西田宗千佳の
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合言葉は「パーフェクト録画」。ソニー新BDレコーダの狙い

~「パッと起動!」などユーザーの声で改善~


商品企画を担当した成田氏(左)と、設計を担当した米田氏(右)

 今シーズンのレコーダー新製品の中で、ハードウエア的な変化がもっとも大きなものを挙げろと言われれば、「ソニー」といえる。

 従来のソニーBlu-rayレコーダの課題であった2番組同時録画中の制限などを撤廃。Blu-ray 3D再生中でも2番組の同時MPEG-4 AVC/H.264録画が可能となったほか、起動や動作も大幅に高速化。大容量BD規格のBDXL対応など様々な機能強化が図られている。

 ここれまでの製品とはどんな点が変わり、このような進化を果たしたのだろうか?  そして、その狙いはどこだろうか?  商品企画を担当したコンスーマー・プロフェッショナル&デバイスグループ ホームエンタテインメント事業本部 企画戦略部門 商品企画部HAV企画1課 プロダクトマネジャーの成田篤史氏と、設計を担当したソニーイーエムシーエス 木更津テック 設計センター 商品設計部 設計6課 エレクトリカルマネジャーの米田潔氏に話を聞いた。


BDZ-AX2000BDZ-AT900

製品名HDD容量特徴チューナ発売日店頭予想価格
BDZ-AX20002TB高画質/音質シャーシ
Blu-ray 3D
W AVC録画
瞬間起動
番組おでかけ転送
スカパー! HD録画
CREAS Pro
MS/SDスロット
HDV/DV
HDMI 2系統
ダブル9月25日27万円前後
BDZ-AX10001TB10月22日20万円前後
BDZ-AT9001TBBlu-ray 3D
W AVC録画
瞬間起動
番組おでかけ転送
スカパー! HD録画
CREAS 3
15万円前後
BDZ-AT700500GB11万円前後
BDZ-AT500320GB95,000円前後
BDZ-AT300S500GBBlu-ray 3D
AVC録画
瞬間起動
CREAS 3
シングル9万円前後

 


 

■ ユーザーの声にあわせリニューアル。制限撤廃を新プラットフォームで実現

 

ホームエンタテインメント事業本部 企画戦略部門 商品企画部HAV企画1課 プロダクトマネジャー 成田篤史氏
 今シーズン、ソニーはレコーダのラインナップを文字通り「一新」している。2008年頃は「用途」で分けていたラインナップが2009年にシンプルなグレード別に変わり、2010年にはその方向性を引き継いだ上で、基本モデルといえる「AT」系、AVクオリティに注力した「AX」系を分ける、という形になっている。

 商品企画を担当する、ホームエンタテインメント事業本部 企画戦略部門 商品企画部HAV企画1課 プロダクトマネジャーの成田篤史氏は、「徹底したユーザー調査を行ない、その要望を実現する形で改善した」と説明する。

 例えばサイズ。ソニーのレコーダは、奥行きまで含めた体積で比較すると、最小というわけではない。すべてを追求するのはなかなか難しいものだ。そこで注力したのは「薄さ」の実現である。

成田氏(以下敬称略)アンケートで、奥行きと高さ、どちらを重視しますか? と聞いたところ、ほとんどの方が「高さ」と答えていました。そこで今回は「高さ」(薄さ)方向を縮めよう、ということになったのです。ダブルチューナモデル、シングルチューナモデル共に、業界最薄としました。AXシリーズは高画質・高音質にこだわるために厚くなっていますが、それでも弊社従来モデルよりも薄い、81mmとなっています。

リモコンの改善点

 リモコンも同様に、アンケートに基づいて改善した部分です。従来は長く大きいと指摘されていました。そこで、今回はコンパクトにしたいと考え、全長を250mmから220mmにしました。

 だがやはり、最大の改善は「動作制約がわかりづらい」という不満点の改善だ。開発担当のソニーイーエムシーエス 木更津テック 設計センター 商品設計部 設計6課 エレクトリカルマネジャーの米田潔氏は「システムを変更する、と決まった段階から、動作制限の撤廃は決まっていた」と話す。米田氏の言葉でおわかりのように、今回の新製品の最大の特徴は、レコーダの基盤となるプラットフォーム部分の刷新にあるのだ。

 従来、ソニーのレコーダは、2番組同時録画時やBD-ROM再生時、ダビングや早見などに細かな動作制限があり、分かりづらく不便だった。新型では写真でもおわかりのように、基本的な部分での同時動作制限がほとんどなくなっている。

