鳥居一豊の「良作×良品」

第116回

サウンドバー頂上対決「ゼンハイザー AMBEO VS デビアレ Dione」リビングオーディオはこれ!

デビアレのDione

テレビの前の空いたスペースに置くだけ、配線もHDMIケーブル1本の簡単さ。薄型テレビの普及にともなって登場したサウンドバーというスタイルは、今や身近なテレビ用スピーカーとして広く普及している。高級機ではサラウンド機能としてはDolby Atmos対応、ネットワークオーディオ機能も盛り込みテレビや映画はもちろん、音楽も一通りこなしてしまう多機能スピーカーとなっている。

実際、リビングに置くスピーカーとしては使い勝手がよく、AVアンプと複数のスピーカーによるサラウンドと違って配線を引き回すことも部屋の後方や天井にスピーカーを置く必要もない。リビングにあまり物を置きたくない、部屋のあちこちにスピーカーがあるのは家族が嫌がる、などの理由で本格的なサラウンドシステムを諦めた人にとってはありがたい存在だ。しかも音質も十分に優秀だったら、本格的なサラウンドシステムは無理と思う人もかなり気になるのではないだろうか。

サウンドバー自体が、“薄型テレビの音をさらによくするアイテム”という意味合いもあるため、その実力は決して低くはない。だが、それは薄型テレビの内蔵スピーカーよりも優秀ということだ。省スペース性やリビングにスマートに置けるスリム&コンパクトなデザインなどのため、Hi-Fi用の本格的なスピーカーとの実力差はそれなりにある。というのがこれまでの常識。今や高級機となると、ソニーの「HT-A7000」やB&Wの「Panorama 3」のように、少なくとも同価格で組んだAVアンプと複数のスピーカーと比較したら実力的にも甲乙つけがたい実力を持つものが登場してきている。

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そして、実力的にも(価格的にも)さらに優れたサウンドバーのハイエンドと呼びたくなるようなモデルが、今回紹介する2つのサウンドバーだ。ゼンハイザーの「AMBEO Soundbar」(実売約35万7,500円)とデビアレ「Dione」(35万9,000円)となる。これだけの価格になると、同じ価格でAVアンプとスピーカーを組んだ方が音がいい、と思う人は多いだろう。サラウンド効果も優れるのは間違いない。リビングあるいは専用の部屋でそれを実現できる人はそれを選んだ方がいい。サウンドバーは家族の集まるリビングで邪魔にならず、おおげさすぎず、しかし十分以上に質の高い音質で映画や音楽を楽しみたい人のものだ。

ゼンハイザーのAMBEO Soundbar

ここ最近のサウンドバーの進化に驚かされてきた筆者でも、さすがに約35万円という価格には驚いたが、その実力を確かめてみたいと思ったのも事実。もしも、同価格帯のHi-Fiスピーカーと同等の実力を備えているならば、それは非常に魅力的なモデルなのだから。そこで一気にまとめて両方をお借りしてレポートしてみた。

かなり大きく、重い。円形ドライバ×13個内蔵ゼンハイザー「AMBEO Soundbar」

ゼンハイザーのAMBEO Soundbar

まずはゼンハイザーの「AMBEO Soundbar」。外形寸法は1,265×171×125mm(幅×奥行き×高さ)で重量は18.5kg。一見すると普通のサウンドバーのようだが、実物を見ると明らかに一回り大きい。内蔵するスピーカーは13個で、構成は5.1.4ch。アンプ出力は総合500Wとなっている。自社開発のドライバーはすべて円形ドライバーで、このあたりも音質にこだわっていることが期待できる。

AMBEOの右側。サランネット越しに円形のドライバーが配置されているのがわかる。正面の9個に加え、両端および両サイドの上面にそれぞれ各1個のドライバーを配置している
内蔵するスピーカーは13個
上面の中央にある操作ボタン。電源と音量、入力切り替え(およびBluetooth接続ボタン)のシンプルな構成だ

