小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第966回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

ソニー「α」から登場したCinema Lineの秘蔵っ子!?「FX6」

Inter BEE 2020プレスカンファレンスでFX6を紹介するソニービジネスソリューション株式会社 古田了嗣代表取締役社長

Cinema Lineの秘蔵っ子!?

ソニーのデジタルシネマ映像制作用カメラのラインナップを、Cinema Lineと呼ぶ。過去にはCineAlta系列から登場した「VENICE」、XDCAM系列から登場した「PXW-FX9」が存在したが、11月18日から開催された国際放送機器展「Inter BEE 2020」のタイミングで、α系列から登場した「FX6」が発表された。Cinema Lineとしては最も小型のカメラということになる。

サイズ感としてはプロフェッショナル向け4KカメラPXW-FS5およびFS5 IIと同系列ということになるが、中身のテクノロジーは10月に発売されたα7S IIIを継承している。その点では、Cinema Lineでもありながら機動力撮影のFS5シリーズの後継機でもあり、α7S IIIの流れを汲むという、三つ巴のポジションにあるカメラということになる。

発売は12月11日で、価格はボディのみで73万円前後。「SEL24105G」がセットになったレンズキットモデルが87万円前後となっている。今回はこのレンズキットモデルをお借りすることができた。

「FX6」のレンズキットモデル

αシリーズでシネマライクな4K動画が撮影できるようになって久しいが、その技術で作られた本格シネマカメラを、早速テストしてみよう。

スペック的にはα7S IIIだが……

本機の特徴は、いわゆる「カムコーダ」のような一体型ではなく、ボディ本体に必要なアクセサリをくっつけてカムコーダになるというところである。ボディ単体は単なる四角い箱で、レンズを付ければ最小限これでも動く。車載やドローン搭載などは、この最低限パターンで行くわけだ。本体のみの重量は890g。

各パーツを組み立てて一体にする
ボディだけなら片手で軽く持てる重量
グリップ側に大きな排気口

それにハンドルやグリップ、モニターを付けると、いわゆるカムコーダタイプの撮影が可能になる。モニターも前方左側だけでなく、グリップやボディの後部、左右どちらにも付けられるなど、撮影スタイルに応じて様々なパターンが可能だ。

合体するとカムコーダに
モニタの取り付け位置は自由度が高い

秀逸なのは、グリップの形状であろう。デジタル一眼のグリップしか握ったことがない人も多いと思うが、非常にオーガニックな形状で握りやすく、力が入りやすい。また角度も自由に変えられるので、手持ちローアングルやハイアングルの際にも手首に負担がかからない。ボディのグリップ側は排気口が大きく空けられており、長時間撮影にも十分対応できる作りだ。

握りやすいグリップ
グリップを回転させてローアングル撮影も可能

マウントはEマウントで、α用レンズ57本が自由に選択できる。センサーはもちろん裏面照射型CMOSセンサー Exmor Rの35mmフルサイズで、総画素数約1,290万画素、有効画素数約1,026万画素。627点の像面位相差AFとなっている。

αレンズが使えるEマウントを採用

αのようなデジタル一眼と大きく違うのは、NDフィルタが内蔵されているところだ。通常は3段階ぐらいのロータリーフィルタが内蔵されるところだが、本機にはソニーが開発した「バリアブルNDフィルタ」が搭載されている。

側面の大きなダイヤルがバリアブルND

このバリアブルNDフィルタ、液晶パネルの透過率を可変させることで、無段階にND調整ができる。公には2014年のXDCAM「PXW-X180」で搭載されたというのが通説だが、実はその2年前のコンパクトデジカメ「DSC-TX300V」でも機構的には同じものが搭載されている。ただこのときは完全バリアブルではなく、ある程度の決め打ちで動いていたので、気がつかない人が多かっただろう。

近年でバリアブルND搭載機というと、PXW-FS5 IIやPXW-FS7 IIがある、やはりハンディもしくはショルダー型の機動性重視モデルに搭載される傾向がある。

画像処理エンジンはα7S IIIと同じBIONZ XR。記録コーデックはXAVC-IおよびXAVC-Lで、解像度は最高でDCI 4Kの4,096×2,160となる。

