだったのです。

Quest Proは当時の技術的進歩において、技術的な奇跡でした。Quest Proでアイトラッキング・ハンドトラッキング・カラーのMixed Realityを実現できることを証明しなければ、今日のこの製品に到達することは決してできませんでした。

しかし当時は、グラス型フォームファクタに達するための別の技術的課題やイノベーションが整っていませんでした。プラットフォームやコンテンツのエコシステムすら十分に成熟していませんでした。

ですから、過去数年間で私たちが物理的な技術革新だけでなく、開発者エコシステム、コンテンツエコシステム、OSを大幅に成熟させ、誰もが楽しめるような驚くべき多様なユースケースと体験を備えたMeta VR Glassesへと実を結ばせたことを非常に誇りに思っています。

エシロール・ルックスオティカと密接な連携で生まれるAIグラス群

次は、AIグラスについてだ。

ウェアラブル担当バイスプレジデントのアレックス・ヒメル(Alex Himel)氏にインタビューした。

Meta ウェアラブル担当バイスプレジデントのアレックス・ヒメル(Alex Himel)氏

――まず、AIグラスのビジネスに関する現状を教えてください。

ヒメル:私たちはRay-Ban Metaを皮切りに、何年も前からAIグラスを作り続けてきました。かなり順調なスタートを切っていると思います。年間何百万台も販売しており、毎年何倍にも成長しています。

私たちが投資していた当時、他のほとんどのIT企業はこのジャンルを手がけていませんでした。大手企業のいくつかから近々グラスが登場するという噂や発表を目にしています。もちろん具体的な詳細は分かりませんが。すでに市場には多くの選択肢が存在し、オンラインで検索すれば山ほど出てきます。

私たちは一般的に、競争は良いことだと考えています。人々が慣れつつある新しいフォームファクタであり、ユースケースも見出され、その仕組みについての認知度も高まっています。

ですので全般的に、競争によってすべての製品がより良くなり、消費者にとっても選択肢が増えると思います。

しかし、私たちは最も長く、そして最も多く投資してきてもいます。本日発表された多くの新製品を含め、100種類以上のグラスから選べるようになり、今後もさらに増える予定です。

Meta Glassesの実機

――その中で、Metaは多数のブランドを作っています。「Ray-Ban Meta」に「Oakley Meta」、そして「Meta Glasses」。ブランドを細分化する理由はなんですか?

ヒメル:世界中の人々が、みんな異なるブランド、異なるスタイルを身につけています。全く同じグラスをかけている2人を見かけることは滅多にありません。なぜならグラスは個人のスタイルの反映であり、何が快適で顔にフィットするかという表れでもあるからです。

そのため私たちは、エシロール・ルックスオティカ(EssilorLuxottica)と長年にわたりパートナーシップを組んでいます。彼らはファッション・ブランド・製造・光学・店舗流通における専門知識を提供し、私たちはテクノロジーの専門知識を提供しています。

私たちがRay-Banから始めたのは、世界で最も規模が大きく、最も人気のあるブランドだからです。2番目にOakleyを選んだのは、彼らのポートフォリオで2番目に人気のあるブランドだからです。

それらはプレミアムブランドであり、相応のプレミアムな価格となっています。

私たちはまた、それらよりも低い、手頃な価格帯も用意しておきたかったのです。それが、コアとなる「Metaブランド」のシリーズを導入した理由です。

これらもエシロール・ルックスオティカと一緒に製造されています。テンプル(ツル)の内側を見れば『with EssilorLuxottica』と書かれており、パートナーシップの一部として彼らと共に作られています。これにより、より低い価格帯を実現できています。

エシロール・ルックスオティカは非常に大きなブランドポートフォリオを持っていますので、今後も彼らと一緒に展開するブランドやスタイルを拡張し続ける予定です。今後数年でエキサイティングなものを目にしていただけると思います。

最も安価なもので「Ray-Ban」などのブランド名が入らない「Meta Glasses」の箱にも、この製品がエシロール・ルックスオティカとのコラボ製品であることを示す記述がある

――エシロール・ルックスオティカとの関係についてもう少し教えてください。

ヒメル:このパートナーシップは、エシロール・ルックスオティカの会長兼創業者であるレオナルド・デル・ヴェッキオ氏(故人)とマーク・ザッカーバーグとの間で直接開始されたものです。2人の創業者とCEOによって結ばれた非常に戦略的なパートナーシップであり、私たちが何年も引き継いできたものです。繰り返しになりますが、非常にお互いを補完し合う強みを持つ2つの会社が手を組んだ実例と言えます。

――エシロール・ルックスオティカは現在、独自のスマートグラス製品を作っているように見えます。彼らは先日、ARグラス関係の企業を買収しています。

Metaとエシロール・ルックスオティカの関係は今後も長続きするとお考えですか?

