鳥居一豊の「良作×良品」

第79回

ウッドコーン15周年! ビクター超こだわりコンポ「EX-HR99」で「ヤマト2202 OST2」

今回取り上げるのは、ビクターのミニコンポ「EX-HR99」(実売13万円前後)。最近のビクターブランドは、オルゴールや音場特性カスタムサービスの「WiZMUSIC」の提供をしてきた。昨年発売されたイヤフォン「HA-FW10000」、ヘッドフォンの「HA-WM90-B」もある。EX-HR99は、新たに復活したビクターブランドとしては初のミニコンポスタイルのオーディオシステムだ。ウッドコーンオーディオ発売15周年記念モデルとしては、下位モデルのEX-HR55(実売85,000円前後)もある。

ビクターのウッドコーンオーディオシステム「EX-HR99」

ウッドコーンとは、今やJVCのオーディオ製品でも数多く採用されているが、木材を振動板の素材として使うもの。ウッドコーンスピーカーを組み合わせたミニコンポ、ヘッドフォンやイヤフォンも登場している。

木材はさまざまな楽器の素材として使われるが、この理由は響きの良さと言えるだろう。現代のスピーカーでもエンクロージャーに木が使われることは多い。ウッドコーンはそれを推し進めて、スピーカーユニットの振動板までも木材としてしまったわけだ。実際、木材は振動板の素材としては理想的な特性を持っており、速い伝播速度と適度な内部損失を兼ね備えている。ウッドコーンの素材となる樺材はさまざまな木材の中でもより優れた特性を持っているという。

良いことづくめのようだが、では何故ウッドコーンのスピーカーがもっと大量に存在しないのか? それは成型が難しいためだ。木は変形しやすく割れやすい。これを振動板に加工するのが至難の業だった。それを可能にしたアイデアが「日本酒を含浸させて柔軟性を引き出す」というもの。発想から20年以上を経て、ようやく実用化できたのだ。

世界初のウッドコーンスピーカーを採用したミニコンポ「EX-A1」が2003年に誕生。その後も振動板の大口径化、ハイレゾ音源への対応など、着々と進化・熟成を進め、ビクターブランドの「EX-HR99」、「EX-HR55」へと結実した。

9cmウッドコーンを採用したフルレンジ構成の、コンパクトなミニコンポ

まずは製品を見てみよう。外観は、チェリーの無垢材を使ったエンクロージャーを持つスピーカーと、サイドウッドを備えたCDレシーバー部の本体で構成される。コンパクトなミニコンポのスタイルは、ここ最近のウッドコーンを採用したミニコンポとほぼ同じ構成だ。目を引くのは、CDレシーバー部の天板に蓄音機を聴く犬のマークが備わっているところ。正面パネルのブランドロゴも「ビクター」だ。

CDレシーバー部の天板には、有名な“HIS MASTERS VOICE”のイラストが描かれたバッチが備わる
スピーカーとCDレシーバーを並べたところ。フルレンジスピーカーがコンパクトなこともあり、非常に小柄な印象だ
スピーカーの保護ネットを外した状態。木目が美しいウッドコーンには、チェリー材の薄型シートを十字に装着した異方性振動板としている。
CDレシーバー部の正面パネル。ボリュームツマミのほかは、小さめのボタンを採用しており、すっきりとした見た目だ

光学ドライブはCD専用で、ワイドFM対応のFMチューナーを内蔵。アナログ入力×2、アナログ出力×1、サブウーファー出力×1を備えるほか、デジタル入力も2系統(光×1、同軸×1)備える。これに加えて、前面にUSB端子を搭載。USBメモリーに保存したハイレゾ音源などの再生が可能。ハイレゾ音源はリニアPCMで最大192kHz、MP3やAACは最大48kHzに対応する。USB接続メモリー再生だけでなく、CDやラジオ、外部入力の音声をMP3(128kbps/192kbps)で録音も可能だ。さらに、Bluetoothも内蔵し、スマホなどの音楽をワイヤレスで再生することも可能。コーデックはSBC、AAC、aptXに対応している。

