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シャープの新BDレコーダ「BD-HDW50」をチェックする
~「2番組AVC録画」や「同時操作」で簡単さをウリに~
今回取り上げるのは、シャープのブルーレイディスク「BD-HDW50」。同社の中でも、最高級モデルに位置している。市場的には、「8.5倍長時間録画」というキャッチフレーズが目立つ製品だが、本質はそれだけにとどまらない。AVファン、特にライブラリー派のユーザーには、初の「2番組同時AVC録画」対応である、という点に注目したい製品である。「動作制限の少なさ」をウリにする本機は、どの辺りが快適になっているのだろうか? 操作感を中心にチェックしてみた。
■ ハードウエアを大幅刷新、AVC「二番組同時録画」を初めて実現
BD-HDW50。デザインは前機種から大きな変化はなく、トレンドに添った薄型筺体を採用 |
使い勝手をチェックする前に、BD-HDW50のスペックを簡単におさらいしておこう。シャープのBDは、今冬の場合5モデル。価格重視のシングルチューナモデル「HDS43」とVHS一体型「HDV22」をのぞく3機種は、基本的にHDD容量によるモデル分けが基本だ。BD-HDW50のHDDの容量は1TB。他社の最上位機種が軒並み2TBになっていることを思うと、ちょっと残念ではある。
とはいえ、価格は他社の2TBモデルの実売価格が27万円から29万円であるのに対し、HDW50は19万円前後。HDW50でも、HDD容量以外に、高音質・高画質化のために付加価値の高いパーツを採用しているが、ハード設計が大幅に異なるわけではない。同じ最上位機種ではあっても、他社の「ホームシアター仕様モデル」とは、ちょっと位置づけが異なる。
前面。中央の大きな動作インジケーターも健在 | 背面 | 側面 |
Blu-rayドライブは6倍速対応。スペック面では他社と大きな差はない | エコをウリにするシャープらしい「エコモード」スイッチ。オンにすると、録画予約などの機能をオフにし、待機電力を通常時0.8Wの0.2Wまで落とす | 最上位機種HDW50のみ、インシュレーターなどの高音質化パーツが採用されている |
ブルーレイ市場がアーリーアダプター層から一般層へ広がっている現在、各社が打ち出す「メッセージ」もかなり「わかりやすさ重視」にシフトしつつある。今回、シャープが強調するのは「制約の少なさ」だ。
レコーダを日常的に使っていると、意外と不満に感じるのが「動作制限」。一番気になるのは、二番組同時録画時に、片方のチューナでしかMPEG-4 AVC/H.264での長時間録画ができない、という点だ。現在は、各社ともにどのチューナでも自動チャプタ設定が効くようになったが、AVC録画が採用されてからそろそろ2年が経過しようとしている現在でも、二番組同時録画に対応しているメーカーは、現時点ではシャープだけだ。
AVC録画が二番組同時にできない機種が多い理由は、AVCのエンコーダ/トランスコーダが1系統しか搭載されていないためである。AVCへの変換は負荷の大きい作業であるので、当然それなりに規模の大きなLSIが必要になる。コスト制約が厳しい家電の世界では、製品投入までに時間がかかるのが実情だ。
詳細は公開されていないが、シャープは今回、AVC録画のためのLSIを二系統搭載し、二番組同時AVC録画を実現しているという。すなわち、今回シャープは、レコーダを開発するための基盤プラットフォームを大幅に刷新した、ということになる。
まず、実際に録画してみよう。EPGから録画したい番組を選ぶと、いきなり録画予約が終了する。録画レートなどをデフォルト設定のまま、「とりあえず設定」してしまうためだ。出荷時状態での記録モードは「5倍」。ビットレートは約4.8Mbpsだ。
録画予約は、番組を選ぶだけ。設定メニューは登場せず、いきなり登録した設定で録画情報が書き込まれる。簡単に使うにはいい仕様だ。さらにもう一度録画済み番組を選ぶと、その時初めて設定変更メニューが表示されるようになっている |
予約設定の変更画面 |
