小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1083回
まだ生きとったんか! パナソニック新ビデオカメラ「HC-V495M」。これで十分なのでは…
2023年7月5日 08:00
お前まだ生きとったんか……
6月27日の記事を見て、驚いた方も多いのではないだろうか。パナソニックの2Kビデオカメラが新発売されるという記事である。
本連載は2000年にスタートしたわけだが、ビデオカメラは永らく本連載の花形であった。すでに登場していたDVカメラがDVDやHDD、メモリー記録となり、ハイビジョンの登場とともにHDVが登場、さらにはDVDでHDが記録できるAVCHD爆誕、そして4Kと、その変遷をずっと追い続けてきた。
だが動画カメラの趨勢がデジタルカメラへ移行し始めると、次第にビデオカメラを取り上げる機会が少なくなっていった。おそらく最後に取り上げたビデオカメラは、2017年12月のソニー「FDR-AX700」だと思われるので、かれこれ5年半ぐらい扱ってなかった事になる。
メーカーとしても明確にビデオカメラからの撤退を宣言したわけではないが、ラインナップとしては業務用機ぐらいになっているところは多い。唯一、コンシューマ機で毎年新モデルを投入しているのはパナソニックで、ある意味ニーズを総取りしているとも言える。
昨今のVlog向けカメラとして多くの動画カメラが登場しているが、ビデオカメラとはどういうものだったのか。そのおさらいという意味も含め、90倍ズームを搭載したというパナソニックの新作、「HC-V495M」で撮影してみたい。7月20日発売予定で、店頭予想価格は62,400円前後となっている。
コンパクトながら機能はぎっしり
パナソニックのコンシューマ機は、黒以外にも赤やエンジといった赤系のモデルも人気があったが、この6月に投入されたV495Mは黒のみである。4KではなくHD機なので、ボディは小型かつスリムに仕上がっている。
驚くべきはその軽さだ。ボディが樹脂製ではあるにしても、バッテリー込みで約304gしかない。こうした小型モデルはハンディ撮影が前提になるが、手持ちで長時間撮影しても疲れない軽さだ。
レンズは35mm換算で動画28~1,740mm/F1.8~4.2の約62倍。これにiAズーム領域を加えて90倍ズームとなる。最短撮影距離はワイド端2cm、テレ端2.2m。テレマクロ使用時はテレ端で1.1mとなる。またiAマクロ使用時はワイド端で1cmまで接近できる。センサーは1/5.8型MOS固体撮像素子で、有効画素数は220万画素。
静止画撮影は特にモードを切り替える必要もなく、動画の撮影中でもシャッターボタンを押せば写真が撮れる。記録はSDカードが使えるが、64GBの内蔵メモリーも備えており、SDカードを入れ忘れても撮影できる。動画と静止画の記録先は、内蔵メモリーかSDカードそれぞれに割り当てられる。
バッテリーは後部にむき出しで取り付けるスタイル。デジタルカメラではボディ内に内蔵するのが一般的だが、ビデオカメラは大型バッテリーも取り付けられるよう、むき出し型が主流である。
記録方式は60p撮影に対応するAVCHD 2.0と、MPEG-4、MPEG-4 iFrameの3タイプ。記録画素数などは以下のようになっている。AVCHDは全モード掲載すると煩雑になるので、最高画質のみを掲載している。
モード | 画素数 | フレームレート | ビットレート |
AVCHD:1080/60p | 1,920×1,080 | 60p | 28Mbps |
AVCHD:1080/60i(PH) | 1,920×1,080 | 60i | 24Mbps |
MP4:1080/50M | 1,920×1,080 | 60p | 50Mbps |
MP4:1080/28M | 1,920×1,080 | 60p | 28Mbps |
MP4:720 | 1,280×720 | 30p | 9Mbps |
iFrame | 960×540 | 30p | 28Mbps |
撮影モードは、表面的には6つに見えるが、パレットとSCNアイコンの中に多彩なモードが含まれる。
パレット内のモードは、AVCHDでしか撮影できない。SCNの中には、夜景や花火、美肌など、11種類の撮影パターンがある。
充電は同軸端子だが、付属充電ケーブルは先端がUSBになっている。このため専用充電器は持ち歩く必要はなく、モバイルバッテリーなどでも充電できる。
モニターは3型ワイドの46万ドットタッチ液晶。タッチは静電センサーではなく、圧力センサー式のようだ。このためタッチ操作は多少強めに押さなければならないが、手袋などしていても操作できるというメリットがある。
側面端子は、MicroUSB、MiniHDMI、アナログAV出力だ。USB端子は台形ではないので一見USB-Cに見えるが、実際にはMicroUSBである。
