小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第826回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」

スポーツとフレームレート

 コンシューマのビデオカメラやデジタルカメラで4K撮影が可能になったのは、2014年ごろの事である。だがそれより1年前に4K撮影を可能にしていたカメラが、HERO3だった。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 GoPro HERO6 BLACKのパッケージ
GoPro HERO6 BLACKのパッケージ

 15fpsしか撮れなかったとはいえ、10万円以下で4Kが撮れるカメラがこれしかなかった時代、4Kテレビ放送の実験映像撮影などにも使われていたものだ。GoProは確かにあの時代、最先端を行くカメラだった。

 ところがそのあとに出した小型の「HERO4 Session」が不振、さらに鳴り物入りで販売を開始したドローン「GoPro Karma」がリコールとなるなど、2016年頃はその失速ぶりが報じられるようになった。

 だが幸いにもデザインを一新した「GoPro HERO5 Black」が好評で、専用スマホアプリと組み合わせ、SNSなどへの投稿をより簡単にする戦略より、信用を取り戻しつつある。

 そんなGoProだが、今年9月末には最新モデルとなる「GoPro HERO6 Black」(以下HERO6)をリリースした。公式オンラインショップ価格で59,000円(税込)、他の通販サイトでも平均53,000円前後で、実売では前作HERO5 Blackより10,000円高い程度である。

 今後、360度撮影が可能になる「GoPro Fusion」の発売を控えており、いずれこちらもレポートしてみたいところではあるが、今回はまず機能アップした「GoPro HERO6 Black」をテストしてみよう。

同一ボディで機能は2倍

 GoPro Fusionに比べるといささか話題性に欠けるHERO6だが、それは外見がHERO5全く一緒で何が新しいのかよくわからないという一点に尽きるだろう。ただそうはいっても元々GoProはHERO4ぐらいまではほとんどデザインが変わっていなかった。

 筐体は同じでスペックアップがもっともコスト効率がいいわけだが、それに加えてGoProの場合、防水ハウジングなどのアクセサリ類を買い直さなくてもいいというメリットがあった。

 一方HERO5からは本体だけで10m防水となったため、ハウジングは必須ではなくなった。したがってボディデザインを変えようが影響は少ないのだが、HERO5から1年足らずで新モデル投入というタイミングでは、筐体を変える必要もないという事だろう。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 デザイン、サイズはHERO5と同じ
デザイン、サイズはHERO5と同じ

 まったく同じだと外側からの見分けが難しいのだが、ボディ左側に「HERO6」というプリントがされている。外見からわかる違いはそこぐらいだ。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 側面のHERO6のプリントで見分けがつく
側面のHERO6のプリントで見分けがつく

 前作からボタンが電源と録画ボタンのみになり、設定操作は背面のタッチスクリーンで行なうようになった。本体に三脚穴はなく、固定には付属のマウントフレームを使用する点も同じだ。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 タッチ液晶による操作も健在
タッチ液晶による操作も健在
見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 付属のマウントフレームと組み合わせて固定する
付属のマウントフレームと組み合わせて固定する

 最大の違いは、搭載の画像処理エンジンであるGP1が刷新され、パフォーマンスが2倍になったところだ。これにより、4Kは最大60pまで撮影できるようになった。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 4K/60pまでの撮影に対応
4K/60pまでの撮影に対応

 ただし4K/60pでは手ブレ補正は使えない。一方4K/30p撮影では、手ブレ補正が使えるようになった。30pとはいえ、4Kで「電子手ブレ補正」が使えるカメラは、筆者が知る限り発売順としては一番最初という事になるだろう。なお手ブレ補正を有効にすると、画角が5%狭くなる。

 また手ブレ補正効果は前作よりも強化されているという。そのあたりはあとでテストしてみよう。

 スローモーション撮影では、フルHDで240fps撮影が可能になった。HERO5のちょうど2倍である。これに合わせて、動画ファイル形式はMP4 HEVC/H.265をサポートした。4K/60p、2.7K/120p、1080/240pのときには、自動的にHEVC/H.265記録となる。それ以外は従来通りAVC/H.264記録だ。

 ボイスコマンドによる撮影コントロールや、ナイトフォトモード等は、従来と変わらない。

スポーツには必須の60pと手ブレ補正の関係

 元々GoProは、スポーツやレジャーなど、アクションを撮影するためのカメラである。激しい動きが想定されるわけで、それならばやはりコマ数の細かい60p撮影は必須である。

 これまで4K撮影できるカメラは多々あったが、なかなか4K/30pを超える撮影ができなかった。コンシューマ機で4K/60pが撮影できるのは永らくパナソニックの「GH5」ぐらいで、その次がいきなり先日のiPhone 8/8 Plusになってしまう。その点では、数あるアクションカメラの中で、GoProがまた一歩抜きん出た格好だ。

 実際に撮影してみると、やはりスピードの速い撮影には、動きの滑らかな60pがいい。ビットレートは実測で約60Mbpsとなっており、8bit/4:2:0でHEVC/H.265であることを考えると、60pでも十分なビットレートである。解像感も十分で、コーデックに起因する破綻は見られない。

4K/60pでの撮影サンプル。画質的には十分だ
Sample.mov(213.16MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ただ発色に関しては、かなりビビッドでわざとらしい感じがする。元々スポーツではそれほど高発色なシーンは少ないため、すこし派手目にチューニングしてあるのだろう。静止画はもうちょっと落ち着いた色味なので、この辺は動画のみの特徴だ。

 4K/60pでは手ブレ補正が使えないが、ロードバイクで舗装道路を走行するといった使い方なら、それほど手ブレ補正は必要ない。また普通に立ち止まっての手持ち撮影であれば、かなりの広角なので、手ブレがあっても気にならない。