 同様に、はっきりと変わったのが起動速度を中心とした動作速度の高速化だ。起動時間(正確には、画面に放送が表示されるまで)が最短0.5秒にまで短縮されている。

 こういった基本的な部分の改善が行なえたのは、製品の技術的基盤であるプラットフォーム部分が変更されたため、といっていいだろう。

一般的な番組の録画・再生と、ダビング時に関する動作制限はほぼなくなっているもっとも起動が速い「瞬間起動モード」の場合、0.5秒で映像が出る
ソニーイーエムシーエス 木更津テック 設計センター 商品設計部 設計6課 エレクトリカルマネジャーの米田潔氏

米田:新しいシステムを検討する段階から、同時動作制限を撤廃する前提で検討をおこなっていました。起動速度や消費電力についても同様です。

 同時動作制限については、チップ(エンコーダLSI)を2つ並べてやれば解消できるだろう、ということが見えていました。ただし、部材費との兼ね合いもあり、どうするか判断が難しいところではありましたが、やはり動作制限撤廃が最優先と考え、決断しました。部品だけでなく、トータルでのコストで努力をすることで実現しました。W録画はもちろんなのですが、「おでかけ転送」用映像を録画時に同時作成する場合、すなわち、都合4つのデータを同時にAVCで記録する場合にも、問題はありません。

 高速起動などについては、主にソフトウエア面での改善になります。ですから、大幅に使い勝手が改善できたのは、システムハードウエア+ソフトウエア開発の努力の組み合わせと、考えていただければ。

 その後、米田氏の口から面白いフレーズがぽろりと漏れた。

米田:実は、内部的には「パーフェクト録画」という合言葉で開発を進めていたんですよ。

 特にW録時の制限をはずすことで「パーフェクトな録画環境を目指す」ということが、そのキャッチフレーズの目指すところ。新BDレコーダの狙いがこの言葉からも伺える。

 とはいうものの、残念ながら、100%すべての動作で「制限がない」わけではない。DLNAやダビング、スカパーHD録画など、いくつかの場面において、制約が存在する。成田氏も、「まず単体のレコーダとして使うものに対して、同時動作制限を無くそうというのがコンセプト」と語る。

 具体的には、再エンコードダビング中のチャンネル切り替えやHDD再生/録画や、スカパー! HD再生中のBD-ROM再生やDLNAサーバー動作、W録中のお出かけ転送、ダビング中のDLNAサーバー動作、ライン録画中のDVダビング、DV→HDDダビング中のライン録画、USB経由でのAVCHD→HDDダビング中のチャンネル切り替え/HDD再生などに制限が残る。すべての人が日常的に行なう動作ではないため、現状ではしょうがないところもある。このあたりの改善は、今後の課題といえそうだ。

 個人的には、今回も録画後の映像をHDD内で他の録画モードに「再エンコード」する機能がないことが気になる。成田氏によれば「アンケートでは、そういった要望はあまりあがっていない」とのことだが、搭載されていればやはり便利だろうと思うのだが……。AVCでのW録が実現されている現在、以前ほどのニーズはないかも知れないが、実現してほしい機能と感じる。

 なお、パナソニックのDIGAが一足先に実現した「BDからHDDへの書き戻し(ムーブバック)」については、「機能としては検討している」(成田氏)という。


 


■ 「一発録画」で録画予約が簡単に。「日時での録画」はハイレベルユーザーにもプラス

新型での録画予約詳細画面。「録画1・2」の区別はなくなっている

 今回の改善により、W録画時の「録画1」「録画2」という考え方は一切なくなっている。録画予約の画面からも、「録画1・2」の設定は消えた。その結果、録画の方法はおそろしくシンプル化している。

成田:今回より導入したのが、番組表からの一発録画です。

 EPGの上で番組をみつけ、その上でリモコンの「録画」ボタンを押すと、それで録画予約が終了します。もう一度押せば解除です。そのため今回より、リモコンの「録画」ボタンの上に「一発録画」という刷り込みを入れました。一発録画は「My! 番組表」でも動作します。


新おまかせリモコン。録画ボタンの上に「一発録画」ボタン

 My! 番組表というのは、名前のとおり「自分のための番組表」であり、ジャンルを自分で選び、自分が気になるジャンルの番組だけを集めた番組表を表示する機能だ。この機能と一発録画の相性は良く、リモコン上に新設された「My! 番組表」ボタンを押して番組検索>見つかった番組を一発録画、という形ですすめる、と考えるといいだろう。

 だが、この機能はどちらかといえば「先進的な人」向け、と感じる。「おまかせ・まる録」やジャンル抽出のような機能は、わかってしまえばとても便利な一方で、テレビ番組表すらあまり見ないで「なんとなく気になる番組を録画する」といった感覚の人にはちょっと前のめりすぎる。

