小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第931回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

TVの“声”をはっきり聞き取りたい! ソニー「お手元テレビスピーカー」が便利

テレビ音声ネタ再び

2月20日に掲載した記事では、テレビの音を低遅延でワイヤレス伝送する機器をご紹介した。音声トランスミッタは正直いくらでも種類がある製品ではあるので、どうなのかなと思ったのだが、予想外に皆さん好印象で記事を読まれたようで、一安心した。同時に、テレビ音声を飛ばすというニーズは、実は大きな需要があるのではないかという手応えも得たところである。

ソニー「SRS-LSR200」

テレビ音声のワイヤレス化に早くから挑戦している製品が、ソニーの「お手元テレビスピーカー」だ。2015年に出た初号機「SRS-LSR100」は、音が聞こえづらくなった高齢者向けの製品としてデビューし、子から親へ、孫から祖父母へといった贈答品として人気を博した。またIPX2相当の防水機能も備えたところから、キッチンで遠くのテレビを見ながら料理する方が、大音量で音声を流さなくても聴き取れるスピーカーとしても利用された。

Bluetoothではなく独自の遅延伝送技術を搭載しており、この技術がのちの肩掛けスピーカー「SRS-WS1」の基礎となったのは知る人ぞ知る秘話である。

そんなロングセラー製品のお手元テレビスピーカーだが、今年2月22日から後継機種が発売された。今回ご紹介する「SRS-LSR200」がそれである。店頭予想価格は2万円前後。

お手元スピーカーの新モデル、「SRS-LSR200」

今回はこの製品をテストしてみたい。

意外に小型なボディ

SRSシリーズのワイヤレススピーカー、しかも取っ手付きなのでそこそこの大きさなのかなと思ったのだが、本体は思いのほか小さい。幅182mm、高さ77mm、奥行き87mmで、手のひらに乗る……ほどには小さくないが、子供用のお弁当箱ぐらいのサイズである。

小さいお弁当箱ぐらいのサイズ感

天面には大きめのチャンネルボタンとボリュームノブがある。テレビのチャンネルや放送波切り換えといった最低限の機能を備えている。一方で外部入力への切り換えボタンは付いておらず、あくまでテレビ視聴にフォーカスした作りだ。

大きめのチャンネルボタンとボリューム

放送波切り換えの中でも、BS/CSと4K/8K用BS/CSはボタンが分かれている。このあたりは5年前の前作では存在しなかった機能である。

前面のパンチンググリルの奥はスピーカーになっており、LR再生用が両脇にあるほか、センターに“人の声用”のスピーカーがある。センタースピーカーは内部でエンクロージャが分離しており、左右の音から干渉を受けずに音声だけを再生できるという。

正面に3スピーカーを配置
グリルを外したところ
声用のスピーカーと、LRのスピーカーは内部で独立したBOXになっている

天面ボタンに、「はっきり声」というボタンがある。これは加齢により聞き取りにくくなる周波数を増強する機能で、「OFF」、「はっきり声1」、「はっきり声2」の3モード切り換えとなる。この「はっきり声」の再生に使われるのが、センタースピーカーというわけだ。

ポイントは「はっきり声」

背面には赤外線ポートがあり、天板のボタンでの操作情報をテレビへ送信する。要するにリモコンの代わりになるわけである。

背面にも機能がある

赤外線ポートの下には、充電端子としてUSB-C端子、リセットボタン、ヘッドフォン端子を備えている。ワイヤードのヘッドフォンやイヤフォンが、手元で使えるわけだ。

実はイヤフォンも使える

充電台として平たいトレイのように見えるのが、音声の送信部だ。テレビの音声出力をこのトレイ部に繋いで、スピーカー部へとワイヤレスで音を飛ばしている。使わない時はスピーカーをこのトレイ部へ戻して、充電するわけだ。連続使用時間は、「はっきり声」OFFで約13時間。充電は約3時間である。

トランスミッタは充電台兼用

ワイヤレス音声伝送には、2.4GHz帯を使用するが、Bluetoothではなく独自規格となる。伝送距離は見通しで約30mなので、よほどの豪邸でない限りは大丈夫だろう。まああまり離れすぎても今度はテレビリモコンの赤外線が届かなくなるので、現実的な使用可能距離はどちらかというと赤外線の到達距離で決まるはずだ。

「誰が使うのか」にひと工夫

さてこの商品、やはりメインターゲットは音声の聞き取りに難がある高齢者という事になるだろう。例え子孫が本機をプレゼントしたとしても、遠方に住んでいればセッティングはご自分でやってもらわなければならない。理屈はわからなくても、とりあえず繋ぎ方ぐらいは高齢者でもわからないと厳しいものがある。

その点で本製品は、なかなか工夫されている。マニュアルも大きな判型で、やるべきことが順番に大きな文字で書かれている。小さい文字の部分は、難しければ読まなくてもいい。送信機の端子に色分けされた番号が書かれており、ケーブルにも同じ色と数字のタグが貼られている。とりあえず書いてある数字と色を合わせれば、本機側の結線はできる。

