小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1084回
デスクトップに最高音質を。FiiO初のデスクトップスピーカー「SP3」を聴く
2023年7月12日 08:00
ちゃんとスピーカーで聴きたい欲
いわゆる「ハイレゾブーム」は2015年頃から起こったが、この頃はハイレゾ再生で最も手頃なプレーヤーはPCであり、「デスクトップオーディオ」という文化が発生した。だがソニーがLDACを発表し、対応ヘッドフォン・イヤフォンやスマートフォンが登場した事で、次第にハイレゾの主戦場はヘッドフォン・イヤフォンへ移っていった。
逆に言えば今、机の上にポンと置いて聴くのにちょうどいいスピーカーがなくなっており、空間オーディオ対応のサウンドバーにそのポジションを奪われているところだ。だがシンプルに2chで音楽を聴きたい、あるいはビデオ編集用にちゃんと左右の定位がわかるモニタースピーカーが必要というニーズも伸びている。
昨今そういうニーズを汲み取って、各社から再び良質のアクティブ型デスクトップスピーカーが出始めている。この動きも気になっていたのだが、ちょうどFiiO初のアクティブスピーカー「SP3」が発売されるタイミングだということで、実機をお借りできた。6月23日発売で、店頭予想価格はペア49,500円前後となっている。
FiiOは日本の展示会等で積極的に開発中のモデルを出品しており、今回のSP3も今年4月の「春のヘッドフォン祭2023」で参考出品されていたものだ。これまでもデスクトップオーディオ用として「R7」やDACなどを製品化してきたところだが、SP3の登場で頭からシッポまで全部製品が揃った事になる。
日本でもファンを増やしつつあるFiiOの初となるデスクトップスピーカーを、「R7」と組み合わせて聴いてみよう。
小型だがめたくそ重たいスピーカー
SP3の外寸は、約163×120×132mm。ブックシェルフ型と言われるスピーカーよりも、1サイズ小さめである。ただ重量がかなりある。アンプ部が入ったR側が1,840g、セカンダリのL側でも1,660gある。両方合わせると3kg超えだ。
重さの理由は、エンクロージャが高剛性アルミダイキャスト素材だからであろう。一体成形ではなく前後で合わせ込む構造だが、共振抑制に大きな効果がある。音出し中にボディを触っても、振動はほぼ感じられない。金属ボディの2Wayモニタースピーカーと言えばGENELECを思い出すところだが、それより一回り小さく買いやすい価格のモニターという立ち位置で使ってくれということかもしれない。
ドライバは、3.5インチのカーボンファイバー振動板採用のミッドウーファで、ボイスコイルの内側と外側にマグネットを配置した高磁束設計。ツイーターは25mmのシルクドームツイーターで、特性は800Hz~35kHz。こちらのみ、金属製のメッシュカバーがはめ込まれている。スピーカーカバーはないので、小さいお子さんのいたずらには気をつけたいところである。
背面上部にバスレフポートがある。下側にあるミッドウーファの音を背面からS字型の音導管で繋ぎ、65Hzの低域特性を確保している。
アンプは、ツイーターとミッドウーファそれぞれに独立しているマルチアンプ回路となっている。クロスオーバーは3.4kHzで、ウーファーで30W、ツイーターで10W。左右合計で80Wとなるが、ACアダプタは約100W仕様のものが付属する。
背面を見てみよう。機能的にはR側に集中している。電源ボタンはプッシュ式で、出っ張りもあるので、正面からの手探りでもアクセスには支障ない。入力はRCAとステレオミニの2系統で、プッシュボタンで切り替える。
つまみはボリュームと、低音調整用のイコライザだ。低音レベルの可変範囲は-8dB~0dBとなっている。つまり右いっぱいがデフォルトで、左に回して下げるだけである。
L/R切り替えスイッチが付いているのは、気が利いている。設置場所の問題で、右側に端子類があるのは都合が悪いという場合は、左右を逆にすることで左側に端子を持ってくる事ができる。
底部にはカラーLEDが仕込まれており、背面のRGBボタンを押すことで24色に切り替えられる。底部だけ見ると派手だが、元々スピーカーを机に直置きすることは想定されていない。水平設置と仰角7度設置の2タイプのシリコンスタンドが付属しており、光はシリコンスタンドの隙間から少し見えるだけだ。
そんなに色があっても使わないよという意見もあるだろうが、入力を切り替えるとデフォルトの色に戻る。LINE1が白、LINE2が緑だ。入力ステータス表示の代わりと考えればいいだろう。
