小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第869回
月のクレーターを狙え! 超望遠3,000mmのモンスターカメラ、ニコン「P1000」
2018年9月27日 08:00
「ぼくがかんがえたさいきょうのずーむれんず」搭載
ニコン、キヤノンのフルサイズミラーレス参入に続いて新iPhone発表、加えてGoProも新モデル投入と、この秋はどうやら他方面からのカメラ祭りとなりそうだ。本連載でも追々これらの宿題を片付けていくことになると思うが、その前にどうしても見ておきたいカメラがあった。
それがニコン「COOLPIX P1000」である。世界最高125倍ズームという、アホ(最大級の褒め言葉)みたいなレンズを搭載したネオ一眼だ。その焦点距離なんと24~3,000mmという、小学生が思いつく「ぼくがかんがえたさいきょうのずーむれんず」みたいなスペックを本当に実現したモデルである。
9月14日から発売されており、店頭予想価格は12万7,500円前後。通販サイトではそれより4,000~5,000円ほど安くなっている。
デジカメは今後ミラーレスの流れが加速すると思われるが、その中にあってどうしてもボディ・レンズ一体型のネオ一眼は忘れ去られがちだ。だが本機のスペックと画質を見れば、これはこれで買っとくべき1台ということがわかるはずである。
この秋コデラが密かに押すP1000の実力を、とくとご覧あれ。
デカっ、長っw
箱を開けたとたん、編集部でも驚愕の声が上がったという話は聞いていたのである程度覚悟していたのだが、筆者宅に届いて箱を開けたときもやっぱり驚愕した。デカいのである。いわゆるデジタルカメラの格好はしているが、サイズ的には業務用ビデオカメラ並みである。
特に鏡筒部の径は、実測92mmもある。⼀般的に⼀眼⽤望遠レンズは径が太くなる傾向があるが、マウント部の径はどれも⼀緒なので、先端に⾏くほど太くなる。一方本機の場合根元から先端まで同じ太さなので、余計に⼤きく⾒える。全体の重量は約1,415g。
では順にポイントを押さえていこう。レンズは先にも述べたが24~3,000mm/F2.8-8の光学125倍ズームレンズ。ワイド端で24mmは十分に広角だが、そこから3,000mmはすごい。電子ズームも併用でき、通常4倍、4K動画撮影時のみ3.6倍となる。したがって最大で12,000mmまで使えることになる。これだけズームできると収差が気になるところだが、EDレンズ5枚、スーパーEDレンズ1枚を採用し、色収差を抑え込んだ。
前方から見ると、フィルター径は77mmで前玉こそ大きいが、そのすぐ奥のレンズは小型と、かなりユニークな設計となっているようだ。
3,000mmまでズームすると、レンズフード先端からビューファインダの先端まで、全長が340mmにもなる。重心もかなり前になるので、ホールドには工夫が必要になる。
鏡筒部先端にはコントロールリングが1つあり、撮影モードによって機能が変わる。鏡筒部左横には小さいズームレバーがあり、隣にはクイックズームバックボタンがある。これは、あまりにも寄りすぎて被写体を見失ったときに、瞬間的にズームバックしてくれるボタンだ。ボタンを放すと、元のズーム倍率に戻る。
手ブレ補正は、静止画では光学式のみだが、動画では光学と電子の併用となる。
撮像素子は1/2.3インチの裏面照射で、総画素数は1,679万画素。記録画素数は最大で16M(4,608×3,456)となっており、動画は4K/30pまで撮影可能。4K撮影時のビットレートは、75~86Mbpsぐらいの間で可変させるようだ。
軍艦部は右肩のみにダイヤル類があり、大型モードダイヤルのほか、親指操作可能なコマンドダイヤルがある。背面にはロータリーマルチセレクターがあり、録画ボタンも背面だ。AF/MFの切り換えはロータリースイッチになっている。
液晶モニターは3.2型TFT液晶で、約92万ドットのバリアングルで、タッチパネルではない。ファインダは0.39型有機ELモニターで、約236万ドット。
端子類は左側面のみで、上からマイク入力、充電兼用micro USB、Micro HDMI、アクセサリターミナルとなっている。
底部はバッテリースロットとSDカードスロットがある。バッテリーは7.2V・1,110mAhの「EN-EL20a」で、かつてNikon 1 V3で採用されていたものだ。これだけ大きなP1と、小型のNikon1が同じバッテリーというのは不思議な感じがする。
加えて今回は、P1000の発売に合わせて登場した、ドットサイト「DF-M1」もお借りしている。単純に言えば、照準器である。立ち上げると素通しのガラス板が見えるが、その中に緑(もしくは赤に変更可能)のドットが見える。
超望遠の場合、あまりにも拡大しすぎてターゲットを見失うことも多いが、ドットサイトで大まかに狙いを付けておくと、ズームしたままでもターゲットを見つけやすい。気分はスナイパーである。
スタンドアロンで動作するので、他のカメラでも役に立つだろう。
撮りごたえのあるレンズ
では早速撮影だ。やはり最初に試したいのは、125倍ズームである。24mmという十分なワイド端から3,000mmは、圧巻だ。これまで見たことがないレベルまで寄れる。
4K撮影時のデジタルズームもテストしてみたが、画質的には超解像ズームのようにはいかず、解像度は落ちる。4Kで3,000mmまで寄れるので、無理にデジタルズームを使わなくても、後からHDにトリミングするなどしたほうが綺麗だろう。