Wi-Fi機能も内蔵しており、スマホアプリPanasonic Image Appと連動して、スマホカメラと合わせてPinP撮影できたり、リモート撮影もできる。この機能については2016年に一度テストしているので、ご興味のある方はそちらを参照して欲しい。
久しぶりのビデオカメラの絵
では早速撮影してみよう。まずは注目のズーム倍率だが、設定としてはiAズーム領域で90倍、デジタルズーム領域になると最高500倍となっている。デジタルズームは単純拡大なので、コンテンツとして使用するには画質的に問題があるが、iAズームは超解像技術を使うことで画質劣化が押さえられる。今回はiAズームの90倍をテストしてみた。
ビデオカメラでワイド端28mmはかなり広いほうだが、そこから光学62倍までスムーズに動作する。そこから超解像領域に遷移するわけだが、ほとんど繋ぎ目もわからない。
テレ端では若干パープルフリンジも出ているが、それよりもこんな小さなカメラでここまで寄れるという驚きのほうが強い。これぞビデオカメラである。昆虫や野生動物などの撮影をしたい人には、垂涎の機能だろう。
センサーは小さいが、光学62倍もあればテレ端ではそれなりに背景もボケる。ただ、絞りが菱形なので、光源のボケにはその形が見えてしまう。マニュアルで解放にしても絞りは円形にはならないようなので、ボケを生かした表現はデジタルカメラには劣る。
今回のサンプルは、前半の海のシーンはMP4/50Mで、後半の森のシーンはiFrameで撮影している。iFrameはMPEG-4圧縮でもIフレームしか使わないので、昔は編集に有利ということでパナソニックが押していた時期もあるが、現在では解像度やビットレートの面で見劣りする。このモードはさすがに「古い」といわざるを得ない。
しかしズーム倍率がこれだけあると多彩な構図で切り取れるため、コンテンツとしてのクオリティは上がる。ワイド端も十分あり、以前のような「ビデオカメラは絵が狭い」という感覚はもう払拭されている。
Vlogカメラとしてはどうか
昨今、多くのメーカーがVlog用カメラに活路を見出そうとしているところだが、ベースとなっているのはデジタルカメラである。部材調達や設計ノウハウ面で一番開発しやすいプラットフォームなのだろうが、いざ動画を撮るとなると、それこそビデオカメラの再発明のような事になっている。
では本家であるビデオカメラは、Vlog撮影もできるのではないか。実際に自分撮りしてみたところ、レンズが広角ということもあって、カメラとの距離80cm程度でちょうどバストショットが撮影できる。音声モードはステレオとズームマイクが使用できるが、今回は近接しているのでステレオマイクで収録している。
音声レベルはオートだが、かなり高い音圧で集音できている。ただ、周囲の虫の声も相当入っているので、ステレオとはいえ、指向性はかなり緩いようである。風音低減機能もあり、屋外の集音でも使いやすい。
ただ、外部マイクが使えないのが残念だ。アナログAV端子はレガシー機材との互換性を考えれば必要なのかもしれないが、今風にモディファイするならここをマイク入力回路にするべきだろう。
手ブレ補正もテストしてみた。本機は手ブレ補正がONでもOFFでも画角が変わらない。またハイブリッド O.I.SのON・OFFでも画角は変わらない。今回はワイド端、ハイブリッド O.I.S ONで撮影している。
パナソニックのハイブリッド O.I.Sはそれほど新しい技術ではないが、歩きながらの撮影ではかなりの補正力がある。完全に手ブレをゼロにできるほどではないが、揺れ方に不自然さがなく、使いやすい。
総論
ビデオカメラが元気だったのは今から10年ほど前のことで、当時は運動会や入卒業式を撮影するという、ファミリー向け季節商品であった。今のように、自分を撮るというニーズはない。一方で、動画撮影市場はかなり拡大しており、スマホでは撮れない絵として、今だからこそビデオカメラが改めて見直されるタイミングではないかとも思える。
今回のV495Mは、そうした動きを見越した製品ではなく、どちらかと言えばレイトマジョリティ向けの製品ではある。だがワイド端28mmから90倍の範囲で滑らかに電動ズームできるといったレンズ設計は、HDビデオカメラ特有のものであり、4Kやレンズ交換式のデジタルカメラではなかなか実現が難しい部分である。
AVCHDも、未だ互換性のために必要な業界もあるだろうが、技術としての役割は終わった気がする。そもそも60iで撮影しなければならないニーズが、すでにコンシューマにはない。MP4に集中して、24、30、60pを高ビットレートで撮影できるようになると、また新しいニーズが生まれるのではないだろうか。
今なら、なにこれビデオカメラすげえじゃん、と感じる新しい世代がいるだろう。ここに向けて、アプローチすべきタイミングなのかもしれない。