機能としては、サラウンド規格にはDolby Atmos、dts:X、MPEG-H AUDIOに対応。ネットワークオーディオ機能は、Chormecast built-in、AirPlayに対応し、SpotifyやTIDALに対応する。映画だけでなく音楽も幅広く楽しめる機能が揃っている。背面にある入出力端子は、HDMI入力3系統とHDMI(eARC)出力が1系統。このほかに光デジタル音声入力、アナログ音声入力、サブウーファー出力とかなり充実している。機能や装備の面でも国内の高級機と同等かそれ以上のものになっている。

背面というか底面にある入出力端子。電源やUSB端子、ネットワーク端子に加え、HDMI入出力などがある

別売のオプションとなるが、リモコン(3,600円)と測定用のマイク(1万4,000円)も用意されている。設定のためにスマホ用アプリ「Smart Control」(無料)が必要で、アプリをリモコンとして使うこともできるのでリモコンは必須ではないが、なんとなくリモコンがあった方が安心感があるという人にはうれしい。測定用マイクはスタンド一体型の立派なもので、最初の設定時のほかはあまり使う機会はないのだが、部屋の特性を測定する自動音場補正は欠かせない機能なので、こちらはやや高価でも手に入れておきたいところ。

オプションの測定用マイク。ゼンハイザーのロゴ入りスタンドで1mほどの長さの棒の先端にマイクがある。試聴位置に置いて使用する
オプションのリモコン。基本操作のほか、音声モードの切り替えなどが可能だ

設置と接続が完了したら、スマホに「Smart Control」をインストールして設定を行なう。基本的にはネットワーク設定とマルチルーム設定、そして音声のキャリブレーションだ。このあたりはネットワーク機能を備えたオーディオ機器とほぼ同じで困るようなことはない。キャリブレーション(自動音場補正)も、設定からキャリブレーションを選ぶと、オプションのマイクとの接続などのガイドが表示されるので誰でも簡単に設定を行なえる。

再生機能も音量調整のほか、サラウンド機能のオン/オフ、音声モード(ムービー/音楽/ニュース/スポーツ/ニュートラル)の切り替えができるなど、機能的にも十分。音声設定などはシンプルで、キャリブレーションのほかはサブウーファーを追加した場合の調整があるくらいだ。基本的に最初の設定を済ませてしまえば、ほとんど細かく設定をいじる必要のないものとなっている。

また、コーデックを選択すると、現在入力されているソースのフォーマットなどが確認できる。そして、本体の前面にはディスプレイも備えていて、入力ソースなどを表示する。音楽再生時には曲名の表示も可能で日本語にも対応している。このあたり、日本の製品に慣れている人でも不満を感じないレベルでしっかりと作り込まれており、操作性や機能面でも物足りなさは感じない。

アプリのトップ画面。入力先の表示や音量調整などの基本操作が行なえる。リモコンとしても使える
サラウンド機能「AMBEO」のオン/オフや音声モードが選べるほか、ナイトモードもある
設定画面の一覧。各項目で設定の内容の確認や再設定が行なえる
自動音場補正は、設定の「音声」から「キャリブレーション」を選ぶ。このほか、接続したサウブーファーの設定なども行なえる
コーデック」では、入力されている信号フォーマットの確認ができる
Bluetooth選択時の画面表示。入力ソースなどを表示する

スリムでシンプルかつ合理的な機能性と操作性、デビアレ「Dione」

デビアレ「Dione」

今度はデビアレの「Dione」。外形寸法1,200×165×77mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は12kg。AMBEOよりは軽いがサウンドバーとしては十分な重さがある。横幅もほぼ同じくらいだが背が低いのでスリムな印象だ。中央のジャイロセンサーを内蔵した球体と湾曲した天板がデザインのアクセントになっていて、サウンドバーらしからぬ洒落た見た目となっている。

内部

すっきりとした見た目もいいが、厚みのあるアルミの天板とスピーカー部のファブリック生地を組み合わせたデザインの良さが印象的で、良い意味でサウンドバーらしくない。壁掛け時は天面がそのまま正面を向く感じで壁に装着されるので壁からの飛び出しも少なめで、壁掛け時の下面(棚置きでの背面)まできちんとファブリック生地でカバーされているのもよくできている。インテリア家電的な意味でもよく出来たデザインで、無骨なオーディオ機器を置きたくないという人にも好まれそうだ。

