小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第987回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

“ぺったんこ”でも音が広がるサウンドバー、ヤマハ「SR-B20A」

5月発売予定のヤマハ「SR-B20A」

3Dオーディオ流行の中で

どうやら今年は、サラウンドを通り越して3Dサウンドが熱い年となりそうだ。Amazon Music HDが3Dストリーミング配信を開始したのは2019年12月の事だった。しかし実際に3Dで聴ける製品はEcho Studioだけで、広がりを見せなかった。Appleも2020年10月に「空間オーディオ」という形で参入したが、コンテンツが豊富とは言えず、これも広がらなかった。

だが今年4月にソニーが360 Reality Audio対応のスピーカー2種を発売、Appleも6月からApple Musicで空間オーディオを導入する事になり、間口が大きく広がることになる。

テレビ向けサウンドバーも、早くからDolby Atmos対応など3Dサウンド再生可能な製品が出ていたところだが、5月中旬から発売のヤマハ「SR-B20A」は、廉価ながらバーチャル3Dサラウンド技術「DTS Virtual:X」に対応しているのが特徴。店頭予想価格は26,800円前後。

ヤマハ「SR-B20A」

面白いのは、Dolby AtmosやDTS:Xのようなガチな3Dフォーマットには非対応だが、どんなソースでも疑似3D化して聴かせる「DTS Virtual:X」を機能のメインに持ってきているところだ。したがってステレオソースならなんでもサラウンドで楽しめるという強みがある。

今では2chオーディオを表す「ステレオ」も、もとを正せば「ステレオフォニック」という立体音響を指す言葉だった。音を立体的に再現するというのは、蓄音機登場以降、オーディオ技術者の夢といっても過言ではないだろう。

SR-B20A + DTS Virtual:Xによるバーチャル3Dオーディオを、体験してみたい。

大口径を薄型で実現

箱からSR-B20Aを出してひと目見た時、「やられたなー」と思った。テレビ向けサウンドバーは、迫力ある低音を実現するために大口径スピーカーの搭載が必要だが、口径が大きくなれば高さが出てくる。

背が高くなれば、テレビ画面を邪魔してしまうだけでなく、テレビのリモコン受光部を隠してしまうので、操作性が著しく下がる。このため高級機になると、テレビの赤外線をバススルーする機構を備えるなど、苦労してきたところだ。

だがSR-B20Aでは、上下方向にも音響空間を展開する3Dサウンドの再生がメインなので、スピーカーを上向きに配置してある。この方法論なら、高さを抑えて大口径スピーカーを搭載できる。この発想は2019年の「YAS-109」からすでに採用されていたのだが、うっかりしていて気が付かなかった。SR-B20Aは、YAS-109の発想を引き継いだ後継機と言えるだろう。

高さを抑え、上に音を放出する設計は収まりがいい

ボディは横910mm、高さ53mm、奥行き131mmで、サイズとしてはだいたい43型テレビの幅と同じぐらいだ。昨今は幅が短いサウンドバーが人気だが、やはり3D感を出すにはそれなりの横幅が必要ということだろう。

内蔵スピーカーは、フロントの5.5cmコーン型×2に、2.5cmドーム型ツイーター×2、7.5cmコーン型サブウーファ×2の6スピーカー構成。周波数帯域は、フロントが160Hz~22kHz、ツイーターが7kHz~23kHz、サブウーファが55Hz~160Hz。両サイドやや後方に向けて、バスレフポートがある。アンプ部はフロントL/Rが30W×2、サブウーファはシングルの60Wとなっている。

両サイドにバスレフポート
メーカーロゴはセンターのLED部分のみ

入力端子としては、HDMI ARC×1、光デジタル×2。USBポートはアップデート専用となっている。対応フォーマットはPCM、Dolby Digital、DTS Digital Surround、MPEG-2 AAC。Dolby AtmosやDTS:Xといった上位フォーマットには対応していないので、eARC端子までは必要としない。このため、やや古めのテレビにも対応できるのがポイントだ。サブウーファ用のアナログ出力も備えている。

背面の入出力ポート
離れた位置に電源端子
背面に対応フォーマットのロゴ

加えてBluetooth 5.0にも対応しており、音楽再生スピーカーとしても利用できる。対応コーデックはSBCとAACで、aptXには対応しない。

背面には壁掛け用の穴も

サウンドモードとしては、ステレオ、スタンダード、ムービー、ゲームの4タイプがあり、それにDTS Virtual:Xによる3Dサラウンドをプラスできるという組み合わせだ。加えてセリフの明瞭度を上げる「クリアボイス」、低域を増強する「BASSエクステンション」も搭載する。

