鳥居一豊の「良作×良品」

第112回

これがボーズのうまさ! Atmos対応、拡張可能な「Smart Soundbar 900」

ボーズ「Smart Soundbar 900」

サウンドバーでのDolby Atmos対応が標準的になってきたせいもあり、サウンドバー界隈が盛り上がっている。国内メーカーだけでなく、海外のオーディオメーカーの製品も数多く登場。今回紹介するのは、ボーズのサウンドバーの上級モデル「Smart Soundbar 900」(直販価格11万9,900円)。サウンドバーとしては高級機と言える価格帯で、サイズも横幅104.5cmと大きめ。50型以上の大画面テレビと組み合わせることを想定したモデルだ。

ボーズと言えば、男の子が好みそうなブラックで、見た目も無骨というイメージが筆者にはあるが、このモデルではブラックだけでなくホワイトのモデルも用意されている。前面はパンチングメタルで覆われ、上部は艶やかなガラスパネル仕上げで、薄型のスリムな形状に角を丸めたフォルムでデザインにも力を注いでいる。明るいリビングで快適に大画面を楽しむためのモデルと言っていいだろう。もちろん、高級モデルだから音の実力も気になるところ。

ブラックモデルに加え
ホワイトモデルも用意

サウンドバーの内部には、スピーカーが9個内蔵されており、Dolby Atmos対応のため、天井に向けて放射するイネーブルドスピーカーも備える。ボーズの「PhaseGuideテクノロジー」との連携でサウンドバーでありながら広いエリアで豊かな音場を楽しめるという。

スピーカーが9個内蔵されている

そして、スマートスピーカー的な機能も万全。Amazon AlexaとGoogleアシスタントに対応しており、音声による操作や対応機器との連携も可能だ。スマホとの連携時はノイズキャンセル機能を備えたマイクでハンズフリー通話までできてしまう。

リビングにマッチするデザイン。サブウーファーやサラウンドスピーカーも追加可能

さっそく外観を見ていこう。ボディは横長のサイズながらもしっかりとした作りで剛性も高い。薄型テレビの前に置いても邪魔にならない高さ5.82cmの薄型フォルムでパンチングメタルのデザインもよく出来ている。ガラスパネルの上面も美しい仕上がりでインテリア性はなかなかのもの。デザインを重視したい人も満足できるものになっている。

Smart Soundbar 900をテレビの前に設置。取材機はホワイトのモデルをお借りしたが、案外カッコイイ。黒主体のテレビとの組み合わせもなかなか良い感じ

背面はボーズ得意のバスレフポートがあり、中央付近に接続端子がある。これがちょっと意外で、入力端子はHDMI(eARC)端子と光デジタル音声入力のみ。価格を考えるとHDMI入力がないのは少々疑問。おそらくは薄型テレビとHDMIケーブル1本で接続して手軽に使うモデルなのだろう。このほかに、LAN端子、電源端子があり、音場補正用のADAPTiQ入力やベースモジュール用出力、IRブラスター用端子などもある。このほかにBluetooth機能も備える。

オプションとなるワイヤレスサラウンドスピーカーやサブウーファー(ベースモジュール)を追加すると、より本格的なホームシアターシステムへグレードアップすることも可能。総額で25万円ほどになるが、デザインもサウンドバーと同様になっているし、カラーもブラックとホワイトが用意されていて、トータルでデザインも優れた本格的なシステムになる。

別売のサブウーファー(ベースモジュール)
ワイヤレスサラウンドスピーカーの追加も可能
背面端子はボディのへこんだ部分に配置されていて、ケーブルのコネクターがはみ出さないようになっている。写真の右からHDMI入力、USB(サービス専用)端子が見える
HDMI入力と向かい合わせになる面にはネットワーク端子と光デジタル音声入力がある。入力端子はこれだけ
隣のへこんだ部分には、ベースモジュール用端子、ADAPTiQ用端子、IRブラスター用端子などがある
最後は電源端子。メガネ型の電源端子だ

設置してみると、手持ちの薄型テレビ、REGZA「55X910」とちょうどいいサイズ感で55型の画面に比べてちょっと横幅が短いくらいだ。底面の設置部分は両端ではなくやや内側にあるため、設置に使ったテレビラックの幅がやや足りないものの、設置には問題がなかった。

ガラスパネルの天面は両端にパンチングメタルの開口部があり、ここにイネーブルドスピーカーが配置されている。背面にはバスレフポートの開口部もあり、覗いてみると奥まで続いていて長いポート長となっていることが推測される。このあたりはボーズ得意の低音再生のポイントでもある。サウンドバー単体でどれだけの低音が出せるのかが楽しみだ。