左右は付属のマルチケーブルで接続する。また音源接続用に、RCAとステレオミニのケーブルが付属する。
今回音源用として、同社「R7」も合わせてお借りした。デスクトップで使えるプリアンプ兼USB DAC兼ヘッドフォンアンプのような製品で、Androidを内蔵しており、各種音楽配信サービスも直接アプリをインストールして再生できるという優れものだ。
R7はパワーアンプがないので、パワードのSP3とちょうど合う。サイズはSP3と合わせるとピッタリ同じで、ラバースタンドの仰角まで同じだ。ある意味R7とSP3で、超小型ミニコンポとして完璧な組み合わせとなる。
ボディからは考えられない低音
まずはR7との組み合わせで音楽を聴いてみる。R7については、今年2月に山崎編集長のレビューが出ているので、そちらを見ていただく方が早いだろう。
R7側にもSP3側にもボリュームがあるが、SP3はフルボリュームにしておき、R7側で音量調整しながら、Apple Musicのハイレゾ音源をいくつか試聴してみた。
驚くべきは、その低音の量感である。10cmもないミッドウーファーだが、ドーンとした低音が出てくる。バスレフの設計もいいのだろう。デフォルトの0dBでは低音が効きすぎの感があるので、半分ぐらいに絞ってちょうどいいバランスとなった。これは部屋の材質や設置場所、音量などの条件にもよるので、実際に設置して決めるべきだろう。
強力なマグネットのおかげでドライバの応答性が高く、ベースは細かいニュアンスまでよく聴こえる。剛性の高いエンクロージャーの性能も相まって、にじみの少ない音だ。一方振動板のストロークはそれほど大きくないようで、キックのアタック感は浅めに感じられる。
一方ツイーターの表現力は良好だ。左右を80cmほど離して設置しているが、定位感、ステレオセパレーションも十分だ。省スペースながら、音楽再生ではかなり満足いくリスニングができる。
テレビの光デジタル出力をR7に繋いで、Netflixで映画「ターミネーター:新起動/ジェニシス」を再生してみた。こちらは7月31日で配信終了するので、未見の方はお早めにどうぞ。
ステレオ再生しかできないが、戦闘シーンの銃声や爆発音は低音が十分に出るため、テレビスピーカーで聴くのとは大違いである。セリフにも明瞭感があり、聞き取りやすいのが特徴である。
スピーカーの配置は、背の高さからテレビ画面の両外へ置くしかないわけだが、サウンドバーで擬似的に広げるのではなく、ナチュラルにステレオイメージが十分広く取れる。コンパクトにまとまりつつ、サウンドスケールは大きいというのはメリットである。
映像の編集にも有用だ。MacBook Pro 16インチのライン出力を直接繋いで、DTVシステムとして稼働させてみた。筆者の声で判断する限り、声の基音部分が弱くなり、音質が硬くなる傾向が見られた。ただそのぶん明瞭感は非常に高く、しゃべりの編集には使いやすい。
MA作業など整音処理に関しても、音のにじみが少なく分離感が高いため、位相管理がしやすい。DTMで音楽を作られる方なら、音の見通しがよく、エフェクトの効き具合なども確認しやすいだろう。
総論
SP3にはトーンコントロールのようなものは低域調整しかなく、スピーカーで音を作ることはできない。だが逆に音質が変えられないということはデフォルト値がはっきりしており、基準がどこだか分からないといったふらつきがない、という事でもある。
いわゆるリファレンスモニターになり得るかと言われると、そういった基準よりは音が派手なので、どちらかといえばリスニング向きである。小型ながら低域の不足感がなく、サイズに起因する物足りなさを感じることはないだろう。明るいトーンが好きな人には、ハマるサウンドである。
一方で本文でも触れたが、ここまでサウンドが整っていながら、打楽器のアタック感が大人しいように思える。この特性ならソフトロックを聴くには最高だが、もうちょっと胸を打つようなキック力があれば、言うことなしであった。
入力が2系統あり、入力切り替えもできる。ただ、すべてのコントロールが背面なので、正面からは手探りで操作する事になる。ボリュームコントロールをスピーカー側で行なう場合は、いちいち背面に手を伸ばす必要があるので面倒だ。スピーカー側は固定して、再生側で調整した方が楽だろう。
デジタル信号が直接入力できないが、R7が多彩な入出力を誇る万能選手なので、R7とSP3の組み合わせではあらゆる種類のソースを再生できるシステムとなる。FiiOはどうしてもDAPやDACといったデジタル系オーディオ機器メーカーというイメージがあるが、スピーカーを作らせてもかなり高いレベルであることがわかった。