鳥居一豊の「良作×良品」

有機ELで4K!! LG「55EG9600」の映像美に目を見張る

「インターステラー」の深遠なる宇宙を体験する

 有機ELは、液晶とプラズマが覇を争っていたフルHD時代から登場が期待されていた表示デバイス。プラズマと同じく各画素が独立して発光する自発光タイプのため視野角の制限がなく、プラズマのような予備発光が不要だからコントラスト比の高さでも圧倒するなど、画質的なポテンシャルの高さで知られていた。しかし、携帯電話などの中小型ディスプレイこそ量産化に成功したものの、薄型テレビのような大型ディスプレイでの量産化が難航し、国内メーカーも開発は行なっていたものの、薄型テレビの製品化は断念してしまった。

 そんななか、LGエレクトロニクスではついにWRGB方式による有機ELテレビの製品化を実現。昨年まではフルHD画素の有機ELテレビを本国および北米で先行して発売していたが、5月にはついに日本国内にも導入。有機ELでしかも4Kパネルを採用した最先端のモデルだ。

LG「55EG9600」

 今回取り上げる良作は、そのLGエレクトロニクス「55EG9600」(実売価格:678,880円)。4K解像度の有機ELパネルということで、僕は3ケタ万円の価格をイメージしていたが、実際には同サイズの4K液晶テレビと比べてやや高いと程度の価格だったことにも驚いた。これは、先行して製品化していたフルHD有機ELテレビの生産で、量産におけるさまざまな問題を解決するノウハウを蓄積でき、歩留まり(製品の不良率。これが悪いと生産効率が悪化し、パネル単価を安くできない)を向上できたためだそうだ。このくらいの価格差ならば、画質に優れる有機ELを選びたいという人もいるだろう。

 WRGB方式の有機ELパネルは、RGBの三原色に、輝度を補助する白色の画素を加えたもの。RGB自体の各画素も発光色自体は白色で、パネル前面にあるカラーリファイナー(液晶テレビのカラーフィルターに近いもの)を使って、3原色として表示する仕組みとなっている。

 今回は、LGエレクトロニクスの会議室をお借りして、実際に店頭で販売されるものと同じ量産ロットの55EG9600を使って視聴を行なうことにした。

極めて薄く、湾曲した画面が独特の雰囲気を醸し出す

 では、55EG9600を詳しく見ていこう。ひとめでよく分かるのは、本機が湾曲した画面となっていることだ。国内では目新しいものだが、北米など海外では主流になりつつある形状であるようだ。

55EG9600を正面から見たところ。真正面から見る限りでは、画面が湾曲しているということはあまり意識させず、自然なものになっている

 湾曲した画面のメリットは、画面中心と周辺の視聴距離のずれをなくし、自然な観賞ができることだ。大きなスクリーンを持つ映画館で見たことのある人もいるだろう。ゆるやかなカーブは、5m程の距離で中心と周辺の距離が一致する曲率となっているようだ。一般的な家庭環境の視聴距離が2~3mと考えると、視聴距離を完全に一致させるというよりも、平面の画面に慣れた人にも違和感がなく、適度に周辺部まで目が届きやすくするバランスで設計されていると思われる。実際に、1mちょっとの近接視聴で画面の中央に座ってみても、映像がよりワイドに広がるような印象になるものの、違和感を感じるほど(画面が歪んで見えるほど)極端なものでないとわかる。

 側面部は、上部がディスプレイ部のみの極薄な形状となっており、回路基板や入出力端子などを備える下半分の部分だけやや厚みを増した形状だ。背面部分も画面と同じく緩やかなカーブを描いている。入出力端子は左側にあり、USB端子やHDMI端子などが配置されている。主要な装備などは一般的な4Kテレビとほぼ同様だ。

斜め横から見てみると、湾曲した画面がよくわかる。他の4Kテレビと比べても、独特のフォルムになっている
真横から見てみると、ディスプレイ部の薄さに驚く。バックライトが不要な有機ELならではの部分で、最薄部はわずか0.6cmだ
側面部にある入出力端子。上からB-CASカード、ヘッドホン出力端子(ステレオミニ)、USB×3(USB3.0×1、USB2.0×2)、HDMI×3(すべて4K/60p対応)となっている
入出力端子などがあるディスプレイの下部。出っ張った部分の上部は放熱のための開口部となっている

