小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第929回
こういうのでいいんだよ! TVの音を低遅延でワイヤレス化、サンワサプライのBluetooth送信機
2020年2月20日 08:00
需要薄? テレビ音声のワイヤレス化
日本はイヤフォン需要の高い国だが、その用途は主にスマートフォンとの接続である。中でもiPhoneがイヤフォンジャックを廃止したのは大きく、現在のBluetoothイヤフォンブームはそれによって引き起こされたと言っても過言ではあるまい。
スマートフォンは多彩なコンテンツの再生が可能だが、画面との同期を伴わない音楽や音声通話に関しては、遅延はあまり問題とならず、それよりも音楽的な音質のほうが重視される。
一方で動画やゲームは、映像と音声の同期が重要になるのだが、「音ゲー」以外では今のところあまりシビアには捉えられておらず、多少の遅延があるのは仕方がない、どうせスマホだし、といった形で受け入れられてしまっているようにも思う。
他方で、テレビの音声をワイヤレス化する動きは正直、それほど大きくない。そもそもテレビにBluetoothが搭載されていないものが大半である。筆者宅で一番新しいテレビは2年前に購入した東芝REGZA「40M510X」だが、2年前のモデルでもBluetoothは搭載していない。
テレビ音声のワイヤレス化は需要がないわけではなく、番組で取り上げられたことから火が付いたソニーのネックスピーカー「SRS-WS1」はテレビ視聴をメインに考えられたスピーカーである。だがそれ以前は、高齢者のためにスピーカーを手前に引き寄せる「お手元スピーカー」がニッチな需要を捉えた製品として存在した程度であった。
個人的には、テレビの音を出しっぱなしにしている状況はあまり好きではない。テレビが点いているのは構わないが、家族と話しができないような音量でずーっとテレビが鳴り続けるのはいかがなものかと思っている。
特に今やテレビは、家族全員が同じものをみるのではなく、見たい人が見たいものを見るといった具合に変わってきている。見たくない人は別のことがしたいわけだが、音があると邪魔になるわけである。
そんなこともあって、筆者は永らくテレビ音声のワイヤレス化を望んでいたのだが、ようやくリーズナブルな価格で実現してくれそうな製品が登場した。サンワサプライの「400-BTAD005」がそれだ。ダイレクトショップ価格で3,980円(税込)。
意外とありそうでなかった、テレビのお手軽ワイヤレス化ソリューションを、試してみよう。
ポイントは「低遅延」
本機は、アナログ音声をBluetoothに載せてワイヤレス化する、いわゆるトランスミッターである。そんなもの昔からいくらでもあるだろうと思われるかもしれないが、aptX Low Latency対応と聞けば、ああそうかと納得されるだろう。
aptX Low Latency(以下aptX LL)は、aptXコーデックの中でも、特に低遅延であることを特徴にしたコーデックだ。技術発表されたのは2014年末のことで、まだQualcommに買収される前のCSR時代に発表されている。実際に製品が出てきたのはそれから2〜3年あとだろう。
とはいえ、それ以降すべてのBluetooth関連製品がaptX LLに対応しているわけではなく、イヤフォン・ヘッドフォンメーカーのラインナップのごく一部がひっそりと対応しているという状況が永らく続いている。やはりメインストリームは音質であり、遅延に関してはゲームユーザー以外は感心が低いということかもしれない。
本機はBluetooth非対応製品をBluetooth化するという名目で販売されているが、その最たるものはテレビだろう。テレビ番組、特にトーク中心の番組はリップシンクがズレていると違和感が大きく、話の内容が入りにくい。もちろん吹き替え映画などであっても、効果音がズレていると迫力も半減である。したがって、絵と音のズレが少ないaptX LLを使うべきなのである。
とはいえ、実は筆者もBluetoothイヤフォンはいくつも持っているが、aptX LL対応製品は手元に一つもなかった。そこで今回は、aptX LL対応イヤフォンとしてエレコムの「LBT-GB41RD」をお借りした。標準価格7,040円(税込)だが、ネットでは4,000円半ばで手に入るようだ。
