日沼諭史の体当たりばったり!
第23回
風を感じて「ツール・ド・フランス」を見るため結局一緒に走る。ガラス+プロジェクタの近未来感
2018年7月13日 08:00
ツール・ド・フランスの季節がやってきた。フランス各地を巡る、世界で最もタフなレースの1つであるこの大会は、2018年は7月7日から29日まで開催され、トータル21ステージ、3,329kmを走破する。今回も筆者がこのツール・ド・フランスをリアルに楽しむべく準備を進めていたところ、なんと「Amazon Prime Videoチャンネル」がスタートし、スポーツテレビチャンネル「J SPORTS」が視聴できるようになったとのニュースが届いた。もちろん今年もJ SPORTSではツール・ド・フランスを完全中継してくれる。
ちょうど1年前、当連載でツール・ド・フランスを見ながらサイクルトレーナーで自転車をこいだところ、その後、仕事で初対面の人からもかなりの確率で「あの自転車の人ですよね」と言われ続け、なぜだか「自転車=日沼」みたいなイメージが一部界隈で定着してしまった。が、実際のところ筆者自身はそこまで自転車好きではないはずだ。通勤用とトライアル用、それに室内トレーニング用の組み立て途中のフレームがあるだけなので。
しかし、昨年と同じようにまた室内でテレビを見ながらトレーニングするのは芸がない。そこで、Prime Videoチャンネルをプロジェクタでガラスに投影し、屋外でサイクルトレーナーを回すことで、より(外の風を感じるという意味で)リアルにツール・ド・フランスを体感してみることにした。
いろいろ要素が詰まっていて混乱しそうだが、今回はガラスをスクリーンにする「S-Paint」(16,800円)とコンパクトな高性能プロジェクタ「LG PF50KS」(実売73,500円前後)を使うことで、より臨場感あるツール・ド・フランス体験をしてみたい! という内容である。
ガラスを大型スクリーン化する「S-Paint」がすごい
ソフトバンク コマース&サービスが取り扱い、6月27日からSoftBank SELECTION直販サイトやYahoo!ショッピング店で販売されている「S-Paint」は、塗るだけでガラスを大型スクリーンにしてしまう一風変わった塗料。プロジェクターと組み合わせることで、広い真っ白な壁や専用スクリーンがない場所でも、大画面の映像を映し出すことが可能になるというものだ。
プロジェクターからの映像を反射するのではなく、透過して反対側に映し出すための塗料なので、例えば窓ガラスに塗って、建物の内側から屋外に向けて映像を投影するような使い方に向いている。広告を表示するなど、主にビルや店舗での利用を想定したアイテムと言えるのだが、今回はあえてこれを筆者の自宅の窓ガラスに塗り、室内から映像を投影してバルコニーから視聴する形で使ってみることにした。こうすることで、外の風を感じつつツール・ド・フランスの映像を見ることができるはずである。
S-Paintのキットには、製品本体となる塗料と、窓ガラスに塗るためのローラー、塗料をローラーになじませるためのトレー、ゴム手袋、マスキングテープが含まれている。塗料の容量は150ccで、これで100インチ超相当のサイズまで塗り広げられるようだ。手順としては、あらかじめガラスをきれいに磨いた後、施工したいエリアを囲むようにマスキングテープを貼り、塗料をトレーに空け、ローラーになじませて、塗るだけ。
塗る際に特別なテクニックはいらない。ただし、磨いたばかりのガラスはよく滑り、最初のうちはローラーが転がらず、こすりつけるようになってしまうことがある。このときムラができているように見えるが、施工中はあまり気にする必要はない。力を入れずに、ムラを無視してひたすら全体に塗っていこう。
ひと通り塗り終わったらすぐにマスキングテープをはがし、数十分ほど放置すると、白く見えていた塗料が徐々に固まってスリガラス状になる。ムラのように見えていた部分も、しばらくすれば均一な見栄えになるはずだ。完全に固まると、手で軽く触れてもはがれたりせず、ザラザラした感触に変わる。これで映像の投影先となるスクリーンの準備は完了だ。