Dioneの右側。直線主体のデザインだが、スピーカーを内蔵する部分はファブリック調のカバーがついていて、シンプルながら質の高い仕上がりだ
中央部の球体。ジャイロセンサー内蔵で壁掛け時には向きが切り替わる。この周囲だけ優雅な曲面で構成されるデザインも洒落ている
左側には操作ボタンがある。アイコン化された各ボタンはタッチセンサー式。操作すると下のLEDが点灯する
左から側面を見たところ。ファブリックで覆われた側面にもスピーカーが内蔵されている
裏面もファブリック生地で覆われている。壁掛け時はこの状態で壁に装着される

機能面は、サラウンド信号はDolby Atmosに対応。dts:Xには対応しない。ネットワーク機能はAirPlay対応のほか、Spotify、Deezer、Tidal、Qobusなどの音楽サービスに対応。そして、UPnP(DLNAと同様のNASなどに保存した音源の再生機能)も備えるし、なんとパソコン用の音楽再生ソフト「Audirvana」との連携も可能。このほかにBluetooth機能も備えていて、ネットワーク機能はかなり充実している。

反面、入力端子はHDMI(eARC)と光デジタル音声入力のみ。このあたりは徹底して合理的。本機は薄型テレビとHDMI(eARC)で接続するだけでよく、その他のHDMI機器はすべて薄型テレビに接続すればいいという考え方だ。高級機としてはHDMI入力があってもいいとは思うが今後は主流となりそうでもある。シンプルというか合理的という点ではリモコンも付属せずオプションもない。設定で使用するスマホ用アプリ「Devialet」(無料)がリモコンになる。音場補正用のマイクは本体に4つのマイクが内蔵されている。

底面の入出力端子。ネットワーク端子、光デジタル音声入力、HDMI(eARC)、電源端子とシンプルな構成
底面の全体を見たところ。壁掛け用の金具を取り付ける穴が空いている

こちらも設置と接続が完了したら、まずスマホのアプリのインストールを行なう。セットアップはかなり洗練されていて、アプリを起動すると自動的にDioneを探して接続し、ネットワーク接続などの設定が行なわれる。ガイドに従って、設置位置(棚置き/壁掛け)の設定、ルームキャリブレーションなどをすれば一通りの設定が完了する。こちらも最初の設定が済んでしまえば細かく設定をいじる必要はない。

ネットワーク設定などは自動で行なわれ、「リビングルームの設定」で設置やキャリブレーションなどを行なう。ガイドなどもよく出来ている

アプリのトップ画面はリモコンを兼ねるためか、すっきりとわかりやすいデザインだ。大きな円形の音量調整と下に3つの音声モード切り替えがある。音声モードはモノラル/ステレオ音声をサラウンド化する「シネマモード」、音楽コンテンツ向けの立体音響となる「空間モード」、ニュースなどで声を強調する「ボイスモード」、ステレオ再生に近い音場となる「音楽モード」がある。このほか、Dolby Atmosや5.1/7.1chサラウンド音声の入力時は専用のサラウンド再生モードとなる。

アプリ「Devialet」のトップ画面。リモコン操作用の基本機能が配置されている。一番下の入力表示の横のマークをタッチするとソース切り替え画面に切り替わる
Dolby Atmos音声入力時は、音声モードが「Dolby Atmos」固定となる
ソース切り替えでは、Spotifyなどの主要な音楽サービスが並んでいる
さらに、TidalやAudirvana、ウェブラジオなどにも対応している

ネットワーク機能はかなり充実しているが、入力端子は徹底してシンプルになっているなど、かなり合理的な機能性となっているのがわかる。日本の製品とは異なる部分もあるが、使っていると機能に不足や物足りなさは感じない。というのも、HDMIのCEC機能で音量調整はテレビのリモコンで行なえるし電源も連動するので、手元にリモコンがある必要はないし、ひんぱんにスマホのアプリを切り替えてリモコン操作をする必要もあまりないのだ。

このあたりは日本的な家電との考え方の相違もあり、好みは分かれるかもしれないが、デザインを含めてオーディオ機器然とした威圧感もなく、好ましいと感じる人は多いと思う。

肝心の音質は、これがかなり素晴らしい!

