小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第827回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

左右分離Bluetoothイヤフォン新時代! ボーズとNuForceの注目機を試す

セパレート当たり前の時代へ

 かつてケータイ用として登場したBluetoothヘッドセットは、今や音楽観賞用イヤフォンというポジションを固め、完全に普及期に入ったと言える。特に左右完全分離型(セパレート型)イヤフォンは、昨年末に登場したAppleのAirPodsによって認知され、先行商品もつられて注目される事となった。

11月に発売される2製品。左からボーズのセパレート型「SoundSport Free」、NuForceの左右分離型イヤフォン「Be Free8」

 今週からは量販店ドン・キホーテのオリジナル商品、「完全ワイヤレスイヤフォン-充電式専用ケース付属(DZBES-100-D)」が5,980円という低価格で発売されている。マニアやガジェット好き以外の層にも、いよいよ当たり前のものとして普及が加速しそうだ。

 そんな中、永らく登場が待たれていたボーズのセパレート型「SoundSport Free」が発売された。記事ではトリプルブラックが11月17日発売となっているが、11月3日に前倒しされたようだ。すでにオンラインショップを始め、量販店でも販売が始まっている。価格は公式サイトで税込み29,160円。ネット通販でもほぼ同じ価格である。

 一方で同じ米国メーカーであるNuForceからも、同社初となるセパレート型「Be Free8」が発売されている。「NFMI」技術により、左右の音途切れを大幅に軽減するという話題のモデルだ。すでにクラウドファンディング「Makuake」で先行販売されているが、一般販売の価格は16,880円。

 今回はこの2つのモデルをじっくり検討してみよう。

さすがの作り、ボーズ「SoundSport Free」

 ではまずボーズのほうから見ていこう。「SoundSport Free」はその名の通り、スポーツ向けイヤフォンとしてワイヤレスを追求したものとなっている。そのため、IPX4の防滴・防汗仕様となっているのが特徴だ。

 本体サイズとしてはやや大型の部類に入る。それというのも、セパレートモデルのスタンダードとなったAirPodsが小さすぎるからで、あれを基準に考えると、後発モデルの大半は大型ということになってしまうのは仕方がないところだ。

やや大型のSoundSport Free

 ボーズはこれまでもSoundSportシリーズとして、iPhone向け、Android向け、左右が繋がったタイプのBluetoothイヤフォンをリリースしており、SoundSport Freeはそのシリーズの一つと位置づけられている。

 カラーは、先行販売されているのがトリプルブラック。全部真っ黒なので何がトリプルなのかと思われるかもしれないが、12月から発売されるミッドナイトブルー×イエローシトロンが、表側は黒をベースにしたブルーのツートーン、裏側はイエローと、3色になっている。それとの違いでトリプルブラックというわけだろう。

 円盤状の本体部分からドライバ部分が突き出した構造だが、耳穴に挿入するイヤーチップ「StayHear+ Sport」が割と大型なので、2つの円盤が接続されたような形状となっている。

円盤部からドライバ部が突き出した形状
スポーツ向けに開発されたイヤーチップ「StayHear+ Sport」
イヤーチップは3サイズが同梱

 右側のユニットにコントロールボタンがある。プラスマイナスボタンで音量、真ん中のマルチファンクションボタンで曲の再生・停止やスキップを行なうというインターフェースは、ボーズの他のモデルと同じだ。一方左側には、Bluetoothのペアリングボタンがある。

右側にコントロールボタンがある
左側はBluetoothのペアリングボタン

 ケースは横長で、型どおりにイヤフォンを置けば、充電を開始する。ソニーの「WF-1000X」は、物理的に押し込まないと固定されなかったが、ボーズは磁石で吸い込まれるようにくっつくのが心地よい。受電中は中央部にある2つのLEDが点滅する。

端子は4つ。左右の大きな丸は、磁石でくっつく部分
横長の充電ケース

 ケースにはバッテリが仕込まれており、約2回分のフル充電が可能。ケースバッテリへの充電時間は約2時間。

磁石で本体がくっつく

 ケースのバッテリ残量は、正面下部に5段階のLEDで表示される。フタをロックしているボタンを押すと点灯するので、充電後に取り出す際には毎回確認できる事になる。本体を取り出すと、両側とも自動的に電源が入る。

ケース正面にバッテリー残量を示すLED
充電ポートは背面

満足度の高いサウンド

 では実際に使ってみよう。耳への装着は、スタビライザーを耳の凹みにフィットさせるため、必然的に位置が決まる。表面にボーズロゴがあるが、これが完全水平になるのではなく、斜め45度に後ろ上がりになる感じだ。

 また装着後は、本体ボディ部がかなり耳から飛び出してしまう。50歳Overの人しか分からないかもしれないが、「レレレのおじさん」の耳を思い出すレベルで飛び出している。今後は耳への収納性という面も、デザインの評価軸に加えたいところである。

