鳥居一豊の「良作×良品」
第135回
「もうこれでいいじゃん」ペア10万円以下の超コスパ3スピーカーを聴く。JBL STAGE 250B/ELAC Debut B5.3/KEF Q1 Meta
2025年1月6日 08:00
2024年のHiFiスピーカーというと、ペアで数百万円どころか、数千万円やそれ以上の高価なフラッグシップモデルが話題となった。その一方で、初めて本格的なオーディオ機器を手に入れる人にピッタリな、エントリークラスの優秀なスピーカーとの出会いも沢山あった。
1つ1つは決して話題性の豊かなモデルではないが、それらを集めて特徴を聴き比べてみると面白そうだ。というわけで、昨年発売された新製品から、実力の優れた3モデルを集めてみた。
- JBL STAGE 250B ペア5万5,000円
- ELAC Debut B5.3 ペア8万2,500円
- KEF Q1 Meta ペア8万8,000円
安価でも優れた性能のスピーカーが作れる理由
例えば昭和の頃に、ペアで10万円以下のエントリースピーカーは存在していた。スピーカー市場全体を見ると、物価の上昇にともなうように平均価格は上がっていると思うが、今回取り上げる3モデルのように、今でもペアで10万円以下のスピーカーは存在し続けている。この理由は何故か。
まずは大量生産によるコスト削減効果。今回の3社はすべて海外メーカー製だが、これも偶然ではない。世界を舞台に商売しているから生産数もそれだけ多く、コスト削減もしやすいわけだ。しかも電源を必要としないパッシブスピーカーは、世界各地の電源仕様に合わせる必要もないので、そのためのコスト負担の増加もない。
続いて、スピーカーの設計・開発がしやすくなったこと。測定技術も進化したし、振動解析やシミュレーション技術などにより、ドライバーにしろ、エンクロージャーにしろ、何度も試作を繰り返すのではなく、コンピューター上の設計である程度までの開発が進められるようになり、開発コストを抑えられるようになった。こうしたコスト削減はエントリークラスでは効果が大きい。
そして、上級機の開発などで得た新技術を流用できること。振動板の新しい素材であるとか、新しい技術は、使いこなしのために多くの研究開発が必要で、ここのコストは削減できない。そもそも新素材が希少な金属などならさらに材料コストもかかる。上級機が高価なのはこのためだ。
だが、エントリー機は、上級機で開発し終わった技術や素材を、価格に見合うならば流用できる。だから、新たな技術による性能向上を、安価で手に入れられるわけだ。
そのため、安価といっても決して馬鹿にしたものではなく、性能はなかなか良好なものになっている。もちろん、高価な部品をぜいたくに使うことはできないが、上級機での開発経験から、重要な箇所はわかっているので、そこにきちんとコストを投じるなど、コスト効率の良い製品化も行なえる。
高級機の目新しい技術や、希少な素材を使ったドライバーなどは目を引くが、そうして獲得した技術を安価で提供することも、そのメーカーの技術力を示すものだと思う。
次世代型HDIウェーブガイド採用。白と木目の配色もユニークなJBL STAGE 250B
各社のスピーカーの特長を紹介していこう。今回では最も安価なSTAGE 250Bだが、実はSTAGE 2シリーズとしては、ブックシェルフ型としては大きい方のモデルとなる。最小サイズのSTAGE 240Bはペアで4万円と、他と比べてあまりにも価格差が大きいので、比較試聴もするため250Bを使うことにした。
前作となるシリーズと同様に、HDI(ハイディフィニション・イメージング)ウェーブガイドを搭載しているが、これは最新の次世代型となっている。ツイーターは25mmのアノダイズド・アルミニウム・ドーム、ウーファーは130mmのポリセルロース・リブドコーンだ。
エンクロージャーより一回り大きいバッフル板を持つデザインがユニークで、バッフル面は白、エンクロージャーは明るい色調の木目という、洒落たデザインが印象的。
カラバリとしてはバッフル面が黒で、エンクロージャーは濃茶の木目のモデルの2種類がある。振動板素材は異なるもののリブで補強したウーファーの顔付きはリブ付きの紙コーンを使用していた往年のJBLのスピーカーらしさも残している。
