小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第828回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

極上重低音ポータブルTVで究極の “ひとり贅沢!”プライベート・ビエラ「19Z1」

家庭内お一人様へ

 プライベート・ビエラといえば、ワイヤレスでテレビ放送が伝送できる「お風呂テレビ」という印象が強いのではないだろうか。小さいビエラというだけでなく、DIGAのレコーダ機能も取り込んで、“忙しいけどテレビを消化したい層”にヒット、2015年には一気に5モデルを投入した。競合製品があまりない事もあり、このジャンルではパナソニックの圧勝と言える。

プライベート・ビエラ「UN-19Z1」

 一方でお風呂テレビではない方向性の模索が始まったのも、2015年あたりからだ。19型や24型といった大型モデルは、防水機能を有しておらず、家族ではなく“個人のためのフルスペックテレビ”という位置づけを狙い始めている。

 そんな中登場するのが、スピーカーとドッキングする19型のプライベート・ビエラ「UN-19Z1」だ。すでに10月から発売が始まっており、店頭予想価格は10万円前後。通販サイトでは9万円台で買えるところもあるようだ。

 ビエラのハイエンドモデル「EZ1000シリーズ」では、脚部にTechnicsの技術も投入したハイエンドスピーカーを配置、またEX850でもハイレゾ対応スピーカーを搭載するなど、ちゃんとしたスピーカーと組み合わせるという方向になっている。その流れを汲むプライベート・ビエラが、UN-19Z1と言えそうだ。

 究極の “ひとり贅沢” は可能なのか。早速テストだ。

トータルではなかなかのサイズ

 本機はまず19型のディスプレイ部に加え、「本体」とも言えるチューナ・レコーダ部、さらにディスプレイ部とドッキングするスピーカー部の3つから成っている。

UN-19Z1のフルセット

 まずは本体部から見ていこう。サイズ的にはハーフラックサイズに近く、かなりコンパクトだ。電源とテレビアンテナ線を繋ぐだけで、ディスプレイ部とはワイヤレスで繋がるので、これはどこに置いてもいい。ただDVD/Blu-rayドライブがあるので、ディスクメディアを再生したいなら、トレイが出てくるスペース分は空けておいた方がいいだろう。

本体はハーフラック並みのコンパクト設計
DVD/Blu-rayドライブまで搭載する

 天板右前方にボタンがあり、電源、ディスプレイとのリンク、ディスクトレイの開閉ボタンとなっている。本体操作が必要になるケースはほとんどないため、構成としてはシンプルだ。

操作ボタンは上部に3つだけ

 内部的には地上/BS/110度 CSのダブルチューナだが、1つはディスプレイ表示用となるので、2番組同時録画はできない。地上波とBSなど、チューナが違っても同じである。録画用のエンコーダが1つしかないのだろう。このあたりの重点の置き方が、レコーダとは根本的に違うところだ。

 内蔵HDDは500GBで、画質モードはDRから15倍まで、任意の倍率と言っていいぐらい細かく倍率が決められる。増設HDD用のUSB端子もあり、自分で拡張もできる。

 背面には地上波とBS/CSチューナの入力とスルー端子がある。HDMI端子もあり、ディスプレイ部とは別にテレビを接続することもできる。LAN端子のほか、Wi-Fiも内蔵している。

背面端子もシンプル
B-CASカードはminiタイプ

 続いてディスプレイ部だ。19型というサイズは、タブレットにはないサイズ感で、ニアフィールドモニターとしては満足度は高い。重量は約2.2kgで、見た目の割にはそれほど重くない。背後に取っ手もあるが、CMのように小脇に抱えるとずいぶん軽く感じる。

 ディスプレイ部だけでもテレビ視聴はできるので、当然ディスプレイ部にもスピーカーはある。ただここのスピーカーは、従来のプライベート・ビエラと大差ない。なおディスプレイ部は防水・防滴ではないので、お風呂や水回りでは使用できない。

ディスプレイ部にもスピーカーはある

 脚部は下の方から手動で引き出すようになっており、周囲にフレームがついたお風呂テレビ型のラインナップとは構造が違う。また底部には、スピーカーユニットとドッキングした際に充電したり音声を伝送するための接点がある。

独立して使う際は脚部を自分で引き出す
底部にスピーカーとドッキングする際の端子

 背面にはイヤフォン端子のほか、電源ボタンや音量、チャンネルボタンがある。このディスプレイ部はタッチパネルではないので、操作はリモコンか、この背面ボタンで行なう事になる。

取っ手部分にイヤフォン端子がある
操作ボタンはすべて背面

 天井部にはマイクボタンがあり、音声操作も可能だ。今流行のスマートスピーカー的な要素を早くも取り入れたのか、と思われがちだが、実はビエラは2013年からすでに音声操作機能を搭載しており、年々その精度を上げてきている。このあたりはあとでテストしてみよう。