サウンドバーとはいえ、どちらもなかなかの大型なので、取材ではそれぞれを2週間ほどお借りして日常的にも使いながら試聴している。どちらもさすがは最高級機で、日常的なテレビ番組の視聴でもその実力の高さを実感できた。

組み合わせているのはTVS REGZAの55X9900Lで、こちらの内蔵スピーカーも出来が良く、安価なサウンドバーではグレードダウンになるくらいの実力はある。だが、ゼンハイザーのAMBEO、デビアレのDioneともに次元の異なる音が出た。

たとえばニュースのアナウンサーの声の実体感が違う。音の充実度とかエネルギー感には大きな差を感じてしまう。そのくらい本質的な実力差がある。例えるならば、実力の優れたBluetoothスピーカーから、Hi-Fiグレードのアクティブスピーカーや単品のプリメインアンプと小型スピーカーを買い換えたときの違いのような差だ。映画や音楽番組を見れば、声の再現性や楽器の音の鳴り方が違うとわかる。

AMBEOとDioneの比較で言うと、繊細できめ細やかなAMBEOと、重厚で勢いのあるDioneという印象。低音はどちらもサブウーファーは特に必要ないと思うくらい下まで伸びるし、中高域の情報量の豊かさも本格的なHi-Fiスピーカーくらいの実力はある。どちらもステレオ再生に近いモードで聴くと、音場感はスピーカーの間隔をより広くとれるHiFiスピーカーの方が広がりは豊かだが、奥行きの深さとボーカルが前に出るような立体的な感じは同等と言っていい。

しかも、AMBEOには「音楽モード」、Dioneは「空間モード」があり、これを加えるとさらに広がりは増す。疑似サラウンドではあるが、人工的な感じも少なく、テレビの両サイドにダミーのブックシェルフスピーカーを置いておけば、ほとんどの人が「音場感の良いスピーカーですね」と言うくらいのHi-Fi的な実力を備えた再現性もある。きちんとボーカルが画面の前に定位するので、テレビの足元にあるサウンドバーから音が出ているという感じもほとんどない。

AMBEOで惚れ惚れとするのは声の質感とニュアンスの豊かさで、この表現力は同価格帯のHi-Fiスピーカーに十分匹敵する。音楽のリズムも力強く再現するのだが、どこか軽やかでしなやかに音楽を楽しめる。一方のDioneはまず音楽のリズムをしっかりと立たせるパワー型。不鮮明な量感頼りの低音ではなく試聴室の床が震えるほどのエネルギーのある低音で、反応も速いしキレ味も鋭い。ボーカルも厚みのある音像が前に出て、聴き応えのある印象。音の傾向としても好対照でどちらを選ぶかでもなかなか悩ましい選択となりそうだ。

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今回のメインの視聴作品は、「SING/シング:ネクストステージ」(以下「SING2」)。郊外の小さな劇場を復活させたバスター・ムーンと、ステージに出演する仲間たちが、今度は大都会の大きな劇場での舞台に挑戦するというもの。ディズニーアニメのような「突然歌や踊りが始まる」展開に慣れない人は少なくないかもしれないが、本作の場合は歌や踊りは、本番の舞台のための練習なので、違和感はない。そして、主要なキャストは前作から続投しているし、今回は長く隠棲していた伝説のロック歌手として、U2のボノが出演。CGアニメだから踊りは当然だが、歌の方も抜群で音楽ビデオとして見ても実によく出来ている。