 ディスプレイ部分は画面下部も含めてベゼルの細いモダンなデザインとなっており、スピーカーは画面の下部に下向きで配置されるタイプだ。これはデザインを優先したものではあるが、アメリカのHarman/Kardon製スピーカーを採用するなど、音質にも配慮したものとなっている。

 モダンなデザインは、スタンドのディスプレイを支える部分にクリア素材を使っているのもなかなか大胆だ。画面だけが浮かび上がっているような印象になり、湾曲した大画面ということもあって映像に包まれているような感じになる。

シルバーのスタンド部分には、OLED(Organic Light Emitting Diode:有機EL)の刻印と、「Sound Design by Harman/Kardon」のシールが貼られている
スタンド部分のアップ。ディスプレイを支える支柱部分は、クリアな樹脂素材を使用しており、背面の壁などインテリアに溶け込む作りとなっている

 機能を詳しくチェックしてみると、内蔵チューナは地デジ/BS/110度CSチューナ×2で、USB HDDを増設しての録画も可能。操作メニューは「webOS 2.0」搭載のモーションポインター操作対応のものとなっている。そして、最近注目されることが減っていて悲しいが、3D表示にもきちんと対応し、偏光式の3Dメガネも付属する。このあたりのテレビとしての基本機能は同社の4K液晶テレビなどとほぼ同じだ。

直感的な操作でさまざまなコンテンツにアクセスできる「スマートホーム」。ポインターの動きもスムーズで、操作に対する反応もキビキビとしており、直感的に使える
モーション操作ができるマジックリモコン。上部にはマイクも内蔵されており、音声操作/検索が行なえる

 ホームメニューの操作などをしてみると、マジックリモコンによるモーション操作は、よりポインティングの精度が向上しており、リモコンを持つ手の意識しないわずかな震えに反応して、画面状のマーカーがぶるぶると震えるようなこともないし、狙った場所にスムーズにポインターを動かせるなど、より洗練された動きになっていた。

 リモコンは、マジックリモコンのほか、通常タイプのリモコンも付属しているが、もはやマジックリモコンの方が使いやすいと感じる人の方が多いだろう。

人類が移住可能な惑星を探す宇宙の旅を描く「インターステラー」

数量限定生産 インターステラー ブルーレイ スチールブック仕様

 55EG9600と組み合わせる良品は、クリストファー・ノーラン監督によるSF大作「インターステラー」。謎の砂嵐の発生や穀類などの農産物が次々と絶滅し、ゆるやかに滅亡へと向かう地球と、人類が移住可能な惑星を探すために宇宙へと旅立つ人々の姿を描いた作品だ。ノーラン監督の作品は多くが2時間を超える長編で、しかもラストへ結びついていく伏線が幾重にも張り巡らされているが、本作もその例に漏れず、これまでの伏線がつながって、思いもよらない結末へと導かれていくカタルシスが見事だ。また、相対性理論における時間の長さが変化すること(ウラシマ効果)やワームホールを使った超空間航行、ブラックホールの重力を利用した加速など、SFのギミックも盛大に盛り込み、それらをIMAX映像をフルに活用してリアルに描写しており、見応えも満点だ。

 さっそく上映開始をいきたいところだが、まずはその前に4K撮影によるデモ映像を見ながら、画質調整関連をひととおりチェックしてみた。映像調整の項目は基本的には、一般的なテレビのものと同様で、有機ELとしての特別な機能や調整項目などはない。まずは各画質モードを見てみたが、もっとも明るい表示である「あざやか」は明るく輪郭もピシっと立ったものだが、あまりギラギラとした映像になっていない。これならば外光が入るような明るいリビングなどで実用的に使える。標準は明るさを抑えて見やすく落ち着いた映像になる。クセっぽさは少なく、安心して見られるモードだ。このほか、「省エネ」「ライブシアター」「スポーツ」「ゲーム」「フォト」などがあり、映画用には、明るい環境に適した「シネマ1」と暗い環境用の「シネマ2」がある。