CDプレーヤーのトレイ。フロントローディング方式となっている
CDレシーバー部を横から見たところ。厚みのある木製のサイドパネルが装着されている。最近のオーディオ機器では珍しい
CDレシーバー部の背面。アナログ入出力、サブウーファー出力、デジタル入力、アンテナ端子などがある。スピーカー端子はバナナプラグ対応。上側が左ch用、下側が右ch用と配置が独特なのでつなぎ間違えに注意

アンプは独自の高音質デジタルアンプ「DEUS」を採用。デジタルのフィードバックとアナログのフィードバックを使用することにより、広帯域特性を実現。SN比や歪み率、高域の再生特性を改善したという。背面などのネジに銅メッキネジを使うなど、CDレシーバー部もなかなかこだわった作りになっていることがわかる。

底面を見るとちょっと驚く。無垢の真鍮削り出しのインシュレーターが3点支持となっているのも珍しいし、底面の大部分を9mm厚のアークベースで補強している。手前側のネジは真鍮ニッケルメッキのワッシャーと銅メッキネジの組み合わせ。隣のネジは銅ワッシャーに銅メッキネジだ。アンプなどを内蔵するCDレシーバー部はシャーシの剛性が重要になるが、単に剛性を高めるだけでなく、さまざまな素材を吟味して振動のコントロールを行なっていることがわかる。インシュレーターに組み合わされたゴム系のクッションが、フロント側の片方だけ形状が違うのも、音質を検討した結果だと思われる。

天面の上部には、Bluetooth、CD、デジタルアンプ「DEUS」のロゴがある
CDレシーバー部の底面。9mm厚のアークベースで補強されている。フロント側のインシュレーターのひとつがゴム系クッションの形状が異なっていることに注目

ウッドコーンのユニットは、チェリー材の薄型シートを十字に装着した異方性振動板を採用。振動を制御するための内部の作り込みが凄まじい。まずドライバーユニットには、音質チューニングのためのアルミニウムショートリングや銅キャップを使っているが、銅キャップには木片の吸音材を装着している。ドライバーユニット自体にも、後部にメイプル材のウッドブロックを装着して、振動の吸収と低音再生能力の向上を狙っている。装着位置は1mm単位で調整しているようだ。

スピーカー部。チェリーの無垢材を組み合わせた構造で、接合部分に適度な隙間が空いているので特徴的。コンパクトなスピーカーとは思えないこだわった作りだ
振動板をクローズアップ。振動板と中央のセンターキャップは木目が垂直になるようにしている。十字の木製シートは放射状に木目が合わせてある
スピーカーを横から見たところ。奥行きはやや長めで、低音再生のための容積を確保している
スピーカーの背面。上側にあるバスレフポートは厚みのあるフェルトの吸音材を備えている。下側にあるのがダブルナット構造のスピーカー端子
ユニットの構造
後部にメイプル材のウッドブロックを装着

エンクロージャー内部は、楽器の構造をお手本としたチェリーの響棒を配置。このほかに竹の響板をユニットの下側に配置している。吸音材はメイプルの木製チップを使用するなど、さまざまな種類の木材を組み合わせて、音質の調整を行なっている。

こうした響きのコントロールは、これまでのウッドコーンスピーカーでも採り入れられていたが、最新モデルのEX-HR99となると、これまでの経験やノウハウの集大成という感じでさまざまな工夫が施されているのがわかる。なかでも驚くのが、背面のスピーカー端子を固定するネジのうち、1本だけ異なる素材のネジを使っていること。これにより音の輪郭が鮮明になるなどの効果があるという。

スピーカー端子のクローズアップ。スピーカー端子部を固定するネジはニッケルメッキの鉄製だが、左上のネジだけはステンレスネジとし、音質をコントロールしている

EX-HR99は大量生産の製品ではあるが、4本のネジの1本だけ素材を変更するといったことは、作業の工数が増え、現場は大変になる。EX-HR99はビクタースタジオの監修による音質チューニングが行なわれたモデルだが、ネジの素材にまでこだわった作りはまさしく大量生産品の枠を超えているとさえ思う。高価なハイエンドモデルならば、このような徹底した素材の吟味や入念なチューニングは当然だが、10万円前半の価格の製品でここまでこだわるのは珍しい。こうした姿勢からも、単なる工業製品ではなく、楽器に近い物として作っている気持ちが伝わってくる。

