鳥居一豊の「良作×良品」

第115回

さらに明るく、さらに黒い、進化した有機EL REGZA「55X9900L」を堪能

TVS REGZAの「55X9900L」

miniLED+量子ドット技術やQD OLEDなど、薄型テレビに続々と新技術を搭載した新モデルが登場し、大きく注目を集めている。有機ELテレビはそれらに比べると、今や見慣れた存在だし、価格もこなれてきたことでずいぶん身近な存在になったと思う。

だが、今年の有機ELテレビも大きな進化を果たしている。これまでも有機ELパネルが最新であるかないかで画質にもそれなりの差が現れてきたほど、毎年改良と進化が進んできたが、それに加え、各社が独自に開発・組み立てを行なうパネル背部のバックプレートの放熱構造の改善でパネルの平均輝度や最大輝度が向上。そして、パネルの改善や重水素置換技術で生まれた新しい発光材料を使用することで、色再現性と明るさを向上した。

従来とは一線を画する新パネルは昨年モデルから採用されはじめていたが、今年の主要国内メーカーのモデルはそのほとんどがこの最新世代のパネルを採用している(ソニーのQD OLEDはそもそも開発メーカーが異なる)。

このように、一見話題性に欠けるようにも感じる今年の有機ELテレビだが、各社のパネルの使いこなしが進み、パネル性能を活かした画作りができるようになったこともあり、着実な進歩を遂げている。

というわけで、今回はTVS REGZAの「55X9900L」(実売38万5,000円前後)を取り上げる。レグザの最高峰モデルであり、今年は久しぶりの新開発となる「レグザエンジン ZRα」を搭載していることも大きな話題だ。取材機は筆者の自宅にお借りして試聴室に設置。試聴取材のメインとなるUHD BDなどのパッケージソフトの試聴だけでなく、日常的に見ているテレビ番組や深夜アニメ、動画配信サービスの最新作の鑑賞、そしてゲームと、あらゆる形で使わせていただいた。

TVS REGZAの「55X9900L」

各種AI技術が満載の「レグザエンジン ZRα」搭載

あらためて概略を紹介していこう。新世代の有機ELパネルと新設計となった自社開発の高冷却インナープレートを組み合わせ、従来よりも約1.2倍の輝度の向上を実現。そして、「レグザエンジン ZRα」を搭載。高画質化のために各種AI技術を積極的に盛り込み、より自然で立体感のある映像を追求している。

「レグザエンジン ZRα」

内蔵スピーカーは「重低音立体音響システムXHR」で、画面下部のメインスピーカーをはじめ、側面にサイドスピーカー、上部にトップスピーカー、背面にサブウーファー、そして画面のガラス板を叩いて音を出すアクチュエーターも備えた合計10個のスピーカーを出力90Wのアンプで駆動するシステムだ。Dolby Atmosはもちろん、ハイレゾ音声にも対応する高音質なシステムとなっている。

機能面では、外付けUSB HDDを使用して地デジを6ch全録できるタイムシフトマシンを搭載。大量の録画番組を好みやジャンルで自動的に分類する「新ざんまいスマートアクセス」や「見るコレ」により、手軽にテレビ番組を活用できる。ネットワーク機能では豊富な動画配信サービスに対応し、「見るこれ」との連携で好みのジャンルや俳優などのテーマで横断的にテレビ番組や動画配信サービスのコンテンツを検索することも可能。

そして、ゲーム関連の機能ではHDMI 2.1で盛り込まれた新機能にしっかりと対応。4K/120p、VRR(可変リフレッシュレート)、ALLM(自動低遅延モード)に対応するほか、パソコン用モニターなどで採用されている「AMD FreeSync Premium」にも対応する。また、先日のアップデートにより、4K/60pなど毎秒60コマのゲーム映像の入力時に、60Hz駆動で表示する「オリジナルフレーム駆動」を採用。もともとレグザはゲームモードでの低遅延が自慢だったが、X9900Lではゲーム用の超解像技術なども盛り込みつつも、かなり理論値に迫る低遅延を実現している。

デザインは画面の下部に前面配置のスピーカーを収めた部分を持ち、そのぶんスタンドは極めて薄くシンプルな形状としたものになっている。スピーカーグリル部分はブラック塗装で存在感はあまりない。画面と同様にあまりに黒いので撮影に困ったほどだ。このスタンド、カタログ写真などは画面のもっとも端から板状のスタンド部分が見えている形状になっているが、組み立て時にスタンド部分を内側に配置することも可能。筆者が設置しているテレビ台も55型の横幅よりも幅が狭いのだが無事に設置できた。

そして、背面のデザインもなかなかすっきりとしていて見た目がいい。X9900Lに限らないが最近の薄型テレビは背面の側面や上部にスピーカーを内蔵するため、有機ELの極薄なパネル部に対して凹凸が目立つデザインになることが多い。リビングなどに置いてしまえば真横や後ろから見る機会は少ないので気にするほどではないのだが、ユーザー的な心情からすると横から見ても美しく仕上がっているほうがうれしい。X9900Lの場合は背面の凹凸を可能な限り減らしたシンプルな形状になっていて、有機ELパネルの極薄な部分は少なくなっているものの、背面の大部分がフラットですっきりとしている。スピーカーの配置場所を含めてデザイナーは大変だと思うが、このモデルはなかなか良いデザインだと感じた。