ではまず、「400-BTAD005」の仕様からチェックしていこう。トランスミッタ部はUSBメモリー程度のサイズで、表面には円形のLEDとリセットボタンがあるのみ。上部にはアナログのステレオミニジャックがある。製品には、長さ1.2mのステレオミニケーブルが付属する。
USB端子は電源を取るためのもので、音声通信とは関係ない。イマドキのテレビであれば、HDD接続用としてUSB端子が付いていると思う。そこから電源をとればいい。あとはテレビのイヤフォンジャックと本機のジャックを繋いで、Bluetoothで飛ばすというだけの事である。
本体にはペアリングボタンも何もないが、基本的には電源が入るといつもペアリングモードになる。それだと毎回イヤフォンをペアリングしないといけないのではないかという懸念もあるが、テレビのUSB端子はテレビ側の電源を切っても通電しているので、普通に使っているぶんには毎回ペアリングモードになることはない。
逆に接続するイヤフォンを変更したいときは、いったんUSB端子から本機を抜いて挿し直すことで、ペアリングモードに入るわけだ。リセットボタンを押しても同じ挙動である。
テレビ番組視聴には問題なし
では早速試してみよう。最初電源はテレビから取らなくてもいいだろうと思い、8個口のUSB充電器に挿して電源をとってみたのだが、イヤフォンからジリジリとノイズが入る。おかしいなと思って改めてテレビ側のUSB端子に挿してみると、ノイズが消えた。アースの問題なのか、やはりセオリーどおり、テレビ音声を飛ばす際はテレビのUSB端子から電源を取る方が無難なようだ。
実際にテレビ番組を視聴してみたが、これまで違和感を感じていたリップシンクの遅れはほとんど感じられず、自然に番組が視聴できた。筆者は元々テレビ編集者であり、テレシネ技術者でもあるので、リップシンクのズレにはかなり敏感なのだが、だいたい1フレーム程度の遅延しか感じないので、普通の人にはまずわからないレベルだろうと思われる。
本機はaptX LLだけでなく、通常のaptXとSBCにも対応している。現在どのコーデックで接続されているかは、本機のLEDライトの光り具合で見分けることができる。
- SBCで接続:LEDが約5秒に3回青点滅
- aptXで接続:LEDが約5秒に2回青点滅
- aptX LLで接続:EDが約5秒に1回青点滅
試しに、SBC、AAC、aptXしか対応していないソニー「WI-C600N」とペアリングしてみたところ、だいたい10フレームぐらいの遅延がある。厳密にはリップシンクしていないアニメ作品などでは、それぐらい気にしないという人もあるかもしれないが、効果音のズレはやはり大きい。実写コンテンツでは特にカットチェンジのタイミングと音声が合わないので、ストレスを感じる。
WI-C600Nは左右が繋がったイヤフォンなので、まだ遅延が少ない方だが、完全ワイヤレスで左右間のディレイがある場合は、さらに遅延が大きくなるだろう。1秒もずれたら、もはや作品として視聴するのは難しいレベルとなる。
総論
aptX LLという技術が登場して5〜6年になるわけだが、実は一度でもその実力を体験したことがなかった。今頃かよと思われるかもしれないが、案外そういう方は多いのではないだろうか。
今回は音楽ではなく、映像コンテンツのワイヤレス化にフォーカスしてみたわけだが、これまでは仕方がないと諦めていた部分がクリアされると、「本来はこうだよな」という気持ちになる。手持ちのイヤフォンでaptX LL対応のものがあれば、4,000円程度で低遅延環境が手に入る事になる。
ただ、アナログに比べて完全に遅延が0というわけではなく、1フレームぐらいは遅れるので、音ゲーなどの場合はその1フレームが問題になるだろう。シビアなゲーマーには、あまりお勧めしない。
テレビ音声のワイヤレス化は、離れたところからの視聴でもボリュームを上げなくていいので、周囲への音漏れを気にする必要がなくなるというメリットがある。近隣だけでなく、同居の家族にも迷惑がかからないというのは、意外に大きなメリットと言えるのではないだろうか。