ただし3,000mmともなれば、三脚を立てて手ブレ補正を入れても、カメラを手で触っている限りブレが発生する。ズームレバーはどうしても手で触らなければならないため、動画撮影ではテレ端でブレる。
スマートフォン向けのリモートアプリ、Snap Bridgeを試してみたが、このアプリでは動画撮影のコントロールはできなかった。ぜひ動画撮影時のズーム操作もリモートで可能にして頂きたいところである。
撮像素子が1/2.3インチというのは、低価格コンパクトデジカメでよく使われるサイズで、ミラーレスフルサイズブームが来そうな昨今としては、かなり小さいほうだろう。だがデジカメとしては十分こなれたセンサーだ。手ブレ補正の有無やノーマル/アクティブによって画角は変わらず同じなので、使い勝手が良い。
センサーサイズは、大きくなれば深度表現、すなわち背景ボケが作りやすいという光学的特徴がある。逆に小さいセンサーだと、ボケが作りにくいわけだが、本機はそれをカバーして余りあるズーム倍率があるので、テレマクロ的な撮り方をすれば、十分後ろはボケる。
センサーが小さいということは、消費電力も低いという事である。バッテリーが小型なのが気になったが、延べ1時間動画撮影をし、そのあと50分のタイムラプス撮影を行なったが、まだバッテリーは1/3ぐらい残っていた。逆にデカいセンサーは、動かしているだけでどんだけ電力食ってんだよって話である。
ただ、いくらバッテリーの保ちがいいからとはいっても、長時間のタイムラプス撮影では外部電源が欲しいところだ。本機はUSB端子からカメラ本体を使ってバッテリーを充電できるが、モバイルバッテリー等を繋いだ場合は外部給電にならず、電源がOFFになってしまう。付属のACアダプタを使えば外部給電できるのだが、ここは残念なところだ。
AF性能に関しては、写真撮影時はターゲット追尾などの機能が使える。ただし液晶画面がタッチパネルではないので、追尾ポイントを真ん中に持って来てOKボタンを押すという設定方法だ。残念ながら動画撮影時にはこうしたフォーカス機能が使えず、一般的なAF機能に留まるのが残念である。
手ブレ補正は、ノーマルとアクティブの2モードがある。ファインダー像と実際に撮影される絵のズレを防ぐ「構図優先」モードを備えるが、動画撮影には特に関係ないようだ。アクティブはかなり協力だが、意図しない方向にポーンとシフトする傾向が見られる。ノーマルでもかなり効くので、手持ちはノーマルの方が使いやすいだろう。
特殊撮影も充実
本機はその倍率を活かして、月や野鳥の撮影に特化した専用モードがある。今回は月の撮影にチャレンジしてみた。
基本的には写真を撮るためのモードなのか、デフォルトで3秒のセルフタイマーがセットされている。三脚に固定して、シャッター押下時のブレを解消するための機能だろう。
そのまま動画ボタンを押せば、動画も撮影できるのだが、この場合もボタンを押してから開始まで3秒待たされる。動画の場合、ブレた部分は編集で切ればいいだけの話なので、ここはセルフタイマーはいらなかった。
またこのモードでは、なぜかマニュアルフォーカスにならず、AFのままである。雲が月にかかると、雲の方にフォーカスを合わせにいってしまうので、「雲が被った月」が撮影できない。ここはモードの設計に疑問が残るところである。
デプスモードでは、複数のフィルターを使った撮影ができる。かなり大胆に色やコントラストをいじるが、全体的に明るめに撮れるので、若干スキントーンを飛ばし気味なのが気になるところだ。シーンに合わせて露出補正での調整が必要だろう。
シーンモードは多彩なシーンに対応するが、動画撮影としてはタイムラプスとスーパーラプスもここにある。
スーパーラプスは単純に何倍速で撮影するかを設定するのみだが、タイムラプスは街中や風景など複数の撮影モードがプリセットされており、初心者にも優しい作りになっている。
今回は「夕焼け」を試してみたが、なるほど時間間隔もちょうどよく、色味も含めて上手く撮れる。
ナイトシーンは、ISO感度が最高6400程度なので、それほど明るく撮れるわけではない。個人的に満足できるのは、ISO 3200までである。ただそれでも、しっとりとした黒が絞まった映像が撮影できる。裏面照射CMOSを絵を初めて見たときの感じが甦ってくる絵づくりだ。
総論
今回は例によって4K動画を中心に撮影したが、静止画の機能が動画では使えないという、デジカメとしては数年前の設計がまだそのまま残っている部分があり、その点で惜しい部分はある。
だがそれも3,000mmというズームレンズの威力の前には、割とどうでもいい問題に思えてしまう。これだけの倍率を気軽にワンパッケージで、しかも収差などの問題もなく使えてしまうというのは、驚異的である。
ある意味“運動会最強カメラ”と言えるかもしれない。残念ながら子供の運動会前には返却してしまわないといけないが、運動会前に何かカメラを、とお考えなら、P1000は十分候補になる。一眼では寄り足りないと去年悔しい思いをした方なら、ここまで寄れれば大満足だろう。試しに、徒歩15分ぐらいの距離にあるマンションにズームしていったら、窓越しにくつろいでテレビ見ている人の姿まで捉えられそうなレベルなので、ある意味注意も必要だ。
今秋はフルサイズミラーレスで大変に盛り上がることと思うが、その前にこのカメラをご紹介できて良かった。そしてズーム倍率の話になったら、ぜひP1000の存在を皆さん思い出して欲しい。