小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第953回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソラマメ型からリスニングケアまで、個性が光る完全ワイヤレス4種を一気に聴く

今回お借りした4モデル。左下から反時計回りにサムスン「Galaxy Buds Live」、ヤマハ 「TW-E5A」、NUARL 「N10 Pro」、FiiO「FW1」

秋の新作ブーム

イヤフォンは特に季節商品ではないのだが、春と秋に新製品の発表が多い。春は新生活のスタート時期、秋は夜長に音楽を楽しむといった事情もあるのだろう。そんなわけでこの秋も続々と面白い新作が登場した。

例年であれば、「ヘッドフォン祭」などのイベントが開催され、実機をテストできる機会があったのだが、今年は春秋ともに中止がアナウンスされ、オンラインイベントというカタチになっている。そこで今回は、特に筆者が聴いてみたい新モデル4種を集めて試聴してみた。サムスン「Galaxy Buds Live」、ヤマハ「TW-E5A」、NUARL「N10 Pro」、FiiO「FW1」というラインナップだ。

なかなか実機を試す機会が少ない昨今ではあるが、皆さんの購入の参考になれば幸いである。

耳穴に入れない新感覚。Galaxy Buds Live

サムスンGalaxyと言えばもちろんスマートフォンの人気ブランドだが、スマートウォッチやイヤフォンなどの周辺機器も以前から積極的に展開している。元々サムスンは総合電気機器メーカーなので、オーディオ製品も手がけて長い。

だが特にオーディオブランド「AKG」などを保有するハーマンインターナショナルがグループの傘下となって以降、Galaxyブランドのオーディオ製品はAKGの技術が導入されており、今回のGalaxy Buds Liveも「Sound by AKG」というロゴが印刷されている。公式サイトではAmazonでの販売に誘導されており、執筆時点での価格は20,673円(税込)。

カラーはミスティック ブロンズ、ミスティック ホワイト、ミスティック ブラックの3色。今回はミスティック ブロンズをお借りしている。

ピカピカのボディ
ケースはかなりコンパクト

特徴的なのはその装着方法だ。カーブしたソラマメみたいな形もユニークだが、耳穴に挿入するカナル部分がない。耳の凹み部分に本体をはめ込むだけというのは、これまでになかったスタイルだ。

音導管を耳穴に入れず、耳の凹みにはめ込むだけ

本体の裏側上部にゴムの部分があるが、ここから音が出るわけではなく、中心にある2つの金属端子が充電ポートとなる。このゴム部分が、フィット感を高めるウィングチップ相当になる。

ゴム部分の奥は充電用端子があるのみ。下部の黒丸は着脱センサー

ドライバーは本体下部半分を占める12mm径のユニット。これが下部に開けられたエアベントを通じて耳穴に音を放出する。表面にある通気口は、低音振動時の背面の空気を逃がすためのベースダクトだ。

対応コーデックはSBC、AACと、サムスンオリジナルのScalable Codec。今回取り上げた4種では唯一Qualcomm製チップを採用していないため、aptXが非対応となる。本体表面のタッチで再生・停止やボリューム操作ができる。

コントロールはスマートフォン用アプリ「Galaxy Wearable」にGalaxy Buds Live用のプラグインを導入する形で使用する。アクティブノイズキャンセリングや簡易イコライザーが操作できる。

コントロールアプリはGalaxy Wearable

バッテリはノイキャン使用時で6時間。ケース内のバッテリーを合わせると21時間の使用が可能だ。

今回の試聴では、全コーデックに対応しているウォークマンA100シリーズを再生機に設定し、Amazon Music HDで配信されている音源を中心に試聴している。

イコライザーは「標準」で試聴したが、ドナルド・フェイゲンの「Morph the cat」では冒頭のベースラインが十分な量感で聴こえてくる。耳穴にイヤーピースを挿入しないイヤフォンで、ここまで低音が出るのは破格と言えるだろう。「低音ブースター」では低音が出過ぎるほどだ。

オアシスの「Wonder Wall」では、冒頭のアコースティックギターのストロークはやや大人しめ。ボーカルがかなり前面に出てくるバランスだ。高域まで滑らかに伸びるが、うるさい感じがなく、柔らかな表現で耳に優しい。また構造がオープンなので、耳に詰まる感じがないのも特徴だ。

アクティブノイズキャンセリングは、低域から中域のランダムノイズに強く、そこを抑えて音楽の美味しい部分のスペースを開けてくれる。ただ中高域のピンポイントノイズ、例えば人のしゃべりやコオロギの鳴き声みたいなものはあまりキャンセリングできない。