 ひととおり試してみると、どのモードもコンテンツに合わせた味付けはあるものの、総じて過度な演出を抑えた忠実志向のものになっており、どのモードでも違和感を感じるようなものはなかった。これは、有機ELのコントラストの高さや豊かな発色など、基本的なポテンシャルの高さを示すものだろう。変に味付けするよりもストレートに映像を再生した方が、映像の美しさをダイレクトに伝えられるわけだ。

 今回の視聴は会議室の照明を落とし「シネマ2」で行なったが、こちらも忠実度を意識したものになっていた。最初に画質調整用のBDを使って、明るさやコントラスト、色などの調整を行なってみたが、室内の明るさに合わせて画面の明るさ(OLED輝度)を合わせたくらいで、ほぼシネマ2の初期設定のままで、マスターモニターに近いスタンダードな画質バランスになっていることがわかった。有機ELの表現力の高さもさることながら、こうしたモニター志向の素直な画作りは、画質の優れたテレビを求める人にとってはありがたいだろう。

 そして、もうひとつ付け加えたいのが、「シネマ1/2」の色再現の独特な味わい。色温度はほぼD65だし、カラーバランスも赤が強いとかその逆といった味付けもない素直なものなのだが、特に暖色系の色が豊かで、ほんのわずかセピア調のトーンを感じさせる表現になる。こうした画調で思い出されるのが、ブラウン管時代のフィリップスなど、ヨーロッパで生産されたディスプレイの色だ。ずばり言ってしまえば、日本やアメリカのNTSC規格ではなく、PAL規格の映像を見るための画作りで、古いフィルムのようなトーンを濃厚に感じさせるものだった。55EG9600はそこまで古臭いトーンにはならず、現代的な色再現もきちんとできるものだが、ほんのわずかヨーロッパトーンを感じさせる。

 おそらくは、主戦場である北米や欧州の嗜好に合わせた画作りが日本仕様でも継承されていると思われるが、これはこれで好ましい。標準などの映像はパキっとした鮮やかな色合いで国産のテレビと比べても違和感のない画調になっているので、「シネマ1/2」だけは意図的にヨーロッパ的なシネマトーンを継承したのだろう。

 これはデジタル制作が当たり前になったとはいえ、本作でもフィルム撮影にこだわったノーラン監督の映像を見るには、なかなか適した組み合わせと思える。

画質調整のメニュー。映像モードの設定や画面サイズのほか、省エネ設定などの機能が並んでいる
映像モードの選択画面。コンテンツに合わせた9つのモードが用意されている。いずれも過度な演出を抑えており、自然な映像を楽しめる
映像モードの設定画面その1。「OLED輝度」と「明るさ」が独立しているが、OLED輝度が一般的な明るさ調整で、「明るさ」は「黒レベル」に該当する
映像モードの設定画面その2。シャープネスが水平/垂直で独立しているのがユニークだ。下の方に「プロ設定」や「映像オプション」といった詳細設定がある
プロ設定の画面。超解像やダイナミックコントラストなどの設定を行なう。色域を「ワイド」としたほか、基本的にはすべてオフとしている
映像オプションの画面。こちらには各種ノイズリダクションや黒レベルの伸張、倍速表示モードの選択が行なえる

砂に埋もれ、滅びが訪れた世界を、無限大のコントラストが情感豊かに描きだす

 さて、いよいよ上映だ。セピア調の色褪せた映像で、滅びに瀕した地球の生活が描かれる。初見ではまるで過去を場面を振り返るところから始まったのかと思うほどだ。見ていくと色褪せた映像に感じさせたのは、地上に降り積もる大量の砂塵のせいで、これらを振りまく大嵐が地球上の農作物に致命的なダメージを与えているとわかる。驚異的な被害をもたらす地震や洪水などではなく、壊滅的な被害は与えないものの、ゆっくりとしかし確実に人類は滅びへと向かっている。現実に人類滅亡が訪れるならば、こんな形ではないか。そんなふうに感じさせるリアルさがあるし、それだけに重たい気分になる導入だ。