今回施工したのはリビングの引き違い窓の一方で、塗った部分の対角を計測したところだいたい50インチ相当の大きさだった。目測でマスキングテープを貼って塗ったのでわずかに傾いたところもあり、100%ぴったりのサイズには投影できないので、実際の投影サイズは50インチより若干小さめになる。それでも、バルコニーが狭くガラスに近いところから視聴することになるので、臨場感は十分に得られるはずだ。
ちなみに、はがすときは水で濡らすと、皮をむくかのように一気に、きれいに取り除ける。説明書では霧吹きを使うよう指示されていたが、ないときは濡れタオルでもOK。全体を湿らせて30秒〜1分ほど待ち、端からめくればあっという間に元通りのガラスになる。
コンパクトなのにフルHD。スマートTVプロジェクタ「PF50KS」
このS-Paintと組み合わせるのは、LG製の「PF50KS」。明るさ600ルーメン、コントラスト比10万:1、フルHD(1,920×1,080ドット)解像度のDLP方式のプロジェクタだ。最大投影サイズは100インチなので、100インチ超の広さに塗ることができるS-Paintとは相性が良い。170×178×52mm(幅×奥行き×高さ)、重量約1kgのコンパクトサイズで、そのうえ内蔵バッテリで2.5時間稼働する。電源を確保できない場所でも使え、持ち運びにも適しているので、ビジネスシーンでも大いに活躍するだろう。
USB Type-Cポートを装備しているのも特徴だ。HDMI×2ポートに加えて、Type-Cポートも映像(+音声)入力として利用できる。例えば、同じくType-Cポートを備えるPCやスマートフォンなどのデバイスとUSBケーブル1本で接続するだけで、デバイス側の映像をプロジェクターに出力でき、同時にデバイス側の充電も行なわれる。このとき、USB PD対応のケーブルを利用する必要があるようなので要注意。手元にあったPD非対応ケーブルを試しに使ってみたところ、映像出力も充電もされなかった。
PF50KSのOSには、LGが同社製のスマートTVに採用しているwebOSを搭載しており、webOS上で動作するアプリを自由に追加することも可能になっている。最初からNetflixとYouTubeのアプリがインストールされ、有線LANや無線LANでネットワークに接続してオンライン上の動画コンテンツを楽しめるほか、標準でWebブラウザやメディアプレーヤー、さらにはUSB接続したストレージ内データを閲覧できるファイルマネージャーなどのツールも使える。
LGのスマートTVシリーズではPrime Videoアプリも利用できるはずだが、このPF50KS向けには配信されていないようだ(2018年7月10日現在)。もしPrime Videoアプリが使えれば、PF50KS単体でJ SPORTSのツール・ド・フランスを視聴できる可能性があったのだが、今回はFire TV StickをHDMI接続して使うことにした。
ところで、S-Paintにプロジェクターで映し出す場合、プロジェクター側は映像の反転機能を備えている必要がある。S-Paintが映像を反射するのではなく、透過してガラスの反対側に映し出す仕組みになっているためだ。PF50KSにももちろんこの反転機能があるので、設定メニューの「PJTモード」で「リア」を選択しておく。これで、室内に置いたPF50KSからS-Paintを塗った窓ガラスに投影し、自転車を置いているバルコニー側から映像を正しく見ることができる。
Prime Videoチャンネルで「J SPORTS」を視聴可能に
6月14日からAmazonでスタートしたPrime Videoチャンネル。Amazonプライム会員向けのチャンネル型の有料映像配信サービスで、このなかに「J SPORTS」がある。J SPORTS独自の動画配信サービス「J SPORTSオンデマンド」で提供されているものに近いコンテンツを視聴できるほか、一部の番組はライブ配信の形で見ることも可能になっている。これにより、衛星放送のスカパー!(プレミアム)や、ケーブルテレビ、J SPORTSオンデマンドなどに加えて、視聴方法の選択肢がまた1つ増えたわけだ。
