小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第988回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“手が届く動画カメラのスタンダード”へ、「LUMIX GH5II」

キットレンズを装着したGH5M2

矢継ぎ早に発表されるGHシリーズ

5月10日にパナソニック2020年度(2021年3月期)の連結業績が発表された。巣ごもり需要を受けて白物家電が好調だった一方で、黒物のカメラとテレビの苦戦が伝えられると、経済誌から一斉に「カメラ事業を手放すのでは」という予測記事が多く出された。シェア率もあまり高くないカメラは今後どうするんだ? というわけである。

しかし、5月下旬にはカメラ事業健在をアピールするように「LUMIX GH5II」(DC-GH5M2)の発売と、「GH6」の開発を発表。マイクロフォーサーズの動画強化モデルとして知られるGHシリーズは、2017年にGH5、2018年にGH5Sが登場して以来、2020年にボックスカメラのBGH1が出た程度で、後継機がずっとなかった。

フルサイズのSシリーズ立ち上げでリソースが取られていたのかもしれないが、その間にもオリンパスがカメラ事業を手放すなど、マイクロフォーサーズ陣営にはあまりいいニュースがなかったところだ。

そこに登場した「GH5M2」は、発売日は6月25日。店頭予想価格は、ボディが19万4,000円前後、LUMIX G VARIO 12~60mm F3.5~5.6レンズキットが21万9,000円前後となっており、ボディだけで当時30万円前後だったGH5Sからかなり安くなっている。また期間中購入したユーザーに対して、最大2万円キャッシュバックするという大盤振る舞いだ。

GH5シリーズのみ3モデルも出る事になったわけだが、GH5M2の立ち位置とはいかなるものだろうか。早速テストしてみよう。

ボディはほぼ変わらず

GH5シリーズが3つもあるとその差分が知りたいところだが、ボディ形状やボタン数に関しては共通である。中身は違うが同じ金型ということで、シリーズ化となったのだろう。

まずはセンサー等の基本スペックを見比べて、位置づけを考えてみよう。

そもそもGHシリーズは動画に強いシリーズだったわけだが、GH5Sはその中でもセンサーの画素数をあえて減らし、感度を上げるなど、動画に特化という「横出し」したモデルであった。一方GH5M2はセンサー画素数はオリジナルGH5とほぼ同じになっており、その点ではGH5M2はGH5直系の後継機という事になるだろう。

センサーは初代GH5にARコーティングを施したもの
RECボタンのデザインはGH5Sと同じ
画素数は上がったがサイズダウンした液晶モニター

GH5Sでボディ内手ブレ補正を内蔵しなかったのは、動画ユーザーには三脚利用者が多く、かえってボディ内手ブレ補正があると変な挙動になることから、あえて搭載していなかったという経緯がある。

動画フォーマットも対応幅が広い。DCI 4K撮影に対応しただけでなく、アナモルフィックレンズの使用を想定した6K 4:3撮影モードも備えている。ここでは煩雑になるため、4K以上の解像度のみ掲載する。

アナモルフィックレンズにも対応

ざっくりした分け方をすると、各解像度とフレームレートに対して、4:2:2,10bit ALL-I、4:2:2,10bit LongGOP、4:2:0,10bit LongGOP、4:2:0,8bit LongGOPがあるから掛け算でめっちゃ増えるわけである。撮影モードを一覧で選んでいくとややこしくて間違えてしまいがちなので、もう解像度、フレームレート、記録方式それぞれをプルダウン形式で組み合わせを選べるようにしたほうがいいのではないだろうか。あるいは使わないモードは選択できなくするといった機能が欲しいところだ。

またHDMI出力からは、録画記録中に4:2:2 10bitのC4K/4K 60p動画が出力できる。外部レコーダで記録するだけでなく、スタジオワークで大型モニターに繋いで映像をチェックする用途としても十分だ。

フォトスタイルとしては、HDR対応のためにV-Log Lにも対応する。また従来のシネライクD、シネライクVを改良したD2/V2が搭載されている。または波形モニター表示、スポット輝度メーター、動画向けコントロールパネル表示なども、BGH1で搭載されたものを継承した格好だ。画像処理プロセッサも、S5やBGH1で搭載されたヴィーナスエンジンである。