55X9900Lの右下部分。スピーカーを内蔵する画面下部は全面がパンチングメタルとなっている。右端の「ハイレゾロゴ」も薄型テレビとしては珍しい。ハイレゾロゴの左にある白い四角の部品は色温度センサーと思われる
画面下部を中心に斜め横から製品を見てみる。ブラック仕上げということもあり、なかなか精悍なデザインだ
右側面から後ろ姿を撮影。両端はややでこぼこしているが、大部分はフラットな形状。右側には着脱式の電源端子がある。側面の再度スピーカーは案外低い位置にある
左側面には入力端子群がある。上部にあるのはUSB端子(タイムシフトマシン用)。そして光デジタル音声出力、汎用USB端子、アンテナ入力、HDMI入力×4がある。eARCに対応するのはHDMI2だ。このほか録画用USB端子、アナログ映像入力、ヘッドフォン出力、ネットワーク端子がある
上部の開口部。トップスピーカーを内蔵するほか、放熱のための開口部となっている
付属のリモコン。上部にある動画サービス用ボタンは12個もある。2個は自由にアサインでき、残りの1個はアプリ画面の呼び出しボタンだ

テレビを視聴。画面の明るさ向上がはっきりとわかる

今回は、放送アンテナだけでなく、USB HDDも接続してタイムシフトマシンも使用した。ネットワーク接続も含めて、基本的に自宅の2階で使用している55X910でできることはすべて行なえるようにしている。気持ちとしては薄型テレビを買い替えたつもりで、いつもの取材だけでなく普段使いでの印象もレポートしよう。

地デジなどのテレビ放送は、なんといっても映像が明るいことがよくわかる。ニュースやバラエティ番組などは番組自体が明るい映像なので全暗では明るすぎると感じるほどだ。55X910は日中のリビングでは映像が暗いというよりはちょっと元気のない映像に感じることがあったが、55X9900Lなら画面の明るさに物足りなさを感じることはほとんどないだろう。今回はニュースやテレビドラマ、アニメなどの視聴では部屋の照明をつけ、一般的な家庭の明るさに近い環境としている。そして、画質モードは「おまかせAI」を主に使用した。各種のAI高画質機能などもすべてONとしている。

地上波のニュースやバラエティー番組を見ていて、画面が明るいと映像の細部までよく見えると感じる。地デジを見ていると細部の映像の乱れやノイズが目に付きやすいのだが、普通にテレビ放送を見ていると思ったほど気にならない。よくよく見ると動きの大きいシーンや人物の背景などではノイズが出ているのだが、人物やフォーカスの合った物体などのノイズは丁寧に抑えられている。このあたりは「地デジビューティZRα」の効果だろう。地デジをはじめとする放送特有のノイズを抑える機能だが、新たに「ロゴ検出モスキートNR」でテロップ文字などの周囲に現れるもやもやとしたノイズを低減する。

地デジビューティのオン/オフの画面。映像分析情報などが呼び出せるのがレグザらしいマニアックさ

これに加えて、新機能である「AIナチュラルフォーカステクノロジー」の効果も大きいと感じる。これは、ピントの合った被写体と背景を識別し、それぞれに適切な映像処理を行なう技術。ピントの合った人物は精細感を高め、逆に背景はあまり精細感を高めすぎないようにすることで適切な奥行き感のある映像にしている。奥行き感のある映像というだけでなく、見やすくしかも美しく見える効果も大きい。

なにより人物の表情がよく伝わる。そこで感じるのが人の肌の自然な色あい。これまでも肌を美しくみせる処理は行なっていたが、X9900Lでは「美肌AIフェイストーンZRα」に進化した。人の肌を検出して、照明などにより肌の色が不自然に変化してしまうのを補正する機能で、人の肌の検出にはAIによる顔認識技術を応用している。著作権や肖像権の関係で、写真でお見せできないのが残念だが、ある程度の大きさの正面の顔はほぼ検出するし、少し横を向いたくらいの顔も検出している。言われてみれば当然だが、番組本編どころかCMでも検出する。これは、実際に「顔検出オン」で確認することもできる。

いろいろと意地悪なチェックも試してみた。大相撲の中継で観客席を映したシーンを見てみたが、観客の顔は検出していない。一人一人の顔が小さいことが理由のようだ。画面の中に複数の人物が映っているシーンだと2、3人くらいまでは確実に検出する。そして、横を向いた人は検出していないが、その人の肌だけが不自然な色になってしまうことはないし、顔検出といっても顔だけでなく、首や肩などの肌も同じように補正されていることもわかる。これは、人の顔と認識した部分の肌の色とそれに近い色も総合的に補正しているとわかる。画質担当者の話では、こうしたAI機能で大事なことは誤検出によって意図しない映像にならないようにすることが実はなにより重要なようだ。

「ナチュラル美肌トーン」の画面。赤ボタンを押すと顔検出の様子を実際に見ることができる

そのアニメだが、動きの速いシーンでの映像の乱れ、MPEGノイズなどは散見されるものの、顔の輪郭線まわりのもやつきなどはよく抑えられており、くっきりと精細な映像に仕上がっている。「オートAI」モードのままでも十分にそのまま見ていられると感じたほどだ。ただし、「ナチュラル美肌トーン」は現在のところはオフがよいと感じた。オンだと肌の色は健康的になり、見た目の印象もいいのだが、服装や建物などの茶色やオレンジ色などの色もわりとはっきりと変わってしまう。見た目には決して悪い印象の色の変化ではないが、全体にやや暖色系のトーンとなり、作品やシーンの印象がずいぶんと変わってしまうような気がする。つまり、見やすく印象の良い再現ではあるが、作り手の意図からは外れるように感じた。ちょっと神経質な意見ではあるので、ユーザーとなった方は両方を試してみて自分の合う方を選ぶといいだろう。