Prime VideoチャンネルのJ SPORTSの視聴料金は月額2,138円。J SPORTSオンデマンドの自転車関連番組のみが見られる「サイクルパック」(1,944円)より高いが、全てのジャンルを視聴できる「総合パック」(2,592円)よりは安価。自転車以外のスポーツも見るなら少しお得と言えるだろう。PC、スマートフォンアプリからはもちろんのこと、Fire TV Stickでも視聴可能で、ライブ配信も当然再生できる。4つのライブ配信チャンネルがあり、そこから好きなものを選んで再生する形になるが、ここで注意しておきたい点がいくつか。
まず、Fire TV Stickやスマートフォンアプリ上では、現在どのライブ配信チャンネルで何が流れているのか、確認するすべがない。Prime Videoチャンネルの画面上には4つのライブ配信アイコンが並んでいるものの、「ライブ配信1〜4」の文字だけか、再生を表す三角形アイコンが表示されているだけで、現在配信されている番組が実際に何であるかはアイコンからは判断がつかない。ひとまず再生してみないことには確認できない仕様だ。
また、再生してみたところでライブ配信が休止中の場合も多い。これは、ライブ配信の対象になっているのが一部の番組に限定されているのが理由だろう。ツール・ド・フランスはライブ配信の対象番組になっているのでひと安心だが、フィラーが延々と流れているだけになっていることもしばしば。そのフィラーの画面下部には次に何の番組がライブ配信されるのか表示されている場合があるものの、それが何日の何時何分からスタートするのかがわからない。
ライブ配信は衛星放送のサイマル(同時配信)になっているので、公式サイトにあるJ SPORTSの番組表をチェックすれば、いつ始まるかはとりあえず確認できる。とはいえ、これでは不親切だ。しかも、衛星放送の「J SPORTS 1/2/3/4」のチャンネルそれぞれに、Prime Videoチャンネルの「ライブ配信1/2/3/4」が対応しているのかと思いきや、必ずしもそうではないのも不思議。ツール・ド・フランスが衛星放送の「J SPORTS 4」で放送されているのに、Prime Videoチャンネルでは「ライブ配信1」で流れている、みたいなこともあった。
Prime Videoチャンネルのプラットフォーム側の問題もあるのかもしれないが、ライブ配信の予定をもっと手軽に見られるようにしてほしいところだ。
想像以上の高画質で、レース映像により没入できる
そんなこんなで、スタートしたばかりのPrime Videoチャンネルの視聴方法に戸惑いながらも、Fire TV Stickを接続したPF50KSをリビングにセットし、S-Paintを塗った窓ガラスに映像を投影。窓ガラスの向こう側のバルコニーにはサイクルトレーナーに固定した自転車を設置して、自転車に乗ったときに目の前のガラスに投影されたプロジェクター映像を見られるようにした。
部屋の中でセッティングしている間は、映像がはっきり見えるわけではないのでフォーカスを合わせるのに少し苦労するけれど、バルコニー側から見る映像は驚くほど鮮明で、明るい。昼間だとさすがに映像は見にくいが、夜間はPF50KSの性能を十二分に発揮して、精細さもメリハリあるコントラストもしっかり再現する。一見すると半透明ディスプレイのようで、ちょっとした近未来感を感じてしまうほど。
また、室内側の照明を明るくしていても、バルコニー側が暗ければ映像の見え方にほとんど影響がない。筆者がバルコニーでツール・ド・フランスに挑んでいる間も、家族は室内で普段通りに過ごせるわけだ。