4K撮影のデモ映像などを確認。まず、黒の締まりや暗部の再現性の豊かさに感心した。

 そんなムードをよく伝えてくれるのが55EG9600の映像だ。セピア調というほどではないが、黄色系の中間色が濃厚な色彩は、黄色い砂塵が降り積もった様子がよくわかるし、元宇宙飛行士である主人公のクーパーが着ている薄茶色の革ジャケットに黄色い砂が降り積もる様子も微妙な色の違いまではっきりと描き分けた。

 休日に家族で草野球の試合を観戦していると、突然の砂嵐がやってくる。砂嵐の中、慌てて家に戻るクーパーたちが部屋に戻る場面が秀逸だ。ひんぱんに訪れる砂嵐のため、家は厳重に戸締まりがされており、外光はわずかしか入らない。つまりかなり暗いのだが、そんな暗い室内を暗さは感じさせながらも、暗い室内にあるテーブルなどの家具がしっかりと再現される。黒の締まりだけでなく、暗部階調のスムーズさは圧倒的だ。

 この場面を液晶テレビで見ると階調は出るが黒浮きが生じるため、部屋の暗さがもうひとつ伝わってこない。プラズマテレビで見ると、黒の締まりは十分だが階調の推移がややノイジーに感じられる。これはプラズマが階調を単位時間当たりの発光回数で表示するデジタル階調であり、しかも微妙な階調表現のためディザ拡散などの手法を使うため、特に暗部でノイジーに感じやすいのだ。つまり、これだけの暗部の再現性を実現できた薄型テレビは今までなかった。

 そして、娘のマーフィーが自分の部屋の窓を閉め忘れたため、2階へ上がる。開け放たれた窓から、大量の砂が吹き込んでいる。クーパーはなんとか窓を閉めるが、部屋の中は浮遊した砂塵まみれだ。このとき、ゆっくりと床に落ちていく砂が異常な振る舞いをみせる。特定の場所だけに砂が積もり、バーコードのような模様を床に描いている。このとき、空気中を下降する砂も砂が多い部分とそうでない部分に分かれており、窓からの光の差し方もまばらになっている。あきらかに不自然な現象が起きている場面で、マーフィーはそれを幽霊と呼び、似たようなことがこのところ続いているという。これについての考察は本編の大きな楽しみなのでここでは触れないが、映像としての不可思議さや美しさは見事なものだ。窓からの強い光を砂がフィルターとなって陰影を産みだしていく。この光の加減が実に見事に再現されていて、このシーンの美しさを際立てている。

 部屋を出ると廊下はかなり暗いが、突き当たりは出窓のおかげで光が差している。真っ暗な廊下と光が差す窓という、極端に明暗差の大きな場面も多いが、黒の締まりと光の加減を見事に描き切っている。有機ELパネルの黒は、液晶のようにバックライトの光を塞いでいるわけでもないし、プラズマのように次の発光のための予備放電を行なっている状態でもない、つまり完全なる非表示だ。これをメーカーでは「無限大コントラスト」と呼んでいるが、決して大げさな表現ではなく、今までにないコントラスト比の高さが実現できていると感じる。

 マーフィーの部屋の「幽霊」を何者かのメッセージと解釈したクーパーは、それらの模様の規則性から意味を読み取ることに成功し、ある場所へと行く。そこは、すでに無くなったはずのNASAが極秘で活動している研究施設で、そこでは土星付近に発生したワームホールを経由した先にあると思われる惑星への移住計画「ラザロ計画」が進められていた。クーパーは何者かが人類にメッセージを送っていたことを知り、宇宙飛行士だった経歴もあって、先遣隊が発見した水の惑星への調査チームに参加することになる。家族を地球に残していくことに後ろ髪を引かれつつ、人類の滅亡を救うため、クーパーは宇宙へと旅立つ。

音声メニュー。サウンドモードもいくつかのモードが用意されるほか、サラウンド効果などの設定もある。本体スピーカーと外部スピーカーの同時出力ができるのもユニーク

 このときの宇宙船エンデュランスの打ち上げシーンが大迫力だ。本格的な5.1ch構成のシステムなら、宇宙船のエンジンが点火したときの轟音、大気を切り裂きながら加速していくときの振動や機体のきしむ音などが、エネルギーたっぷりの低音で再現される。今回の視聴は、55EG9600の内蔵スピーカーで聴いているので、その凶悪な低音のパワーはさすがに無理だった。だが、意外にもそれらしい低音感が確保されていて、雰囲気はよく伝わる。ダイアローグや船内のそこかしこから発せられる警告音や動作ノイズも広がり感がよく再現されている。下向きのスピーカー配置など、決して音質に有利な作りではないが、そのあたりも考えるとなかなか優秀なレベルと言っていい。さすがはHarman/Kardonとのコラボレーションによるサウンドシステムだ。