なお、アニメにおける「ナチュラル美肌トーン」は、顔認識による検出を含めて現在も開発中であるようなので、いずれはアニメに特化した「ナチュラル美肌トーン」が実装されるようだ。これについてはおおいに期待したい。

そしてもうひとつ。筆者が期待していたのが「バンディングスムーザー」。これも「レグザエンジン ZRα」で採用された機能のひとつで、特に転送レートが低めのネット動画コンテンツで生じやすいカラーバンディングを抑えるもの。カラーバンディングはグラデーションのようになめらかに色が変化する部分で等高線のようにある部分で急に階調が変化してしまう現象。これを解消するにはカラーバンディングが生じた部分をぼかすことで対処できる。しかし、従来は正確な検出が難しいため映像全体がぼやけてしまうことが多く、対処が難しかった。これまでの各社のアニメモードでもカラーバンディング対策は行なわれていたが、筆者としては十分だとは思えなかった。

しかし、高性能化した「レグザエンジン ZRα」で検出エリアが大きくなり、人物などのオブジェクト検出と合わせて大面積で発生するカラーバンディングの検出とその部分だけの処理ができるようになったのだ。アニメでもこうしたカラーバンディングはよく生じるので、個人的にはかなり期待していた。

朗報である。「バンディングスムーザー」はアニメでもかなり効果がある。カラーバンディングが発生しているのがわかる場面で「バンディングスムーザー」をオートにして見ていると、カラーバンディングがかなり抑えられているのがわかる。特に背景の建物や空で発生するようなバンディングはよく抑えられている。もちろん、あらゆるカラーバンディングを完全に除去できているわけではなく、画面の大部分が登場人物の顔のアップで、そこに映像効果でグラデーションをかけた影が重ねられているようなシーンでは、カラーバンディングがうっすらと残っている。鮮明に見たい顔にカラーバンディングが発生しているので完全に除去しようとすれば顔がぼやけてしまうためだろう。

また、背景の建物などもディテールがそれなりに書き込まれているとカラーバンディングが残ってしまう。これについては、「バンディングスムーザー」をオートから手動とし、10段階で調整してバンディングを除去することは不可能ではない。しかし、バンディングをきれいに除去すると建物のディテールがぼやけてしまうのが悩ましい。いろいろと試したところ、手動ならば「6~8」(最大値は10)くらいならば、バンディングはさらに減るが、別のシーンでディテールのぼやけが出てしまう。結局、オートが手放しで視聴でき、ディテールへの影響も少ないしバンディングの発生もかなり抑えられていることがよくわかった。

ほとんどの放送は「おまかせAI」で問題なかったので、アニメ用の画質モードとして、「放送プロ」をカスタマイズ。「ナチュラル美肌トーン:オフ」としている

そして、ネットの動画配信でも、外部入力でも「バンディングスムーザー」は効果が得られるので、「昔録ったアニメがきれいになる!」。旧世紀の東芝のVHSビデオデッキのようなフレーズだが、新旧問わずテレビアニメを録画してDVDやBDでコレクションしてきた人は歓喜するはずだ。筆者ほど神経質ではないにしても、アニメのカラーバンディングが気になっていた人は少なくないと思うので、この「バンディングスムーザー」はかなり効果があることは声を大にして言いたい。

映像調整にある「バンディングスムーザー」の画面。項目としては「精細感・ノイズ調整」のところにある

内蔵スピーカーの音質もかなり優秀な出来

そして音。比較的高級機に限られてしまう話ではあるが、ここ最近の薄型テレビの音質はなかなか優秀だ。というわけで今回の視聴でも基本的に音は内蔵スピーカーで聴き、良いところも悪いところも正直にレポートする。

55X9900Lの内蔵スピーカーは前述の通り「重低音立体音響システムXHR」で、フロント前面のスピーカーに加えて、トップスピーカーとサイドスピーカーを加えて立体音響に対応したシステムだ。背面にはレグザ自慢のバズーカーウーファーも備えている。X9900Lではさらに画面を叩いて音を出すアクチュエーターも備える(以下、画面スピーカーと呼称)。

これはサラウンドシステムでいうとセンタースピーカーに相当するもので、1chのモノラルスピーカーだ。ステレオ音声ならば中央に定位する左右から同じ音が出ている成分を取りだして鳴らしているし、サラウンド音声ならばセンターチャンネルの音が出ると考えていいだろう。センターチャンネルの音というのは、音楽ならばメインの歌声であり、ドラマならセリフなどの重要度の高い音だ。それが画面から聞こえるわけだから、従来のテレビのように画面の下から声が聞こえるようなこともない。画面と音の一体感が得られるというわけだ。

