小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第965回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ウッドコーン初! ビクターの約6万円一体型ミニコンポ「EX-D6」を聴く

12月4日から発売が開始されたVictor「EX-D6」

巣ごもり需要でオーディオ復権?!

今年1月から始まったコロナ騒動は未だ収束の兆しが見えず、我々の生活を大きく変えた。出勤しない、できるだけ外出しないという生活が当たり前になり、家庭内でいかにストレスを溜めずに生きていけるかを追求するようになってきた。

巣ごもり需要として顕著な動きを見せたのが、楽器とオーディオではないだろうか。これまで忙しくて練習するヒマがなかった人も、もう一度楽器始めてみるか、と腰を上げるようになった。またオーディオもこれまではモバイル・ポータブル需要のイヤフォン・ヘッドフォンが中心だった消費が、家庭内で楽しむためのスピーカー製品にも注目が集まってきた。スマートスピーカーも、コンパクトさより音質重視となり、2台買ってステレオペアで楽しむ使い方も、「特殊」だとは見られなくなってきた。

そんな中、「ウッドコーン」のスピーカーをシリーズで展開するJVCから、スピーカーとアンプ・チューナー部などが一体化したミニコンポ「EX-D6」が12月4日から発売開始された。店頭予想価格は6万円前後だが、すでに6万円以下で販売しているネットショップでは在庫が払底し、2カ月待ちといった状況になっている。

ウッドコーンが製品化されたのが2003年の事で、以降順調に製品ラインナップを積み重ねてきたが、昨年15周年を記念してVictorブランドを復活。EX-D6もJVCではなく、Victorブランドの製品となっている。もちろん単なる懐古趣味ではなく、機能的にもハイレゾやBluetooth送受信対応など、最新機能を搭載した意欲作だ。

セパレート型ミニコンポは、スピーカーの配置に自由度があるものの、左右を本当にバランスよく配置するのはなかなか難しいものだ。段差が付いてしまったり、設置場所の材質が左右違うなどで音像がズレたりする。一方オールインワン型なら左右がキッチリ繋がっているので、設計通りの音を手軽に楽しめる。

いつかはウッドコーンを聴いてみたいと思っていても、なかなか手が出せなかった方も多いだろう。オールインワンになった本機は、そういう方にピッタリの1台となっている。早速試してみよう。

十分な容積を確保したエンクロージャ

まずボディだが、450×290×136mm(幅×奥行き×高さ)の箱型。ミニコンポとしてはかなり奥行きがあるほうだ。元々ウッドコーン採用スピーカーは、形成の都合上、大口径のコーンを作るのが難しいので、正面から見ると小さいが奥行きが長いエンクロージャ設計となっている。一体型の本機も、それに準じた奥行きという事だろう。

奥行きが長いボディ
スピーカーグリルは引っぱれば外れる構造

天板にはオーディオファンには懐かしい“HIS MASTER’S VOICE”のVictorロゴがプリントされている。蓄音機に耳を傾けるワンちゃんの名前が“ビクター君”だと思っている方も多いが、ワンちゃんの名前は“ニッパー”である。これだけ天面が広いとつい上に何かモノを置きたくなるところだが、このロゴは今となっては希少である。なので、なるべく隠れないように設置したいところである。

天板に往年のロゴが復活

スピーカー口径はウッドコーンとしては標準の8.5cmフルレンジ。長く音導管を伸ばし、背面から放出するバスレフで設計されている。内部構造としては、磁気回路部の不要振動を吸収するためのウッドブロックや、エンクロージャ内で音を拡散させるための反射板などを実装し、音像が小さくまとまりがちな一体型のデメリットを払拭している。アンプの最大出力は20W+20Wで、サイズ的には十分だろう。

サウンドの要となる8.5cmウッドコーン
バスレフポートは背面

ボディは音響特性に優れたMDFで、表面は塗装や突き板ではなく、壁紙処理のように見える。濃いブラウンの木目調で、スピーカーの木目と相まってインテリア感が強い見た目となっている。

再生可能なソースは、音楽CDドライブとAM・FMラジオチューナーを内蔵。外部入力はアナログRCAステレオと光デジタル入力を備え、ハイレゾ再生にも対応する。USBメモリーからの再生はWAV/FLAC(最大192kHz/24bit)、MP3、WMA。Bluetooth再生(受信)の対応コーデックはSBC、AAC、aptX、aptX HD、aptX LL。

センターに薄型CDドライブを装備

USBメモリー内に、ラジオやCDの録音もできる。コーデックはMP3のみで、ビットレートは128kbpsと192bpsが選択できる。

正面のフロントパネル部

背面にはヘッドフォン出力を備えているが、Bluetooth送信も可能だ。深夜ラジオ番組をBluetoothイヤフォンで聴くということもできる。ただしコーデックはSBCのみである。

背面の端子類

リモコンも見ておこう。本体パネルでも各ソースを聴く操作はできるが、リモコンはショートカット的存在となっている。本体には設定画面みたいなところが何もないので、イコライザー設定、USBへの録音、Bluetooth機器とのペアリングなどは、リモコンからのみ利用できる。