そう考えると、GH5Sが実験的に色々やってみたモデルで、BGH1が動画のプロ向けモデル、GH5M2はその結果良かったものを採用、プロセッサなど絵作り部分はフルサイズのSシリーズに合わせ、時代に合わなくなったAVCHDの廃止など、すでに開発済みの技術あれこれをGH5のボディに詰め合わせた、幕の内弁当的なモデルと言える。

ボディ内手ブレ補正が復活

では早速撮影してみよう。今回使用したレンズは、キットレンズの「LUMIX G VARIO 12~60mm F3.5~5.6」のほか、「LEICA DG SUMMILUX 25mm / F1.4 II ASPH.」、「LEICA DG MACRO-ELMARIT 45mm / F2.8 ASPH. / MEGA O.I.S.」の3本をお借りしている。

今回使用したレンズ。左から「LEICA DG MACRO-ELMARIT 45mm / F2.8 ASPH. / MEGA O.I.S.」、「LEICA DG SUMMILUX 25mm / F1.4 II ASPH.」、「LUMIX G VARIO 12~60mm F3.5~5.6」

さらに今回は、ボディ内手ブレ補正が復活し、動画向けには「手ブレ補正ブースト」や電子補正も使える。「手ブレ補正ブースト」は手持ちのフィックス撮影に効果があるということで、今回はあえて三脚を使わず、手持ちで撮影してみた。撮影モードは3,840×2,160/29.97p/400Mbps/4:2:2,10bit ALL-Iである。

手持ちフィックス撮影に効果を発揮する手ブレ補正ブースト
ズームレンズワイド端12mmでは当然安定して撮影できる
45mmでも安定したフィックス画像が撮影できる

水準器表示もできるので、手持ちでも水平は取りやすい。ワイド端ではもちろん安定したショットが撮れるのは当然として、45mm(35mm換算90mm)や60mm(35mm換算120mm)でもかなり安定したフィックス映像が撮影できる。もちろん、三脚を使った撮影よりも多少は揺れ感があるが、ビデオで言えばいわゆるショルダーカメラを使って撮影するぐらいの安定感は得られることがわかった。

三脚をセットするまでもなく、さっと滑り込んで構えただけで概ね使い物になるフィックス動画が撮影できるのは、ドキュメンタリーや報道などでは重宝しそうだ。

ただ、すべてのシーンでうまくいくわけではない。今回撮影した中では、あじさいの撮影で面白い現象が見られた。あじさいの動きに合わせてカメラが動いているが、これは揺れに合わせて筆者が動いているわけではない。大きな被写体があると、そこのエリアを固定しようと手ブレ補正が誤動作して、こうした映像になるようだ。

被写体の動きに合わせて手ブレ補正が動いてしまう

フォトスタイルは、海のシーンではダイナミックレンジ重視もシネライクD2で、森のシーンでは色乗りがいいシネライクV2で撮影している。

シネライクD2のトーン
シネライクV2のトーン
4K撮影サンブル。前半がシネライクD2、後半がシネライクV2

BGH1から搭載されたコントロールパネル画面は、モニターがなかったBGH1ではあまり意味がなかったが、本機ではタッチスクリーン上に出るので、パラメータをタッチして変更できる。現在のモード把握と変更が同時にできるという点で、ようやく本領が発揮できるようになった。

GH5M2のコントロールパネル画面

AFに関しても、エリアフォーカスのポイントが背面のジョイスティックに割り当てられている。画面タッチでもエリアは動かせるのだが、あと少しというところは指先ではなかなか思うところに行かないが、ジョイスティックではかなり細かく動かせる。

ジョイスティックがフォーカスエリア設定に割り当てられている

「仕切り直し」のライブ配信機能

GH5M2で注目を集めている機能が、ライブ配信機能である。過去を振り返っても、スマートフォンに画像伝送できたりライブストリーミングができるカメラはまあまああった。だが実際にはあんまり使われない傾向にあった。

