西田宗千佳のRandomTracking

第669回

Alexa+日本上陸。「生成AIベース」で変わることを責任者に直撃

Alexa+が日本上陸。写真は日本版展開を記念したアート

ついに日本にもAlexa+が上陸する。

Amazonは10月29日、同社の音声アシスタントサービス「Alexa+」について、日本市場に最適化したバージョンの「早期アクセス」を開始すると発表した。

その概要について、Amazon Alexa インターナショナル 日本・オーストラリア担当リージョナルマネージャーである、ジャンマリア・ヴィスコンティ氏と、アマゾンジャパン・Echo/Ring/スマートホーム事業本部長の丸山舞氏に聞いた。

Amazon Alexa インターナショナル 日本・オーストラリア担当リージョナルマネージャーである、ジャンマリア・ヴィスコンティ氏(左)と、アマゾンジャパン・Echo/Ring/スマートホーム事業本部長の丸山舞氏(右)

なお、今回の記事のタイミングでは、筆者も具体的なデモを自分で体験するには至っていない。その点を念頭に置いて記事をお読みいただきたい。実際の使い勝手についてはまた今後の記事で解説していきたいと考えている。

LLMで作り直した「Alexa+」とはなにか

まず、Alexa+の概要と対応する新製品について説明していこう。

Alexa+は、Amazonの音声アシスタントであるAlexaを、LLM(大規模言語モデル)をベースに、基礎から作り直したものだ。

アメリカで昨年発表された時に詳しく紹介しているので、できることなどについてはそちらも併読していただければと思う。

従来のAlexaは、簡単に言えば「音声リモコン」に近いところがあった。音声をかなり確実に理解してくれるものの、なにかをさせるには、かなり正確に「機器の名前とやりたいこと」を言う必要があった。例えば「テレビの電源をつけて」「エアコンの温度を23度にセット」という感じだ。

これでも便利ではあったが、「なにができるのか」を利用者側が把握しておく必要があったし、機器を連動させるには自分で連携を「組む」必要があった。結果として、特定のことを除くと、「家庭の中で機器設定ができる人」に依存する傾向が強かった。このことが、スマートホームをマニアックなものにし、その普及の限界の1つとなっていた。

ではAlexa+ではどうなるのか?

現在使われるAIの基礎技術であるLLMをベースにしたことで、Alexa+の「理解する力」はより高いものになる。だから、正確に名称を言わずに「やりたいこと」を伝えればやってくれるようになる。機器の連動についても、スマホアプリ上で複雑な設定を作らなくても、「朝になったらカーテンと照明が連動し、そのあと、目覚ましが鳴るようにしたいんだけど」というような、自然な会話で連携動作の設定ができる。

そのほか、Fire TVで「エンディング近くで曲をデュエットする、ロックに関係する映画」などの曖昧な言葉を使って番組検索もできるようになるし、セキュリティカメラのRingで「子どもが帰ってきた時の映像を見せて」といったフレーズで映像を探すこともできる。

気になることを質問したり、チケットの予約をしたりと、今のAIサービスでできるようになってきたことも、Alexa+でできるようになる。「いまどきのAIサービス」との差が小さくなっているのも特徴だ。

アメリカではすでに一般公開されており、基本的には有料サービスだ。日本では月額3,000円になる。ただし、Amazon Primeの会員なら追加料金なしで使える。

日本ではテストを目的とした「早期アクセス」という扱いであり、登録した人から順次利用可能になる。

また、Alexa+に対応するEchoデバイスやFire TV、Fire TV搭載テレビ(パナソニックとJVC製品)を購入した場合も早期アクセスが受けられる。

新Echo Dotと「時計+睡眠」特化の「Echo Time」が登場

そして、このタイミングで2つの新しいEchoデバイスが発表になる。

1つ目は「Echo Time」。これはスマートクロックとして使うことを前提に開発された製品であり、2018年・2024年に発売された、丸いディスプレイ搭載の「Echo Spot」とは方向性が異なる。価格は35,980円。

新製品のEcho Time

内部には赤外線センサーや室温センサー、超音波センサーが搭載されており、それらを組み合わせて眠りをサポートする。利用者との距離や呼吸を検知して「睡眠モニター」として使い、心地よいタイミングで目覚められるようにする。

もう1つのデバイスが「Echo Dot」の新モデルだ。こちらは17,980円で、4色展開。従来はあくまでスピーカーとしての機能だったが、今回からスマートホームハブとしての機能を内蔵し、家電連携に利用できる。

新Echo Dot。ファブリックの編み目が細かくなった
左が既存モデルで、右が新モデル。ボタン部の大きさなども異なる

日本語版Alexa+は日本独特の「空気を読む」感覚を大事にした

では、インタビューをお届けしよう。お二人の言葉から、Alexa+の狙いが見えてくるはずだ。

――日本版の提供開始まではかなりの時間がかかりました。アメリカ版との違いは?