 一方悪路走行では、やはり手ブレ補正がないのは厳しい。4K/30pなら手ブレ補正が効くので、撮影比較してみたところ、かなり強力に補正できることがわかった。4Kでここまで補正できるのであれば、これはぜひ使いたいところだ。補正なしでも60pのほうがいいのか、補正ありで30pで我慢するか、悩ましいところだ。

 手ブレ補正といえば、ソニーのアクションカムが採用している空間光学手ブレ補正もかなりのレベルに達している。これとGoProの手ブレ補正を比較してみた。今回はあいにくHDモデルの「HDR-AS300」との比較になったが、光学補正なので4Kモデルの「FDR-X3000」でも同程度の結果が得られるはずだ。

手ブレ補正有無とAS300との比較
Stab.mov(141.26MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 実際に比べてみると、ほぼ遜色ない補正結果が得られているのがわかる。悪路走行においては、むしろ空間光学手ブレ補正よりも安定しているように見える。電子手ブレ補正でここまで追いついてしまうと、ソニーの“4Kでの光学手ブレ補正”というアドバンテージも失われてくる。しかもGoProはモニター付きなので、撮影時に本体のみで済むというメリットもある。

可能性を感じる静止画撮影とスローモーション

 GoProは動画カメラだが、HERO5からは静止画もなかなか良くなってきている。HERO5の時には積極的に評価してなかった部分だが、今回あらためて静止画で色々撮影してみた。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 発色の良さでなかなか映える写真となる
発色の良さでなかなか映える写真となる
見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 フルオートだが日陰でのホワイトバランスも悪くない
フルオートだが日陰でのホワイトバランスも悪くない
見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 夜景モードもなかなか綺麗に撮れる
夜景モードもなかなか綺麗に撮れる

 基本的にはフルオートのカメラという事になるが、ポケットに入れといてすぐ取り出して撮影、という点では、先日のソニー「DSC-RX」のコンセプトとかなり近いことが実現できる。しかも近接で15cm程度まではフォーカスが合うのに加え、今回はデジタルズームがバリアブルで使えるようになった。画角モードの横にスライダーが出て、そこで任意の倍率でズームできる。


広角モード

広角+デジタルズーム端

リニアモード

リニア+デジタルズーム端

 スペックが公開されていないので、何倍という数値で示す事ができないが、テスト結果から察するに、2倍程度ではないかと推測する。構図を考えるまでもないワイドしか撮れないカメラから、一応ちゃんと構図を考えられるカメラとなった。なおこのデジタルズームは、HD動画撮影でも使えるが、4Kでは使えない。

 写真を撮ってみて気づくのは、逆光や空抜けの周辺部に、パープルフリンジがある点だ。レンズの性能がそれほどでもないということだろうが、これぐらいのプロセッサパワーがあれば、ソフトウェアで余裕で補正できるはずだ。開発側がそういうところまで意識が行ってないということだろう。

見た目同じでも違いはデカい! 手ブレ補正超進化 4K/60p対応「GoPro HERO6 Black」 周辺のフリンジと、葉っぱ表面のノイズが気になるところだ
周辺のフリンジと、葉っぱ表面のノイズが気になるところだ

 またそれほど暗い場所でもないのに、妙にノイジーな時がある。RAWで撮影すればいいのかもしれないが、そうすると気軽さが失われる。もうちょっと静止画のクオリティに注力すれば、違ったユーザー層も引きつけられるのではないかと思う。

 本機の残った目玉機能としては、240fpsのスローモーション撮影がある。30p再生すれば8倍速スローとなる。RX0はセンサーメモリーを駆使して960fps撮影まで可能で、24p再生すれば40倍のスローとなる。それに比べれば8倍速など可愛いものだが、フルHD解像度で撮影できる。RX0は画質優先でも240fpsでは1,676×942となる(記録解像度は1,920×1,080)。

 実際に撮影してみると、自転車に乗っての単純な横ドリーだが、妙に立体感がある映像が撮影できた。このあたりは放送用途でもよく使われる機能だけあって、スポーツ向けのスローのクオリティとしては、かなり高い。

クオリティの高い8倍速スロー
Slow.mp4(61.82MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

総論

 今回の動画撮影では、コンシューマ機で4K/60pが撮影できる点にフォーカスしてみたが、きちんと三脚に立てて撮るならともかく、車載や手持ち撮影では、やはり手ブレ補正がないと厳しいところだ。

 その一方で、4K/30pの手ブレ補正能力の高さには驚いた。4Kでここまで安定するなら、「4K/30pでもいい」と判断する人は多いだろう。この補正能力を考えると、「4K撮影はスマートフォンじゃねえな」というインパクトはある。スポーツ用途ではなくても、ポケットに入れといて、良いシーンに遭遇したら撮るみたいな、新しい用途も考えられる。

 一方その点で惜しいのは、静止画のクオリティだ。発色などは結構いい感じなのだが、SN比やレンズ収差の処理が甘い。また1枚撮影すると、書き込みで4秒ぐらい待たされるのも、テンポが悪い。静止画は本業じゃないとはいえ、もうちょっと力を入れたら、新しい顧客層が開拓できるのではないかという気がする。

 見た目がHERO5と変わらないので、ごく一部のファンの間でしか話題になってない感があるが、HERO6の改善はかなり大きい。これまでGoProは、手ブレ補正イマイチ、発色イマイチとして敬遠してきた人もあるだろうが、「男子三日会わざれば刮目して見よ」などという。この改善は、素直に評価していいだろう。

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GoPro HERO6 Black

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。