組み合わせる良作は「宇宙戦艦ヤマト2202 OST2」

CDレシーバー部が4.3kg、スピーカーが1本あたり2.2kgと、サイズの割にはやや重めだが、設置などが困難になるほどではなく、設置や接続などはスムーズに行なえた。試聴では、いつもの通りにテレビ用のAVラックを使って配置している。

再生する音楽は、「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち オリジナル・サウンドトラック vol.02」(以下、ヤマト2202 OST2)。3月上旬には最終章も上映され、しかもTV放映では執筆時点では最終の2話が放送されようというタイミングだ。筆者は最終章が公開されてすぐに見に行き、劇場で先行発売されているBD版も入手しているが、ここでの本題はサウンドトラックなので、本編、特に結末にはあまり触れない。

「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち オリジナル・サウンドトラック vol.02」のジャケットアート。ハイレゾ版でも画像データが付属する

TVシリーズなどを視聴している人ならばご存じの通り、「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」、「宇宙戦艦ヤマト2」を原作とした作品で、現代的な解釈によって再構築された物語は、異なる種族との対話や対立をはじめ、なかなかに重たい内容に仕上がっている。視聴している人はそれぞれに色々な感想を抱いていると思うが、「ヤマトの音楽は最高だぜ!」という点では多くの人が賛同してもらえるのではないかと思う。

オリジナル・サウンドトラックは宮川泰のオリジナル・スコアを元に、息子の宮川彬良が新たに編曲している。オリジナルの魅力をきちんと継承しつつ、より完成度を高めており、どの曲も聴き応え十分。Vol.1もVol.2もハイレゾ版を所有しているが、Vol.2はテレサとの邂逅やデスラーの復活、いよいよ全貌をみせる帝星ガトランティスの白色彗星などなど、いやがおうにも盛り上がる楽曲がたっぷりと収録(なんと全71曲)され、新録音となる楽曲もかなり多い。ハイレゾ版とはいえ、音声はWAV、FLACともに48kHz/24bitではあるが、音質は十分に優秀で質の高いオーディオ機器で聴くと、脳裏に映像が鮮やかに浮かんでくる。

なにはともあれ、試聴をはじめよう。まずは、BD版に収録されている主題歌を聴いてみよう。残念ながらオープニング、エンディングの楽曲はサウンドトラックには収録されていない。どの楽曲も素晴らしいので、ぜひともこちらのハイレゾ配信にも期待したいところ。聴いたのは、TVシリーズ後半のオープニングで、ささきいさおの歌唱入りのバージョン(新録音)だ。

なぜ、わざわざこの曲を聴くかというと、オリジナル版と比べるとテンポが速い。ヤマトのオーケストラ・コンサートでの会話だったか、劇場上映の舞台挨拶だったかは忘れてしまったが、ささきいさお自身がテンポが速いということに言及している。曰く、コンサートなどで宮川泰さんがノッてくるとテンポが速くなるということだ。そんな熱いテンションで歌い上げる主題歌は、オリジナルとはひと味違う魅力がある。

EX-HR99で聴いてみると、年齢を感じさせない溌剌とした歌声が、厚みたっぷりに再現された。フルレンジスピーカーならではの定位の良さで、実体感豊かに音像が目の前に現れる。感心するのは、ぐっと音が前に出る音像型の鳴り方でありながら、音場のスムーズな広がりにもかなり良好ということ。音像と音場を高いレベルで両立した音は、10万円ほどの製品ではなかなか難しい。ハイテンポというだけでなく、熱のこもった歌唱や演奏を実に生々しく聴かせてくれた。