 画面から音が出ているような定位の良さや、ひとつひとつの音が明瞭な再現は、もしかすると湾曲したディスプレイ面が効いているようにも感じた。画面が湾曲しているせいで、内蔵されたスピーカーも視聴位置に向いているわけだが、これはステレオ再生でも左右のスピーカーは視聴位置に対してほぼ正面を向くように角度を付けるセッティングに近い効果をもたらしているように思う。そう考えると湾曲した画面というのもなかなか悪くないと感じる。

ワームホールを抜け、未知なる惑星へ

 IMAX映像を多用した発射シーンに続き、地球軌道上にあるエンデュランスの母船との合体を経て、クーパーたちはまず土星へと向かう。このあたりのシーンは、NASA全面協力といった感じのISSあたりにスタッフと機材を送って現地(宇宙)で撮影したのかと思うくらい、NASAのリアル映像とまるきり同じ感触の映像だ。感心するのが、ロングのシーンでは星が一杯に浮かんだ宇宙空間が、宇宙船に近づいた場面では、真っ黒な闇になってしまうこと。これは太陽の光を反射した宇宙船の船体の光が強すぎて、それにくらべればはるかに弱い光の星は見えなくなってしまうのだ。これは、国際宇宙ステーションの映像などでも同じ。宇宙船の船体は自ら発光しているかのようにまぶしい白で輝いているが、船体の微妙な凹凸などはしっかりと陰影が再現されている。ほぼ輝度100%付近での微妙な階調で描かれた船体のバックは、真っ暗な闇。このコントラスト感は、液晶テレビなどでもかなりのレベルで楽しめるが、有機ELならば闇の奥深くが見えてくるように感じる。まさに吸い込まれるような黒だ。

映画『インターステラー』予告2【HD】

 吸い込まれるという意味では、ワームホールに突入する場面でまさにその感じを味わえる。ワームホールは四次元の穴なので、いわゆる平面的な穴ではない。本作ではそれは球体(の穴)として描かれる。丸く膨らんだ球体に見えるが「穴」なのだ。この場面は(ワームホールの映像化という点も含めて)、本作の見どころのひとつなので、クーパーたちの会話を通して四次元の穴が球体のように見える穴ということなど比較的わかりやすく説明していたが、初見では実際に映像を見ても平面的な丸い穴のように感じた人もいるのではないだろうか(僕もその一人なのだが)。これが55EG9600で見ると丸く膨らんだ穴として描かれていることがちゃんと見える。ワームホールの外縁部はガス状の光に囲まれていて、それがゆっくりと吸い込まれていく様子も描かれて穴であることを示しているが、消える寸前のかすかなガスの光がガラス球の表面にへばりつくよう流れていっている様子が見える。この微妙な表現で穴の姿が風船のように丸くふくらんだ穴だと感じられる。言葉で書いたり読んだりしていると日本語として間違っていると思われかねない異様な場面なのだが、それなりに説得力のある理屈と最新のCGで描かれた映像を見ると、実際に見てもこういう感じなのかもと思ってしまう(実際にワームホールを肉眼で見るチャンスはほとんどないと思うが)。

 ともあれ、完全な非表示の黒が再現できたことで、今までは明るく浮いてしまった光で見えにくくなっていた箇所まではっきりと見ることができるようになり、その結果、本作で監督やスタッフたちが心血を注いだであろうシーンの真髄に迫ることができた。「インターステラー」は液晶には手強いソースだと感じてはいたが、どちらかというとSF好きな自分の趣味で選んだつもりだったが、こうして見てみると55EG9600の無限大コントラストを体験するのに、これほど最適なソースはないと断言できるほどの相性の良さだった。