HDIウェーブガイドは、過去のモデルのようなX字状に広がる形状こそ同じだが、上下と左右の放射面に微妙な起伏をもった形状になっていて、波面の拡がりをより最適化していることがうかがえる。
基本スペックは、再生周波数帯域が50Hz~25kHz、感度が86dB(2.83V/1m)。公称インピーダンスは6Ω。寸法が200×253×321mm(幅×奥行き×高さ)で、重量が5.6kg。背面のバスレフポートはフレアー付きポートを採用。スピーカー端子はJBLのスピーカーで見慣れた5ウェイ・スピーカー端子で、少し小ぶりだがさまざまな接続を選択できる。
バッフル面は底面側もエンクロージャーより大きいので、設置時にがたつく、あるいは斜めを向いてしまうかと気になったが、底面はバッフル面と高さを合わせた板が貼られていて段差はない。簡易的な台座とも言えるし、底面部分の厚みが増すことで強度も高まっているだろう。エンクロージャーの木目は樹脂シートに印刷されたもので、バッフル面はマットホワイトの塗装となっている。
新たにアルミドームツイーター採用。アメリカで企画・設計されたELAC Debut B5.3
独ELACのエントリーシリーズとしては3世代目となるDebut 3.0のブックシェルフ型モデルが「Debut B5.3」。DebutシリーズはELACのアメリカ支社で企画・設計されたシリーズだ。もちろん同じ会社なので技術的な交流はあるが、スピーカー作りとしては独自に行なっているという。
一番の特長はこれまで使っていたソフトドームから、カスタム設計の25mmアルミドーム・ツイーターを採用したこと。独特なデザインのフェイズ・プラグを備えているのが見た目の特長にもなっている。
ウーファーは、過去のシリーズと同じ、アラミド・ファイバーを振動板に採用した135mmドライバーだが、磁気回路を大型化し、38mm口径のボイスコイル・エンジンを採用して低音再生を強化している。
ELACというとJETツイーターが有名だが、コスト的な理由でJETツイーターは使っていないものの、こちらもバランスの良い音で人気の高いモデルだ。
基本スペックは、再生周波数帯域が48Hz~38kHz、感度が86.5dB(2.83V/1m)、インピーダンスは6Ω。寸法が172×267×311mm(幅×奥行き×高さ)で、重量が6.05kg。
外観はもっともオーソドックスな箱形で、16mm厚のMDF(CARB2規格)製となっている。エンクロージャーの仕上げは木目を印刷した樹脂シートを貼ったもので、バッフル面はマットブラックの塗装。ELACのロゴプレートは金属製だ。背面にあるバスレフポートはフレア形状となっている。
ちょっと目を引くのがスピーカー端子で、大型の金メッキ製端子となっている。形状的にも締め込みやすく、使いやすくなっている。見た目も含めてELACらしい質実剛健なデザインだ。
音の迷路でノイズを吸収するMATをエントリーモデルにも。KEF Q1 Meta
KEFのQ1 Metaは、同社のエントリーシリーズであるQシリーズの一番小さなブックシェルフ型モデル。同社の顔とも言える同軸型ユニット「Uni-Qドライバー」を採用し、新たにメタマテリアル吸収技術「MAT」も搭載した。
これはドライバーユニットの後端に円盤状の音の迷路を装着し、ツイーターの背面から発する音のノイズを効果的に吸収する技術。Referenceシリーズをはじめとする上級機で採用され高く評価されているので、Qシリーズには待望の採用と言えるだろう。
発売がラインナップの中で一番最後となったことからも予想できるが、Qシリーズへの採用はなかなか困難だったようで、MATのための音響迷路を構成する部品は一部簡略化もされている。このあたりの再開発に時間を要したようだ。
Uni-Qドライバーは25mmのアルミドームツイーターと130mmのアルミコーンウーファーを組み合わせたもの。スピーカーとしての基本スペックは、再生周波数帯域が47Hz~20kHz(-6dB)、感度が86dB(2.83V/1m)。インピーダンスは4Ω(最小3.2Ω)。寸法が180×277×302mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は6.1kg。