背面の両端にはバスレフポートの開口部がある。フレア状の形態になっているなど、作りもしっかりとしている
後方から上面を見たところ。天面にあるイネーブルドスピーカーの開口部。こちらもパンチングメタルのカバーがある
底面部。ラックなどとの設置部分は大きめの樹脂製のシートが貼られている。振動対策も兼ねているのだろう。ラックの幅が狭くても設置できるようになっているのはありがたい

ガラスパネルの天面は見た目はとても美しいのだが、予想通りテレビの電源を入れると画面の映り込みはかなりある。これを気にするかどうかで好みは分かれそう。テレビ台の高さが低いと天面がよく見えて、そのぶん映り込みも目立ちやすくなる。少なくとも映画館のように部屋を暗くして映画を見る人にはちょっと気になる。このあたりは明るいリビングで使うことを前提としたデザインなのだと思う。

天面の映り込みの様子を撮影。ガラス製ということもありけっこうはっきりと映り込む
天面全体を見たところ。横幅は思ったよりも長めだ

基本設定はスマホアプリ。自動音場補正や音楽配信サービスの設定も

配線や電源との接続が終わったら、スマホ用アプリの「Bose Music」で設定を行なう。スマートスピーカーなどと同様に、セットアップした機器との連携や各種サービスを利用できるようにするためだ。基本的にはアプリを起動して、ガイドの説明通りに操作していけばいい。アカウントの作成や製品の登録などを行なった後、必要があればオプションのサラウンドスピーカーやベースモジュールとの接続を設定する。

アプリを起動すると製品のセットアップ画面となる。登録したい機器を選択する
スピーカーの接続設定画面。「製品に接続」を選ぶと自動で機器を探してくれる
My Boseアカウントを作成する。メールアドレスなどの情報を入力する
続いて、サラウンドスピーカーやサブウーファを追加する場合は同様に接続設定を行なう

サウンドバーとの接続が完了したら、自動音場補正機能の「ADAPTiQ」を設定。付属のヘッドバンド型マイクを使って、視聴位置などの音響特性を測定するものだ。スマホ画面の指示に従ってマイクを接続し、複数の位置で測定を行う。このときすでにいろいろな位置からテストトーンが鳴り、なかなかのサラウンド再生能力であることがわかる。

ADAPTiQ用の測定マイク。ヘッドバンドの頂点部分にマイクがついている
ADAPTiQの設定。手順通りに複数の位置で音場の測定を行なう
背面のADAPTiQ用端子にマイクを接続する
ヘッドバンドを装着して、まずは視聴位置に座る
測定中。いろいろな場所からテストトーンが鳴る
調整が完了。これでマイクは外してOKだ

ADAPTiQの測定・調整が完了したらセットアップも完了だ。この後は必要に応じて音楽配信サービスなどの設定も行なう。「Bose Music」はSpotify Connect対応のほか、Amazon MusicやTune In、Deezerなどにも対応しており、設定後はBose Musicから直接楽曲の操作も可能。ただし、筆者が利用しており今回も実際に試したAmazon Musicの場合、Bose Musicの操作画面では、ULTRA HDなどの楽曲の詳細が表示されず、空間オーディオでDolby Atmos音源を再生しても、どうやらステレオ音声での再生になるようだ。つまり空間オーディオには非対応。これはちょっと残念。

Bose Musicの設定画面。音楽サービスなどとの設定もここから行なう

しかし、Amazon Musicアプリを起動して、そこからAirPlayでSmart Soundbar 900で再生すると、ULTRA HDの再生状態の詳細も確認できるし、空間オーディオでもDolby Atmosも360 Reality Audioのどちらも対応しているようだ。このあたりの細かな挙動は詳細不明だが、せっかくのDolby Atmos対応のサウンドバーなのだから、空間オーディオも楽しめるのはやはりありがたい。ステレオ音声と切り替えることもできるが、比較試聴するまでもなくDolby Atmosらしい豊かな音の広がりと立体的な空間の再生が楽しめる。

そして、ソースをテレビに切り替えれば、当然だがテレビの音声も楽しめる。音楽配信サービスやテレビ放送をいろいろと試してみたが、設定などを見ても音声モードの選択などはないようで、調整ができるのは、センター/ハイトチャンネルのレベル調整と、低音と高音の調整くらいだ。あとはHDMI連携機能や映像と音の同期についての調整のみとなる。そもそもADAPTiQで音響特性の調整は済んでいるので、細かな調整などは必要ないという考え方なのだろう。オーディオマニア的には物足りなさもあるが、誰でも簡単に使えることを目指している製品だ。