カメラ出力としてはHDMIと12G SDI。タイムコードは入出力切替で両方に対応する。USBはType-CとMicro-Bの2つ。ハンドル部にはXLR音声入力が2系統あり、マイク他LINE入力に対応する。ハンドル部には内蔵マイクもあり、外部入力と合わせて4chの収録が可能だ。

出力はHDMIと12G SDIに対応

記録メディアはデュアルスロットになっており、両方ともCFexpress Type A メモリーカードとSDXCメモリーカードに対応する。デュアル記録やリレー記録も可能だ。

記録はCFexpress Type AとSDXC両対応のデュアルスロット

セットレンズの「SEL24105G」は、フルサイズ24mm~105mm/F4通しの約4.3倍光学ズームレンズ。レンズ内手ブレ補正には対応するが、電動ズームレンズではないので、カメラ側のロッカー操作では動作しない。

セットレンズの「SEL24105G」

2通りの撮影が可能

撮影の前に、まずは本機特有のUIを把握しておく必要がある。今や動画カメラは多くの解像度やフレームレートに対応しており、把握するだけでも大変なのだが、本機はシネマカメラとして使いやすいよう、専用モードと汎用性の高いカスタムモードの2つを搭載している。

撮影モードはCine EIとカスタムに分かれる

Cine EIを選択するとシネマ専用モードとなり、フレームレートで24pを選択すると解像度は自動的に4,096×2,160にセットされるといった作りになっている。解像度やフレームレートを自由に設定したい場合は、カスタムモードを選択することになる。今回はシネマ撮影がウリということなので、Cine EIモードのS-Log3、S-Gamut3.Cine、XAVC-I 4:2:2 10bitで撮影し、あとでカラーグレーディング処理をしている。

周波数を24にセットすると、ビデオフォーマットは自動的に4096×2160にセットされる

操作メニューは、2つのUIを搭載している。メニューボタンを長押しするとフルメニューとなり、すべてのメニューにアクセスできる。一方メニューボタンの短押しでは、10ページにまとめられたショートカットメニューが出てくる。こちらはモニターのタッチで素早く設定変更できるようになっており、αでいうところのFnキーメニューと考え方としては近いものがある。

フルメニューの音声入力設定
タッチメニューの音声入力設定。同じ設定でも一覧性がかなり上がる

まずは手ブレ補正からテストしてみよう。α7S IIIにはボディ内光学5軸手ブレ補正があるので、かなりの補正力があった。だが本機にはボディ内手ブレ補正がないため、レンズ側のみの補正となる。補正はそれほど強くなく、ハンディでブレなく撮影するには、かなりのテクニックを要する。

手ブレ補正はレンズのみ

ちなみに本機は手ブレ情報をクリップのメタデータに格納しており、ソニーが提供するCATALYST BROWSEやCATALYST PREPAREを使用して高速に補正映像を作れる事になっている。ただ筆者がテストした限りでは、クリップに十分なメタデータがないとして処理できなかった。

CATALYST BROWSEとCATALYST PREPAREの両方をテストしたが、手ブレ補正の処理はできなかった

AFについては、627点像面位相差AFと強力だ。αほど多彩なAF動作モードはないが、液晶パネルをタッチしフォーカス領域を設定する事は可能。ワイド側で被写界深度が深い場合は問題なくフォーカスが合うし、テレ端で深度が浅くなっても、フォーカスリングを回せばすぐマニュアルになるので、グリップにあるマグニファイ表示と組み合わせればそれほど不便はない。

また顔認識、瞳認識は搭載しており、フレーム内に顔が入ってくれば自動的に追従する。ただいつものようにテスト撮影した限りでは、「AF乗り移り感度」が「5」では顔認識はしているものの、フォーカスが追従しないという事が起こった。おそらく背景へ早めに乗り移ってしまうのだろう。「3」ぐらいに設定すると、粘って最後まで顔にフォーカスを追従させる。

AF乗り移り感度で顔の追従性が変わる
前半2カットはAF乗り移り感度3、3カット目はAF乗り移り感度5で撮影

感度設定は、αのようにISO感度が完全にバリアブルで選択できるようにはなっておらず、「Base ISO」を選択するようになっている。このベース感度を基準に、ISO感度の選択範囲が決まるという、2段階仕様となっている。昼間はベースをISO 800に、夜間はISO 12800に設定するわけだ。ベースをISO 800に設定すると感度は200EIから3200EIまで、ISO 12800に設定すると3200EIから51200EIまで可変となる。なお動作モードがCine EIだと、感度の単位がISOではなくExposure Indexとなる。

