小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第955回
頑張れば手が届くフルサイズ。4K/60pも撮れる「LUMIX S5」を試す
2020年10月1日 08:30
ハイエンドの次の一手
パナソニックが2019年3月に、同社初のフルサイズ機「LUMIX S1」及び「LUMIX S1R」を投入、そして同年9月にははやくも第2弾となる「LUMIX DC-S1H」を発売した。特にDC-S1Hは6K動画撮影可能機として、コンテンツ制作業界に大きく接近したのも記憶に新しいところだ。
さらに次なる一手として、今年9月25日に「LUMIX S5」(DC-S5)を発売した。S1シリーズがボディだけで50万円超えのプロ向けハイエンドであったのに対し、S5はサイズを大幅に小型化し、4K/60p撮影も可能にした意欲作である。ボディ価格も実売24万円前後と、S1シリーズの半分以下に抑え、個人で手が届くところに収めてきたあたり、さすがパナソニックである。
今回はキットレンズの「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6(S-R2060)」も一緒にお借りしている。セットの店頭予想価格は28万円前後と、30万円以下に収めてきた。差額で考えるとレンズだけで4万円するのだが、なんとなく全体ですごく安い気がしてくるという大変危険な値付けである。
いよいよ一般にも普及の兆しが見えてきたフルサイズ機を、早速テストしてみたい。
十分コンパクトなボディ
ではまずボディから見ていこう。デザインとしては、高機能化しすぎて巨大化してしまったGHシリーズよりも、むしろシンプルなGシリーズのテイストに近い。しかしマニュアルボタン類はS1H準拠という、使い勝手のいいバランスになっている。
実際に筆者手持ちのG7を比較してみるが、センサーサイズが4倍ぐらい違うのに対し、ボディサイズはそこまで大きく差がない。この程度の差なら、十分コンパクトと言って通るだろう。
重量はバッテリー込み本体のみで約714g。レンズも合わせると約1,064gだ。S1Hはバッテリー込みのボディだけで約1,164gあったので、かなり軽量化されているのがわかる。
ボディ正面は、S1Hにあった録画ボタンなどは省略されているが、グリップ奥のFn2ボタンは残している。軍艦部の録画ボタンはS1Hほど主張はないが、手探りで探しやすい位置にある。シャッター部後ろに並んだ3つのボタンはS1Hと同じ配列だが、奥に行くに従ってボタンが高くなっている。細かいところだが、S1Hよりも進化が見られるところだ。
天面のディスプレイはなくなったが、おなじみのモードダイヤルがある。モード切替を頻繁に行なう人にとっては、こちらのほうが使い勝手がいいだろう。
マウントはもちろんLマウントで、有効画素数2,420万画素のローパスフィルターレス35mmフルサイズセンサー。アスペクト比は3:2だ。V-LOG撮影時には14+ステップのラティチュードを持つあたりは、S1Hのセンサーと同じスペックだ。
動画撮影時には、フルサイズ、APS-Cサイズ、PIXEL by PIXELの3モードが選択できる。フルサイズとAPS-Cでは約1.5倍の差が出る。つまりキットレンズは20mmスタートだが、APS-Cモードでは30mmスタートということになる。APS-CとPIXEL by PIXELの画角の差は今の所わずかだが、センサーが高画素化していけば差が開いてくるだろう。
【お詫びと訂正】記事初出時、“APS-Cモードでは35mmスタート”と記載しておりましたが30mmの誤りでした。お詫びして訂正します。(11月3日)
動画撮影モードは、最高で3,840×2,160/59.94p/4:2:0/10bit LongGOPの200Mbpsを確保。ただし4K/59.94p撮影時には、センサーモードがAPS-Cモード以下に落とされる。30pと比べれば単純に処理能力が2倍必要になるので、フルサイズのままではプロセッサの限界か、センサーの放熱問題といった課題があるのだろう。煩雑になるのでここではAPS-Cでの撮影モードのみ掲載しておくが、フルサイズは4K/59.94pがない以外は同じである。
なお4K/60Pおよび4K/10bit撮影時のみ、連続撮影時間30分の制限がある。それ以外では制限なしだ。
端子類はすべて左側で、上がマイクとヘッドホンというアナログ系、下がHDMIとUSB-Cのデジタル系だ。HDMIはS1Hがフルサイズだったのに対し、本機はMicroである。USB-C端子からは使用時の給電もできるようになっている。電源をOFFにすればバッテリー充電へと切り替わる。
バッテリーは「DMW-BLK22」で、S5用に新規開発されたもの。今後同サイズのカメラで採用が進むだろう。チャージャーはバッテリーを縦に差し込むスタイルで、USB-Cで充電できる。ACを使わずモバイルバッテリーで本体でもチャージャーでも充電できるわけで、モビリティはだいぶ向上している。
キットレンズ「LUMIX S 20-60mm F3.5-5.6」は非球面レンズ2枚、EDレンズ3枚、UHRレンズ1枚で構成される光学3倍ズームレンズで、レンズ単体ではメーカー希望小売価格74,000円となっている。最小絞りはF22。重量は約350gと軽量だ。最短撮影距離が15cmと、マクロレンズっぽい使い方もできる。ただしレンズ内に光学手ブレ補正機能はない。
