小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第989回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

どう使う?“前後カメラ同時撮影スマホ”モトローラ「moto G100」

moto g100

久しぶりのハイエンド

スマートフォンのカメラは寄りと引きで2台のカメラを搭載するのがもはやデフォルトになりつつある。ハイエンド機になると3つ、4つと数が増えていくわけで、感覚としては16mmフィルム時代のタリーレンズ式カメラみたいな事になってきている。

モトローラのスマートフォンは、2017年にユニットが合体分離できる「Moto Zを取り上げたことがある。ハッセルブラッドのモジュールが使用できるとして、話題になったモデルだ。

しかしそれ以降、日本に入ってくるモデルは低価格のエントリーモデルが主流で、なかなかハイエンドモデルがなかった。しかし5月28日から発売が開始されたmoto g100は、久々にハイエンドと言ってもおかしくないモデルとなっている。とはいえ価格のほうはそれほど高くなく、公式ストアでの価格は58,800円。

前後のカメラで同時に撮影できるデュアルキャプチャ、ケーブル1本で大型ディスプレイに接続できる「Ready For」など、AV的にも面白い作りとなっている。久しぶりのモトローラ製スマートフォンを、さっそく試してみよう。

持ちやすい21:9ディスプレイ

最近のモトローラのスマートフォンは、虹色に光る背面塗装を採用する傾向がある。本機もその例に漏れず、カラーとしては「イリディセントスカイ」という、ブルーがかった虹色となっている。

青みのある虹色「イリディセントスカイ」

ディスプレイは6.7型、21:9の液晶で、解像度は2,520×1,080ドット。リフレッシュレートは90Hzとなっている。ボディ全体のサイズは168.38×73.97×9.69mm。横幅はGoogleのPixel4a(5G)と同じだが、縦に長いのでスリム感がある。

左がg100、右がPixel4a(5G)

側面の凹みは電源ボタンで、指紋センサーを兼ねている。上はボリュームだ。反対側にあるボタンはGoogleアシスタント起動ボタンとなっている。底部はイヤフォン端子、USB-C(USB3.1)端子、スピーカーがある。

ボディ右側のくぼみが電源ボタン兼指紋センサー
反対側のGoogleアシスタント起動ボタン
底面に端子類とスピーカー

プロセッサーはQualcomm「Snapdragon 870」で、Snapdragon 865+の後継として今年1月に発表になったばかりのチップ。プレミアムとまでは行かないが、ハイエンドと言って通用するSoCだ。メモリ8GB、ストレージは128GB、OSはAndroid 11を搭載。Nano SIMカードスロット2つを搭載する、5G対応モデルとなっている。

背面で目につくカメラは、一見すると4カメラシステムに見えるが、映像撮影用カメラは左縦列の2つだけだ。左上がメインカメラで、6,400万画素/F1.7の広角。下が1,600万画素/F2.2の117度超広角カメラで、マクロカメラ兼用となる。右側の2つは、上がAF用のTOF(Time of Flight)用センサー、下がTOF用レーザーモジュールである。これにより被写体の距離情報が取れるので、マスキングして背景だけぼかすといった処理が正確になる。

背面カメラは実は2つ

超広角/マクロ兼用カメラは周囲にリングライトが埋め込まれており、マクロ撮影の際には補助光として利用できる。

マクロ撮影時にはリングライトが使える

マクロ撮影時以外のライトは、カメラ部の下にあるダブルLEDだ。となりにある穴は、ズームマイクである。

通常撮影時のライトは下段にある

一方インカメラのほうも、メインとワイドのデュアル仕様となっている。内側がメインカメラで、1,600万画素/F2.2広角。外側が800万画素/F2.4の118度超広角カメラだ。ディスプレイ内埋め込みなので、いわゆるパンチ穴が2つ空いているのは珍しい。

インカメラも2つ搭載

バッテリーは5,000mAhで、他社ハイエンドモデルと比べても遜色ない容量だ。

多彩なカメラモード

では早速カメラから試してみよう。モトローラのカメラアプリは、デフォルトでは「動画」と「写真」の2モードしかないが、横の「三」メニューから拡張機能を選択できる。

撮影機能は多彩

まず写真性能から見ていこう。メインカメラの画角は公開されていないが、ほかのカメラと比較すると、35mm換算でだいたい24mm程度ではないかと推測する。標準カメラとしてはまずまず広角の部類に入るだろう。