耳穴からはかなり出っ張る

 ただ本体は見た目よりも軽く、片側9gしかない。装着感は独自イヤーチップのおかげで快適だ。このイヤーチップ、見た目は昨年のヒット商品である「QuietControl 30」で採用されているものとそっくりだが、シリコンが肉厚になっており、やや硬い。したがって、同じサイズでもSoundSport Freeのほうが、耳中のギュウギュウ感が強い。

 本機はスポーツモデルなので、体の動きで本体が落ちないように、きつめに調整されているということだろう。実際にランニングしてみたが、本体が片方9gと軽量なこともあり、落ちそうな気配はなかった。

 実際のサウンドは、これはもう皆さんもよくご存じの、いつものボーズサウンドである。豊かな低音がドーンと出るタイプで、昨今のトレンドとも言える、スッキリした音だ。ステレオセパレーションも良好だが、若干中抜け感はある。Bluetoothイヤフォン特有の、再生を開始すると聞こえてくるホワイトノイズは、かなり抑えられている。

 接続コーデックはボーズの方針により公開されていないが、コーデックが解析可能なMacに接続したところ、AACで接続できている事が確認できた。少なくともSBCとAACは対応しているということだろう。

 残念ながらノイズキャンセリングはないので、外部からの音はかなり入る。むしろ、カナル型としてはかなり聞こえる方だろう。音道管の上部に小さい穴があるが、ここから敢えて外音を取り入れているのかもしれない。従って路上をランニングするなどのスポーツ時には安全だろうが、電車内で聴くのはあまり効果的とは言えないだろう。

 一連のボーズ製品同様、専用アプリを使うと、ペアリングしている機器やバッテリ残量など、本体のステータスが管理できる。加えてセパレート機には必須の機能として、「イヤフォンを探す」機能が追加された。

 「Find My Buds」という機能をONにしておくと、最後にイヤフォンと接続した場所を記憶する。これにより、どこに置き忘れたのかが、地図上でわかる。

イヤフォンの在処が探せるFind My Buds機能

 イヤフォンがBluetooth圏内に入ったら、イヤフォンからソナー音を出して探す事ができる。小さい音からだんだん大きくなるので、いきなり誰かの耳を破壊するということもないだろう。

圏内に入ったら、イヤフォンから音を出して在処を探せる

 こうしたセパレート型は、よくジャケットのポケットの中に入れてそのまま忘れてしまうことも多い。高価な製品なだけに、うっかり洗濯して壊してしまうと、精神的なダメージはデカい。その前に探し出せる機能は、重要だ。

高級オーディオブランドが放つ「BE Free8」

 NuForceは、コンパクトなデジタルアンプやDACなどでお馴染みのメーカーだが、以前からイヤフォンも精力的に発売している。今回のBE Free8は、NuForceブランドとしては初となるセパレート型イヤフォンだ。

NuForce初のセパレート型、BE Free8

 本体、ケースともにツヤありの樹脂製で、若干安っぽく見えてしまう点が残念。本体はSoundSport Freeよりもやや小さく、音道管が短いので、ボディが耳の中に上手く収まり、飛び出し感がないのは良好だ。

音道管が短く、本体の収まりが良い

 なおイヤーチップは本来5タイプが同梱されているようだが、あいにく貸し出し機には2サイズしか入っておらず、どちらも筆者の耳には小さすぎた。したがって音質評価は、別のイヤーチップに付け替えて行なっているため、多少本来のサウンドと評価にズレがあるかもしれないことをお断わりしておく。

 本体鏡面には複数のラインが刻まれており、一番上のスリットにステータスを示すLEDが仕込まれている。ボタンは左右ユニットに1つずつしかなく、L/Rの表記もボタンに書かれている。

表面に刻まれたライン。写真の一番左の線にLEDが仕込まれている

 機能的には左側に多くを持たせており、左側のボタンで音楽の再生、ポーズ、スキップ操作を行なう。右のボタンは、個別に電源を入れる際に使用するのみだ。なお本体には音量ボタンもなく、再生機側でボリュームは調整する事になる。一部のウォークマンでは、音量のアップダウンができなかったという報告も見かけたので、購入の際には注意していただきたい。

本体にボタンは1つだけ

 なおこちらもIPX5相当の防水性能を有しており、スポーツイヤフォンとしても使用できる。バッテリは連続再生でおよそ4時間、充電はケース内で行ない、フル充電まで2時間。ケースは3回分の充電が可能な容量を持っており、こちらのフル充電時間は3時間。

 接続コーデックはSBC、AACに加え、aptX Low Latencyにも対応している。あいにく再生機側がaptX Low Latencyに対応しているものがなかったため、その威力はテストできなかった。

 ケースは、AirPodsのケースを大型にしたような形状だ。イヤフォンを左右決まった穴に差し込み、収納する。磁石などで引き込むという機能はなく、またソニー機のように押し込んでロックするという機構もないため、単に差し込んだだけでは端子が浮き上がって充電されない場合もあるようだ。フタを閉めれば上から押さえられるので、きちんと充電できる。