振動板の口径が9cmと、コンパクトなサイズの部類に入るシステムなので、スピーカーの間隔はあまり広げない方がいい。少し試してみたところ、1mくらいの間隔がスケール感も十分に得られるし、音像の実体感も出る。1.5mくらいに広げてしまうと、音像の実体感がやや希薄になるし、音場もやや漠然と広がっている感じになる。間隔を狭めて音のエネルギーをギュッと集中させると、音像の実体感と音場の奥行きや広がりのバランスが良くなる。逆にスピーカーを1m以下の狭い間隔にしてしまうと、音像は立つが音場の広がりが乏しくなり、せっかくの音場感の良さが感じにくくなる。部屋によっても異なると思うので、ユーザーはいろいろと試してみるといいだろう。試聴では、スピーカーの間隔を1mほどにして、スピーカーも内振りとした。

いよいよ「宇宙戦艦ヤマト2202 OST2」を聴こう。USBメモリーに保存したハイレゾ版の音源をUSBスロットにセットし、セレクターでUSBを選択すれば再生が可能。楽曲の選択や再生操作は、リモコンやCDレシーバー部の前面にある操作ボタンで行なえる。ちょっと残念なのは、CDレシーバー部のディスプレイが1行表示で日本語表示に対応しておらず、検索性があまり良くないこと。Bluetooth機能を備えるので、スマホ用の操作アプリがあってもいいと感じた。

再生操作ボタン。CD再生やUSBメモリー再生の基本操作のほか、FMチューナーの選局なども可能

まずは6曲目の「進撃」。その名の通り、ヤマトやアンドロメダ艦隊などの出撃の場面で使われる曲だ。打楽器やドラムスのリズムが力強く鳴り、そこに雄壮なメロディーが重なる。オーケストラの楽器の音色の再現は実に自然。低音は決して大型ウーファーのような音域までは伸びてはないが、コンパクトなサイズとしてはなかなか低音感がある。エネルギーたっぷりの厚みのある音で、立ち上がりの速さも優れる。重量感や力強さもしっかりと出るので小粒な印象にはならない。それゆえ、雄壮なメロディーは実に男らしく力強い再現となる。

一転して、7曲目の「テレサとの邂逅」となると、弦楽器やハープのしなやかで美しいメロディーが印象的だ。優しく女性的なニュアンスがしっかりと出る。各楽器の美しい響きも絶品だが、こうした曲の持つ情感が豊かに描き出されるのも本機の大きな魅力と言えるだろう。

15曲目は「白色彗星テーマ」(高音+低音)。この曲はパイプオルガンを使って演奏したもので、低音で有名なメロディーを鳴らし、高音は特徴的な和音のコードを鳴らしている。パイプオルガンは機械仕掛けでパイプに空気を送り込んで音を出す。だから、一定の音を長く持続させるようなことも可能だ。特にエネルギーの大きな低音の持続音はスピーカーにもアンプにも負担が大きく、ヤワなオーディオ機器だと途端に馬脚を現す。EX-HR99は低音を含めて、なかなか馬力のある音を出し、低音感もあるし、力不足で非力になることもない。このあたりの力強さはなかなかのもの。

白色彗星のテーマはサントラの中にもさまざまなバリエーションがあるが、61曲目には「白色彗星テーマ(重低音)」という曲もある。これはさらにオクターブを下げた低音のメロディーのみの演奏で、大型スピーカーでは地をはうような低音が出る。EX-HR99はさすがに地をはうような低音は出ないものの、低音感としてはなかなかのもの。エネルギー感もしっかりと出て、白色彗星の威圧感や圧倒的な力を実感させてくれる。

このあたりの曲で、音量による聴こえ方の違いを試してみた。音量はディスプレイの表示では最大値は50。比較的近い位置で聴いていることもあり、試聴では38くらいの音量で聴いている。このくらいの大音量となると、低域の力感もしっかりと出て満足度は高い。少しずつボリュームを絞っていくと30くらいまでは十分に低音域の再現や力強さを伴った再生ができる。

ボリュームを30から20まで絞っていくと、スケール感が少しずつ小さくなるが、中高域の音色が痩せるようなことはない。低域は少々物足りなさもあるが一般的な家庭環境も含めてこのあたりが実用的な音量だろう。このあたりでも本機の音の美味しいところは十分に味わえるが、休日の昼間などには時々ボリュームを30以上にした音量も試してみてほしい。より力強い音が得られるのも事実だが、時々大きな音でしっかりと振動板を動かしてやるようにすると、音量を絞ったときでも振動板の動きがよくなり、低音の再現性を含めてサウンドの質が上がる。