設定を変更をする場合には、再び同じ場所を選択する。すると今度は選択肢が現れ、ビットレートなどの変更が可能になる。毎回設定を変更する場合を別にすれば、この操作方法はなかなか快適だ。
二番組同時録画の場合にも、「簡単さ」は維持されている。時間が重なる予約を入れようとすると、画面に警告が表示されるので、そこで二番組同時録画にするか、予約しないかを選べる。
二番組同時録画を行なう際の画面。裏録をする場合には左にカーソルを動かしてから決定する。 |
多くのでは、搭載されている2つのチューナを、「チューナ1」「チューナ2」といった「別々の名前」で管理する。HDW50ではそれらは「表録画」「裏録」という、あまりデジタルらしからぬ名称になっている。だが、一般のダブルチューナ機と違うのは、それぞれのチューナの使い分けをあまり意識させないことだ。
基本的にHDW50では、録画予約時はまず「表録画」から予約が行なわれる。そして、次に時間がかぶるように録画予約を行なう場合には、「裏録」に設定するか「重複予約」にするか、という形になる。重ならない限り予約録画では常に「表録画」が使われ、「裏録」は使われないので、ユーザー側もあまり難しいことを考えなくていいわけだ。重複予約とした場合、すでに予約済みの番組の録画を「一回休み」にし、新たに予約する番組の方を優先にする。特番などを録る際、こういう設定になっているととても便利である。
手動録画時に「裏録」を使うのか、そうでないかは、設定で変更することができる。通常は「裏録」にしておいた方がいいだろう |
表録画・裏録ともにAVCが同時に使えるため、両者の機能的な差はほとんどない。そのため、裏録設定時も、ビットレートなどはまず「決めうち」で設定が入力され、その後必要な場合のみ自分で修正する、という形になっている。
すなわち、ビットレート変更をほとんどしないなら、ほぼ純粋に「番組を選ぶ」という行為だけで、どんな録画予約設定も終了することになるわけだ。これは確かにシンプルで、簡単だ。
ちなみに、予約録画でなく「手動録画」の場合には、「表録画」でなく「裏録」動作がデフォルトとなる。理由は、予約録画の基本が表録画であり、それと同時に進行する可能性が高いことと、表示中のチャンネルを切り換えても録画が継続するように配慮するためと考えられる。
■ 動作制限の少なさが気持ちいい。唯一制限の多い「携帯向け動画」変換機能
同様に、他の機種で制約が大きいのが、BDへのダビングやBD-ROMの再生と、録画予約の同時進行だ。例えばソニーの場合、録画時にはディスクへのダビングが行えないし、BD-ROM再生も「録画1」動作時はできない。パナソニックも、ダビング中には二番組同時録画ができない。
録画番組再生とダビングを同時にしている時の画面。「停止」ボタンを押すと、このように「どちらを止めるのか」が表示される。まさに「マルチタスク」的な考え方だ |
だがHDW50には、それらの制約がほとんどない。二番組同時録画中にもディスクへのダビングが行なえるし、BD-ROMの再生もOK。新しいディスクをマウントした際のイニシャライズや、ディスクのクローズ(ファイナライズ)については、録画動作との同時進行はできないようだが、それ以外は問題ない。各種メニュー動作も、録画動作と干渉して動作制限が起こる部分がほとんど見受けられない。もちろん、編集操作も二番組同時録画と同時に動作する。
こうなると、「同時動作にはほとんど制限はないのでは」と思えてくるが、例外が1つあった。
それは、録画と同時に「携帯電話向けの動画」を生成する場合だ。HDW50は、録画番組を著作権保護されたままコンパクトに圧縮、携帯電話向けに変換して転送する機能を持っている。ワンセグの自動録画でなく「変換」であり、最大で640×360ドット/1.5Mbps/30fpsのデータになる。そのため、画質はかなり良好だ。
高画質で番組持ち出しができるという点は魅力だが、この作業はそれなりに負荷が大きいらしく、同時録画設定にしていると、いきなり動作制限が現れる。二番組同時のAVC録画はできず、片方はDRモードでの録画となるし、録画済み番組の再生も行なえなくなる。また、「裏録画」側では、携帯向け動画の生成ができない。全番組で「携帯向け同時録画」を行なう設定にしておくと、HDW50の使いやすさをスポイルする結果になるかもしれない。