 ちなみに、こうした場面で画質調整を少し試してみたが、OLED輝度などの基本的な画質調整をはじめ、超解像の調整などは画面の左半分を埋めるメニュー表示ではなく、画面下部のみのバー表示に切り替わる。おかげで、画面全体を見渡しながら画質の調整が可能だ。本機だけの際立った特徴というわけではないが、こうした実使用時の使いやすさもきちんとケアされているのは、海外製のテレビでは案外珍しいので、LGエレクトロニクスには少々失礼ながら、感心してしまった。

画質調整でOLED輝度を調整しているときの画面。調整バーが下側に切り替わり、画面全体の見ながら調整ができるの便利だ

 また、超解像などの4K表示でのアップコンバートの実力も確認してみたが、基本的に本機はディテールを掘り起こすような高精細さを欲張るタイプではなく、あくまでもストレートにオリジナル映像の質感を再現するものと感じた。超解像も弱/中/強と3つの効果が得られるが、思ったよりもその差は少なく、本作のようにもともとディテール感が極めて精緻に再現されている作品なら、強にしていても不要な強調感が出ることはほとんどない。もともとの情報量が多い場合、無理にディテールを強調するようなことをせず、ナチュラルな再現を基調としているのだろう。そういう意味では、4Kテレビとして見るとディテールの再現性などは標準的なレベルの実力とも言える。

 誤解しないでほしいのは、暗部のノイズ感の少なさ、暗部~明部にかけての階調の豊かさ、豊かな色などを含めたトータルとしての映像はかなりディテール感が豊かだ。というより情感が極めて豊かな映像である。表示ディスプレイとしての基礎的な実力の高さがはっきりと出たという感じだ。日本では初の有機ELということもあるし、いわゆる4Kの高精細ではなく、コントラスト比の高さや色の豊かさをアピールしようという画質バランスなのかもしれない。

 物語の舞台はワームホールの彼方へと移り、先遣隊の発見した惑星が移住可能かどうかを調査に向かうことになる。ここからの展開はかなり怒濤の勢いで、さまざまなアクシデントの発生、ブラックホールの重力を使って宇宙船を加速するスイングバイなど、見せ場もたっぷりだ。随所に散りばめられていた伏線が回収されていくダイナミズム、家族愛やそれらを超越した人類愛が壮大なスケールで描かれる物語はまばたきをするのも惜しまれるほど夢中にさせてくれる。2時間超の映画ということで、多少はダレる場面もあるかと思ったが、ダレ場は序盤にしかないし90分ほどの尺でテンポよく構成された短編のようにあっという間に見終わってしまった印象だ。相対性理論のウラシマ効果を扱った作品を上映すると、その周囲の時間の流れに歪みが生じるのかもしれない(嘘)

 ほとんど序盤だけの紹介で終わってしまって申し訳ないが、ここからのシーンは、どのシーンを取り上げてもネタバレになると感じるほどストーリーが緻密に構成されているので、詳しい紹介は諦めよう。

有機ELのポテンシャルの高さは見事の一言。今後の進化や液晶の巻き返しにも期待

 「インターステラー」は、昨年の上映時からここで使おうと思っていた作品で、うまくタイミングが合わなかったせいもあり、すでにさまざまな機器の視聴で何度も視聴している。ただし、悪い意味で慣れてしまって感動が薄れる、といったこともなく、むしろ今までで一番没入して楽しめた。これぞ、映像の力だと思う。取材機の都合もあり、本格的なサラウンドシステムとの組み合わせで聴けなかったのは残念だが、よりしっかりとした音で楽しめばより魅力を発揮してくれそうで、個人的にもかなり興味がわいた逸品だ。

 有機ELの表示パネルとしての実力は期待した通りで、今後が楽しみになる。国内勢も自社生産は無理でも、パネルを外部から調達して有機ELテレビの発売に挑戦してほしい。液晶パネルは初期からは予想もできないほど進化したが、液晶パネルのみとなったここ最近は進化に伸び悩みが感じられた。かつてのプラズマ然りで強敵が現れると液晶はまたさらに伸びるとも思う。互いに競い合い、それぞれの良さを伸ばしていってほしい。そんな意味でも才能あふれる期待の新人「有機EL」の登場を歓迎したい。

Amazonで購入
55EG9600インターステラー

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。