音声メニューは、標準/クリア音声/映画/おまかせAI/ダイナミックとなっていて、それぞれのモードで立体音響(サラウンド)や重低音などの調整ができる。初期設定では、一般的なステレオ再生に近いのが標準で、映画や音楽向きのダイナミックは立体音響(オフ/シネマ/ミュージック)も加わり、広がりのある音響になる。音声メニューが標準でも、サイドスピーカーやトップスピーカー、画面スピーカーも多少は鳴っているようだが、いかにもステレオ音声をサラウンド化したような人工的なステレオ感にはならず、違和感のない自然なステレオ音場の再現になる。この音質がまずよく出来ている。

設定の音声メニューの画面。ここで設定項目を一覧できるほか、詳細な設定なども行なえる
音声メニューを選択すると、イラストと解説付きで主要な項目の設定が行なえる

クリアでよく通る音で、聴きやすいし、ウーファの低音もしっかりとしているので、十分な聴き応えがある。音量としては、100が最大のところを60ほどの音量で聴いているが、音量としてはかなり大きめだ。このくらいの音量で鳴らすと音楽のエネルギー感もよく出るし、ボーカルの声量の豊かさや強弱の変化もしっかりと伝わる。音調としてもややメリハリはついているものの基本的な素直なもので高域がシャカシャカするようなクセっぽさもない。

使用しているのは薄型テレビでは一般的な楕円形のドライバーが中心だが、音質を吟味したものだと思えるし、eilex社の音響技術であるeilex PRISMやeilex FOCUS、高精度なVIRフィルターを使って音質を仕上げてある。また、eilex HD Remasterによるハイレゾ相当に音質を向上する技術も盛り込まれている。また、リモコンのマイクを使って部屋の音響特性を測定・補正する「オーディオキャリブレーション」も備わっている。あらかじめリモコンの音声機能の設定を行なってから音場測定をすればいい。

音声詳細設定にある「オーディオキャリブレーション」。視聴環境の測定を行なうと「オン」になる
視聴環境の測定の画面。画面のガイドに従って、リモコンのマイクで測定を行なう。マイクの持ち方など、ガイドがわかりやすいのも良い

オーディオキャリブレーションはコーナー置きやリビングの片寄った位置にテレビを置いているなど、部屋の特性の影響が大きいと効果を発揮するもので、取材では専用の試聴室の中央に、後ろ側の壁(吸音壁)との距離も十分にある置き方をしていると、オンとオフでの大きな違いはなかった。響きの多い環境などでの効果は大きいので、内蔵スピーカーの実力を引き出すうえでもきちんと測定を行なっておきたい。

気になるハイレゾ音声の対応は、音声設定で「ハイレゾ設定」をオンにすると切り替わる。ネット動画および外部入力のみの対応のほか、音声モードやサラウンド機能、オーディオキャリブレーションが無効になる、外部オーディオ機器へはハイレゾ音声の出力ができない、といった制限がある。また、ハイレゾ設定をオンにすると、CD品質の音もハイレゾに近い音質で楽しめるHDリマスターもオンにできるようになる。オーディオキャリブレーションとの排他利用になるのが少々残念だが、こちらの音質はなかなかのものだ。

ハイレゾ設定のオン/オフでは、いくつかの制限事項も同時に表示される

まずはYouTubeでミュージックビデオなどを聴いてみたが、ハイレゾ設定をオンにするだけでも、ひとつひとつの音の粒立ちが良くなり、ボーカルの実体感も増す。オフのままでも十分に聴きやすい音だったが、より情報量が豊かになる。さらにHDリマスターもオンにすると、高域の伸びが良くなり細かな音の響きが明瞭だ。これはなかなかのもの。

さらにMac miniをHDMIで接続し、「Audirvana 本」でハイレゾ音源を再生してみた。55X9900Lの画面表示で「Hi-Res」の表示が出てハイレゾ音源が入力されていることが確認できる。サンプリング周波数などは表示されないが、リニアPCMで最大192kHzまでの信号に対応している。クルレンツィス指揮/ムジカエテルナの「チャイコフスキー/交響曲第6番『悲愴』」(96kHz/24ビット、FLAC)を聴くと、細かな音まできちんと再現でき、低音域も適度な量感を保ちながら音階もしっかりと描き、ティンパニの連打のようなドロドロとしがちな音も歯切れよく再現する。

音声メニューの設定は大半が無効になるが、ハイレゾのステレオ音声として調整された専用のモードで動いているようで、音量としてはわずかだがトップスピーカーやサイドスピーカーも鳴っているのがわかる。音場感としてはテレビの画面の幅に片手で持てるくらいの小型スピーカーを置いた感じだが、中低音がしっかりとしているのでこぢんまりとした音場にはならず、スケール感もある。「サラ・オレイン/One」から「ボヘミアン・ラプソディ」(96kHz/24bit、FLAC)を聴くと、声の実体感が豊かで、声量たっぷりで厚みのある歌声が気持ち良く響く。ハイレゾ設定:オフでのややメリハリ型の音調も、ハイレゾ設定:オンになるとよりスムーズで忠実感のあるものとなり、なかなか気持ち良く音楽を楽しめた。

絶対的な音量感や音場の広がりなどから、大型スピーカーに迫るとは言えないものの、テレビと組み合わせやすいサイズの小型スピーカーとは十分に肩を並べる音質だ。これならば十分にネット動画の音楽コンテンツなども楽しめるので、SpotifyやAmazon Musicなどのアプリが用意されていればなお良いと思う。

