小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1034回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

「ギャラタブ」が帰ってきた! Galaxy Tab S8+の完成度はいかに

「ギャラタブ」が帰ってきた

4月に販売が開始された「Galaxy Tab S8+」

2010年にAppleがiPadをデビューさせると、要するにデカいスマートフォンではないかと揶揄されたわけだが、そのスタイルはのちに多くのメリットがあることがわかった。そして翌年すぐにAndroid勢は様々なサイズや特徴を持つタブレットを登場させ、Windows PCもタブレット型となるなどの変化が起こった。

しかし日本市場におけるタブレット市場は、次第にiPadに収斂していき、国内メーカーはAndroidタブレットから撤退するところも出てきた。現在タブレット市場は、「iPadかそれ以外」であり、それ以外の部分に約40社がひしめき合うという格好になっている。

韓国サムスンも、スマートフォンでは大型機やペン対応、折り畳み型など様々な商品を日本向けに展開しているが、「ギャラタブ」と親しまれたタブレットはおよそ7年前に日本を撤退したままだった。

そしてこの4月、久しぶりに日本市場向けにタブレット製品が投入される。これが今回取り上げる「Galaxy Tab S8+」だ。価格は115,500円となっている。

S8シリーズはワールドワイドでは3モデルあるが、日本に導入されるのは真ん中の12.4インチ「S8+」と、14.6インチの「S8 Ultra」の2モデルのみ。S8 Ultraは6月下旬以降の発売ということで、今回はS8+をお借りすることにした。

タブレットはビジネスやコミュニケーション、学習など多くの用途に利用できるが、AV Watch的にはコンテンツがどれぐらい楽しめるのかが気になるところだ。今回はコンテンツ再生に絞ってテストしてみたい。

薄型に徹したボディ

現在個人的に使用しているタブレットは、Amazon Fire HD 8で、寝室にてニュースサイトをチェックしたり本を読んだりといった用途に利用している。12.9インチの初代iPad Proもあるが、寝転がって使うにはボディが重すぎる(713g)ので、次第に使わなくなっていった。

Galaxy Tab S8+は、外寸約185×285×5.7mm(縦×横×厚さ)で、ディスプレイサイズは初代iPad Proとほぼ変わらないが、重量が567gと軽くなっている。かといってFire HDのように樹脂外装ではなく、アーマーアルミニウムだ。十分片手でもてるが、うっかり顔のうえに落としたら痛い硬さではある。カラーはメタル感の強いグラファイトのみ。

熱さ5.7mm
初代iPad Pro(下)と比較
外装はアーマーアルミニウム

ディスプレイはアスペクト比16:10の12.4型有機EL「Super AMOLED」で、解像度は2,800×1,752ドット。高コントラストなのはもちろんだが、リフレッシュレートが最大120Hzというのも大きな特徴となっている。また画面内指紋認証にも対応する。

SoCはQualcomm「Snapdragon 8 Gen 1」で、Galaxy Tab史上最速だという。メモリーは8GBで、ストレージ容量は128GB。

カメラスペックはあまり詳細には公開されていないが、リアカメラは画素数13メガピクセルと6メガピクセルのデュアル。6メガピクセルが広角120度とあるので、35mm換算で焦点距離12~13mmぐらいだろうか。こちらがカメラ上の表示が0.5倍となっている。したがって1倍の13メガピクセルのほうは、だいたい24~26mmといったところであろう。

右から0.5倍、等倍カメラ、LEDライト

インカメラは画素数12メガピクセルで、フロントの等倍カメラよりも若干画角が広い。したがって35mm換算で18~20mm程度ではないかと思われる。

インカメラは中央部に。右側は照度センサー

スピーカーは左右に2基ずつあり、合計4スピーカーとなっている。背面には「Sound by AKG」の文字があり、AKGのチームがオーディオ設計に関与したことを示している。

左側に2つのスピーカー、中央部にマイク
右側の2スピーカー。中央にUSB-Type C端子

マイクは左と上の2箇所。照度センサーも左と上の2箇所だ。カメラ横の長いバー部分は、付属のSペンがくっついて充電できるエリアとなっている。右側のUSB-C端子は充電用と、イヤフォン端子を兼用する。専用のイヤフォン端子はない。

上部左に電源とボリュームボタン
右上にはmicroSDカードスロット

別売アクセサリとしては、キーボードとカバーが一体となった専用「Book Cover Keyboard」がある。角度調整も可能なスタンドも一体となっているが、重量が505gあるので、これを装着するとトータルで1kgを超える事になる。

全体的に広角が魅力のカメラ群

ではまずカメラ性能をテストしてみよう。フロントカメラは等倍と0.5倍のワイドカメラの2つあるが、4Kで動画撮影できるのは等倍の13メガピクセルカメラだけだ。他のカメラはHD解像度が最大となる。

とはいえ、静止画では6メガピクセルの0.5倍広角カメラの写りはなかなか良好だ。いわゆる抜け感のある写りとなっており、メインの等倍カメラとの色のズレも少ない。

背面の等倍カメラ(静止画)
背面の0.5倍広角カメラ(静止画)