4K/60pが軽快に撮影できる
では早速撮影してみよう。本機の特徴といえば、なんといっても中級機ながら4K/60p撮影に対応していることであろう。ただしセンサーサイズが強制的にAPS-C以下に制限されてしまうのが残念なところである。
画質的には、フルサイズとAPS-Cサイズで大きく違うわけではない。したがって1本のレンズでも2通りの画角が使えるという面白さはある。
AFに関しては、広い絵では人体認識、近づけば顔認識へと切り替わり、全域で危なげなく追従する。自動認識で寄りのパンアップを撮影してみたが、靴、スカートのあたりで一瞬迷いが見られるものの、すぐに合焦。ただ顔がフレームに入ってきてから、一瞬なんらかのモード切替動作がある。写真撮影ではあまり問題にならないだろうが、動画撮影ではこのモードの隙間に課題があるようだ。
手ブレ補正もテストしてみた。レンズ内の光学手ブレ補正がないので、光学としてはボディ内補正に頼ることになる。だが広角レンズを使えば、ボディ内補正だけでも十分な効果が得られる。
電子手ブレ補正は、「電子補正」と「手ブレ補正ブースト」の2段階がある。手持ちドリーでテストしたところ、電子補正ありのほうは補正レンジが行き過ぎて元に戻るアクションが頻繁に見られた。撮影者が動く場合の補正アルゴリズムではなく、手持ちでFIXを撮影するための機能だと思ったほうがいいだろう。ちなみに上記サンプル動画のうち、ローアングルの波打ち際のショットは「電子補正」と「手ブレ補正ブースト」がONの手持ち撮影である。
動画撮影においては、V-log撮影もサポートしている。自分でカラーグレーディングできる人はそれほど多くないと思うが、今や動画コンテンツ制作では必須となりつつあるスキルだ。
カメラ内にはREC.709用のLUTがプリセットされているが、それ以外に4つ、VARICAM用のLUTを記憶できる。同社サイトで提供されているLUTのうち、拡張子「.VLT」のものをメモリーカードのルートに展開して、カメラ内から読み込ませるわけだ。ただしカメラ側がファイル名を8文字しか認識できないので、各LUTファイルは8文字以内にリネームしておく必要がある。
読み込んだLUTは、カメラ本体のモニター(ビューファインダ及び液晶ディスプレイ)に適用できるほか、HDMI出力にも適用できる。現場でHDMIモニターで仕上がりを確認するだけでなく、アマチュアが家に帰ってきてテレビに繋いで映像をチェックするときなどでも、気軽にLUTを切り替えて確認できる。
もちろん、プレビュー用だけでなく編集ソフト用のLUTも同じものが提供されているので、編集時に適用することもできる。
スロー撮影も充実
スロー撮影も充実している。基本的に8bitモードでしか動かないが、4Kでのスロー撮影も可能だ。記録フレームレートに対してセンサーのフレームレートを選択することでスピードが決まる。例えば4K撮影ではセンサーフレームレートは最大60pなので、30p記録すれば2倍スロー、24p記録すれば2.5倍スローになるわけだ。
HD解像度では、センサーフレームレートは最高180pに設定できる。24p記録すれば、最大で7.5倍速スローが撮影できることになる。ただしAFが効くのはセンサーフレームレート120pまでで、それ以上になるとマニュアルフォーカスになる。
夜間撮影もテストしてみた。通常撮影ではISO 100から51200まで可変できるが、V-log収録ではISO 640から51200までとなる。本機もS1H同様、高感度撮影時は処理回路が切り替わる「デュアルネイティブISOテクノロジー」を搭載している。
特に設定はないが、V-log撮影の際にISO4000以上になると自動的に処理が切り替わる。今回は通常撮影と比較してみたが、通常撮影ではNR処理が入るので、S/Nが良くなっている。一方V-log撮影ではポスト処理前提のためかNRをほとんどかけていないと思われ、撮って出しではS/Nが悪く見える。
総論
本機S5は、S1シリーズに対して下位モデルにあたるわけだが、動画撮影に関しては若干の制限があるだけで、ほとんどの機能はS1Hと変わりない。むしろローパスフィルターレスになるなど、有利な面もある。HLGやV-Log撮影もできるし、ボディが小型なので取り回しも楽だ。もちろん、価格も半分以下である点も見逃せない。
S1シリーズは新設計で意欲的に高いところを狙っていったモデルだが、S5は過去のこなれた設計を持ってきて完成度を高めたシリーズである。おそらくこの5ナンバーが、パナソニックのフルサイズとして今後スタンダードシリーズ化するのではないかと予想する。
デジタルシネマ文脈では4K24pか30pがあれば十分だが、今回4K60pに対応したことで、テレビ放送への利用も可能になった。現状4K60p放送はBSしかないが、地上波でもネット配信やセルコンテンツ化のために4K60pで制作している番組は少なくない。APS-Cサイズ以下でしか撮影できないので、画角が若干狭くなるのが難点だが、サブカメラや固定カメラとして制作費を大幅に下げられるだろう。
もちろん、この価格帯ならコンシューマ市場でも十分存在感を示せるだろう。フルサイズ機の中でも、いろんな機能が簡単に使える、手堅いカメラとして人気が出そうだ。