箱から出して外観を含めて見てみると、エンクロージャーや正面のバッフル板は木目の模様が印刷された樹脂シールを貼った仕上げでこのあたりは価格的にも仕方のないところ。KEFのロゴのあるバッジは樹脂製。
背面にあるバスレフポートはフレア形状になっていて、ポート内側は少しざらっとした感触で放出される空気の乱れを調整しているようだ。スピーカー端子はYラグ/パナナプラグに対応。付属品として設置用のゴム脚、ポートの気流の量を調整できるウレタン製のポートバンクがある。
この3つのスピーカーは、サイズ感もほぼ同じで仕上げも大きな差はない。しかも重量も6kg前後とほぼ同じ。しっかりと手応えのある重さがあるので、安っぽさを感じない。カタログスペックとしてもほぼ同じなので、現代のブックシェルフ型スピーカーの標準的なスタイルと言えるだろう。
3モデルを聴き比べ。実力を出し切るため、セパレートアンプで鳴らす
試聴では、自宅のシステムを使っている。再生装置はMac mini+Audirvana ORIGINで、FIIO K9 AKMをUSB接続している。そしてSACD再生用にOPPO BDP-105DJPを使用。アンプはプリアンプがベンチマークのHPA4で、パワーアンプは同じくベンチマークのAHB2×2(BTL接続)だ。
現代のスピーカーはずいぶんと鳴らしやすくなっているので、強いて価格の不釣り合いなアンプを組み合わせる必要はない。だが、スピーカーの評価をするならば、それなりに実力のあるいセパレートアンプでしっかり鳴らしてやった方が良いと判断した。実際に出てくる音も安価なスピーカーとは思えない音が出る。エントリークラスと舐めた態度で扱うのではなく、しっかりと実力を出し切った状態でどこまで鳴るのかを確かめてみよう。
スピーカーセッティングもきちんと行なう。今回はTAOCの鋳鉄製スタンドを使用し、インシュレーターにもTAOCの鋳鉄のものを使用。ガタつきの無いように接地させ、ごく僅かな内振りとして条件を揃えている。
まずはJBLのSTAGE 250B(以下、JBL)。
勢いのよい元気な音で、音調としても明るい。一番の特徴は低音がパワフルでしかもタイト。量感に頼らずに力強く鳴る良い低音だ。クラシックのオーケストラのステージ感や迫力は3モデルのなかで一番ダイナミックだ。
価格は一番安価で、もともと安価な価格帯だけに実力不足を心配したが、そんな差をみじんも感じさせない。低音がしっかりしているので聴き応えもあるし、コストパフォーマンスはもっとも優秀。ボーカル曲を聴いても、音が前に出るタイプで前後感もあるし、声の抑揚やニュアンスも多いし、発音も明瞭。あまり気にならないレベルで少し粗さも感じるが、勢いの良さにも通じるし、JBLらしさも感じる。
JBLらしさという点では、往年のJBLの名機に比べるとかなり洗練された現代的な音だと感じていたのだが、こうして3つのスピーカーと聴き比べているとJBLらしさがきちんと感じられる。安価ながらやはりJBLのスピーカーなのだという安心感もある。
続いてはELACのDebut B5.3(以下、ELAC)。
音の粒立ちがよく、しかも個々の音に厚みのある鳴り方だ。アルミ製ハードドームのツイーターということで高域に特長のある鳴り方をすると感じていたが、クセのある鳴り方ではなく、弦の艶や金管楽器の輝きが感じられる音。高域のエネルギーは強めだが音色の感触としては柔らかいのでキツくならない。それもあって明るめの音調ではあるが、落ち着きもあるし自然な感触だ。
楽器の質感もそうだが、声も質感やニュアンスが豊かだ。音の分離の良さもあって、コーラスの声の分離と調和など、ディテールをきめ細かく描くタイプだ。低音はブックシェルフ型としては不足はない。
そして一時ブックシェルフ型で流行った量感をたっぷりのせて低音感を演出するようなことはなく、エネルギーをしっかりと出しつつもふくらみすぎないものになっている。低域まで含めて解像感の高い精密感のある鳴り方だ。
音場の拡がりも十分に良いし、奥行き感もある。音の粒立ちがよく実体感があるので、細部を細かく聴きとれる。ボーカルも同様に高域まできれいに伸びるが線が細くならず、繊細でもひ弱にならず、聴き応えがある。
最後はKEF Q1 Meta(以下、KEF)。