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こうした音楽主体の作品は、音の設計も前方の音場を豊かに描くもので、サウンドバーが苦手とする後ろの音の再現などはあまり多用されない。そういう意味でもサウンドバー向きの作品と言える。もちろん、ステージの奥行きや高さ感のような立体的な音響はDolby Atmos収録でかなり立体感もあるし、空中サーカスのようにワイヤーでステージ上を飛び回りながら歌うシーンもあるので、音の移動感やホールの空間表現などはかなりリアルに作られている。

まずは冒頭。再建されたニュー・ムーン・シアターでの「不思議の国のアリス」の上演シーン。ゾウのミーナが扮するアリスが不思議の国に迷い込むと、そこでは時計ウサギや帽子屋、チェシャ猫らによるパーティーが始まる。曲は「レッツ・ゴー・クレイジー」。AMBEOは、音場も十分に広く、画面を動き回るキャラクターの声の移動感もスムーズ。音像定位が明瞭で実体感のある再現だ。ドラムのリズムもパワフルに響かせるし、ギターなどの楽器の音もクリアーでしかもパワフルだ。

Dinoeに変えると、低音はさらにパワフルになる。音像はさらに厚みのあるものになり、AMBEOに比べるとマッシブな印象になる。密度の高い音像が印象的なこともあり、音場は豊かに広がるというよりも55型の画面にマッチするくらいの広すぎないステージ感で、むしろ左右よりも奥行きの再現が印象的。ボーカルが前に出てくるような立体感もある。

サービスエリアに関しては、テレビ画面から2~3mほどの距離で聴く場合、大人3人が横に並んで見ていても十分に広がりや立体的な音場を感じられるくらい広い。AMBEOもDioneもアメリカやヨーロッパのような広いリビングでの使用を前提に設計しているようで、サービスエリアはかなり広い。それでいて、音の定位もかなりしっかりとしているのだから、サラウンドの再現性はどちらもかなりのものだ。

今度は、レッド・ショア・シティの大舞台に出演するためのオーディションの場面。そこでは、たくさんのアーティストが次々に自分の歌や踊りを披露するのだが、これもバラエティー豊かで楽しい。しかし、オーディションの審査は厳しく、すぐにブザーが鳴って審査終了となってしまう。このブザーが頭上から鳴り響くのだが、AMBEOはかなり試聴位置の頭の上から鳴る感じになる。この場面に限らないが真横まで回り込むような音も明瞭に定位し、後方の音の響き感とあいまって包囲感もかなり優秀だ。音しては迫力満点のたくさんの和太鼓の連打は、アタックの力感もしっかりとしているが、全体的に軽やかで反応のいい低音なので、和太鼓ならではのパワー感はやや軽めに感じる。

Dioneは審査終了のブザーの音は斜め前方から鳴っている感じになる。音場の広がりとしても真横までは感じられるが、真横の音は音像の厚みも薄れるため、バランスとしては前方に集中した感じの音場感になる。そのぶん、それぞれの歌や演奏は実体感たっぷりの音で実にパワフル。和太鼓の連打も身体を震わせるほどの力強い低音がキレ味よく鳴り響く。

続いて、妻を失ったことでロック歌手としての活動を中断し隠棲しているロック歌手の元を訪ねるシーン。彼のファンでもあるハリネズミのアッシュが、彼の歌をギターの弾き語りで歌う場面だ。バラードの曲をしっとりと歌う場面だが、邸宅の外で歌うアッシュとそれを邸宅の中で聴いているロック歌手のカットの切り替わりで音響も変化する。AMBEOはその歌声がじつに表情豊かで繊細に再現され、家の中での少し音の遠い感じや響きの多さもよくわかる。ロック歌手が外に出ると、歌声はクリアーに響き、ニュアンスも豊かに出る。Dioneは歌声は明瞭で実体感もあるが、表情の豊かさやしっとりとした雰囲気はやや差を感じる。家の外での声の張りや声量の豊かさ、ギターの音色の芯の通った感じなど、エネルギー感のある鳴り方だ。

AMBEOはゼンハイザーのヘッドフォンにも通じる上質なきめ細やかさと声の表現力の豊かさが大きな特徴だと感じた。Dioneに比べると低音は軽やかに感じてしまうが、ローエンドの伸びも十分で非力というわけではない。これは音としての傾向の違いだろう。Dioneは対照的と言っていいくらい骨太で力強い再現で、ボーカルの微妙なニュアンスはやや差を感じる。だが、声の力感とか実体感はしっかりしており、表情の変化も物足りないほどではない。

