小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第930回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

空飛ぶ卵「PowerEgg X」を試す。水面着陸は成功するか!?

こだわりの卵型

コンシューマ向けドローンは、日本国内ではなかなか厳しい状況が続いている。しかしながら、昨年11月に200gを切る本格ドローンDJI 「Mavic Mini」の登場で、少しずつ雰囲気が和らいで来た感じも受ける。“誰も彼もがドローンを飛ばす状況”ではないが、ドローンの認知度も高まり、ちゃんとルールを守れば危なくないという認識も生まれてきているように思う。

空飛ぶ卵、「PowerEgg X」

さてコンシューマ向けドローンは、オモチャレベルなら有象無象の製品があるが、それ以上の製品となるとDJIの一人勝ち状態が続いている。昨年フランスのParrotも小型の「Anafi」を日本で発売し注目を集めたところだが、昨年はトイドローンからの撤退を発表したこともあり、人気ではDJIに一歩譲る形だ。

そんな中、パワービジョンジャパンから、全天候型卵型ドローン「PowerEgg X」が発売された。基本バージョンのエクスプローラモデルが99,900円(税込)、水面離着陸や雨天飛行ができる防水アクセサリー付きのウィザードモデルが146,900円(税込)。

こだわりの卵型、「PowerEgg X」

組み立て式となっており、ドローンとして使わない時はジンバルカメラとしても使えるのがウリだ。パワービジョンは2015年に水中撮影が可能な「PowerRay」という水中ドローンを発売し注目されたメーカーで、同年卵型ドローンの初号機とも言える「PowerEgg」も発売している。PowerEggは卵型を縦の状態で飛行するが、PowerEgg Xは横の状態で飛行する。構造的には全く別物だ。

卵型ドローンの初号機とも言える「PowerEgg」

同社得意の水と空を融合したPowerEgg Xを、さっそく試してみよう。

組み立て式で様々な用途に

まずボディ部だが、上下がカバーで覆われている限りは、完全に卵型だ。サイズは165×100×100 mmで、バッテリーを搭載した状態での重量は552g。

ただしこのままだと本当に何もできないので、最低限下のカバーを外してカメラ部を露出させる必要がある。そこまで卵型にこだわる必要があるのかとも思うが、輸送時の堅牢性を考えると、こういう設計もないことはないのかなという気もする。

下のカバーを外すとカメラとセンサーが出現

上部のカバーを外すと、バッテリー交換ができる。写真と動画の記録にはMicro SDカードを使用するが、これはバッテリーの下にカードスロットがある。なお内蔵メモリーも6GB搭載しているので、最悪SDカードを忘れても写真撮影ぐらいは可能だ。

上のカバーも外したところ
バッテリーを外すと、MicroSDカードスロットがある

ドローン用のアームは折り畳み式になっており、90度に広げて本体の横に装着する。特にロック機構はないが、はめ込みがキッチリしており、製造精度はなかなか高い。

折り畳み式のアーム部
アームを本体にはめ込んだところ

左右にアームを取り付けると、対角で42cm、総重量は862gの中型ドローンとなる。正面には対物センサー、底部にも対物および距離センサーを備えており、なかなか本格的だ。

底部には多数のセンサーを装備

これだけのサイズでありながら、アームが分離できるため、コンパクトに持ち運びできる。付属のキャリーケースに本体、アーム、予備バッテリー、予備プロペラ、コントローラが収納でき、ケースサイズは280×270×13mm程度に収まる。

中型ドローンながら、コンパクトに持ち運べる

カメラ部のスペックを見ておこう。センサーは1/2.8 インチCMOSで、有効画素数は1,200 万画素。静止画撮影サイズは4,000×3,000ドットで、動画は最大3,840×2,160/60pで撮影できる。コーデックはH.265で、ビットレートは最大75Mbps。

動画は4Kまで対応

レンズの画角は78.4度で、35mm換算で27mmと、意外に広くはない。絞りは1.8固定で、シャッタースピードは8sから1/8000sまで。ISO感度は100から3200となっている。ジンバルの可動範囲は、上下方向が-90度~+20度で、左右は±55度。

コントローラーも見ておこう。質感はボディに合わせて光沢のあるホワイトがベースとなっており、スマホ搭載部は折り畳んで収納できる。前面に充電用MicroUSB端子を備えるほか、背面にはスマホ接続用のUSB-A端子を備える。基本的にはスマホアプリで制御する事になるが、見た目はシンプルながら、必要な機能は全部ボタンがあり、いざという時に頼りになる。

付属のコントローラー
スマホを挟み込んで使用する

本機をドローンとして使用しない場合は、一般的なジンバル付きカメラとしても使用できる。このときは、アームの代わりにグリップベルトを装着することができる。また反対側には三脚固定用の穴を装備したパーツを取り付けることで、ミニ三脚などで固定することもできる。

手持ち撮影用にグリップベルトも付属
三脚での固定もできる

三脚で固定した場合は「AIカメラモード」が使え、顔認識とオートフレーミング機能で、被写体をロックし、画面のセンターに捉え続ける撮影や、ジェスチャー操作が可能だ。グリップベルトで撮影する「ハンディジンバル撮影モード」時は、飛行時と同様に、三軸ジンバルにより手ブレ補正が可能だ。

三脚で固定したところ
グリップベルトを使い、手持ち撮影しているところ

なお、今回は全天候対応のウィザードモデルをお借りしている。これは基本セットに、保護ケースとフロート、予備バッテリー、予備ブロペラなどが別キットとして付属する。

ウィザードモデルに同梱の保護ケースとフロート

まずは本体保護用のアクリルケースだ。全体が透明になっており、カメラやセンサーの動作を妨げないようになっている。背面底部には放熱用のヒートシンクがある。

また水面着陸用のフロートも付属する。ローターの脚部とアームに固定するもので、これを取り付けるととたんに見た目が可愛くなる。実際水上着陸できるのか、あとで試してみよう。