ボリューム位置を20以下とすると、残念ながら個々の音色の厚みも不足し、せっかくの持ち味が感じにくくなる。音色の美しさなど美点はあるが、どうしてもBGM的なそっけない感じになる。睡眠前のリラックスしたい時間には合うと思うが、じっくりと音楽を楽しむならばもう少し音量を上げたくなる。

独自のデジタル高音質化技術、「K2テクノロジー」を試す。

18曲目は「銀河 メインテーマ~飛翔~」。戦闘の曲にしても、人間ドラマの曲にしても、重たいムードの多い曲が多いなかで、この曲は前向きで明るい希望に満ちた曲だ。船出を思わせる胸を熱くさせる曲で、聴いていて気持ちがいい。この曲で、高音質機能である「K2テクノロジー」を試してみた。K2テクノロジーは、デジタル音源の高周波数帯域や微小信号に独自の拡張処理を施し、オリジナルマスターに近い品質へと復元する独自技術だ。CDやハイレゾ音源の再生でも効果があるが、Bluetoothや圧縮音源で情報劣化が生じた音源の高音質化にも有効だ。

フロントパネル左側にあるUSB端子。上部には高音質機能の「K2」ボタンもある。

K2テクノロジーをオンにすると、弦楽器や管楽器などの中高域の音色がよりスムーズになり、音の艶も増してくる。ことさらに高音域を強調するという感じではなく、音色がより滑らかで自然な感触になる。もともと美しかった響きの余韻もよりクリアーになる。

20曲目の「沖田と古代」は、思い悩む古代が沖田を偲ぶ曲。もの悲しいメロディーの中にヤマトの主題歌のフレーズが挿入され、哀しさだけでなく、優しく背中を押すような勇気を与えてくれる曲だ。楽器の音色や響きの美しさは本機の魅力のひとつだが、単純に響きの美しいウッドコーンだから良い、木の響きが音に加味されるのが良いというわけではない。響きの良さを活かしつつも、徹底して不要な振動を制御することで、弦楽器や木管楽器、金管楽器といったオーケストラの楽器の音を実に鮮やかに描き分ける。この音色の多彩さは見事なものだ。

22曲目「果てしなき戦い」は、激しく、しかも悲愴な戦いが続く場面で使われる曲。地球に接近した白色彗星とその大艦隊と対峙するアンドロメダ艦隊の戦いが印象的だ。圧倒的な物量で迫るガトランティスに対し、アンドロメダ艦隊は決死の覚悟で戦いを挑む。そんな悲愴な思いがよく現れている。こうした曲も、実に情感豊かな表現だ。

K2テクノロジーの音は、オフからオンにしたときは案外大きな差を感じない。しばらくオンで聴いていて、オフにしてみると再生音から色気とか滑らかさが失われたと感じる。オンにすると見違えるように音が変わるというようなものではなく、調味料やスパイスをドバッと振りかけた感じではなく、隠し味を加えたような一見目立たない効き方だ。それだけに不自然な強調感もなく、積極的に使いたくなる。これ以降の試聴でも、K2テクノロジーは常時オンとしている。

このサウンドトラックは、ストーリーに沿って曲を構成しているわけではないが、その選曲はなかなかに絶妙だ。戦闘時の曲とストーリー部分の曲をうまく取り混ぜているので、聴いていて飽きない。こうしてヤマトの音楽だけを聴いていると、どれもこれも名曲ばかりで、聴けば聴くほど音楽的な面白さも深まる。これらの楽曲はヤマトの魅力の大きな要素だとわかる。

Bluetoothの音質もチェック

このままだと、ほとんどの曲について書いてしまいそうなので、USBメモリーでの再生はここまで。今度はソースをBluetoothに切り換えて聴いてみた。再生するプレーヤーはAstell&KernのA&Ultima SP1000を使い、aptX接続で聴いている。K2テクノロジーもオンのままだ。