ヒメル:私たちは彼らと多くの時間を過ごしています。今日もここに彼らが来ています。非常に刺激的な素晴らしいパートナーシップであり、投資を続けています。彼らは、単なるアナロググラスからAIグラスへと移行する中で、製造能力を強化・拡大するためにいくつかの買収を行いました。ディスプレイグラス用のアイピースなど、コンポーネントの一部も提供しています。

彼らは自らの能力を高めようとしているのです。特定の買収についての詳細は彼らに直接聞いていただくのが一番ですが、彼らが行なっている取り組みの動機はそこにあります。

カメラ付きグラスでのプライバシー問題にどう対処するのか

――別の質問に移りたいと思います。

今回のConnectで『オーディオグラス』を発表されていますね。オーディオグラス、ディスプレイ付きグラス、カメラ付きのMetaタイプグラスの戦略について詳しく教えていただけますか?

Meta Audio Glasses。日本への市場投入は2027年

ヒメル:異なる人々の、異なるユースケースに向けた異なる製品というだけのことです。3年前に開発を始めたときは、AIグラスの市場自体が存在するのかどうかすら分かりませんでした。そのため、成功する可能性が最も高いと思われるデバイスを作ろうと決断しました。それがRay-Ban Metaです。

分かったのは、一番使われている機能がオーディオ、2番目の機能が写真や動画の撮影ということです。

そして3番目がAIです。AIが最も急速に成長していますが、間違いなく3番目です。

オーディオがトップのユースケースであり、AIが進化していることから、オーディオグラスは人々が価値を感じるものになると考えました。そしてカメラを外すことで、再設計が可能になりました。より軽量になり、よりスリムになり、デザインの自由度が格段に増しました。

ですから、このグラスには非常に興奮しています。バッテリーは一日中持ちます。

もちろんRay-Ban Metaラインのグラスにも引き続き非常に期待しており、現在年間何百万台も売れています。

そしてディスプレイ付きについてですが……。

すべてのIT企業が、1つのビジョンを共有しています。世界を見つめるとそこにデジタルコンテンツが重ね合わされる、いわゆる拡張現実(AR)グラスです。ディスプレイグラスは明らかにそのビジョンへと向かっています。

まだ視野角の広い完全なディスプレイではありません。それを望むなら、本日発表したMeta VR Glassesを手に入れるべきです。

しかし、テクノロジーが小型化し、熱効率が向上し、進歩するにつれて、時間が経てば本物の拡張現実グラスへと収束していくと見込んでいます。

――カメラに伴うプライバシー問題についてもお聞きしたいです。

現在のRay-Ban Metaなどでは、撮影中を示すLEDランプを搭載していることは知っています。しかし、多くの人々は、「グラスにカメラが付いていること」自体がプライバシー問題であると懸念しています。この状況についてどうお考えですか?

また、AIには『目』や『耳』が必要であるため、グラスのカメラは主要なテクノロジーの1つになっていくと思います。カメラやマイクはAIの『目』や『耳』になりつつあると考えますが、このプライバシー問題とAIの関わり、その関係性をどうお考えですか?