内蔵スピーカーの実力としては十分なもので、安価なサウンドバーなどの追加は必要ないレベルにある。音の力強さや奥行きの豊かさからすると音場の広がりが画面の幅に収まっているのでもう少し広がりがあってもいいと感じたが、これは画面と音の一体感を狙ったものとも思える。音場を画面の幅に収めているからこその音の実体感や密度感もある。左右の広がりが欲しいならばサラウンドのライブなどを使えば、より大きな広がり感が得られるので好みで使い分けるといいだろう。

少し気になったのは、音量を絞った小音量(ボリューム値が20/100以下の音量)での再生で持ち味とも思える音の実体感やエネルギー感が痩せてしまうこと。本格的なオーディオ機器のアンプやスピーカーは、音の情報量や音の質感にも差があるが、それ以上に小音量で聴いていても音が痩せず満足度の高い音が楽しめる点もある。このあたりはコストが大きく影響する部分でもあるので欲張りは禁物だが、このあたりがさらに改善されるとテレビスピーカーの音の満足度はさらに高まると思う。例えば、音量によるラウドネス特性の変化などを応用して、あらゆる音量で最適なバランスに補正する技術もあるので、こうした技術を使えば小音量再生の音痩せの対策にもなるはずだ。

ゲーム機能の対応度もじっくりとチェック

今度はゲームだ。4K/120Hzへの対応は、パソコン、プレイステーション5ともに当然問題なく表示できた。事前に注意しておきたいのはHDMIの設定で「高速信号モード」に切り換えることくらいだ。4K/120p表示が十分なレベルで行なえるパソコンならば、ぬるぬると動き快適なプレイができるし、プレイステーション5でもゲーム側のグラフィクス設定で「解像度優先」ではなく「フレームレート優先」を選ぶようにすれば、視点を素早く動かすのようなことをしても十分にスムーズな動きが得られる。

VRRとALLMはPlayStation 5が対応しているのでこちらで試してみた。PS5側の設定で「スクリーンとビデオ」を確認すると、非対応のディスプレイではVRRやALLMなどは設定できないのだが、55X9900Lとの接続時では当然設定が可能。とはいえ、基本的にはVRR、ALLMともに「自動」を選んでおけばいい。ALLMを自動としておくと、入力を切り替えただけで(PS5などゲーム機からの映像信号を認識すると)、自動で低遅延モードである「ゲームモード」に切り替わる。

PS5の「スクリーンとビデオ」の設定。対応する薄型テレビなどとの接続時にVRRやALLMの設定ができるようになった
4K/120Hz表示が可能になる「120Hz出力を有効にする」という設定もある

VRRをオンとして、「デビル・メイ・クライ5」をハイフレームレート表示でプレイしてみたが、このときの55X9900Lの詳細情報表示が面白い。詳細情報では解像度や垂直周波数などが細かく表示されるが、VRRのハイフレームレートの場合、「VRR 120Hz/85.65Hz」と表示される。VRRオフの120Hz表示では単に「120Hz」と表示されるし、VRRオンの60Hz表示(PS5のVRR設定にある「未対応のゲームに適用」をオンにしておくと可能)でも「VRR 60Hz/60Hz」と表示されて変化はしない。

レグザでは定番の詳細情報表示。ここでの「垂直周波数」の項目でVRR対応や120Hz表示ができているかを確認できる

だが、VRRの120Hz表示の場合は、詳細表示での後半の数値が変化する。表示は1秒弱くらいの間隔で切り替わるのでリアルタイム表示ではないが、低いときは60数Hzで高いと100Hz超えもするなどかなり大きく変動しているのがわかる。マニアックすぎるが、ムービー映像などでも表示ができるのでいろいろと見ていると、どんなときにグラフィックの負荷が大きくなるかがわかって面白い。VRRの効果としては、パソコンやゲーム機側の出力タイミング(リフレッシュレート)の変動が原因で生じる映像の乱れが解消でき、よりスムーズな動画表示となること。FPSなどで視点をぐるりと回したときに感じやすい、映像がパラパラとページをめくっているような感じになる現象が減るわけだ。

アクションゲームならば視認性も高まるなど有効な機能だ。4K/120pだと操作するキャラクターなどの動きで負荷が少ないときはぬるぬると動くが、素早く走り回るととたんにパラパラした感じになる。これがずいぶんと収まって、見た目にもスムーズな動きになる。これは4K/60Hz出力となるVRR 60Hzでも同様で、思った以上にプレイしやすいと感じる。

そして、X9900Lシリーズでは先日のアップデートで、4K/60Hzや2K/60Hzの信号が入力されたときには、テレビが120Hzの倍速表示ではなく、60Hzの等速表示に切り替わる「オリジナルフレーム駆動」が加わった。倍速表示のためにはあらかじめメモリーにある程度映像信号を貯める必要があったが、オリジナルフレーム駆動ではそれの時間が不要になる。そのため、従来は2K/60pや4K/60p入力時では約9.3m秒だった映像の遅延が、約2.4m秒にまで短縮された。この動きの良さは筆者のようなただのゲーム好きでもわかるレベルで、ボタンを押してキャラクターが動き始めるまでの間がなくなり、操作がダイレクトにゲームに反映されている感じになる。これは実に快適だ。タイミングの重要なゲームでは高得点につながると思うし、それほどシビアではないアクションゲームでもプレイが明らかに快適と感じる。