36曲目の「地球を飛び立つヤマト(新録音)」を聴いた。この曲は一番有名なところでは、タイトル通りにイスカンダルへ向けてヤマトが地球から発進する場面で使われた曲。胸がワクワクするような高揚感たっぷりの曲だ。EX-HR99のBluetoothの音は、「USB再生の音よりも良いかもしれない」と思ってしまった。もちろん、これは少々大げさな表現。ダイナミックレンジは少々狭まるし、個々の音の粒立ちも少々曖昧になるなど、聴き比べれば差はある。だが、思ったほどの落差はないし、ダイナミックレンジが狭まるぶん、音圧感が少し上がり、聴きやすいバランスになる。K2テクノロジーの効果もあるだろう。

どちらかというと、オマケ機能的なものかと思っていたが、これはかなり実用になる。これならば、スマホで音楽配信サービスを利用して、その音をBluetooth経由で再生といった使い方でも満足度は高い。今やちょっとしたオーディオ機器ならば当然のように備えるBluetooth機能を、EX-HR99では新採用としているが、音質的な検討なども厳しく行なっていたためではないかとさえ思ってしまう。かなりレベルの高い再生音だ。

最後に聴くのは、68曲目の「ヤマト Uボート風(新録音)」。ヤマトが戦闘に赴く場面でかかる曲だが、曲を聴いているとUボート風というフレーズもなかなか的を射ていると思ってしまう。打楽器によるリズムが小気味よく、管楽器によるメロディーが戦いの前の緊張感の高まりをよく伝えてくる。音色の鮮度の高い再現やリズムのキレの良さはBluetoothでもそのままで、実に気持ち良く音楽を響かせる。

実は筆者は、初期のウッドコーンの製品にはあまりいいイメージを持っていなかった。こちらの先入観もあるかもしれないが、木の響きや艶を強調したようなクセの強さを感じたのだ。それが、ここ最近になってどんどん音がナチュラルになってきた。昨年発売されたイヤフォンの「HA-FW10000」も、実売約18万円と高価だが、ウッドドームドライバーとは思えないナチュラルでリアルな音に驚かされた。

また、出音の勢いや生き生きとした躍動感など、ライブ感のある音が出るようになったことも、EX-HR99で一番感心した部分でもある。だから、コンパクトなシステムであっても小粒な印象にならず、なかなかにスケールの大きな音が得られる。決して大型スピーカーのようなラージスケールではないが、一般的な家庭で楽しむには十分なスケール感だ。こういう音楽そのものの魅力がダイレクトに伝わるような音の出方は、ウッドコーンシリーズの新しい魅力と言えるだろう。

「宇宙戦艦ヤマト2202 OST2」という、聴いていると映像が頭に浮かぶ音源だったこともあり、試聴している間も、リビングにある薄型テレビの両脇にこのスピーカーを置いて使ってみたいと考えていた。スピーカーが小さいので、テレビの高さに合わせて小ぶりなスタンドを用意してあげれば、画面と一体感のある鮮度の高い音が楽しめるのではないかと思っている。アナログ入力、光デジタル音声入力もあるので、テレビとの組み合わせも万全。コンパクトだから邪魔になることも少ないし、なかなかよい組み合わせになると感じた。当然ながら、TVシリーズやBDでヤマト2202の本編を見るのにもうってつけだ。

鳥居一豊

1968年東京生まれの千葉育ち。AV系の専門誌で編集スタッフとして勤務後、フリーのAVライターとして独立。薄型テレビやBDレコーダからヘッドホンやAVアンプ、スピーカーまでAV系のジャンル全般をカバーする。モノ情報誌「GetNavi」(学研パブリッシング)や「特選街」(マキノ出版)、AV専門誌「HiVi」(ステレオサウンド社)のほか、Web系情報サイト「ASCII.jp」などで、AV機器の製品紹介記事や取材記事を執筆。最近、シアター専用の防音室を備える新居への引越が完了し、オーディオ&ビジュアルのための環境がさらに充実した。待望の大型スピーカー(B&W MATRIX801S3)を導入し、幸せな日々を過ごしている(システムに関してはまだまだ発展途上だが)。映画やアニメを愛好し、週に40~60本程度の番組を録画する生活は相変わらず。深夜でもかなりの大音量で映画を見られるので、むしろ悪化している。