ヒメル:そこにはいくつかの別々の要素が作用していると思います。

私たちがグラスにカメラを搭載している理由ですが、人々がそれで大好きな動画を撮影できるからです。ワールドカップを観ていると、多くの人がスマホを掲げて録画している一方で、グラスを使って自分の目で直接観ながら録画している人もいます。何千ドルも払ってチケットを買ったのですから、ビューファインダー越しではなく、生の試合を直接観られるのは素晴らしいことです。

一方で、悪用も見られます。デバイスを改ざんする人がいるのです。そのため、私たちはLEDに多くの時間とエネルギーを投資しました。明るく、遠くからでも見え、録画中には点滅するようにして、気づかれやすくしました。

それでも改ざんする人はいます。

私たちの推計では、改ざんされたグラスは0.1%未満、1,000台に1台未満です。私たちはそれらすべてを無効化しました。ポリシーに違反した場合にアカウントを停止する措置も講じています。プラットフォーム上に投稿された嫌がらせコンテンツを監視し、それを削除し、関連アカウントを削除しています。

このことは極めて深刻に受け止めており、『光(LED)を確認して』というプライバシーマーケティングキャンペーンも開始しました。問題の1つは、録画中かどうか知りたいなら点滅する光を見ればいい、ということを人々が単に知らずにいることだからです。

ですから「LEDを見るべきだ」と人々に知ってもらいたいのです。知っている人にとっては確認しやすく、うまく機能していることが分かっています。

要は、写真や動画は人々が大きな価値を得るものであり、だからこそカメラを載せているのです。

次に、カメラがAIのために使用される場合です。このカメラはAIのために使うことができます。目的は人間をサポートすることです。『今何を見ているか』『目の前のこれを組み立てるのを手伝って』『これにグルテンは含まれているか』『これから食べるこの食事を記録して』とAIに尋ねることができます。

そしてその場合、キャプチャされたデータは人間がアクセスできるものではありません。保存することも共有することもできません。ただAIが処理するためだけのものです。

ですので、データの扱いが全く異なるんですよ。

「AIとしてのユースケース(AIの処理専用)」と、人々が単に楽しんで行なっている「写真や動画の撮影」は区別して考えています。

――Meta Muse(ミューズ)との関係について伺いたいです。非常に素晴らしいプロダクトだと思います。Meta MuseとAIグラスの関係についてどうお考えですか?

Meta MuseとAIグラスも当然連携

ヒメル:これ以上ないほど興奮しています。Museがグラスにやってきます。ほんとうに、すぐですよ。

ワクワクしている要素がいくつかあります。

1つは、これが Speech-to-Speech(音声直接対話)モデルであるということです。つまり、発言がテキストに変換され、AIに送られ、テキストで返ってきて、それが音声に変換されるのではなく、『音声入力・音声出力』なのです。

そのため、はるかに高速であり、人間のイントネーションもちゃんと拾います。より自然です。従来の古いアシスタントと話しているような感覚ではなく、人間と会話しているかのように感じられ始めます。

私自身、この半年ほど非常に日常的にMuseを使っています。私の個人メールや個人カレンダーにもアクセスできます。WalmartやStripeなどにも接続されています。子供のスケジュールに関するメールが届いたとき、グラスに向かって『そのメールを見て家族共有カレンダーにスケジュールを入れて』と言う方が、スマホで同様の操作をするよりも早いレベルに達しています。

――もう1つだけ質問させてください。ディスプレイタイプのグラスについてお伺いしたいです。ついにアメリカ国外での販売がスタートします。いつか、日本でも発売されるのを楽しみにしています。

この種のディスプレイタイプ製品の将来についてどうお考えですか?

Meta Ray-Ban Displayは、アメリカでの発売から1年を経て、生産がようやく追いついた

ヒメル:これまで全米でのみの販売であり、しかも店舗で30分のアポイントメントを予約しなければ購入できなかった理由は、製造が追いつかないほど急速に売れていたからです。

ようやく生産能力を増強し、製造数を増やしたため、ついに国際展開が可能になり、オンラインでも販売できるようになりました。『ついにオンラインで販売します』と発表するのは、今が何年なのか分からなくなるような不思議な感覚ですが、それほど供給が足りていなかったのです。

使用例として重要なのは、AIを使う際に耳で聞くよりも読む方がはるかに速い場合です。天気やスポーツのスコア、株価のトレンドなど、視覚的に見る方が聞くより速い情報があります。

またカメラのビューファインダー、翻訳など、ディスプレイがあることで容易になることが多くあります。

着信も視覚的に素早く確認し、一回スワイプ・タップして拒否したり応答したりできます。

非常に良い利用状況が見られており、これらのグラスの活用が進むにつれてさらに良くなると考えています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41