ヤマハの音作りを堪能できる「TW-E5A」

ヤマハと言えば一般的には楽器メーカーのイメージが強いが、オーディオファンならもちろん昔からスピーカーやアンプなどを作っていることはご承知だろう。イヤフォン・ヘッドフォンも以前からラインナップがあるが、完全ワイヤレスは参入が昨年末と遅めだったことから、まだあまり存在感を示せていないところではある。

そんなヤマハの新モデルが、「TW-E5A」だ。当初発売が2019年12月とアナウンスされていたが、今年8月に延期されていた。さらに9月30日にはノイキャン搭載の上位モデル「TW-E7A」の発売も控えているが、まずは既発売のE5Aを試してみたい。市場想定価格は15,000円前後。

イヤフォンとしてはかなり大きめ
ケースもかなり大きい

カラーはブラック、ホワイト、スモーキーブルー、スモーキーピンクの4色で、今回はスモーキーブルーをお借りしている。

本体はやや大きめの丸形で、6.2mm径ドライバーを搭載する密閉ダイナミック型。中央のヤマハロゴ部分がハードウェアスイッチになっており、音楽の再生・停止やボリューム調整ができる。

ヤマハのロゴ部分がボタンになっている
装着するとかなり耳から飛び出す

対応コーデックはSBC、AAC、aptXで、Qualcomm TrueWireless Stereo Plusも搭載。つまり対応スマートフォン相手なら、左右個別に接続することができるため、左右間の音切れの心配がなくなる。

アプリの機能はシンプル

本機の特徴は、ヤマハ独自の「リスニングケア」だ。これは音量ごとに人間の聞こえ方に最適化するよう、バランスを変える機能だ。このため、低音量時の低域不足、大音量時の高域過多といった聞こえ方の違いを吸収できる。

またノイキャンは搭載していないが、アンビエントマイクは内蔵しており、外音取り込み機能が使える。再生可能時間は、本体7時間、ケースと合わせると最大28時間となっている。

本機の特徴は、低域から高域に至るまでのバランスの良さだろう。個性がないという見方もできるが、モニターイヤフォン的な冷静さがある音だ。

Deep Forestの「While the earth sleeps」では、複雑なサンプリングの中でもかなり音を整理して聴かせてくれる。ドナルド・フェイゲンの「Morph the cat」では、ベースの弦がミュート時にフレットに当たるビビリ音まで綺麗に表現できている。ボディサイズは大きいが、ドライバーが大きいわけではないので低音の出方は大人しめである。できればアプリでイコライザーがいくつか設定できると良かった。

また「リスニングケア」により、音量を変えてもバランスがほとんど変わらない。静かな場所で小音量で聞く際にも、十分楽しめるだろう。ノイズキャンセリングがなく、いわゆるパッシブキャンセルだけなので、遮音性はそれほど高くはない。「アンビエントサウンド」をONにすると、イヤフォンを外した時よりも高域がよく聞こえる。同時にシャーノイズも増える傾向がある。

唯一の難点は、ボディが円錐形で滑りやすいので、ケースからつまみ出しにくいところである。

NUARL初のノイキャンワイヤレス 「N10 Pro」

NUARLと言えば、2018年末という早い段階でTrueWireless Stereo Plusに対応したり、下取りにより、新しいイヤフォンにお得に買い換えできるトレードアップサービスなど、常に新しい事に挑戦しているブランドという印象をもつ。

そんなNUARLの完全ワイヤレスも、意外な事にノイズキャンセリングは今回の「N10 Pro」が初めてだ。ボディはやや大きめの楕円形で、形状としてはオーソドックス。表面に波紋のような凹凸があるのが面白い。操作ボタンが左右に2つずつ付いているのは、今どきとしては珍しい仕様だ。カラーはブラックメタリックのみ。公式サイトでの価格は、26,950円(税込)。

本体はやや大ぶりなN10 Pro
ケースもなかなかのサイズ
ケースへはハの字で格納する

ドライバーは、PTT多層皮膜振動板を使った独自開発の10mm径ダイナミックフルレンジで、HDSS (High Definition Sound Standard)という音響技術が搭載されている。これはETL (Embedded Transmission Line) と呼ばれる音響モジュールをドライブ背面に配置し、筐体内の圧力を一定に保ちながら内部反響や定在波を抑え、音源に忠実な再生が可能になるというもの。HDSSはNUARLの上位機にのみ搭載されている。

ハードウェアのボタンを片側2つも装備するのは珍しい

対応コーデックはSBC、AAC、aptXだが、aptX使用時のみ連続再生時間が減少する。公開されているスペックは、ノイズキャンセリングONでSBC/AAC約5.5時間、aptX約3.5時間。ケースとの併用で最大30時間再生。TrueWireless Stereo Plusには対応していない。