メインカメラと超広角カメラを撮り比べてみたが、ホワイトバランス オートではメインカメラが寒色、超広角カメラが暖色に映るようだ。

メインカメラ
メインカメラ
メインカメラ
超広角カメラ
超広角カメラ

またコントラスト感や発色も超広角カメラのほうが良好のように見える。2つのカメラで色が微妙に合わない問題はどのスマホでも見られる現象だが、超広角側のほうが見栄えがするのは珍しい例だ。

背景をぼかすポートレートモードは、メインカメラのみ利用可能だ。ボケ具合も調整できる。TOFで測距していることもあり、マスクの輪郭は割とシャープに撮れている。細部を見ると少しズレも見られるが、パッと見気が付かない程度だ。

ポートレートモードによる背景ぼかし

インカメラも標準と超広角が使えるのは面白い。自撮りでグループショットを撮影する機会もあると思うが、これだけ広角なら3人ぐらいは余裕だろう。

インカメラ標準
インカメラ超広角

なおインカメラでもポートレートモードは使えるが、測距がTOFではないのでエッジ処理はフロントよりも不正確だ。その代わり超望遠側でもポートレートが使えるというメリットもある。

動画機能も見てみよう。メインカメラでは最大6Kでの撮影が可能だが、手ブレ補正が効くのは4Kまでだ。一方超広角カメラは、解像度は足りるはずだが通常撮影ではFHDまでしか使えず、フレームレートも30p止まりとなる。ただ、マクロカメラとしてなら4K/30pで使えるという、謎仕様となっている。

【メインカメラの解像度と機能の関係】

FHD4K6K
手ぶれ補正×
フレームレート30/6030/6030

なお色味は静止画のときと同じで、メインカメラは寒色系、超広角が暖色系となる。なお今回の動画サンプルは、4K/30pで撮影している。

動画メインカメラ
動画超広角カメラ

手ブレ補正は電子式で、ONにすると画角が一段狭くなる。補正機能はまずまず強いので、手持ち撮影でも問題なく使用できるだろう。

手ブレ補正のありなしで比較

AFはTOFなのでかなり正確だが、動画撮影時にフォーカス位置が変わる場合、ブリージングが目立つ。静止画では問題にならないのだが、なかなかスマホ内蔵レンズでブリージングを抑えるのは難しいようだ。

一方動画においてマクロ撮影ができると、なかなか使い出がある。このご時世ではなかなか屋外の広い場所を撮影する機会も減り、花や小物など手元にある小さなものを撮影する機会が増えていると思うが、そうしたニーズにマッチするだろう。

4K/30pで撮影

スロー撮影も可能だ。マニュアルでスピードをコントロールすることはできないが、クリップの最初と終わりがノーマルスピードとなる。スローとノーマルスピードの時間は自由に編集できる。

編集機能も豊富なスロー撮影
スローのタイミングを自由に設定できる

新しい撮影方法、デュアルキャプチャ

続いて本機の目玉機能の一つである、デュアルキャプチャを見てみよう。これまでインとアウト両方のカメラを同時に撮影するというソリューションは、ないわけではない。iPhoneでは「Double Take」といったアプリを入れれば可能だし、AndroidではHUAWEI P40 Pro 5G、OPPO Reno5 Aといったモデルが同様の機能を標準で搭載しているようだ。今後、うまいソリューションが見つかれば、ハイエンドモデルではこの機能が定番になる可能性もある、ぐらいのところだと思う。

本機の場合は、カメラオプションの中の「デュアル撮影」をタップすると、インとアウト両方のカメラが使えるようになる。動画でしか使えないようだが、面白い使い方を考えるなら静止画もそこそこニーズがあるのではないだろうか。あんまりやりすぎると360度カメラと変わらなくなってしまうが、うまい落とし所が欲しいところである。

デュアル撮影には、モードが2つある。一つは2画面割表示になるもの、もう一つはインカメラがPinPされた状態表示だ。PinPの位置やサイズは変更できる。両カメラとも手ブレ補正は使えないが、超広角の切り替えは可能だ。インとアウト両方超広角カメラを積んだ本機では、どちらも同じぐらいの画角にできるので、その点メリットが大きい。

2画面モード
PinPモード

さて両方写るということは撮影者も写るという事になるわけだが、例えばインタビューやレポート、レクチャー動画など、話者が重要になるコンテンツでは面白いものができるのではないだろうか。今回は筆者が個人的にやっているYouTube番組、「コデラ家のハタケ」のフォーマットで野菜の紹介動画を撮影してみた。