ゲームモード時の映像設定では、倍速モードで「オリジナルフレーム」が選択できるようになった

レグザはもともと低遅延を追求してきたし、有機ELではパネルの応答速度が液晶パネルよりも優秀なこともあり、残像感や動きボケの少ない鮮明な映像、操作に対する反応の良さが魅力だった。そこにハイフレームレート表示やVRRによるスムーズな動きが加わることで、ゲームプレイ時に感じるストレス(主に難易度の高い敵に苦戦しているときのイラつき)がかなり緩和された。これは「エルデンリング」で日々実感している(プレイそのものは苦戦の連続だが、ストレスが格段に減った)。最新の薄型テレビのゲーム機能の強化は各社とも対応しているが、実際に55X9900Lでゲームをしてみると、その恩恵は絶大でゲーム好きの人ならばそれだけでテレビの買い換えをおすすめしたくなる。

ネット動画もきれい! サービスによるDolby Atmos対応も確認

今度はネット機能の動画配信サービスだ。X9900Lをはじめとする2022年モデルは、NETFLIXやPrime video、huluといった海外の大手サービスはもちろん、国内の人気のサービスも数多く対応。そして、人気作品が多いことで注目されているDisney+にも対応している。こうした動画配信サービスの視聴でも、「ネット動画AIビューティーZRα」が動作し、動画配信サービスによって異なる動画フォーマットの違いや画質傾向などにも対応した高画質処理が行なわれる。

言うまでもないが、HDRコンテンツならば、HDR10、HLG、HDR10+ ADAPTIVE、Dolby VISION IQに対応するし、音声もDolby Atmos対応だ。Dolby Atmos音声を楽しむには、音声詳細設定で「Dolby Atmos:オン」に設定する必要がある。また、アトモス対応のサウンドバーやAVアンプと接続する場合は、同じ画面の「デジタル音声出力」を「ビットストリーム」にする必要がある。念のため確認しておこう。

音声詳細設定の画面。「Dolby Atmos」をオンにすると、アトモス音声の再生ができる

最近の動画配信サービスでは、アプリ側で接続されるディスプレイの性能を把握し、それに合わせたフォーマットの映像・音声を配信する。わかりやすいのがNetflixで、対応している作品ではDolby Vision、Dolby Atmosで配信されるタイトルが、非対応の機器だとHDR、5.1などになってしまう。これは作品のタイトル付近にあるアイコンでも確認できる。

Netflixの作品詳細画面。タイトルの下にDolby Vision/Atmosの表示がある

わかりにくいのがPrime video。UHDやHDR、5.1などの表示はあるのだが、Dolby VisionやDolby Atmosを明示的には表示しないので、再生してみるまで詳しい映像や音声のフォーマットがわからない。そのため、気付かない場合も少なくないのだが、オリジナル作品を中心にDolby Visionやアトモスでの配信も行なわれていて、再生を開始するとロゴが表示される。もちろん、こちらもDolby Vision/Atmosにきちんと対応している。

Prime videoの作品詳細画面。タイトルの下に映像や音声のアイコンはあるが、Dolby Vision/Atmosの表示はない。しかし、右上のテレビ側の表示でDolby Vision/Atmosであることがわかる

Disney+もディズニー作品をはじめ、スターウォーズ、アベンジャーズと大作系タイトルが多いこともあり、Dolby Vision/Atmos配信されるタイトルは多い。だが、現在のところ、55X9900Lの内蔵アプリでは非対応。映像はHDR10、音声はドルビーデジタル+の5.1/7.1での配信となる。これについては、今後のアップデートで対応をする予定とのことだ。

筆者が契約しているサービスだけではあるが、Dolby VisionやDolby Atmos対応についてしつこく確認したのは、eARCでのサウンドバーやAVアンプなどのへ音声出力も制限されてしまうため。55X9900Lの例で言えば、NetflixやPrime videoなら、サウンドバーなどでもDolby Atmos音声で楽しめるが、Disney+は5.1/7.1サラウンドになってしまうわけだ。サウンドバーもAtmos対応の機器が増えているのでこれはもったいない。

いくつかの作品を見てみたが、映像については手持ちのApple TV 4Kよりも鮮明だし、わりと画質差が出やすい地デジアニメの再配信も質は高い。レグザエンジン ZRαの高画質処理のおかげで内蔵アプリの動画配信サービスもなかなか優秀だ。内蔵スピーカーによるDolby Atmos音声の再生もかなり良く出来ているので、Disney+やその他の動画配信サービスでのアトモス対応が果たせればネット機能に関しては文句なしと言える。

世相の反映か、ますます映像が暗い「THE BATMAN」で黒の再現を堪能

最後はUHD BDでの映画だ。UHD BDプレーヤーのパナソニック「DP-UB9000」をHDMI接続して再生している。音声も基本的に内蔵スピーカーでの再生だ。

UHD BD版の「THE BATMAN」はDolby Vision、Dolby Atmos収録なので、画質モードは自動的にDolby Vision用の設定に切り替わる。ドルビー推奨の画質モードとしては、明るい部屋をはじめさまざまな明るさの環境に対応できる「Dolby Vision IQ」、暗い部屋向けの「Dolby Vision・ダーク」がある。どちらも薄型テレビ独自の映像処理などはオフとなる傾向は同様だが、何故か「Dolby Vision IQ」では倍速モードが選択できず、しかも倍速補間の表示で固定となるため、「Dolby Vision・ダーク」を選択。照明を落とした暗室環境で視聴している。なお、視聴環境設定では、外光設定と色温度検出が行なえる。外光や照明による明るさ補正と外光・照明の色温度補正も可能。これは「おまかせAI」などのすべての画質モードでも設定できるので、必要に応じて設定しておこう。