一見Bluetoothインカムのような見た目

専用アプリ「N10 CONNECT」では、ノイズキャンセリングのON・OFFのほか、外音取り込みなど細かいコントロールが可能。オートボリュームダウンは、長時間連続でリスニングした際に、耳の疲れをカバーするために音量を下げる機能だ。またコーデックのON・OFFも可能で、スマホ側がAACとaptX両方対応している場合、イヤフォン側でどちらで繋ぐかをコントロールできるのは珍しい機能だ。ON・OFFにしなくても、今どのコーデックで繋がっているかの確認もできる。

ノイキャンのモードも3つから選べる
コーデックが選択できるのもユニーク

本機はダイナミック型にも関わらず、バランスは全体的に中域から高域寄りとなっている。そのため明瞭感が高い。ただ、付属のシリコンイヤーピース「Block Ear+」で聴いていると、低音が軽いのが難点だ。あまり低域を重視しない、クラシックやアコースティック系などを聴くと楽しいだろう。低音をさらに楽しみたい時は、付属のフォームイヤピース「Magic Ear+」で密閉度を高めるといい。

ノイズキャンセリングをONにすると、少し音圧が下がる。3モードを試してみたが、「音質優先」と「バランス」はキャンセル具合にほとんど差が感じられなかった。「ANC優先」にすると、低域のキャンセリングが強まる印象だ。ただ人の声や虫の音、キーボードのタイプ音などは漏れて聞こえてくる。

FiiO初の完全ワイヤレス「FW1」

FiiOといえばハイレゾ対応プレーヤーやDAC、ポタアンなど、ポータブルオーディオ製品がよく知られているところだが、BA(バランスド・アーマチュア)タイプや、BAとダイナミックの組み合わせによるイヤーモニターもリリースしてきた。

BAドライバーはKnowlesとの共同開発によるカスタム仕様のものを採用してきたが、今回のFW1も同じくKnowles製カスタムBAである。市場想定価格は税別9,000円前後と、買いやすいのもポイントだ。

BAらしいコンパクトなボディ
ケースもまずまず小型
耳穴にすっぽり入りきるボディ

BAはドライバーが小型で優れた高域特性を持つが、逆に低域を出すのが難しく、ワイヤードのイヤフォンでは低域のみダイナミック型を採用したハイブリッド型も多い。そんな中FW1は、フルレンジシングルBAに挑戦している。もちろん完全ワイヤレスでBA採用は珍しいわけではなく、このジャンルの草分けとも言える「EARIN」や「YEVO1」もBAだった。逆に昨今は低音重視の方向からダイナミック型が増えており、今どき珍しい原点回帰と言えるかもしれない。

ボディはBA採用ということもありかなり小型で、大粒の黒豆程度。左右対称のシンプルな形状で、ボディ表面がタッチセンサーになっている。

充電中もケース内にあまり埋まらないので取り出しやすい

コーデックはSBC、AAC、aptXで、TrueWireless Stereo Plusに対応。この小ささにも関わらず連続再生時間は7時間で、さすがBAは効率がいい。ケースと合わせて最長21時間の再生が可能。なお本機にはアプリによるコントロールはなく、本体のみのシンプル動作である。

サウンドはというと、BA特有の力むことなく素直に出る中高域が魅力だ。低域をカバーするため、総輸入元のエミライでは普段よりも1サイズ小さいイヤーチップを装着することを推奨している。その方がより耳の奥まで音導管が入るからだろう。ただ一回り小さいことには変わりないので、長時間の装着ではだんだん緩んで抜けてくることがある。

イーグルスの「No more walks in the wood」では、冒頭のきらびやかなギターのアルペジオからコーラスワークまで、抜けるような中高域が楽しめる。装着が耳奥まできちんとハマれば低域もしっかり感じられる。

ノイズキャンセリングはないのである意味「普通のイヤフォン」なのだが、昨今は通勤も少なくなっているようだ。家で普段使いで使うイヤフォンとしては、コストパフォーマンスは高い。

総論

価格帯はバラバラだが、そのメーカーとしては「初もの」を集めてみた格好である。さすがに4モデルをいっぺんにレビューするとものすごい文字数になってしまって読者も読むのが大変だっただろうが、書く方も大変なのである。3モデルにすればよかったと後悔したが、いやどれも個性のある面白いイヤフォンだった。

ケースは小さい方が持ち歩きやすい面はあるだろうが、昨今はそれほど外出もしなくなっているので、あまりそこにはこだわらなくていいのではないか。むしろリモートワークで以前よりイヤフォンをしている時間が延びているので、本体の連続再生時間は重要な要素になってくるのかなという気がする。

完全ワイヤレスも、最初の1個を選ぶという時期は過ぎ、2個目3個目を選ぶタイミングだろう。1個だけで全フィールド勝負ではなく、音質、装着感、持続時間など、利用シーンごとに適合する特徴で選ぶ時代になったと言える。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。