デュアル撮影による動画

普段のコンテンツでは筆者の姿は見えないのだが、撮影する側が写っていると、そっちも一つのコンテンツとして成り立つ面白さがあるように思える。

4Kテレビにサクッと繋がる「Ready For」

スマートフォンにディスプレイやキーボードを繋いでノートPCっぽく使うというソリューションは、これまでSamsungやHUAWAIなど一部のスマートフォンが採用しており、サードパーティからキーボード付きディスプレイなどが登場しているところだ。本機で搭載している「Ready For」も、同様の機能と言っていいだろう。

外部ディスプレイ接続にはUSB-CとHDMIの変換ケーブルが必要だが、HDMIがあるテレビやPCディスプレイならなんでも繋がるので、相手を選ばないというメリットがある。今回は4Kテレビに接続して試用してみた(画面キャプチャはHD解像度)。

ディスプレイに接続すると、g100側には4つの選択肢が表示される。モバイルデスクトップ、テレビ、ゲーム、ビデオチャットだ。まずはモバイルデスクトップから試してみる。

ディスプレイを認識すると、4モードの選択画面になる

まず東芝レグザ「40M510X」に接続してみたが、どうもデスクトップUI画面の端が切れている。テレビ側の信号情報を確認すると、g100側から解像度4,096×2,160の信号が出力されているようだ。別の4Kテレビ、TCL「43K601U」に接続してみたところ、こちらは端が切れずに問題なく3,840×2,160のディスプレイとして認識しているようだ。フルHDのテレビに繋いでも、問題なかった。ディスプレイとの組み合わせによっては、相手方の解像度を誤認識するケースがあるようだ。

デスクトップ画面ではPCライクなUIとなり、Bluetoothでキーボードとマウスを接続すれば、簡易的なPCとして利用できる。Androidタブレットと違い、各アプリは全画面表示にもウィンドウ表示にも切り替えが可能で、複数のアプリを開いて同時に表示することもできる。

複数アプリも同時に表示できる

マウスがない場合はスマートフォン画面がタッチパッドとなり、マウス操作が可能だ。ただ一般的なタッチパッドと異なり、画面は横長だがタッチ面は縦長と、操作範囲に違和感を感じる。操作できなくもないが、できれば別途マウスがあったほうが使いやすいだろう。

タッチパッドとして動作中のg100画面

「テレビ」モードでは、テレビ放送が見られるわけではなく、g100にインストールされた動画アプリに限定されたUIとなる。アプリ画面はデフォルトで全画面表示だが、ウィンドウ表示にも戻せる。その場合は、デスクトップモードとあまり変わらなくなる。

テレビモード

同様に「ビデオチャット」モードはインストール済みのチャット系アプリ限定UIに、「ゲーム」モードはインストール済みゲームアプリ限定UIとなる。ゲームは全画面表示となるが、元々縦画面用のゲームアプリは外部ティスプレイに繋いでも縦長画面であり、全画面操作する意味があまりない感じではあるが、普段小さい画面でしか見ていないゲームを大画面で見ると、なにか違ったゲームのように見えて新鮮だ。

ビデオチャットモード
ゲームモード

総論

iPhoneでは10万円超えも珍しくなくなった昨今ではあるが、Androidは価格バリエーションが広く、いわゆる格安スマホからプレミアムハイエンドまで選択肢が幅広い。スマートフォンにどこまで求めるかは、ユーザーの選択に任されていると言える。

そんな中、“プレミアムまではいかないが、ハイエンドではある”という落とし所で、価格的には6万円以下という本機は、狙いとしてはなかなかわかりやすいところである。

期待のカメラ性能は、色味が多少バラバラなのが気になるところだが、インカメラも2つというのは、自撮りする機会が多い方にはいいアイテムとなるだろう。マクロ機能も充実し、リングライトも装備しており、雰囲気のある撮影ができそうだ。

いわゆるPCモードの「Ready For」も、ケーブルさえあれば簡単にディスプレイ接続でき、画面を拡張できるのは面白い。ネット機能のない格安4Kテレビと組み合わせてストリーミングサービスを利用する、PCを買わずにPCライクな作業をするなど、一人暮らしの学生に使わせても面白いんじゃないかと思う。テレビに繋いでいる間は充電ができないのだが、そこは大容量バッテリーが物を言うわけだ。

カメラが多いスマートフォンとしてg100を見る向きもあるが、全機能を使いこなすとさらにコスパの良さが光る。プレミアムではないがちょうどいいハイエンド、そうしたポジションのモデルが、今後各メーカーから出てきそうだ。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。