ケースとフロートを装着したところ

制御用には、「PowerVision」というアプリを使用する。同社の他製品もコントロールできるようだ。

コントロールアプリはPowerVisionを使用

軽快なフライト

では早速試してみよう。まずは防水ケースなしの、通常モードでフライトだ。コントロールアプリはよくこなれており、DJIのドローンを飛ばしたことがある人ならほとんど違和感なく使えるだろう。

フライト画面はわかりやすい

自動離陸、自動着陸、オートリターンといった機能もそなえるほか、飛行禁止区域の警告機能もある。ボディが卵型のせいもあるのか、運動性能は良好だ。コントローラーの動作にピタリと追従する感があり、撮影しなくてもただ飛ばしているだけで楽しい機体だ。ただスマホを使ったカメラのモニタリングはやや難があり、通信状況は悪くないはずだが、時折画面が引っかかる。

動画の画質は、解像度はそこそこあるが、色味が若干緑っぽい。このあたりは手動でホワイトバランスを調整するか、撮影後に補正が必要だろう。

色味が若干緑っぽい
HD解像度で撮影した動画
sample.mov(74.10MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

静止画も解像度はまずまずだが、色味の傾向は動画と同じくやや緑っぽい。また若干周辺落ちがある。デフォルトで左下に「Shot ON Power Egg X」というロゴがプリントされるが、これはさすがに自己主張が激しすぎだろう。設定でプリントしないようにできる。また、動画の方にはプリントされない。

静止画は周辺落ちが感じられる
やや緑っぽい傾向は動画と同じ

自動フライトモードも搭載している。「フォローミー」と「サークル旋回」は、被写体を追いかける機能だが、途中でマニュアルによる操作も受け付ける。人物をフォローさせつつ、機体が障害物にぶつかりそうになったらマニュアルで上昇、そのままフォローといった、混合動作が可能だ。

「フォローミー」動作画面

一方「クイックショット」は、ドローン自体の動作パターンが決まっており、自動的に動画撮影もしてくれる、いわゆるフルオートの機能だ。こちらは「サークル」「ロケット」「スパイラル」といったモードがあり、機能的にはDJIのドローンとほぼ同じである。

「ロケット」設定画面。緑のプレイボタンを押すと、3秒前からカウントダウンして録画と飛行動作を行なう
各飛行モードをテスト
mode.mov(223.35MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

バッテリーの保ちもよく、動画を録画しながら実質15分以上のフライトが楽しめた。

あっさりと水面着陸できた!

では本機最大の特徴である、防水モードを試してみよう。本体に防水ケースとフローを装着し、アプリで「防水モード」を選択する。画面やコントロール方法などは、普通のドローンモードと同じだ。特に風に弱くなったりといった事もない。モードを変えることで、制御アルゴリズムが変わるのだろう。

コントロールは「防水モード」を選択

まずは陸から離陸し、海面に着水してみる。回収不能になると困るので、人が海に入って手が届きそうな範囲で試してみた。

手動による着水、オートによる着水どちらも試してみたが、テスト日は波が穏やかだったので、陸地と変わらない着水が可能だった。離陸も問題なく、一発である。

着水、離陸は地上と変わらない
water.mov(108.25MB)
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

水の上から離着陸できるということは、陸から遠く離れた洋上での撮影も可能という事である。狭い船の上に着陸するのではなく、どこか適当な海の上に着水させてそこまで回収に行く、といった使い方ができる。

洋上で使用しなくても、ある程度は水に濡れても大丈夫なので、水面スレスレの飛行などにもトライできる。ただ、いったん着水すると水しぶきがアクリルケースに付くので、カメラ前に水滴が付く可能性は高い。撮影完了するまでは、むだに着水しないほうがいいだろう。

飛んでる姿がロボットっぽくてかわいい

防水モードでは、飛行時間はかなり短くなる。だいたい半分ぐらいになると思っていた方がいいだろう。筆者もまだまだいけると思って洋上撮影していたら、急にバッテリー警告が出たので自動着陸モードで帰還させようとした。するとさっき着水した海の中に向かってまっしぐらに飛んでいったので、慌ててモード解除し、マニュアルで陸まで戻した。なまじ水面着陸できると、こういううっかりミスが致命傷になりかねない。

総論

PowerEgg Xは、DJI対抗ドローンとしてなかなか面白いところを狙ったドローンだ。水に強いというドローンは、これまでありそうでなかったジャンルである。マリンスポーツや釣りなど、水辺での撮影をたのしみたい方には最適であろう。

今回は雨が降らなかったのでテストしていないが、公式サイトには雨天でも大丈夫と謳っている。ローターのモーター部は上部が空いているので、本当に大丈夫なのかちょっと心配ではあるが、高速で回転するので水をはじくのだろう。雨天では風も強いことが予想されるので、防水モードでの飛行では、さらにバッテリーの減りが早くなるかもしれない。

ただ、防水モードで飛行している絵面は、やたらとかわいい。やはり足が付いていると、とたんにロボットっぽい印象になる。親しみやすさという点でも、かわいい見た目というのは重要だろう。

ウィザードモデルで146,900円(税込)というのはやや高い印象もあるが、予備バッテリーとローターがセットで付いているので、そう考えればよくできたセットである。

ドローンの新しい選択肢に、大いに期待したい。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。