付属リモコン

期待どおりのドライなサウンド

読者が一番気になるのは、ウッドコーンの音質だろう。音質確認として、ハイレゾソースをアナログ端子経由で鳴らしてみた。

サウンド的には非常にドライというか、高音がカリッとしつつ、角が立たないサウンドである。ウエストコースト系だったりアコースティック楽器がよく合う音だ。金属音があまりうるさくないので、どちらかと言えば優しい音質と言える。

低音は口径が小さいのでそれほどドシドシ出る感じではないが、イコライザがあるので足りなければ少し足してやる感じで十分である。背面へのバスレフなので、本機の背面は壁から20cmぐらいは空けたいところだ。あまり壁に寄せすぎると音抜けが詰まる感じがある。筆者の好みでは、Treble -1、Bass +3ぐらいがちょうどいい感じだが、これは設置場所にもよるだろう。リスニングしたのはフローリング床、コンクリート壁の洋室だが、和室なら高音はそのままでいいはずである。

特筆すべきは、ステレオイメージの広さである。スピーカーの距離は中心から中心で約32cmだが、ステレオイメージは幅1mぐらいある。セパレーションがいいからだろうが、やはり設計者のチューニング通りに鳴るワンボックスタイプは安心して聴ける。ニアフィールドではなく、適度に離れた距離で聴きたいシステムだ。

昨今は音楽ソースとして、ネットからのストリーミングサービスが主流になっている。本機は多くのBluetoothコーデックが受けられるので、スマートフォンとの相性も問題ない。ソニーのストリーミングウォークマンNW-A100シリーズと接続したところ、aptX HDで接続されるのが確認できた。ただ、EX-D6側では受信コーデックを確認するすべがないので、再生機側で確認するのみである。

一部の人にとってありがたいのは、ラジオだろう。自家用車通勤のお伴としていつも同じ時間にラジオを聴く習慣があった方も、テレワークで出勤しなくてよくなると、家でラジオを聴く手段がなくて困るわけだ。筆者宅はマンションで共聴設備があるので、テレビアンテナを背面に繋ぐだけでFMが受信できる。

簡易アンテナが付属するが、これで室内からFMを受信するのは難しいだろう。45年ぐらい前のラジカセ全盛時代でも、ロッドアンテナを伸ばしても部屋奥からは受信できず、窓際まで持ってこないと受信できなかった。時代は変わっても理屈は同じである。

付属のFM用簡易アンテナ

一方AMラジオは、音質さえ気にしなければ簡易アンテナでも室内から受信できる。同じアンテナでも、時間帯によって入り具合も変わる。懐かしい音質に、受験生時代を思い出す。

付属のAM用簡易アンテナ

ラジオは、USBメモリに録音もできる。USBメモリを前面端子に突っ込んで、リモコンで録音ボタンを押すだけだ。加えてタイマーによる録音もできる。その際に前もって本体の時間設定をしておかなければならないのだが、本体のコンセントを抜くと内部時計もリセットされてしまうので、あちこち移動して聴きたい方は要注意である。

スマートフォンに直接録音できたら面白いのに、と思って試してみたが、iPhoneもAndoridもメディアとしてマウントできず、録音できなかった。USB型カードリーダーにMicroSDを差し込んで録音すれば、Androidなら聴けるかもしれない。

同様にCDも録音できるが、リッピングではなく等速の再生同時録音となる。今となってはあまりメリットがないかもしれない。

総論

「ステレオ」と言っても今の方は何の事かわからないと思うが、「ステレオ」はかつて、オーディオメディアを全部再生できる装置を指した言葉である。テレビがお茶の間を占領しても、ステレオは居間の中心に鎮座する、オールインワンの巨大な箱だった。

それが各機能をバラバラに集めてカスタマイズできるようにしたのが、コンポーネントステレオというシステムだったのだ。単一メーカーで揃えるのもよし、スピーカーやアンプを別々のメーカーから買って組み上げるもよし。所詮はアナログケーブルで繋いでいくだけなので、自作PCより簡単である。ただ単価が高いので、お金がかかる趣味であった。

それでは子供が楽しめるものではない。子供でも気軽に「ステレオ」を楽しめる装置として普及したのが、「ラジカセ」であった。今から45年ぐらい前の話である。

本機は機能的に見ればCDラジカセみたいに見えるのだが、ちゃんとしたコンポーネントステレオの音がするオールインワンコンポである。かといって昔の音質ではなく、最先端、最上位の音質を備えているところがポイントだ。

個人的に残念なのは、ボリュームがアップダウンのボタンになったところだ。そこはこだわって、回転式の大きなボリュームにして欲しかった。またリモコン操作できるとはいえ本体ディスプレイで表現できる事は限られているので、せっかくBluetoothでスマホと繋がるのならば、UIに優れたリモコンアプリがあってもよかっただろう。特にラジオのチューニングやタイマー録音などは、今どきリモコンでパラメータ1つ1つ十字キーで設定は、いかにもまどろっこしい。そこはレガシーでなくてもいい部分だ。

6万円はちょっとゼイタクではあるが、かつての「コンポーネントステレオ」を知っている人は、家庭内にちゃんとしたオーディオ装置がなくなっちゃったな、と考える人も多いだろう。その選択肢として、本機は最有力候補にのぼる製品である。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。