 さて注目のスピーカー部だが、19型のディスプレイを抱え込むようなスタイルで、なおかつスピーカーが横に張り出すデザインのため、横幅は606mmと、かなりある。テレビが載っていなければ、デカいBluetoothスピーカーといったたたずまいだ。真ん中に空間が空いているため、圧迫感を感じさせないデザインとなっている。この穴は、テレビの突起部がはまるようになっており、背面のロックレバーで固定すると、テレビスピーカーとして機能するようになっている。

ディスプレイを外せば、かなり横に長い印象
中央部に大きな空間があるのはおもしろいデザイン

 スピーカーとしては、左右に4cmフルレンジスピーカーを2つずつの計4つ、中央部に8cmサブウーファとパッシブラジエータを備えており、底部のスリットを通じて低音を前面に出す設計だ。

背面にボリュームボタン

 またスピーカー部は、テレビと繋がっていない時は、Bluetoothスピーカーとして単独で動作できるようになっており、スマホと組み合わせて音楽も楽しめる。実に無駄のない至れり尽くせり感があり、この気が利くところが昨今のパナソニックの特徴である。なおBluetoothスピーカーとしての型番は「UN-Z1C」となっている。

 リモコンも見ておこう。リモコンはレコーダーというよりもやはりテレビに近いボタン配置になっており、Netflixボタンも用意されている。通常はディスプレイ部に向かって操作することになるが、チューナ本体に向けても操作ができる。その際には、上部にある「チューナ操作」ボタンを押して操作する事になる。

シンプルなリモコン

小さくても充実のサウンド

 今回はチューナ部を1階に、ディスプレイとスピーカーを2階に置いてテストした。本体とディスプレイの利用場所が常時離れているというのは、本製品では当たり前に考えられる状況である。

 ディスプレイ部の電源を入れると、本体に接続中という表示が出て、実際に放送中の番組が表示されるまで20秒ほどかかる。本体の電源を入れてWi-Fi接続し、ストリームが安定するまでと考えれば、妥当なところだろう。本体とディスプレイ部の伝送ビットレートは、通信状況に応じて自動的に変更される。

 本機の最大の特徴は、なんといってもスピーカーの存在だ。合体している状態のパフォーマンスに、一番の特徴がある。スピーカーとの合体は、だいたい真ん中あたりを狙って置けば、自然にガチャリとはまり込んでいくので、難しくはない。しかしディスプレイをスピーカーにセットするだけではだめで、背面のロック機構でスピーカーとを固定しないと、音声出力が外部スピーカーに切り替わらない。

ドッキングはそれほど難しくない

 ドッキング状態で普通のテレビ番組を視聴してみたが、こうした一般の番組においても、音楽が挿入されるシーンはかなり多い。トークだとあまりわからないが、音楽部分にさしかかると、低音がかなり出ているのが分かる。大型テレビでも、ここまでのリッチな低音が出せるモデルはごく一部に限られ、通常は別途サブウーファでも繋がない限り、得られないサウンドだ。音だけでも、非常にリッチな気分が味わえる。メーカーによれば“極上重低音”を目指したそうだ。

 19型というサイズなので、当然ニアフィールドで楽しむ事になる。想定としては、視聴者はソファに座り、ソファーテーブルに置くといったところだろう。ディスプレイの仰角からしても、目の高さよりも低めのところに置くことを想定しているようだ。

 逆に言えば、棚の上など高いところに置くと、角度がつきすぎて見えづらくなるだろう。ディスプレイ自体はあちこち持ち歩けるが、スピーカーとドッキングして置く場所は、一番いい位置を選んだ方がいいだろう。

 こうした外部スピーカーが威力を発揮するのは、音楽コンテンツであろう。本体にDVDやBlu-ray Discをセットすれば、アーティストのライブ物も楽しめる。何度か見たライブ物は、映像をじっくり見るというよりも、演奏されている音楽を鑑賞するために何度も再生するわけで、音声のほうがメインとなる。

 ドラム、ベースのパンチのあるサウンドが楽しめるという点では、ライブものを沢山持っている人は楽しいだろう。本機には複数の音質モードがある。ライブ音源の再生には「エクストリーム ライブ」に切り換えると、音を中央に集めつつ低音を強める、芯のある音になる。

音質設定の変更は効果大

 逆にステレオ感を重視したい場合は、「エクストリーム シネマ」に切り換えるといいだろう。ユーザー設定出は、サラウンドをOFFも含めて3段階、バス・トレブルはプラスマイナス4段階で選択できる。好きなサウンドを作るのも楽しい。