Base ISOの設定で使える感度の範囲が決まる

なお本機は、センサー感度で「オート」モードがなく、3段階でプリセットするスタイルとなる。αなどではシャッタースピードと絞りを固定してISO感度で露出を追従させるという方法が取れるが、本機ではそれができないことになる。

そのかわり、バリアブルNDをオートにすると、絞り、シャッタースピード、ISO感度を固定しても露出を自動制御できる。NDの可変範囲は1/4~1/128だ。本機は非常に感度の高いセンサーを搭載しているが、特段の用意をしなくても日中の浜辺でシャッタースピードを落としつつ、F4解放で撮影できる。

今回のサンプルはカメラ側のノイズサプレッションをOFFで撮影しており、DaVinci Resolve Studioでカラーグレーディングしているが、 4:2:2 10bitで収録してあるため、可変範囲がかなり広く取れる。

人肌の発色も綺麗
微妙な夕暮れのトーンも綺麗に再現
S-Log3/S-Gamut3.CineからRec.709にグレーディングしたサンプル

昼間の撮影ではモニタの輝度を最大にしても見えづらいので、別途フードなどを用意した方がいいだろう。

強みを発揮する夜間撮影

α7S IIIのハイスピード撮影では、4Kながら120pで撮影でき、AFも効くのがポイントであった。ただし解像度は3,840×2,160である。一方本機のCine EIモードでは解像度が4,096×2160に固定されるが、その解像度だとハイスピードの最大フレームレートは60pまで落ちてしまう。24p再生で2.5倍速となり、それが限界となる。またAFも効かなくなるので、DCI 4Kのハイスピード撮影にはデメリットが多い。これはおそらくα7S IIIのセンサーと画像処理エンジンが、3,840×2,160を最大値として設計されたからだろう。

DCI 4K撮影では60Pが最大値

α7S IIIの最大の特徴は、高感度センサーの能力を最大限発揮する夜間撮影にあった。同じセンサーとエンジンと搭載する本機はどうだろうか。

ベース感度をISO 12800に設定し、51200EIで撮影してみた。α7S IIIと同じ場所で撮影してみたが、撮影感度としては同じという印象を持った。ただしこちらはLog撮影しており、モニタ表示はかなりセットアップが浮いた状態なので、画角などは非常に見やすかった。センサーも肉眼より高感度なので、目視では確認できなかったものもちゃんと見える。あとで見たときに予想外のものが写り込んでいたというミスも防げる。

夜間撮影能力はα7S IIIと同等
オリオン座まではっきり写る
夜間撮影のサンプル

総論

中身的にはα7S IIIという話だったが、実際に使ってみると基幹部材は確かにα7S IIIだが、メニュー構成やハードとしての作り込みは完全にシネマカメラである。同じようには写るが、そこへ至る撮影アプローチが全く異なるカメラだ。従って「α7S IIIのプロ版」という認識は全く当てはまらない。Netflixの認定済みカメラリストに追加されたことからも、新世代のデジタルシネマカメラとして、お墨付きが付いた格好だ。

これは逆に、全然違うプロダクトライン同士のコラボでよくここまでちゃんとしたシネマカメラにまとめたな、という印象を強くした。前の平井社長時代から「One SONY」をスローガンに事業部の垣根を取り払う取り組みを行なってきたが、吉田社長も2019年に大幅な事業部統合を行ない、エレクトロニクス部門もプロフェッショナル部門も同じエレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)事業にまとめられた。こうした強みがFX6を生んだと言えるだろう。

撮影モードもシネマ専用と汎用モードにわけられているので 、映画だけでなく機動性を活かした番組制作やドキュメンタリー撮影にも対応できるカメラだ。特にAFの強さは、突発事項が多いバラエティのロケなどでも重宝されるのではないだろうか。ただショルダータイプではないので、音声周りをあんまり重装備にすると、ハンディ撮影が辛くなるというデメリットは出てくる。

これまでシネマカメラというとVENICEの独壇場だった印象だが、FX6はVENICEでは撮れない絵が撮れるカメラだ。小さいからハンディで、というだけではない魅力が詰まったカメラに仕上がっている。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。