単独で聴いて物足りなさを感じるほどではないが、高域がおだやかで感触も柔らかい。ボーカルも自然体で聴き心地がよい。落ち着いた感触で気持ちよく楽しめる音調だ。そして、ボーカルに限らないが音像定位が優秀で、音場も拡がりと奥行きのある立体的なものになる。このあたりはUni-Qドライバーの特徴的な部分だ。
低域は少し量感を増したボリューム感のある鳴り方。感触も柔らかく穏やかなので出音の勢いやパワフルさは優しい感触になりがちだが、スケール感はある。三者の比較での印象としてはゆったりとした鳴り方になる。
ボーカル曲の歌い手にスポットライトが当たったかのような浮かび方、オーケストラの配置がわかるような三次元的な描写をゆったりとしたタッチで描くイメージだろうか。自然体という言葉が一番に浮かぶ。ことさらに細部を描くような緻密さはないが、そこも見たまま、感じたままの再現という気になってくる。
SACDで甦った「交響詩 銀河鉄道999」を聴く
今回の良作は「交響詩 銀河鉄道999」。劇場公開された「銀河鉄道999」のサントラ盤だ。初めてのSACD化であり、主題歌を歌うゴダイゴの曲をSACDで楽しめるという点でも聴く価値のある作品だ。筆者はもちろん大好きな作品だし、楽曲もすべてが好きだ。
OPPOのBDP-105DJPでSACDレイヤーを再生。古いモデルでUHDブルーレイに対応する機種でもないが、日本向けとして特別にノイズ対策などが施されたモデルで音質的にも気に入っている。アナログ音声出力をバランス出力でプリアンプと接続している。
まずは1曲目「序曲 メインテーマ」を聴いた。広大にして深遠な宇宙を感じさせる空間からクラシックな蒸気機関車が走る。そしてタイトル。静から動への転換がダイナミックで、この曲で一気に見る者を映画の世界に没入させてしまう名曲だ。
JBLは溌剌とした音でタイトルバックでダイナミックな演奏も力強く再現。リズムを刻むドラムスの力感やエネルギーもしっかりと出る。この曲を聴くと初めて映画館で見たときの気持ちが甦るのだが、JBLだとさらにその当時の映画館の音も思い出す。こういう勢いのよいエネルギッシュな音の出る映画館が多かった。まさに鮮烈。当時の映画館でこんな音は出ていなかったと思うが、音の勢いや鮮度の高さが往年の映画館の音を感じさせてくれた。
ELACは弦楽器の艶や金管楽器の輝きが出て、タイトルバックのフレーズがフレッシュな印象だ。まさに少年が旅立とうとしている若さや胸の躍るような感覚がよく伝わる。ドラムスもパワフルで歯切れよい鳴り方でダイナミックでありドラマチックでさえある。映画館で例えるならば、こちらは最新の映画館という雰囲気。精細な鳴り方でこんなにたくさんの楽器が使われていたのかと、編成の多さにも感心してしまう。
KEFはどちらかというと穏やかな鳴り方でゆったりとしたムード。この曲は明るい未来への旅立ちというだけでなく、未知の世界への不安など、さまざまな心情も描かれるが、そうした心情に寄り添った鳴り方だ。落ち着いた音調で心情を自然に描きながら、映画らしい壮大さや広大な宇宙を舞台にしたスケールの大きさも感じさせる。音場が立体的なので、前方だけのステレオ再生ながらも包まれるような雰囲気もある。
今度は9曲目の「心の詩とアルカディア号」。惑星ヘビーメルダーで、トチローとの出会いの場面で使われる曲と、後半はキャプテン・ハーロックの出撃で使われる曲が一体になっている。おそらくは作り手の意図だと思うが、このサントラというか使われている音楽に、あまり「戦い」を連想させる曲は少ない。この曲の後半が唯一勇壮な曲だが、それでも行進曲だ。バトルというかアクションシーンが多い割にはそういう曲を当てずに、むしろ登場人物の心情や生き方をイメージさせる曲が多いことに気付く。「銀河鉄道999」はそういう映画だった。
JBLは前半の哀愁を帯びたハーモニカの音を鈍く輝かせ、なかなかに心情の描写もうまいと感じる。音の鮮度の高さ、楽曲のテンポ感をストレートに再現するスピード感のある鳴り方がそう感じさせるのだろう。もちろん後半の行進曲は一番勇ましい。低音はパワフルだが出音の勢いがよくキレ味がいい。スネアドラムもキビキビと鳴る。そして、高らかに吹き鳴らすトランペットの輝きと勢いが壮絶にカッコイイ。