実際、音楽再生ならば音楽モードに切り換えたくなるというような不満はないし、入力される音声が2チャンネルか5.1チャンネルかAtmosかでそれぞれに最適なバランスで再生しているようだ。2チャンネルの音声は純粋なステレオ再生ではなく、サラウンドでより豊かなステレオ感のある再生となる。

だから、テレビの音声は画面から出ているよう音の定位が画面位置まで持ち上がった感じになるし、左右の広がりもサウンドバーの実際の横幅よりも広い。それでいて変にサラウンド感を強めたものにはしないので、位相がずれたような違和感もないし音が後ろに回り込むようなこともない。左右の広がりが豊かなステレオ感はきちんとキープしている。声もくっきりと明瞭だし、バランスのよい聴きやすい音なので映画やドラマ、ニュースといろいろ聴いていても違和感がない。これはなかなか立派な音だと感心するほど。

Amazon Music HDでのハイレゾ音源の再生もなかなか聴き応えのある音だ。低音だけ好みで増量したが、大きめの音量では不要になるくらいしっかりとした低音が出る。夜などに音量を絞って聴く場合は低音を少し増やすといい。サラウンド再生なので音場感も豊かだし、高さ感というほどではないがボーカルの定位がサウンドバーのある低い位置からではなく目の前に浮かぶし、空間的な広がりもある。もちろん定位はくっきりとしていて、疑似サラウンドで音の定位がぼやけるということもない。これで空間オーディオの楽曲を再生すると後方の音こそ物足りなさはあるが、前方を中心とした半球状の空間ができ、なかなか立体的な音場になる。さすがに音の実力はなかなかのものだ。

オーディオ設定の画面。電源の同期やHDMI連携の設定ができる。
オーディオ設定の音質調整。セリフを聴きやすくするダイアログモードのほか、センター/ハイトチャンネル、低音の音量調整が行える
音質調整その2。音声トラックの選択や映像と音声の同期などについても調整ができる
Amazon Music HDのアプリからAirPlayでSmart Soundbar 900を選択して再生
空間オーディオのDolby Atmos音源もAtmos再生できていることがわかる
同じく空間オーディオの360 Reality Audioも同様
テレビの音声を再生している場合、再生している信号の種別も表示される

いよいよDolby Atmosの映画を鑑賞。しかし、テレビが対応していない!!

さて、本題のDolby Atmos音声の映画の鑑賞だ。しかし、ここで問題がひとつ。HDMI入力がないため、BDレコーダーは薄型テレビに接続し、HDMI(eARC)経由でSmart Soundbar 900に送られることになる。手持ちの55X910はDolby Atmos音声には対応していないので、音声はドルビーデジタル5.1chにダウンミックスして出力されてしまうのだ。つまり、Smart Soundbar 900のようなHDMI(eARC)しか備えていないDolby Atmos対応機の場合、組み合わせる薄型テレビもAtmosに対応していることが必要になる。

各社の薄型テレビの仕様にもよるが、Dolby Atmos対応の薄型テレビのほぼすべては、内蔵スピーカーでもDolby Atmos再生ができるもので、豪華な内蔵スピーカーを備えたモデルなど中~高級機が中心。少なくとも国内市場においてはeARC経由でのDolby Atmos出力の状況が整っているとは言いにくく、しかも10万円を超えるサウンドバーの高級機でHDMI入力を備えないというのは不満がある。薄型テレビ側の状況が整えば、HDMI(eARC)接続だけで済む方が簡単なのは間違いないので、そういう少し先の未来を先取りした考え方と言えるだろう。そのため、今まで使っていた薄型テレビ(ARCには対応するが、eARCには非対応)にSmart Soundbar 900を組み合わせてもDolby Atmos音声を出力できない可能性が高い。この点については購入時に十分確認した方がいいだろう。

というわけで、手持ちの55X910はDolby Atmos非対応だったので、TVS REGZAにお願いして、ありがたいことにDolby Atmos対応機である「55X8900K」を急遽借用させていただいた。というわけで、取材時に撮影した写真では55X910と組み合わせているが、後日55X8900Kとの組み合わせでDolby Atmos音源の再生を試している。

55X910とARC接続した場合、BDレコーダーでDolby Atmos音声の作品を再生しても、Smart Soundbar 900にはドルビーデジタル5.1音声が伝送されてしまう
55X8900Kと組み合わせて、eARC接続した場合。HDMI入力に接続されたBDレコーダーのDolby Atmos音声がきちんと伝送されていることがわかる

