小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1065回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

レーザー光源でより明るく。Ankerモバイルプロジェクタ「Nebula Capsule 3 Laser」

Nebula Capsule 3 Laser

ポータブルを超えられるか

プロジェクタの世界は、趣味や業務用として固定設置型のモデルが全体の6~8割を占めるわけだが、学校用途としてはどこにでも設置できるというところで、エプソンやリコーの小型ポータブル機が手堅く固めている。

一方趣味、というところまではいかないが、個人でワンポイントで楽しめるプロジェクタとして、「モバイル」の分野も見逃せないところである。ポータブルとモバイルの違いは、サイズ感は当然として、バッテリーを内蔵しているかどうかでもある。本体だけで2~3時間ちょこっと使えるという「ひとくち感」がポイントである。

こうした用途としては以前からAnkerのNebulaシリーズが頑張っている。このシリーズは2018年5月に「Nebula Capsule」という製品が登場したのが最初だが、同年8月に「Nebula Capsule Pro」を発売。以降、定期的に新製品を投入してきている。本連載でも、2019年7月に「Nebula Capsule II」、同年9月に「Nebula Mars II」を取り上げており、Ankerのモバイルプロジェクタは結構テストしてきたところだ。

そんなNebulaシリーズの新製品は、いわゆる缶ジュースタイプながらも光源にレーザーを採用した「Nebula Capsule 3 Laser」である。昨年12月から一般発売が始まっており、価格は119,900円。

Android TV搭載モバイルプロジェクタとしては初のレーザー光源搭載だという。円筒形モデルとしては2019年の「Nebula Capsule II」以来となる最新モデルを、テストしてみたい。

サイズはほぼ変わらず

円筒形モデルのNebulaシリーズは、デザイン的には大きく変わらないこともあり、サイズが多少大きくなってもわからないというメリット? がある。今回のCapsule 3 Laserは、高さ約167mm、直径約83mmで、前作より高さが17mm、直径で3mm太くなっているが、見た感じは大きくなった感じはしない。

サイズ感はほぼそのままでレーザー光源搭載

デザイン的にはこれまでのボディは全体がパンチンググリル構造となっていたが、今回は正面だけパンチングなしとなっており、レンズ回りに赤の差し色を使うなど、高級感のある作りとなっている。

レンズ回りに赤い差し色が入っている

オートフォーカス・台形補正機能も搭載しているが、これまでのモデルでは照射レンズの脇にAF用センサーを搭載していた。一方本機ではレンズの真下、やや離れた位置にセンサーがある。本体を設置する際にうっかり持ってしまう位置なので、AF動作の際に手で塞がないように注意したい。

ボディの下部にセンサー

重量は900gで、前作の740gより重くなっているが、所詮は1kg以下なので、片手で十分持てる重さだ。背面にはHDMI入力、充電用USB-C端子、ヘッドフォンや外部スピーカーを繋ぐアナログオーディオ端子がある。背面のボタンは、電源とBluetoothスピーカーモードへの切り替えだ。内蔵スピーカーはモノラル8Wで、背面から見て右側の下部にある。

外部入力にも対応する
背面

天板がコントローラになっており、タッチで操作できる。天面をちょんと触るとバックライトが点くので、ボタンの位置が確認できる。ただ基本的にはリモコンで操作するほうが操作性は良好だ。またスマートフォン用アプリ「Nebula Connect」を使用すると、スマホ画面をタッチパッド代わりにして操作ができる。

タッチ操作が可能な天板部分
スマートフォン用アプリ「Nebula Connect」を使用すると、スマホ画面をタッチパッド代わりにして操作ができる
Googleアシスタント対応のマイク付きリモコンが付属

さて注目のレーザー光源だが、輝度300ルーメン、寿命約25,000時間となっている。前作がLED光源で輝度200ルーメン、寿命約30,000時間となっていたので、寿命は8割程度になったが輝度が上がっており、円筒型シリーズの中では一番明るいモデルとなっている。

とはいえ、ポータブルモデル全体でレーザー光源採用モデルは大抵2,000ルーメンから5,000ルーメン程度の輝度を有しており、レーザー光源モデルとしては結構暗い部類となる。バッテリー駆動ゆえに仕方がないとはいえ、電源を繋げばもっとガーンと明るくなるといったシカケが欲しかったところだ。ちなみにボックス型の「Nebula Mars II Pro」はLED光源ながら500ルーメンである。

ディスプレイは0.23インチのDLPで、解像度は1,920×1,080のフルHD。前モデルは720pだったので、それよりはPCなどを繋いでPowerPoint等を投影するような使い方はやりやすくなっている。

なお投影距離とサイズの関係は以下の通り。

スクリーンのサイズ投影距離
40インチ1.06m
50インチ1.33m
60インチ1.60m
70インチ1.86m
80インチ2.13m
90インチ2.39m
100インチ2.65m
110インチ2.92m
120インチ3.18m

内蔵バッテリーによる連続使用時間は約2.5時間。充電時間も2.5時間だ。バッテリーを使っての投写に加え、付属のACアダプタを接続ながらの投写もできる。

【お詫びと訂正】記事初出時、“付属のACアダプタは出力30Wのもので、出力が足りない”という記載をしておりましたが、試用した機体に、通常付属するACアダプタと異なるものが付属していたためでした。通常品の充電器は45W出力となります。お詫びして訂正します。(2月2日16時)