普段は、携帯向け動画の同時記録はしないように設定しておき、必要な時だけ設定を変えて対応するのが現実的な利用方法となるだろう。
携帯電話向け動画録画の確認画面 | 携帯電話向け動画の同時記録が設定されていると、「裏録」設定時にこのような画面が表示される。同時記録設定がされている場合には、DRモードでないと録画できない | 携帯電話向け動画記録のビットレート設定。決め打ちではあるが設定に幅があり、画質・記録時間の両方にこだわって選べるのがありがたい |
■ メニューを含めた操作体系も刷新。編集機能の仕様には疑問も
メインメニューとなる「新・モーションガイド」。AQUOSでも採用されており、画面邪魔することなく設定が変えられるのが特徴 |
すでに述べたように、HDW50は以前のモデルに比べ、ハードウエア基盤の面で大幅な刷新が行なわれている。同時に、ソフトウエア面でも大きな変更が加えられ、ユーザーインターフェースも一新されている。すでに述べた「同時動作制限のゆるさ」もその一環だが、当然ながら、メインメニューなども刷新されている。
以前の同社のメニューは、アイコンが並ぶシンプルなものだった。だが、HDW50のメニューは大きく違う。テレビ画面が7割から8割程度に縮小され、機能選択用のアイコンが上列に、各アイコンに関する機能や情報が並ぶ。できる限りテレビ画面の上に情報やアイコンを重ねて隠すことなく、そのまま操作ができるように配慮されているわけだ。
このユーザーインターフェイスは、同社のAQUOSでも採用されはじめたもので、「新・モーションガイド」と名付けられている。現在の同社の標準的なインターフェイスといっていいだろう。テレビ番組に影響を与えず、わかりやすさを両立させた構成である。
リモコン |
全画面を覆ってしまうのは、EPGや録画設定、録画番組の呼び出しといった場合である。この場合には、以前の操作画面と大きく変わるところはない。
操作そのものも、旧機種に比べ素早くなっているような印象を受ける。旧機種との比較ができなかったので、具体的にどのくらいの高速化とは言えないが、他機種に比べても、動作はきびきびとしている印象を受けた。
ただし、カーソルの移動は別だ。大量の録画リストの中から目的のものを選ぶ場合などに、目的の場所へカーソルを移動させる際には、多少もっさりとした感触だ。これは、動作が遅いというより、パソコンでいうところの「キーリピートが遅い」感じである。ボタンを連打するとすこし移動が速くなるのがその理由だ。これは意図的なものだろう。カーソル移動に類する操作に慣れた若い人ならば「高速なカーソル移動」を求めるのだろうが、そうでない年配の方などならば、しっかりと「1ボタン操作で1移動」が確認できる方がいい。このあたりの考え方は、メーカーのポリシーが出やすい部分といえる。
今回、操作面でもう一つ改善が目立ったのが「番組表検索」の機能だ。他社が自動録画系を充実させているのに対し、シャープはまだその種の機能を持っていない。他方、それをカバーするためか、検索系の機能が強化された。面白い取り組みだと思ったのが「特徴検索」という機能。要はジャンル検索なのだが、放送の長さなども複合的に組み合わせ、24種類から選んで検索できるようになっている。他社の自由な検索に比べると簡素だが、逆にその分使いやすい。
もちろんキーワード検索もあるので、そちらでより詳細な条件設定も可能だ。また、その際の文字入力も非常に使いやすいものになった。要は携帯電話の操作体系に合わせただけなのだが、迷う部分が少なく、ストレスがない。テレビでは、なぜか独自の日本語入力システムが使われることが多く、携帯と「似ているが実は大きく違う」操作である場合が目立つ。もうテンキーを使った文字入力については、素直に携帯のものをそのまま採用した方がいい、という発想なのだろう。