Dolby Atmos音声は前方主体の再現とはいえ、かなりの出来

ようやく上映だ。取り上げるタイトルは「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」。ダニエル・クレイグがボンド役を演じる5作目にして最終作だ。英国出身で青い瞳のジェームズ・ボンドということで「007/カジノ・ロワイヤル」から評判となっていたが、スペクターとの対決やボンドの過去にまで迫ったドラマなど、多くの魅力がある。もちろん、スパイ映画としての魅力や007の華であるボンドカーをはじめとする数々の秘密兵器も活躍するストーリーはどの作品も素晴らしい出来だ。

「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」4K Ultra HD+ブルーレイ(ボーナスブルーレイ付)
NO TIME TO DIE (C) 2021 Danjaq & MGM. NO TIME TO DIE, 007 Gun Logo and related James Bond Trademarks, TM Danjaq. Package Design (C) 2021 MGM. All Rights Reserved.

音声はもちろん55X8900Kとの組み合わせでDolby Atmos再生だ。まずは、引退したボンドがマドレーヌとイタリアで生活しているなか、かつての恋人ヴェスパーの墓参りの際にスペクターと思われる傭兵達に襲撃される場面。イタリアの丘陵地帯にあるマテーラの街並の景色がもの凄く美しいが、音響もそれに負けずにスケールが大きい。起伏の多い道をアストンマーティンで爆走しながら追撃を振り切ろうとするが、教会のある広場で傭兵達に囲まれてしまう。そこで周囲からマシンガンが連射されるのだが、車内のカットではまさに前後左右から銃撃音が鳴り、防弾ガラスを割る着弾音にぐるりと囲まれる。

こんな場面では、広場の教会の鐘が鳴るときの高さ感もしっかりと出るし、囲まれての銃撃では後ろの音が足りないと感じるものの、自分の真横から前方はぐるりと立体的な空間が出現し、車内で響く銃弾の音も生々しい。

後方の音については、はっきりと「無い」と言っていいレベルで、無理に位相をいじって後ろの音も感じるが違和感もあるというような再現はしていない。必要ならばオプションのサラウンドスピーカーを追加できることもあり、サウンドバーだけの再生では潔く諦めていると思う。実際、真横の音までしっかりと再現できていれば包囲感も十分で大きな不満はない。くっきりとした定位と低音もしっかりとしているので、3.1.2ch構成の再生としては十分な再現性だ。

映画の重低音については、こちらも無理はしていない。オプションでサブウーファーが用意されているからだろう。かといって不満があるかというと、最低音域の伸びやそれに伴う低音の力感が少々足りないくらいで、低音感は十分にある。スマホアプリの低音を調整すれば十分満足できるくらいの能力はある。映画館のような迫力には及ばないが、家庭内での再生では十分以上の低音感はある。このあたりの低音の鳴らし方のうまさはさすがはボーズだ。絶対的なローエンドを欲張らずに迫力を感じる帯域をしっかりと量感を含めて鳴らすバランス感覚が見事だ。

アストンマーティンを360度ターンさせながら、ライト部分に仕込んだガトリング砲を乱射するシーンも迫力満点だし、ターン中のエンジンをふかす音もなかなかに生々しい。サウンドバーとしてはかなり優秀な再現だ。

5年後、マドレーヌと別れたボンドはキューバで隠棲していたが、旧知のCIAエージェントから仕事を依頼される。最初は断るものの、スペクター絡みと知って手を貸すことになる。ここでの細菌学者の救出の作戦もスパイ映画ならではのスリリングなシーンで楽しいが、救出した学者を連れていった漁船内でのバトルが見物だ。狭い船内でのバトルはもちろん、敵の罠で船内に閉じ込められ、漁船は爆破されてしまう。浸水で沈みかけた船の中で友人と脱出を図るのだ。

洋上の船に近づく時の広々とした海上の感じはサウンドバーとは思えないほど広々としているし、セリフも明瞭。セリフを聞き取りやすくするダイアローグモードもあるが、ほぼ必要はない。低音についても大きめの音量で鳴らせば低音の力感も十分に感じるほどなので、増減なしの「0」に戻した。基本的にこれらは小音量での再生時のための機能と言えるだろう。音量を控えて再生しなければならない時に活用したい。そして、船内の狭苦しい感じの音の響きや海水が浸入してくるときの水の流れる音も重量感は十分。水流がゴーッとうなる感じの重低音による暗騒音は足りないが、言われないと気付かないくらいの差だ。