メインカメラはパンフォーカス気味ではあるものの、高コントラストな風景もうまく丸めて撮影することができる。

高コントラストなシーンも全体がうまく収まっている(等倍カメラ)
発色のいい広角カメラ

動画撮影では、解像度設定がUHDになっていると0.5倍カメラへの切り替えができない。よって今回はHD解像度で撮影している。カメラはそれぞれ静止画よりも若干画角が狭くなり、解像感も若干眠くなるのは残念だ。トーンはコントラストが高く、若干べったりした色乗りの絵になる。

背面の等倍カメラ(動画)
背面の0.5倍広角カメラ(動画)
動画サンプル。HD解像度で撮影している

手ブレ補正も搭載するが、使えるのは背面の等倍カメラのみのようである。

手ブレ補正比較。背面の0.5倍、等倍、インカメラの順に撮影している

インカメラは、フロントカメラよりも画素数は下がるものの、動画では使いやすい画角となっている。撮影は顔からおよそ50cmの位置で、両手で持って撮影しているが、バストショットぐらいのサイズで撮影できる。ちょっと風があるにも関わらず、音声収録も良好だ。ビデオ会議等でも使いやすいだろう。

インカメラで撮影

良好なコンテンツ再生

サムスンは有機ELパネルの代表的なランドである。スマートフォンでもディスプレイの評価は高いが、本機はそれが約12.4型で120Hz駆動ということもあり、注目が集まっている。

ただあくまでも120Hz駆動はディスプレイの駆動速度であり、テレビのように画像処理エンジンで動画コンテンツが120fpsにアップコンバートされるわけではない。従って威力を発揮するのは、画面スクロールやゲームなどという事になる。

とはいえ、発色の正確さやコントラストの面で、有機ELのメリットは大きい。今回YouTubeで公開されている4K HDRコンテンツを表示させてみたが、解像度は4Kに足りないものの、かなり高精細な映像が確認できた。中でも特に赤の発色が素晴らしいく、液晶ディスプレイでは見る事ができない深い赤を楽しめる。

一方で全体の輝度はテレビのようにバキバキに光るわけではなく、最大輝度でもまぶしさを感じるというほどではない。HDRコンテンツの再生には輝度が足りていないのか、AmazonプライムビデオではHDRで表示されなかった。またNetflixはHDR対応モデルと認識されず、アプリケーションのインストールができなかった。せっかく有機ELを搭載しているので、アプリ側もHDRに対応してほしいところだ。

音声については、Dolby Atmos対応となっている。実際ON/OFFで比べてみると、あきらかに音の広がりが強い。「画面から音が出ている感」が薄れ、もっと奥から音が出ているような気がするため、映像のほうも立体感があるように感じられる。

通常コンテンツとゲームが別になっているDolby Atmos設定

気になるのが、スピーカーの挙動だ。横の上部にもスピーカーがあるのだが、どうもここから音が出ている気配がない。もっぱら下両脇のスピーカーから音が出ているため、両手でタブレットをホールドするとどうしてもスピーカーの位置を握ってしまう。握り方によって左右のバランスが壊れるケースもあるので、持ち方が難しい。また上のスピーカーはどのようなタイミングで使われるのか、今回の試用では確認できなかった。

せっかくなので音楽再生も試してみたい。Amazon MusicおよびApple Musicで空間オーディオトラックを再生してみたが、通常のステレオとは異なる音の広がりを感じることができた。ただ音質的には低音があまり出ておらず、かなりハイ上がりの音質となる。EQ設定で多少はカバーできるものの、この薄型と低音を両立させるのは相当難しいようだ。

EQ設定もあるが、低音の補正には限界がある

イヤフォンの音質については、Adapt Soundという補正技術が使える。ヘッドフォン/イヤフォンを装着し、聴力検査のように左右別々のビープ音を聞き分けていくことで聴覚カーブを測定し、それと逆EQを当てることで聴覚を補正する。

測定によって聴覚を補正するAdapt Sound

筆者は年齢の割にはかなり高周波も聞こえるほうだと思うが、それでもちゃんと補正カーブを使ったほうが、自分の好きな音質になる。イヤフォンによっても聞こえ方は変わってくるはずなので、イヤフォン別のプリセットを作っても面白いだろう。

総論

総論、というか完全に余談ではあるが、今回久しぶりに本格的なAndroidタブレットを触って、その進化に驚かされた。

レイアウト分割ができることは知っていたが、フロートウインドウでいくつものアプリケーションを同時に展開しておける。面積としては4つぐらいが妥当ではあるが、スマートフォン4つ分が同時に表示できるのは、ホームユースでは重宝する。

フロートウィンドウで複数のアプリを同時に表示できる

また「Samsung DeX」は、バーチャルデスクトップ的にPCのようなUIで表示してくれるモードだが、こちらもWindowsのように複数のアプリケーションを展開しておける。これまでGlaxyスマートフォンに搭載されてきた機能だが、タブレットになってより「使える機能」となった。

PCライクなUIで外部表示も可能な「Samsung DeX」

キャスト表示に対応したテレビにはワイヤレスで接続できるが、USB-CのHDMI変換アダプタがあれば、有線でもテレビに映し出せる。キーボードを繋げばさらにPCっぽく使う事ができる。

今回はAV機能に限ってテストしたが、スタイラスペンやDeXといった機能によって、1台何役にも使える機器になっている。サブマシンとしての実力も試してみたいところだ。

日本ではエントリーのS8が販売されないが、ディスプレイ面積と重量を考えると、日本市場にはS8+以上が最適という事だろう。その点でも、iPad Pro対抗という戦略が見えてくる。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。