言い換えるなら、音楽ならばAMBEOはクラシックのオーケストラと相性の良い鳴り方で、Dioneはロックあるいはジャズのパワフルな演奏と相性が良い音だ。聴こえ方としても、AMBEOはコンサートホールの良い席である程度の距離感をもって演奏を聴く感じで、Dioneはライブコンサートの最前列でバンドの演奏にかぶりつきで聴いている感じはある。これはもう、どちらが優秀かどうかというよりも好きか嫌いかの領域だ。

そして、いよいよ本番のステージとなる。主要メンバーがそれぞれに歌と踊りを披露する。ゴリラのジョニーは、ピアノの弾き語りとダンスしながらの歌唱で、叫ぶように声を張るが、このときの力強さはDioneがいい。男らしく力強い迫力がよく伝わる。ブタのロジータは恐怖を克服して空中を舞いながらの歌唱をするが、ステージの上空を移動するときの移動感や移動に合わせて客席の声もウェーブのように移動していく様子も実に豊かに感じられる。サラウンドの再現性としても、複数のスピーカーで構成したシステムに負けない再現だ。そしてなにより歌声が素晴らしい。エネルギー感はDioneもしっかりとしているし、パワフルだが、AMBEOはそこに繊細なニュアンスが加わる。

U2のボノが演じるロック歌手の歌唱はどちらも素晴らしい。AMBEOは憂いをおびた歌声が胸に迫るし、Dioneはボノの声の張りやエネルギーが心を奮わせる。持ち味の違いこそあれ、実に素晴らしいステージパフォーマンスだ。

これはもう立派なホームシアター。本格的なステレオ再生装置との同居や併用にもおすすめ

ゼンハイザーのAMBEO、デビアレのDione。ともに素晴らしいホームシアターで、複数のスピーカーによるホームシアターは無理でも音質の良さには妥協したくないという人にはぜひ検討してほしいモデルだ。

現在では、4Kや8Kといった映像フォーマット、Dolby Atmosやdts:Xといった音声フォーマットも一段落しており、購入してすぐに新規格が登場して陳腐化してしまう心配もあまりない。そういう点でも、こうした高価格で音質にもしっかりこだわったサウンドバーが登場するようになったのだと思う。複数のスピーカーを部屋中に配置するホームシアターが現実的ではない現在、こうした選択肢が増えるのはいいことだ。

こうしたモデルは、ステレオ再生とサラウンド再生の同居や併用にも良いと思う。リビングの大画面テレビの両サイドにしっかりとこだわったステレオ再生のスピーカーを置き、テレビの前にサウンドバーを置くスタイルだ。じっくり音楽と向き合うときにはステレオ再生、映画のときはサウンドバーを使い分ければ、スピーカーの置き場所の問題は最小限だ。家族が気軽に使えるという意味でもサウンドバーがあるのは便利だと思う。なにより、ステレオ再生時と映画の再生時で音質的な落差にストレスを感じないというのが実用上ではかなり大きなメリットだと思う。

もちろん、ガチのオーディオマニアではなく、気軽に映画や音楽、テレビ放送をステレオ/サラウンドで自在に楽しみたいという人にもおすすめ。これだけ気軽に使えて、音の点でもちょっとした単品コンポのシステムに迫る実力があるならば、満足度は極めて高い。正直なところ、たかだかテレビ用スピーカーであるサウンドバーにここまでのモデルが出るとは思っていなかった。バーチャルサラウンド技術だけでなく、複数のスピーカーを連携して駆動する技術、デジタルアンプの性能向上、ネットワークオーディオなど、最先端のオーディオ技術が詰まっているとも言える。誰にでも買える価格の製品ではないが、ぜひとも一度これらの音を聴いてみてほしい。サウンドバーに持っていた偏見や先入観が消え失せるはずだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。