狭いシーンといえば、かつて自分が捕らえたプロフェルドとの刑務所での面会シーンも、密室での緊迫した空気感をきちんと伝える。こうした空間描写はDolby Atmosの大きな魅力だが、前方のみのサウンドバーといえどもこのあたりの空間再現力はしっかりと表現できている。

物語は一気に飛んで、敵の本拠地への潜入場面。日本の領海にも近い極東地域にある島のミサイル格納庫だ。そこへは空中ではグライダーとして滑空し、着水後にそのまま潜水艇として運用できる秘密兵器が登場。輸送機からの射出と滑空、そして着水後の潜水と、目まぐるしく状況が変わるが、それぞれの音の変化がじつに鮮やかに再現される。

ここで、55X910でドルビーデジタル5.1再生となった音の感触についても紹介しよう。空間感で言うとやや希薄になった感じはあるが、これはソース自体の音質の差と思われる(ドルビーデジタルは圧縮音声、BD再生のDolby AtmosはドルビーTrueHDというロスレス圧縮音声)。

滑空時の風を切る感じの定位や高さ感、潜水時の水流の感じなど、空間感や定位感はなかなか優秀で、いちいち確認しなければDolby Atmos再生と言われても疑わないほど。ステレオ音声や5.1ch音声はボーズ独自の「TrueSpaceテクノロジー」でアップミックス再生されているようで、なかなかの立体感のある再現ができている。もちろん、Dolby Atmos再生をすれば臨場感というか、トータルでの音の迫力にはそれなりの違いはあるが、もともと5.1ch音声で制作された作品でもそれに近い再現ができるわけだから、このあたりのアップミックスの実力の高さも大きな魅力と言える。

クライマックスは、英国籍の軍艦によるミサイル攻撃だ。周辺の国も黙ってはいない一触即発の状況での緊迫したシーン。ボンドは本拠地がミサイル格納庫であるだけに、厳重な防御扉を開けなければ本拠地の殲滅はできない。そのため、ミサイル発射が迫る中で、防御扉を開けるべく本拠地の中枢を目指す。ここからは、迫力あるアクションも感動のドラマも山のように盛り込まれているのだが、語ってしまうのは野暮だ。アクションの数々だけでなく、ダニエル・クレイグ版ボンドの最後の姿をじっくりと見届けてほしい。歴代ボンドの中でももっとも寡黙でクールと言ってもいい彼の、愛と情熱、気持ちの入った言葉は、Smart Soundbar 900のような実力の高いシステムで聴きたい。

100人のうち89人までが大満足!? 絶妙と言えるバランスの良さが大きな魅力

今回はサウンドバーとしての試聴だったが、Smart Soundbar 900はサラウンドスピーカーとサブウーファの追加も可能で、伸びしろはさらにある。スピーカーをたくさん設置しなければならないDolby Atmos時代のサラウンドでは、家庭用としては最適解といえるシステムと言っていいかもしれない。音響の設定もADAPTiQ任せで基本的には音量くらいしか操作しないでいい簡単さと、配線を含めてシンプルに使える使い勝手の良さは多くの人に受け入れやすいものだろう。

音質も十分に優秀だ。あえて点数をつけるならば89点。高得点と思う人もいれば、10万円を超えるサウンドバーなのだから100点満点を目指すべきと思う人もいるだろう。ただ、89点の理由を詳しく解き明かせば、100人のうち89人までが大満足できる音という意味だ。これは凄いことだと思う。100人のうちの11人は不満を感じるだろう。もっと良い音のシステムは他にもあるのは間違いないが、面白いことに90点以上の音は好き嫌いが別れたり、7.1.4ch構成であるなど実現が難しいものになり、多くの人を満足させるものではなくなっていく。

そこがボーズのうまさで、無理に90点以上を目指さずに最大公約数として一番多くの人がハッピーになれる音であり、システムを作っている。人気の高さにも納得がいく。そういう製品作りの上手さを今回の試聴では強く感じた。

なによりも音のバランスの良さ。取材のほとんどが手持ちの55X910と組み合わせていたこともあり、数日間とはいえ毎日の深夜アニメの鑑賞や購入した映画ソフトなどもすべてSmart Soundbar 900で聴いていたのだが、本当に気持ちよく楽しむことができた。徹底して音を追求するならばどこまでも妥協せずに進めばいいが、リビングに置くならば一緒に暮らす家族もみんな満足できる“ちょうどいい”ものを選んだ方がいい。デザインも含めて、まさに最適なスピーカーだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。