リモコンも見ておこう。入力ソース切り替えのほか、サウンドモード切り替え、クリアボイスと3Dサラウンドが強調されている。正面から見るとあまりわからないが、リモコンボディがゆるいアーチ型をしており、なかなか手が混んでいる。

シンプルなリモコン
実はアーチ型にカーブしている

操作結果はボディ中央のLEDライトで確認できる。またこのライト部分はタッチセンサーになっており、指で触れることで入力切替やボリューム調整ができる。

加えて専用スマホアプリ「SB Remote」が使える。リモコンで操作できる内容と同じではあるが、本体のLED表示だけで現在のステータスを把握するのは難しい。一方スマホアプリであれば、現在の使用中のモードが一覧で把握できるので、使いやすい。また部屋を暗くしても操作できるなど、赤外線リモコンにはないメリットがある。

専用アプリ「SB Remote」で現在のモードが一覧できる

予想以上に良好な DTS Virtual:X

では早速音を聴いてみよう。今回はテレビとHDMIケーブルで接続し、HDMI ARCでオーディオを伝送してみた。

映画としてはNetflixから、4Kと5.1ch対応の「ブレードランナー2049」を視聴してみた。ドルビーデジタルおよびDTSサラウンドは5.1chに対応するので、「3Dサラウンド」を使わなくても5.1chで再生される。だがセリフなどはどうしてもスピーカーの位置から聞こえてくるので、画面の位置と音声の出どころが合わない感じがする。

一方3DサラウンドをONにすると、セリフの音像が上に上がり、画面内から音が出る感じが強まる。音の空間も大きくなり、音のフィールドの中に包まれる感じがする。あくまでもバーチャル3Dなので、特定の音だけが上から、後ろから鳴るようなものではないが、音による没入感はかなり高まる。ぜひ照明を暗くして、画面に集中しながら視聴したいところである。サブウーファーは4段階で調整できるが、BASSエクステンションをONにすると+4ではドンドコしすぎなので、⼀般家庭で視聴するなら+2ぐらいがバランスのいいところだろう。

テレビ番組は、ニュースはほとんどがモノラル放送なので、3Dサラウンドによる効果は得られない。ただクリアボイスで人の声がぐっと聞き取りやすくなるので、ボリュームを上げなくても情報が聞き取れるところは大きな利点だろう。

ドラマや歌番組はステレオ放送なので、3Dサラウンド効果が得られる。バーチャル3Dというと、漫然と音を広げて中心が抜けて位相ズレしているようなサウンドを想像しがちだが、中心を残しつつ立体感を出してくるあたり、チューニングの上手さを感じさせる。

Bluetoothによる音楽再生はステレオで聴くのが前提だろうが、それだと音像が中央に寄り過ぎな感じがする。「3Dサラウンド」をONにすると、連動してサウンドプログラムが「スタンダード」へ変更され、バーチャル3D再生となる。

音の広がりが10倍ぐらいに増強されるが、中心が無くなる感じが強い。その場合は「クリアボイス」もONにして、ボーカルを中心に戻してやるといいだろう。イコライザーのような機能はないが、空間をいじる機能を切り替えて、気持ちよく聴けるモードを探すのはなかなか楽しい。サブウーファはBASSエクステンションをONにした状態でも+4ぐらいでちょうどよく、別途外付けのサブウーファは無理に必要ない感じだ。

総論

サウンドバーも今ではかなり認知度も上がり、また低価格化したことで、地道に売上を伸ばしている製品群だ。一方でオーディオの新フォーマットが出ると非対応製品が一気に陳腐化してしまうため、買い時が難しい商品でもある。

現在Dolby Atmos対応が一番熱いところだと思うが、Atmosのソースとしては今や映画よりも音楽のほうが増えている感がある。旧作もリマスターで3Dサラウンドになったりするので、“新作待ち”をしなくてもAtmosのソースは増えている。その点では、3Dフォーマット対応はスマートスピーカーやスマホ周辺機器のほうが展開が早いかもしれない。

一方で映像作品は、5.1ch配信はそこそこ多いが、まだ新作頼みのところがある。コンテンツが長尺なので、なかなか旧作がリマスターされるには時間がかかるだろう。その点では、DTS Virtual:Xで手軽にバーチャル3Dを楽しんでおく、というのが現時点ではいい選択である。価格も手頃だし、「そろそろサウンドバーがあってもいいか」と考えている人には、楽しめる1台だろう。

質感もよく、機能的にも十分な本機は、リリース記事のビューも結構高かったわけだが、さすがAV Watch読者はみんな目の付け所がいいなと思う。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。