My!番組表

らくらくスタートメニューらくらくスタートメニューの番組予約画面

 そういった人に今回特におすすめと感じたのが「日時から選ぶ」という録画予約方法だ。

日時指定検索

「日時から選ぶ」を選択すると、レコーダは選択された日時からEPGを「リアルタイム」に検索し、指定された日時の「近辺」で放送される番組を表示してくれる。要は「なんとくなくこの日のこの時間にあったはずなんだけど、番組名もチャンネルも覚えてないや」というゆるい感覚でも、録画予約ができるわけだ。

成田:「日時から選ぶ」では、ぴったりその時間・その日時だけでなく、周辺の時間も検索しています。ビデオデッキ時代のような感覚で録画予約をしていただくもの、と考えてください。EPGになじんでおられない方も多いので……。

 ソニーは「おまかせ・まる録」などで、EPGデータの活用と検索を使った機能の実装に力を入れてきた。一見初心者向けと思える「日時から選ぶ」録画予約だが、その実はかなりインテリジェントなもので、レコーダを使いこなしているベテランユーザーにもうれしい機能だと感じた。

 


■ AX系に搭載された新LSI「CREAS Pro」。画質設定もインテリジェント化の方向

ビジュアルアテンションでエンコード画質を改善

 今回の新製品で感じるのは、全般的に「シンプル」を追求している、ということだ。その裏にはインテリジェントな処理が隠れているのだが、操作面ではできるかぎりシンプルな見せ方になっている。

 新レコーダでは、MPEG-4 AVC/H.264エンコードでハイビジョン解像度で最長約11倍の長時間録画に対応している。表面上はっきりとは見えないが、画像圧縮時の画質改善を狙って搭載されているのが「ビジュアルアテンション」という機能である。

成田:新モデルでは、エンコーダが「インテリジェントエンコーダー2」に進化しているのですが、その新機能の一つです。デジカメなどで使われている顔認識技術を生かし、注目が集まりやすい人の顔や体、また背景のディテールが細かい部分などにビットレートを多めに配分し、画質が向上するよう、努めています。

 エンコード系だけでなく、高画質系も「シンプル化」が進行中だ。特にAXシリーズには、再生系高画質化回路として、新LSIの「CREAS Pro」が搭載されている。既存のCREAS系機能を持っているのはもちろんだが、DVD映像などの画質を向上する「超解像」など、新機能もいくつか搭載されている。もっとも大きいのは、内部演算処理が14bitから16bitになり、アウトプットも16bit相当のデータとなった、という点だろう。

ソニーのレコーダーに共通する高画質化回路「CREAS」の進化系統。今回はAX系に、新規LSIである「CREAS Pro」が搭載されているAT系の「CREAS 3」と、AX系の「CREAS Pro」の差

成田:3Dについては、CREAS Proで表示時の色調整が行なわれています。またHDMIでの音声出力については、映像クロックから音声クロックを作るのではなく、音声クロックを独立して処理することで高音質化を図っています。

 そこで大切になってくるのが、いかに簡単に高画質を実現するか、という点だ。設定項目が多いのはいいのだが、どこをどうすればいいかがわかりにくく、最適な設定がみつけにくくなっている。新レコーダでは、「ディスプレイ機器」と「画質傾向」の組み合わせを選ぶだけで、簡単に最適な画質調整が行なえる「おまかせ画質モード」が準備された。

おまかせ画質モードの概要。ディスプレイの種類や表示しているコンテンツの特性にあわせ、表示設定が自動的に最適化される初回接続時に接続するディスプレイを選択おすすめカスタム値

米田:おまかせ画質モードでは、アウトプットに使うディスプレイに合わせた設定が行なわれます。もちろんご自身で細かく調整していただくこともできますが、できる限り最適に感じられるよう、こちらで設定を追い込んでいます。

 特に放送の表示時には、EPGのジャンル情報にあわせた調整も行なっています。

 こういった機能は、多くの人にとって望ましい変化といえる。多くの人が様々な機器で利用するならば、インテリジェントに最適化されることは望ましい。もちろん、その内容が適切であってのことだが。現状、ソニーのレコーダでは「BRAVIAを検出し、そこに特化させることまではしていない」(米田氏)という。その辺は、シャープとの考え方の違いだろう。

 一見地味に思えるが、レコーダーにとって「インテリジェント化による簡便さ」は、今後もっと追求すべき内容である。新プラットフォームの上で、そのような改善がそこまで追求されていくのか。ソニーのレコーダに関しては、今後気になる部分である。

(2010年 11月 5日)


= 西田宗千佳 = 1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「iPad VS. キンドル日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」(エンターブレイン)、「iPhone仕事術!ビジネスで役立つ74の方法」(朝日新聞出版)、「クラウドの象徴 セールスフォース」(インプレスジャパン)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]