ヴィスコンティ氏(以下敬称略):主な機能や生成AIの基本構造は同じです。

ジャンマリア・ヴィスコンティ氏

一番の目玉はLLMによる自然言語理解です。Alexa+は、会話を重視しています。

特に日本市場向けには、LLMを再構築・洗練させました。正確に指示を解釈できるよう、プロンプトの調整や膨大なテストを実施しています。

日本語は他言語以上に「空気を読む」文化であり、単一のコマンドではなく会話を通じて意図や文脈を理解することが重要です。

丸山:英語では短い単文でも非常に明確に意図が伝わりますが、日本語は非常に曖昧性が強く、そこが開発上最も難しいところでした。カジュアルな話し方や丁寧語の扱い、馴れ馴れしくなりすぎず距離を置かれないバランスについて、「日本において、これは私のアシスタントだ」と思ってもらえるよう、ここ2〜3年間ずっと議論を重ねてきました。

Ringとの連携という点では、日本で提供される機能として、例えば「荷物が届いたか教えて」と尋ねると、カメラ画像を解析して確認・応答する機能があります。これが最もよく使われる機能になると思います。

一方、現在日本で提供されない機能として、米国でローンチされた「Alexa Plus Greetings(ドアベルAI自動会話応答機能)」があります。これは、訪問者に対してAlexa+が、家主の文脈を理解して自動で会話応答する機能です。しかし現在はアメリカ限定であり、日本を含む他国ではまだ展開していません。

丸山舞氏

ヴィスコンティ:Fire TVでの動画検索や音楽検索については、米国同様の高度な体験を提供します。例えば、「ハロウィンにぴったりで、怖すぎず、妻と一緒に観られて1時間半以内の映画」といった複雑な条件での検索や、うろ覚えの歌詞や映画のワンシーンからの楽曲・作品検索もできます。

また、アメリカとの大きな違いとして、パートナー連携があります。例えば、日本ではレストラン予約において「食べログ」と連携します。日本のユーザーが日常的に使っているローカルサービスと統合することが極めて重要だからです。

――アメリカだと、そこではOpenTableですよね。しかし、日本だと使われているのは食べログだから……

ヴィスコンティ:そういうことです。

AIの理解力が「家族間でのデジタル・デバイド」を解消する

――特に家庭で重要になる要素はどこですか?

ヴィスコンティ:AIの進化により、スマートホームは従来の「決められた音声コマンドを覚えて命令するスタイル」から、「日常の文脈を理解して自律動作するスタイル」へ変化します。例えば「この部屋、暗くて寒いんだけど」と話しかけるだけで、照明をつけエアコンの温度を上げることができます。

コマンドを覚えていない私の母のような人でも意図を伝えるだけで動作し、アレルギーがあれば空気清浄機を稼働させるといった推論を行えます。

現在、高齢者が生成AIを利用できていないというデジタル・デバイドが存在しますが、音声インターフェースこそが、すべての人に生成AIを届ける手段です。

ただし、家庭内で家族それぞれの個人を正しく認識・識別する必要があるため、技術的な難しさもあります。しかし、Voice ID(音声認識)やVisual ID(顔認識)により、家庭内の個人を認識します。

会話を通じてユーザーの嗜好を自動記憶し、話しかけた人に応じた個別化された回答を返します。例えば、夫がユヴェントスファンだけど、妻はACミランファン……といったようなことです。

また重要なのは、Alexa+は単に回答するだけでなく、ユーザーに代わってエンドツーエンドで、現実世界でタスクを最後まで完了させる点(Get Things Done)です。

――なるほど。まさに今のAIが持つ価値そのものです。

ヴィスコンティ:モバイルアプリとの連続性もあります。スーパーでの買い物中にスマホのAlexaアプリから「ショッピングリストに何を入れるんだっけ?」と確認・追加したり、家でFire TVを見ている際に「さっき話していた映画、Primeで観られる?」と会話をつなげることができます。

――アメリカでの初期ローンチ時には、それまでAlexaでできていたことができなくなったというフィードバックがあったと聞きますが、改善されましたか?

ヴィスコンティ:アメリカのアーリーアダプターは非常に複雑なスマートホーム設定を行っている方が多く、初期に一部互換性の課題がありました。

そのため、日本向けには過去数カ月間にわたり大規模なベータプログラムを実施し、不具合を事前に修正しました。

また、アメリカで新しい音声に変更した際、これまでAlexaで使っていた音声への愛着から、拒否反応があったんです。そこからの学びを活かし、日本版では聞き慣れた親しみのある声をベースに、より自然で滑らかに会話できるよう調整しました。

丸山:従来のAlexaだと、定期アクションが崩れた場合には、アプリで一から組み直す必要がありました。

しかしAlexa+では、声で「『おはよう』と言ったらカーテンを開けてライトをつけて」と頼むだけで、アプリ操作なしでAIが直接アクションを理解・学習して組み込んでくれます。

これまではスマホを持っていて、操作を理解できる人にしか行なえなかった自動化設定が、家の中にいる家族誰もが、声だけで行なえるようになっています。汎用性と広がりが飛躍的に高まりました。

――現在は、他社も多くのAIサービスを展開しています。それらとの違いはどこになりますか? また、他社連携の可能性などについても教えてください。

ヴィスコンティ:基本的に、我々はオープンなスタンスで臨んでいます。過去にマイクロソフトとも連携していましたが、同様に、他社に門戸を開きます。

一方、他社の取り組みも興味深いのですが、我々は、音声操作の簡便さやアクセス性の高さ、実用的な深い連携などに注力しています。

西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
 メールマガジン「小寺・西田の『マンデーランチビュッフェ』」を小寺信良氏と共同で配信中。 Xは@mnishi41