Dolby Vision再生時の映像メニュー。いくつかの機能がグレーアウトして設定できなくなっている
視聴環境設定の画面。色温度検出は「オン」を推奨。外光設定は置いた部屋の環境に合わせて選ぶ

さて、「THE BATMAN」である。DCコミックスの看板ヒーローだけに何度も映像化されているが、「ダークナイト」三部作の印象が強かっただけに本作はどのような作品になるか期待と不安が入り交じっていた。結果から言えば大満足。バットマンとしてゴッサムシティの悪を倒すようになってからまだ2年ほどで、ヒーローとしてもまだ新人だし、悪を倒す動機である両親を殺害された過去にまだ囚われており、自らを「復讐」と自称するなど今までになく闇が深い設定だ。

そのせいなのか、家庭用の薄型テレビはもちろん、映画でもレーザープロジェクターが普及しドルビーシネマのようなリッチなスクリーンも増えているせいもあり、映像は今までになく暗い。映画館ではドルビーシネマで見ているのだが、見ていてかなり暗いと感じた。個人的にも映画館では暗部の再現性がもっとも優れていると思っているドルビーシネマでも暗いのだから、一般的な映画館でははっきり言って見づらい映像だったろうと思う。

そんな暗く重い映像の質感はそのままに、55X9900Lではそれを見通し良く描く。一番わかりやすいのが、今回のバットマンのスーツは真っ黒ではなく濃いグレーで胸のマークなどの要所だけが黒い。初期のアニメ版の設定に近い配色だったことがやっとわかった。冒頭の市長の殺害シーンでも、間接照明の室内は暗くニュースを伝える薄型テレビだけが眩しく輝く。そんな闇の中に殺害を行なうリドラーが立っている。この見え方はなかなか絶妙で、ホラー映画的とも思える。地デジ放送などでは明るさの向上に感心したが、映画を見ると黒の再現性の向上に感激してしまう。手持ちの55X910ではこの黒の深い再現が十分ではなく、暗部の再現性も苦しかったので、このあたりは有機ELテレビとしての熟成度の高さをよく実感できる。

雨が降っていることが多い街の中のシーンでも、黒光りする石畳の路面やバイクのヘッドライトの眩しい輝きなど「薄型テレビの性能テスト用の映像かな?」と思うくらいの再現の難しいシーンが続く。各社の最新モデルも一通り見ているが、55X9900Lの暗部再現の優秀さはトップクラスだと思う。黒に近いグレーあたりの階調もきちんと再現されているし、黒は思い切り黒い。そのため映像にキレがあって、緊張感のある映像とよくマッチする。このあたりは同じ有機ELテレビでも、より階調がスムーズでフィルムに近い柔らかい感触になるものもあるし、さらにコントラストを強めてメリハリの強い、あるいはややギラついた映像になるものもある。このあたりは映画的な感触を求めるならば前者だし、最新の映像コンテンツの解像感の高さやデジタル特有のキレ味を求めるなら後者と好みは分かれると思う。そんな各社の画作りの中で、55X9900Lは「THE BATMAN」に関してはベストのバランスだと思う。キレ味は鋭いがフィルムのような感触も残す絶妙なバランスだ。

ここからは見せ場となるシーンを見ていこう。まずはバットモービルの登場とカーアクション。街の路上の向こうに影が浮かんでいて、まずガスタービンエンジンを思わせる高い音が響き渡る。ついでV8エンジンを思わせる野太い排気音も鳴り響く。そうやって期待度を高めつつ、ようやく全貌が見えるのだが、スポーツカーのようでいて車高の高い姿は異様だ。下半身だけを見れば悪路を走行するバギーカーのようでもあり、重厚でありつつ機敏にも動くバットモービルらしい説得力があるデザインだ。

ここでのアクションは映像的にも見応えのあるシーンだが、やはり音が凄い。ハイウェイでのカーチェイスでは爆音と言えるエンジン音が素早く動きまわるし、周囲の車が慌てふためく様子も音でしっかりと再現されている。大きなトレーラーの横転と炎上、その炎の中から現れるバットモービルの姿は印象的だ。

55X9900LでのDolby Atmos再生は、ステレオ再生では画面くらいとやや狭いとさえ感じた音の広がりが一気にワイドになり、映画館のような左右の壁にスピーカーが配置されているような音場感になる。それでいて、センターの音は中央にきちんと実体感を持って定位するし、画面内に見えるものが出している音はきちんと画面の前に定位するので前方の密度感と周囲の広がり感のバランスもいい。このあたりは画面スピーカーの効果がよく出ていると思う。内蔵スピーカーの設定で各チャンネルの音量も独立して調整できるのだが、画面スピーカーの数値は「1」(最大値は10)。思ったより少ないが、「0」にしてしまうとセリフの実体感や音の厚みが消えて定位も甘くなるし、「2」以上だとセリフや前方の音が強くなりすぎる。このあたりもなかなか絶妙な仕上がりだ。