OSはAndroid TV 11.0を搭載しており、Googleアシスタントにも対応する。またChromecast機能もサポートしている。

レーザーの発色を手軽に楽しめる

では早速使ってみよう。今回は日が暮れてから、室内で投影してみた。スクリーンは、以前リモート会議用の背景として購入した白い布である。コロナ以降、こうした背景とスタンドは両方合わせても1万円も出さずに買えるようになっているので、1セットあるとなにかと便利である。

リモート会議用の背景布を使って投影

まず電源を入れるとチャートが表示され、自動でフォーカスと台形補正が行なわれる。ただこのとき、水平が取れていなかったり手で持っていたりすると、本体を水平に設置するようアラートが出る。

起動時にAFと台形補正のチャートが表示される
台形補正が上手く行かないと、設置に関するアラートが表示される

まあちゃんと測定するにはちゃんとした設置が必要という気持ちはわかるのだが、こうしたモバイルプロジェクタは、ラフに設置して効果が高い、みたいなところがウリの商品なので、あまり厳密な設置を求めるのはどうなのかなと言う気がする。この動作感度は「詳細設定」で決められるので、「低い」に設定した方がいいかもしれない。

設置の動作感度は3段階に設定可能

自動の台形補正が上手く行かない場合、手動で補正することもできる。可変範囲は割と広いので、よほど斜めから照射しない限りは間に合うだろう。もともとどこにでも置けるのがウリなので、台形補正を頑張るより照射面と垂直位置に本体を置いた方が早い。

マニュアルの台形補正は補正範囲が広い

ホーム画面は、基本的にはGoogle TVなので、YouTubeを中心にAmazon Prime、ABEMA、Hulu、Disney+などの動画サービスが使える。ただNetflixだけは、インストールや操作が変則的だ。

詳しくはサイトに手順が書いてあるが、Google Playからはインストールできない。まず本体に「Nebula Play」アプリをインストールして、「ヒント」から必要なアプリをインストールする。その中のFile Explorerを使ってダウンロードフォルダにあるNetflix.apkを起動してインストールするという方法になる。

Netflixのインストールだけ特殊

またNetflix内の操作も、リモコンの上下左右キーの長押しリピートでマウスポインタを動かしていくという操作法で、他のサービスと操作感が異なる。まあ本体で見られるだけマシという見方もできるが、それならHDMI外部入力にFire TV Stickでも差し込んだ方が操作性はいいだろう。

Netflix上では指カーソルをリモコンで動かしていく

300ルーメンと明るくなったのがポイントではあるが、昼間はカーテンを閉めてもはっきり認識できるほどの投影はできない。遮光カーテンなどでほぼ真っ暗にできるなら話は別だが、周囲が明るいとAFセンサーもちゃんと機能しないので、昼間はまず使えないと思った方がいいだろう。

標準では輝度40%ぐらいになっているので、設定で100%に上げると、かなりはっきりする。またレーザー光特有の発色の良さがあり、照明が派手なライブステージ映像などはかなり見栄えがする。

今回は視聴位置から2.4m程度のところにスクリーンを設置したので、90インチ程度の画面で視聴できている。台形補正を使うとちょっと映像が小さくなりがちだが、本機にはズーム機能があるので、スクリーンギリギリまで拡大することもできる。モバイルプロジェクタの良さは、本体が近くに置けるので音量を上げる必要がないところだ。したがって大きな画面だが、音は大音量である必要がないところも、いいところである。

総論

これまでプロジェクタというと、家族で楽しむ的な方法に行きがちだった。だが子供が小さいうちならともかく、中・高校生ぐらいになってしまうと「さあみんなパパと一緒に映画見るぞー」と言っても誰もついてこない。嫁が哀れむような目線をくれるだけである。

しかしモバイルプロジェクタという製品は、自分の部屋や寝室のようなパーソナルスペースで使用する製品である。家族から切り離されて1人の時間を楽しむためのものであり、そのためのゼイタクな装置と呼べるかもしれない。

レーザー光源の採用により、従来製品よりも発色が良くなった。スクリーンとも呼べないような白布に投写しただけで、バチコーンとした色が出るのはすごい。またAFもかなり正確、解像度もフルHDに上がった事で、文字情報も読みやすい。

難点はやはり約12万円という価格の考え方だろう。これまでAnkerのレーザー光源モデルはホームプロジェクタ製品にもあったが、価格は17万円~25万円程度であった。その代わり輝度は2,000ルーメンと、かなり明るい。そこから比べればモバイルプロジェクタで約12万円でレーザーというのはいいように見えるが、輝度はかなり下がっている。

そもそもこれまでモバイルプロジェクタで10万円を超える製品がなかったのも、ドーンと価格が上がった感がある。

モバイルプロジェクタは、起爆しそうでなかなか来ない製品の1つだ。Nebulaはその扉をこじ開けるシリーズだと思っているが、ポイントは光源ではなく、輝度ではないかという気がする。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。