それは、ちゃんと配信する人はスイッチャーなどを使ってマルチカメラでやるだろうし、イージーにやりたい人はスマホやタブレットのカメラでやってしまうからである。だが昨今はリモート会議などで多くの人がライブ配信のやり方を理解し始め、スマホみたいに背景がボケない絵ではイマイチと思う人も増えたところで、ミラーレスでダイレクト配信は改めて注目してもいいソリューションである。

とはいえ、カメラのUIを使ってURLやストリームキーを入力するのは現実的ではない。そこでパナソニックでは、以前からあるアプリ「LUMIX Sync」にライブストリーミングの“設定機能”を持たせた。これで設定したものをカメラに転送し、カメラから直接アクセスポイントに接続して、ダイレクトにライブ配信がやれるという仕組みだ。屋外の場合はスマホ経由でキャリア接続しての配信もできる。

カメラにも配信設定はあるが、これを手入力するのは非現実的

今回はβ版のLUMIX Syncを使っており、現時点で公開されているアプリにはまだ配信設定機能はない。おそらくカメラ発売からそう遅れずに公開になるはずだ。

GH5M2に合わせて公開予定のLUMIX Sync新バージョン

現時点では、YouTube LIVEとFacebook LIVEの配信に直接対応するほか、RTMP/RTMPSに対応した配信プラットフォームであればどのプラットフォームにも配信できる。ただYouTube LIVEの場合は、チャンネル登録者数が1,000人を超えた、いわゆる収益可能者でないと直接配信ができない。一般小市民はRTMP/RTMPSを使ってYouTube LIVEで配信するしかない。

そこで今回はRTMP/RTMPSを使って、YouTube LIVEで配信してみた。まずブラウザでYouTubeStudioのページに行き、ライブ配信用の準備をおこなう。必要なのは、設定ページにあるストリームキーとストリームURLだ。これをコピーして、LUMIX Syncが入っているスマホやタブレットにメールやメッセンジャー等を使って渡してやる。

PCのブラウザで配信準備

LUMIX Syncでは、「ツール」ページに「ライブ配信」に関する項目がある。ここにWi-Fiのアクセスポイント、配信画質、ストリームURL、ストリームキーを入力し、「カメラへ設定」とタップすると、これらの設定がカメラ側に送られる。

配信情報をコピペしてカメラへ転送

カメラへの転送が完了すると、アプリ側で「配信を開始」ボタンが現れる。これをタップすれば、カメラ側から配信がスタートするという仕組みだ。実際に配信してみたが、配信開始もボタンをタップしてあまり遅延もなくスタートするようだ。

GH5M2ライブ配信テスト

総論

GH5シリーズはLUMIXの中でもハイエンド機に分類される。だがフルサイズのSシリーズができたことで、存在意義が微妙になったのは事実であろう。マイクロフォーサーズの資産を今後どう使っていくかが問われてくる。そんな中でGH5のアーキテクチャを使った、BGH1のような動画専門の業務用機が出てきた。

他社のカメラはフルサイズでなければ、APS-Cである。APS-Cは、横幅はフィルムのスーパー35とほぼ同じサイズで、シネマ撮影にも耐えられる。それよりもセンサーの小さいマイクロフォーサーズのメリットをどこに見いだせるのか。

パナソニックでは、それを動画へ見出そうとしているということだろう。機能的にも満載で、シネマカメラのサブ機としての利用も考えられる。中望遠から望遠にかけてなら被写界深度もフルサイズとの差が小さいので、馴染みやすい。

一方でVloger向けのニーズも取り込める。先の小さな「G100」のように、先鋭化したモデルもできるだろう。このような「色々いじれるプラットフォーム」として、マイクロフォーサーズを生かしていくという方向にあるようにも思える。

GH5M2は価格的に最初からこなれており、これまでハイエンドは手が出せなかったという層にも買える。動画入門機としても、後々機能に不満が出るところは少ないだろう。

“手が届く動画カメラのスタンダード”、それがGH5M2という位置づけなのかもしれない。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。