番組をジャンルから検索する「特徴検索」機能。ジャンル検索という点では珍しいものではないが、番組の「長さ」に着目するのは面白い | HDW50での文字入力画面。同社の携帯電話に準拠した操作体系になっている。携帯での文字入力に慣れていれば、マニュアルなどを見なくてもすぐ操作できるのがポイントだ |
HDW50の番組編集画面。いわゆる「イン点・アウト点」指定型のオーソドックスな編集機能だ。だが、多少動作が遅いこと、操作体系が独特であることなどから、あまり操作性が良くない |
ただ、操作感の面ではっきりと疑問に思う部分もある。それは「編集」だ。HDW50の編集機能は、チャプターなどを使って不要な部分をカットしていく、一般的なものである。だが、操作体系がちょっと妙だ。
チャプタの移動が「映像の再生中」にしか行なえないのである。そのため、オートチャプターを生かしてCMカットを行なう際にも、ボタンを押す回数が妙に多くなる。このような形である理由は、一時停止時にチャプタ送りボタンが「コマ送り」になる、という形になっているためだ。他社の場合、普通は「早送り」ボタンが一時停止時に「コマ送り」で、チャプタ送りボタンは常にチャプタ送り、という操作体系が一般的。なぜ違うのかはわからないが、変な独自性は出さず、他社に合わせた方がわかりやすいと思う。
なお、旧機種では、3秒よりも短いチャプタを作ったり、3秒より短い部分をカットしたりできない、という制限があったが、HDW50ではなくなった。番組頭の不要部を切る際に気になる仕様だったが、HDW50世代では、問題なく編集できる。
■ 長時間録画画質はイマイチ。「二番組同時」はトランスコーダーだからできた?
最後に、肝心の画質についてもコメントしておこう。HDW50は、カタログで「8.5倍録画」をウリにしている。従来は最長「7倍」(ビットレート約3.4Mbps)であったものが、8.5倍(約2.8Mbps)で記録できるようになった。
だが同社の話によれば、AVC圧縮のためのLSIやロジックを大幅に変更したわけではないようだ。ご存じの方も多いだろうが、AVC圧縮の仕組みとして、他社が「エンコーダ」を採用するのに対し、同社では「トランスコーダ」を採用している。放送波の映像をMPEG-2から完全にデコードしてしまわず、動きベクトル検出部をMPEG-2の情報のまま使い、AVCへと変換する形を採る。シャープはこのために「画質が向上する」と主張しているが、その部分については他メーカーには異論もあるようだ。
どうもシャープが採用しているトランスコーダには向き/不向きが大きいようで、破綻が大きく感じる部分も目立つ場面と、低ビットレートでも画質が良いと感じる場面が多い。ただ、同社がウリとしている低ビットレート下での利用では、ディテールのつぶれとブロックノイズ感が大きく、あまり感心しない画質だ。
正直、ウリである8.5倍モードの画質はブロックノイズが多く見るに堪えないし、標準設定である5倍でも、他社に比べ精細感が落ちる印象だ。他方、「3倍」(約8Mbps)以上の高ビットレート下では、問題は感じない。「8.5倍モード」に過大に期待して購入するのはお勧めできない。そもそも、各社とも、開発の現場では「最長時間競争は数字だけの戦い」というのが本音でもあるようだ。AVC録画画質の競争は、記録時間よりも、実質的な画質を競う方向で進めた方が実りがある、と思う。
だが視点を変えると、トランスコード方式の利点が感じられる。それは、まさに本製品の特徴である「AVCで二系統同時録画ができる」ということだ。一般に、トランスコーダーはLSIの規模がエンコーダに比べ小さい。シャープ側の説明によれば、HDW50では、従来機種に近いトランスコーダが二系統搭載されているという。ハードウエアの価格を大幅に上昇させることなく、AVC録画を二番組同時に行なえるのは、トランスコーダを採用しているがゆえ、といってもいいだろう。逆にいえば、「リーズナブルに高画質を実現する」ならば、トランスコーダの採用に大きな意味がある、ということである。
同時録画や操作などのマルチタスク性能による使いやすさ。それこそが「BD-HDW50」の最大の特徴といえるだろう。
(2009年 11月 19日)