マニュアルの文字はかなり大きい
端子も数字と色で区別
ケーブルのタグと合わせれば間違うことはない

ただ、音声入力の反対側、テレビに繋ぐ方がわかるかどうか、であろう。特に光ケーブルは、高齢者は使ったことがない可能性もある。筆者は比較的慣れている方ではあるが、付属の光ケーブルは先端のコネクタが細身にできており、コネクタの長辺がどっちなのかわかりにくかった。筆者でもなかなか端子にはまらず、1分ぐらい格闘した。

ケーブル端子の色も黒なので、ちょっと暗い場所だとさらにわかりにくい。どうせならラベルと同じ色で、長辺の面だけ色が付けてあるとかいった工夫が欲しかったところだ。

説明書では、テレビに光端子がある場合とない場合で分けてあるが、むしろ光端子がなんなのかわからない場合、で分けた方がいいかもしれない。アナログのイヤフォン端子接続でも繋げられるので、「どっちかわかるほうでOK」的な優しさが欲しいところである。

接続の順番も、ちょっとちぐはぐである。説明書によれば、電源よりも先に音声端子を接続するのだが、その音声端子は「2」と「3」である。それを繋いだあと、「1」の端子である電源に繋ぐ。これは不自然だろう。普通は番号順に繋げばいいと思うはずだ。まあ先に電源をつないでも壊れる事はないにしても、残念ながらこれでは「わかりやすい」「親切」とは言えない。

さらに難関として、いわゆる「リモコン番号合わせ」の手順が必要となる。テレビ側のメーカーに合わせてリモコンコードを設定する作業だ。本機では「はっきり声」ボタンを音がなるまで5秒以上押し、その後マニュアルの表を見ながら、テレビメーカーに該当する数字ボタンを押す事になる。

汎用リモコンによくある手順ではあるのだが、テレビ本体付属のリモコン以外操作したことないという方に、こうした作業ができるのだろうか。「みんなそれでやってる」のかもしれないが、この商品は「できるひと」が対象ではないことを考えれば、何かもう一工夫ほしいところである。

「言葉が聞こえる」にフォーカスした音

セッティングができたら、早速テストである。今回は光ケーブルで接続している。

テレビ側のセッティング次第ではあるが、光ケーブルでの接続の場合、イヤフォン端子と違ってテレビ内蔵スピーカーの音は自動的にミュートにはならない。

本機のポイントは、その機能を積極的に利用するところである。つまり普通の音量で聞こえる家族にはテレビスピーカーからの音声を聴いてもらい、聞こえづらい人にだけスピーカーを近くに置く、という方法論なのである。高齢者と家族が同じ番組で楽しむ姿をベースにしているのがわかる。

まずテレビ音声をミュートせずに両方鳴らしてみたが、音ずれは感じられなかった。通常は音声が1フレームずれれば、楽器エフェクターで言うところのフランジャーがかかったような位相ずれが聞こえるはずだが、本機に関してそれはない。遅延は原理的にはゼロではないはずだが、人が認識できるほどはない、ということだろう。

ディレイが感じられないので、テレビ本体からの音と併用できる

音質的には、今ポータブルスピーカーで流行っているような、低音がズンドコ出るタイプの音ではない。どちらかというと明瞭度のほうに合わせたチューニングだ。

注目の「はっきり声」だが、OFFとONではかなり印象が違う。確かにはっきり声をONにしたほうが、人のしゃべりは聞き取りやすい。はっきり声には1と2の2モードあるが、1と2の違いはそれほど大きくはないが、2のほうがより明瞭度が高い。このあたりは、利用する本人の聴覚や好みもあるだろう。

ただ、ONのほうが音量レベルを上げなくてもしゃべりが聞き取れるので、おじいちゃんおばあちゃんのテレビがうるさい問題は解決できそうだ。

総論

お手元テレビスピーカーは、高齢者に人気の商品と聞いていたので、普通の人にはあまりメリットがないのかなと思っていたのだが、手元にスピーカーを引き寄せて「はっきり声」をONにすると、普通に聞こえる人でも音声の聞き取りはかなりアップする。ニュースやトークバラエティなど、しゃべりを中心にしたコンテンツがお好みの方なら、メリットは大きい。

昨今はテレビも50型越えの大画面が標準になり、離れた位置から視聴しても問題ないスクリーンサイズになってきている。そんなとき、音だけはテレビの位置からガンガンに流れるというのでは、あまりにもイケてない。声を手元に引き寄せるという発想は、テレビ純正ではまだどこも手がけていないソリューションであり、将来性が見込める分野である。

高齢者に人気のある本機だが、使い勝手の良さが多くの人に伝われば、普通にテレビアクセサリで普及しそうな製品である。「高齢者」を意識せず、アンテナ感度の高いエグゼクティブ向けとして、同機能でしゃれたデザインのものがあれば、欲しがる人は多いのではないだろうか。日本に限らず、大画面ニーズの高いアメリカでもチャンスがある商品かもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。