ELACはハーモニカの鈍い輝きや哀愁を帯びた音色も忠実に再現するし、後半の勇壮なテーマを力強く鳴らす。ドラムスの低音もしっかりと鳴って弛まないし、トランペットや金管楽器の鳴り方もパワフルだ。JBLのようにカッコよさを演出することはないが、もっとも色づけのない再現で、編成の豊かさや音数の多さがよくわかる。精密さと情報量の豊かな音だ。
KEFも心情を豊かに伝えてくる。ハーモニカは哀愁漂うムードが濃厚。音像定位が良いのでハーモニカの鳴り方も実体感があり、映画のシーンが甦る。後半の行進曲も勇壮にスケールも大きく再現する。他と比べると穏やかで優しい感じの低音だが、ドラムスも量感豊かに鳴り、迫力も十分。トランペットや金管楽器もしっかりとキレ味のよい音を鳴らすので、出陣のムードというか、哀しみを秘めた男が戦う姿が濃厚に漂う(ハーロックの名セリフを思いだそう)。
最後は「終曲-別離、そして新たなる出発」。もうタイトル通り、物語の最後に流れる曲で、ゴダイゴの歌う「銀河鉄道999」は後半に入っている。ロマンチックなムードだが、決して悲愴な曲調とはせずに、むしろ希望に満ちた曲となっているのがいい。そこにゴダイゴの主題歌が続く流れは映画そのまま。この構成も見事だ。
JBLはあまり悲しさは感じさせずに、華やかに終幕を彩る。ゴダイゴの楽曲も軽快でリズミカルな再現だ。ボーカルの質感や発音も明瞭だし、勢いの良さやリズム感が気持ちいい。ボーカルに付加されたエコー感やサビや間奏で鳴る細かなパーカッションの音など細かいところもきちんと再現。他と比べてしまうと少し粗さも感じる音だが、粗さが耳に付くようなことはない。マニアックな言い方をするとSACDレイヤー(DSD 2.8MHz)よりもCDレイヤーの音(44.1kHz/16bit)に近い印象だ。
ELACは前半の弦のメロディーの音色がきれいで、いかにも青春の美しい思い出というムード。あの甘くほろ苦い感じというか、少年時代特有の心情がよく出ていると感じる。後半のゴダイゴは個々の音が立つクリアーで解像感の高い音。曲が切り替わるときの無音部分や、ゴダイゴの楽曲として録音されたものを音量レベルを合わせるなど最小限の加工でつなげたため、ミックスの感じがそれまでのオーケストラを中心とした編成による演奏とは感触が変わるのだが、そうした細かな違いまでもわかってしまう。この情報量というか精密な再現はオーディオの魅力のひとつだと思う。
KEFは気持ち良くなめらかな印象。前半はロマンチックなムードに浸れる音だし、後半は一転して軽快で希望に満ちた演奏を丁寧に再現する。こうしたムードとか心情の描写は自然体で、曲の持つ魅力をストレートに楽しませてくれる。高域の少し穏やかな感じもタケカワユキヒデの声と合っていて、質感も出るしハイトーンの伸びも鮮明だ。
個性豊かで、実力も優秀。これらをじっくり使いこむのが楽しく、面白い!
取材後の感想は、思った以上に満足感があり、「もうこれでいいじゃん」というものだった。スピーカーの実力として十分であり、飽きることなく長く愛用できる。高価なスピーカーが音が良いのは当たり前で、こういう価格帯で優れた音に仕上げることこそ、メーカーの技術力の見せどころなのかもしれない。
もっと高価なスピーカーの方が音質というよりも表現力とか音楽を聴いたときにこちらが感じるものなどはさらに豊かなものになるが、まずは今回のようなスピーカーをしっかり鳴らしきってからで十分だと思うし、そういう経験なしで高価なスピーカーを聴いてもそれが持つ本当の良さや魅力が理解できないかもしれない。
もしも高いスピーカーでないと趣味のオーディオを始めるには恥ずかしいと思い、今必死にお金を貯めている人がいるとしたら(その姿勢は立派だが)、今すぐ手持ちのお金で買えるスピーカーを買ってすぐにオーディオを始めた方がいいとアドバイスしておく。人生は短い。
安価なスピーカーの魅力を、その面白さを知ってしまったのは筆者かもしれない。これは思った以上に面白い。というわけで、こうしたエントリークラスのスピーカー特集は人気があればやっていきたいと思う。というのも、新製品だけでなく、各社のエントリークラスのスピーカーには優れた実力のあるモデルが思った以上に多いからだ。今回の記事を読んで共感してくれた方は、ぜひとも次に聴きたいスピーカー(ペアで10万円前後)についても教えてください。