 一方ディスプレイを誰かが持ち出している時、あるいはディスプレイの電源がOFFのときは、スピーカーのみをBluetoothスピーカーとして使う事ができる。

 このときのボリューム調整は、付属のリモコンではできない。考えてみれば当たり前だが、スピーカー部にはリモコンの受信部がなく、ディスプレイもそこに無いわけだから、リモコンが効くわけがないのである。スマホ側でいくら音量を上げてもちっとも大きくならない場合は、スピーカー側のボリュームが下がってるわけだ。したがって、どうしてもスピーカー本体の背面にあるボリュームボタンを操作するシーンは出てくる。

 音質的には、ストリーミングサービスの音楽を効くには十分である。音楽専用スピーカーと違い、純粋な音楽再生では解像感と分離感が足りず、音がグシャッとした印象なのは残念だが、低音の出はいいので、読書や仕事のBGMとして小さめの音量で流すには十分だろう。Bluetooth再生では、上記の音質モードが使えないので、自分で音質をいじれないのが惜しいところだ。

メリットが出てきた音声コマンド

 ディスプレイは自由に持ち歩けるとは言っても、タッチスクリーンではない。チャンネル変更やボリュームはディスプレイ背面のボタンでなんとかなるが、それ以外の操作、例えば番組表を出して番組を予約するとか、録画した番組を見る操作の為には、リモコンが必要になるわけだ。

 せっかくディスプレイは自由に持ち出せるのに、「あれリモコンどこやった? リモコンリモコン」などと探し回るのはダサい。そこで登場するのが、音声コマンドである。

 これまで据え置き型テレビに搭載された音声コマンドは、正直「使うとこある?」というものだった。いや実際筆者も音声コマンド対応のビエラを所有しているが、テレビが動かない限りリモコンも移動しないので、わざわざ音声コマンドを使う必要がなかったのである。

 では実際に音声コマンドを試してみよう。音声コマンド動作は、ディスプレイ上部のマイクボタンを押してから喋る方法と、常時認識させる方法と、設定で選択できる。

 常時認識の場合、「マイクオン」と声をかけると、画面上部から「お話しください」という表示が降りてくる。その時にしゃべったものが、音声コマンドとして認識される。

 音声コマンドといっても、スマートスピーカーではないので、実行できることはテレビとレコーダでできることに限られる。例えば「番組表」というだけで番組表は表示できるが、それは大して便利ではない。なぜならば、番組表を表示させたあとの操作が、音声コマンドではどうにもならないからだ。

 それよりも、いきなりキーワードで検索した方が良い。例えば「マツコを検索」とすると、マツコ・デラックスの出演番組が日付順に表示される。このとき、「マツコデラックスを検索」としても、何も見つからない。なぜならば、番組情報では常に、「マツコ・(なかぐろ)デラックス」で記載されているため、「マツコデラックス」では見つからないのだ。このあたりの融通性がないところが、AIではない歯がゆさである。

「マツコ」で検索した結果

 一方で、「マツコなかぐろデラックスを検索」と音声入力すると、「マツコ・デラックス」に変換されて、無事マツコ・デラックスの出演番組が検索される。

 見つかった番組には、番号が振られている。つづいて「2番」と音声入力すると、それだけで2番の番組が録画予約される。音声コマンドの候補は画面の下にサンプルが表示されるので、何ができるのか暗記する必要はない。

 これは従来の音声コマンドの重要な改善点だろう。音声コマンドの何が恥ずかしいかといえば、期待した動作を無視されたり、全然違う結果になることである。だが例文が表示されていれば、結果を外すことは少ない。コマンドが賢くないなら、賢くないなりの工夫をすれば、十分に使えるという好例であろう。

総論

 UN-19Z1は、従来のプライベート・ビエラと機能的にすごく違うというわけではない。だがスピーカーをプラスしたことで、視聴体験の満足度を数倍に上げることに成功している。

 Netflixの海外ドラマでは、音声に迫力のあるものが多い。そうしたものも十分に楽しむことができる。タブレットを使ってソファでゴロ見も良いのだが、やはり腹にこたえる低音が鳴ると、同じコンテンツでも視聴体験が全然違ってくる。そういう点では“ポータブルとセット物”のいいとこ取りの製品という事になるだろう。

 個人的な不満点としては、ディスプレイをセットしても、背面をロックしないとスピーカーと接続されないところだ。スピーカーは充電クレードルも兼ねているため、簡単に外れるとマズいということなのだろう。ロックしたり外したり、慣れれば大したことないことかもしれないが、せっかくQiを推奨している会社でもあるわけだし、もう少しスマートな接点が実現できるとさらに良かった。

 しかし、テレビ、レコーダ、Bluetoothスピーカーが全部ついて実売9万円という価格を考えれば、十分に納得できる部分でもある。4KでもHDRでもないが、身の丈に合ったテレビのあり方というものを考えさせる製品である。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。