高さ感については、降りしきる雨がきちんと自分の頭上から降ってくるくらいの感覚もあるし、炎上する炎の圧迫感や燃え広がる感じもしっかりと高さを感じる。画面よりもやや奥に広がる音楽を含めて奥行き感もきちんと出ているので、十分に立体音響と言える音になっている。

物足りないとすれば、やはり自分より後ろに定位する音の再現。雨の中に佇んでいたり、炎上する炎が目の前に迫ってくるようなシーンでは、後方の雨の降る感じや炎にまかれるような感じはある。つまり包囲感としては後ろ側もそれなりに再現されているのだが、前方に広がる音の実体感や奥行きを伴う立体的な広がりに比べると、漠然とした感じにはなる。これはやはり後ろにスピーカーがあるかないかという絶対的な違いはあるだろう。ただし、前方主体の音場は画面に集中しやすいと思うし、無理に後方の音までバーチャルに再現しようとして不自然な感じになるのも良くないので、テレビの内蔵スピーカーでのアトモス再生としては十分なレベルだと思う。

これが不満ならば、腹をくくってAVアンプと5.1.2チャンネルのスピーカーを揃えるしかない。サウンドバーでもワイヤレスリアスピーカーを追加できるようなモデルが候補となるだろう。サウンドバーだけのモデルにも高級機には恐るべき実力を持つものもあるのだが、そういったモデルを別にするならば、単体で完結しているサウンドバーに買い替える必要はないと思う。

続いては、停電した真っ暗闇のビルの中での格闘シーン。いい歳をしたアニメ好きならば「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」で見たことのあるシーンだが、果たしてそれのオマージュなのかどうかは不明。要するに暗闇の中で敵を倒しながらバットマンが廊下の奥から画面に迫ってくるシーンで、敵の銃撃で瞬間的に光るときにしか戦う姿が見えない。黒の再現という意味では、暗闇の中でもきちんと殴り合いをしている様子がわかるし、瞬間的に光るときのキレ味のよい光り方も見事だ。音は銃撃の音速の速い破裂音が弛まずに鳴るし、殴ったり蹴倒すような鈍い音も厚みのある音で再現され、しかも足音とともにきちんと前に迫ってくるのもいい。これはもう内蔵スピーカーを超えた音といって差し支えないと思う。

ここであえて、物足りない点を上げるならば、前述した後方の音の実体感と低音の底力。低音に関しては映画を楽しむうえで十分に迫力はある。だが、映画館や本格的なホームシアターならば身体が震えるような、部屋が震えるような低音が鳴り響く。こういう体感的な音の迫力はもちろん足りない。サブウーファ出力を備えるといいとも思うが、内蔵スピーカーできちんとバランスが取れているので、セッティングは難しそう。キャリブレーション機能で外部サブウーファも含めて測定・補正ができるようにし、クロスオーバー周波数とレベル調整をきちんと合わせないと、ドカドカ響くが中低音が不明瞭になったり、なくても気付かなかったりする、サブウーファでよくある失敗例になると思う。

ちなみに正解は「サブウーファがあるとは気付かないが、サブウーファの電源を落とすと無いことにはっきり気付く感じ」。手動でこの調整をするのはかなりハードルが高いので、TVS REGZAで専用にチューニングしたサブウーファを発売するのが理想。コストはかかるし、メーカーとしてもビジネス的にはなかなか難しいと思うが、その効果は絶大なので、リアワイヤレススピーカーとともに、オプションの発売を検討してほしい。

映画の満足度は極めて高く、テレビ放送やゲーム、音楽まで楽しめる万能選手

本作はなぞなぞや暗号で捜査を混乱させるタイプのリドラーが相手なだけに、ミステリー調というかサスペンス作品のように展開していく。格闘やアクションシーンもあるのだが、このあたりは今までのバットマンとも異なる独特な風合いの作品となっているのがわかる。事件を追ううちに、ゴッサムシティの抱える深い闇、そして父であるトーマス・ウェインの闇までも暴かれようとし、自らの正体と自身が抱える闇にまで踏み込んでいく展開が実に面白い。

最近のDCコミックスの作品は、映像も暗く重厚で、物語も暗鬱なものが多い傾向にあり、個人的な感覚でも食傷気味なところはある。とはいえ、こうした作品は気に入るとじっくりと映像と音に没入してしまい、何度でも見たくなる魔力がある。55X9900Lはあくまでも忠実度の高い映像であり、地デジ放送などでは明るくきれいに見せることも意識しているが、派手さや見映えといったお化粧はしない。だからこそ、作り手の狙いにきちんとマッチした映像になると思うし、音も同じ方向で仕上がっていると思う。ジャンルを選ばずテレビ放送から映画、ゲーム、音楽まで楽しめたのはそういう作りであることの証だと思う。その完成度はかなりもので、筆者としてもいよいよ55X910からの買い換えを検討する時期が来たと感じている。

買い換えの検討となると、他社の有機ELテレビも気になるし、miniLED+量子ドットの液晶テレビも気になる。今年の薄型テレビは各社ともに力作揃いで、選び出すと迷ってしまう。そろそろ主要なモデルはすべて店頭に並ぶと思われるので、夏休みや予定のない休日にはぜひともテレビ売り場に足を運んでみてほしい。なかなか楽しい1日になると思う。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。