ケースはAirPodsのケースを大型にしたようなスタイル
ただ差し込んだだけでは充電が開始されない場合もある

 またイヤフォンがかなり深くケースの中に入る上に、ボディの素材がツルツル滑るので、取り出しにくいという弊害がある。このあたりはもう少し工夫が欲しいところだ。

 充電中かどうかは、フタの手前にある2つのLEDで確認できる。ケースのバッテリ残量は、底部の3つのLEDで示すようになっており、フタを開けると点灯する。

充電状況は手前のLEDでわかる

期待の「NFMI」の音を聴く

 本機の特徴は、なんといっても左右の音の伝送に、「NFMI」を採用していることだ。NFMIとは「近距離磁気誘導」のことで、これまで電波を用いてきた左右間の伝送を、磁気誘導で繋ごうとする技術だ。

 そもそも電波というのは、水の中を通り抜けられない。一方人間の頭の中というのは、水分を大量に含む水風船のようなものなので、電波を使って左右の間を、頭を貫通して伝送することができない。したがって電波を使った左右伝送は、頭を回り込んで伝送しなければならず、かなり難しい技術だった。

 それを解決するのがNFMIだ。磁気を使うため、頭を貫通できる。人体に吸収される信号量は、同出力のBluetoothに比べると1万分の1しかないというのがウリだ。補聴器ではすでに10年以上前から使われてきた技術だが、音質の向上が課題であった。

 だがNFMIを長年研究開発してきたNXPセミコンダクターズが、2016年にNFMI対応の超小型SoCの開発に成功。今年からこれを採用したセパレート型が出てくるのではないかと予想されてきたところだが、まさに本機がそれに当たる。

 音質に懸念があるとされてきた方式だが、さすがにHi-Fiオーディオブランドが出すイヤフォンだけあって、音質的には満足いくサウンドに仕上がっている。ユニットのダイアフラムも、水素よりも高いイオン化エネルギーを持つという不活性金属を採用。

 低音の出はボーズには劣るが、全体的にバランスの取れたサウンドだ。派手な低音にマスクされないぶん、中音域、高音域の厚みと表現力を十分に感じることができる。ただし再生開始時の、無音の時にかなり大きな「シャー」ノイズを感じる。

 NFMIのもう一つの特徴として、電波方式よりも音の途切れに強いとされている。従来の電波方式は、出力を左右伝送できるギリギリのレベルまで押さえているため、何か電波干渉があると左右の接続が切れてしまうことがある。

 実際に、従来のイヤフォンでは、駅構内など電波を発信する機器が密集している場所で、左右の接続が途切れた経験がある。あれはWi-Fiではなく、監視カメラのようにWi-Fi規格ではない2.4GHzの強力な電波を発する機器がある場所なのだろう。

 一方本機では、使って見た限りでは左右の接続が切れるということはなかった。「何も起こらない」を証明するのは難しいため、従来型と比べることはできないが、いつも特定の場所で接続が切れるという方は、試してみる価値はあるだろう。

 本機で採用のNFMIは、伝送距離が短い。耳にセットしているぶんには問題ないが、左側を耳から外すと、右側の音が切れてしまう(左から右へとNFMIで伝送している)。耳に装着し直すとまたすぐに再接続するので、それほど問題はない。

 頭を経由しない場合、すなわち空中での直線距離だと、7cmぐらいしか伝達距離がないようだ。当然左右の耳の間は7cmでは済まないわけだが、人体を通すことで伝送距離が伸びる方式のようである。

総論

 今回はスタイルの異なる2モデルを実際にテストした。それぞれに個性があり、おもしろい製品に仕上がっている。

 永らく製品化が待たれていたボーズのSoundSport Freeは、セパレート型になっても安定のボーズサウンドを聴かせてくれるという点で、期待を裏切らない一品だろう。

 一方でかなりオープンエアな設計ゆえに、電車内などうるさい場所では、十分な性能が感じられないかもしれない。運動時は安全のために必要な仕様だが、それ以外では家庭やオフィスなど、比較的静かな場所で楽しむイヤフォンだと言える。

 NuForceのBE Free8は、価格的にもこなれており、懸念されたNFMIによる音質劣化も感じさせない、良質な製品だ。ケースの設計が今一つ経験不足なのは否めないが、イヤフォン本体は問題ない。

 音質的にもバランスが取れており、イヤーチップも一般的なものが使えるので、チップ付け換えでフィット感や音質の違いを楽しめる。ただケース側の穴の先端が細いので、コンプライなどサードパーティの大きいイヤーチップに装換すると、ケースにつっかえて入らなかったり、引き出す時にイヤーチップがケースに取り残されたりするかもしれない。

 今回のモデルは両方ともスポーツタイプということで、ノイズキャンセリングを搭載しないが、実際にはこのサイズにノイズキャンセリングを搭載するのは、現時点では難易度が高いということでもあるだろう。その点では、ソニー「WF-1000X」の特殊な立ち位置は揺らがないところである。

 セパレート型も、ソニー、ボーズ、BANG&OLUFSENなど、大手メーカーの参入が相次いでいる。オーディオの老舗メーカーや、ベンチャーにもいい製品は多い。セパレート型の王道、AirPodsを持っている方も多いと思うが、そろそろ毛色の違った「次」を検討してみてはいかがだろうか。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。