ちなみに音声については、室内のPF50KSからLINE出力で伸ばすのが大変なのと、ツール・ド・フランスの中継が夜間なので近所迷惑になることから、スピーカーが使えず、汗の問題でヘッドフォンやイヤフォンも使いにくい。そのため、当連載で前回紹介したネックスピーカー「JBL SOUNDGEAR BTA」を使用した。
PF50KSにSOUNDGEAR BTAのBluetooth送信機を接続し、ネックスピーカーに音声を飛ばすことで、遅延なく、高音質のまま中継音声を聞くことができる。指向性の高いスピーカーでほとんど自分にしか聞こえないので、近所迷惑にならないのもメリットだ。
さて、今回チャレンジしたのはツール・ド・フランスの2日目。全行程182.5kmのほぼ平坦路で競うステージ2だ。筆者は前回の経験を踏まえ、水分補給用のドリンク3リットル、エネルギー補給用のカレー(自作)とカロリーメイト、股間の痛み防止用の分厚いタオルなどを用意し、放送開始1時間前から待機。屋外とはいえ無風になる可能性もあるので、熱中症予防のため前回と同様のサーキュレーターも足元に用意した。蚊取り線香も置いたが、残念ながら準備段階で10箇所以上刺された後だったのでほとんど無意味に。今年のツール・ド・フランスは蚊(とかゆみ)との戦いでもあったと言えよう。
ツール・ド・フランス ステージ2の放送開始は7月8日19時55分。……のはずだったのに、J SPORTSのWebサイト上の放送時間の表記がページによって異なっていて、実際には20時55分放送開始。衛星放送の番組表では20時55分になっていたので怪しいとは思っていたが、結局2時間近く待機することになって時間を無駄にしてしまった。しかもいざ放送が始まってみれば、現地からの中継映像が流れ出したのが21時15分頃、レースは残り140km余りとなっていて、すでにスタートから1時間ほど経過していたことになる。このあたり、J SPORTSさんには運用をなんとかしていただきたい。
心を折られつつも、自転車にまたがって見るツール・ド・フランスのプロジェクタ映像は、文句なしに美しい。選手が操る自転車の細かな造形、上空からの雰囲気ある街の風景なんかがくっきり映し出されるだけでなく、選手視点に近い追走するバイクカメラの映像が目前に映し出され、テレビで見るより迫力あるものになっている。
PF50KSの高画質に加えて、S-Paintによる均一なスクリーンのおかげであるのは間違いない。
映像が素晴らしい分、筆者も疲れを忘れてのめりこみ、ハイペースでサイクルトレーナーをこぎ続けられる。……かと思ったら、そう甘くはなく、30分が経過した時点で早くも股間に黄信号。サドルの間に挟んだ分厚いタオルも効果的ではなく、腰を浮かせながらの立ちこぎで体力を余計に消耗することになった。
21時15分の配信スタートから選手達がゴールした夜0時30分頃まで走り切ることはできたものの、開始が1時間ほど遅れたこともあって、走行時間は3時間ちょっとと短め……。やや不完全燃焼ではあるが、今年も無事ツール・ド・フランスを全身で体感しつつ完走できた、と言いたい。
今回のトレーニング結果は、3時間10分で56.51km、1,301kCalと微妙な感じに。序盤、手を抜きすぎたのも良くなかった(ちなみに昨年は5時間9分で78.34km、2,878kCal)。なお、途中40km/h以上出ているのは中間スプリントのタイミング。筆者も頑張ってみたが、選手たちは70km/h近く出していた……。
ガラスに映像投射したことで、「ツール・ド・フランス」にちょっとした近未来感と臨場感を追加できたし、屋外で風を感じて走ることで、選手の苦労をより身近に感じられるようになる。「蚊に刺される」はさすがに想定外だったが、ツール・ド・フランスをさらなる臨場感で体験してみたい、という人はこんな組み合わせを試してみてはいいかがだろうか?
Amazon Prime Videoチャンネルに加入 |
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LG PF50KS |
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