小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第1099回

Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語

趣味系カメラの最高峰!? 「Nikon Z f」で動画を撮る

Z fとキットレンズNIKKOR Z 40mm f/2(SE)

大ヒットモデル「Z fc」の次は……

ニコンが「永遠のFマウント」からZマウントへと舵を切ったのが2018年。以降良質のZシリーズを輩出し続けるニコンだが、「Z fc」はそのクラシカルな容貌から大ヒットとなったのも記憶に新しいところだ。

一方で動画カメラとしては、プロの間では8Kまで撮れる「Z 9」が注目されたものの、他のカメラはあまり評価を聞かないところである。

10月27日より発売が開始された「Nikon Z f」は、「Z fc」のようなダイヤルコントロールを有しつつ、Z 9と同じ画像処理エンジン「EXPEED 7」を搭載したフルサイズモデル。店頭予想価格はボディ単体が30万円前後、NIKKOR Z 40mm f/2(SE)が付属する単焦点キットが33万円前後となっているが、ネット価格ではボディ単体で27万円を切る価格も登場している。フルサイズなのに意外に安いのもポイントだ。

予約購入した人にはすでに実機が届いているようだが、店頭在庫はほぼ完売しており、これから購入する方はしばらく待つことになるだろう。今回は発売前にこの人気モデルをお借りすることができた。あいにく筆者はZ fcを触っていないので細かい違いをお伝えできないが、動画カメラとしてのZ fの使い勝手はどうなのか、新鮮な視点で見ていきたい。

FM2インスパイアのボディ

APS-CのZ fcはブラックとシルバーの2色展開だったが、Z fはブラックのみとなっており、シルバーで感じられたレトロ感はあまりない。どちらもNikon FM2インスパイアデザインということもあり、ダイヤル、ボタンの配置等はほぼ同じだ。

精悍なイメージのボディ
モデルロゴは正面左肩に

グリップは高さがないが、カメラとレンズに重量があるため、深く握る必要がある。ボディ前面にはホワイトバランスに割り当てられたFnボタンがあるが、ついこのボタンごと握ってしまう。絶妙に良い位置すぎるという問題がある。

グリップは浅く、つい前面のFnボタンごと握ってしまう

特徴的な軍艦部には、背面左からISO感度、シャッタースピード、露出補正が並んでいる。絞りは小窓の表示で確認できる。シャッターボタンにはZ Fcにはなかったレリーズ用のネジ穴が付けられている。とはいえ常時フルマニュアルで撮影するわけではなく、従来通りフルオートからPSAMまでのモードも備えている。

ペンタ部を挟む大きなダイヤルがポイント

ISO感度は、ダイヤル上は100~51200とあるが、静止画撮影では上限が64000まである。一方動画では上限が51200のようだ。

動画のISO感度上限は52100

撮像素子は総画素数2,528万画素、有効画素数2450万画素のフルサイズCMOSセンサーで、5軸センサーシフトのボディ内手ブレ補正を備えている。動画撮影時には6Kで読み出した画像を4Kに変換して記録する。ただしこのオーバーサンプリングは最高4K30Pまでで、4K50P/60P撮影時には4K等倍読み出しになるため、画角がクロップされる。今回のサンプルはすべて4K30Pで撮影している。

動画撮影時のファイル形式としては、H.264/8bit(MP4)、H.265/8bit(MOV)、H.265/10bit(MOV)の3タイプが選択できる。このうちH.265/10bit(MOV)のみ、SDR・HLG・N-Logの選択ができる。またH.264/8bitはHD解像度専用となっている。

動画記録ファイル形式は3タイプ
H.265/10bitでは階調モードが選べる

撮影可能な画素数およびフレームレートは以下の通り。ハイフレームレートモードのような特殊撮影モードは特に用意されておらず、自分でハイフレーム撮影して編集時にスピードを落とす必要がある。

モード解像度フレームレート
4K UHD3840×216024, 25, 30, 50, 60
HD1920×108024, 25, 30, 50, 60, 100, 120

背面モニタは横出しバリアングルの3.2型TFTで、約210万ドット。ビューファインダは0.5型OLEDで約369万ドットとなっている。

横出し型のバリアングル液晶モニタ

左側には充電用のUSB-C端子、イヤホン端子、MicroHDMI、マイク入力がある。充電の仕様に関しては特に仕様表には載っていないが、USB PDでしか充電できないようだ。つまりUSB-A to Cでは充電できず、USB-C to Cが必須となる。本体に専用充電器は付属していない。外出先で本体充電したい場合は、モバイルバッテリーやアダプタの仕様に注意していただきたい。

端子類は左側のみ

底部にはバッテリーと、SDカードスロットがある。カードスロットはフルサイズとマイクロのデュアルとなっている。フルサイズセンサーのデジタル一眼カメラでマイクロUSBスロットを装備しているのはかなり珍しい。バッテリーは、動画撮影可能時間約90分となっている。

通常のSDカードのほか、マイクロSDカードスロットも備える

今回撮影用としてお借りしているレンズは、キットレンズの40mm f/2のほか、ズームレンズのZ 24-70mm /f2.8、FマウントアダプタのFTZ IIだ。これに私物のFマウントAF NIKKOR 75-300mm/f4.5-5.6を組み合わせて、24mmから300mmまでをカバーした。

手前がキットレンズ40mm f/2、奥左がZ 24-70mm /f2.8、右がAF NIKKOR 75-300mm/f4.5-5.6

表現力の高い動画撮影

本機の特徴はマニュアル撮影に特化した多彩なダイヤル装備にあるわけだが、動画撮影ではこれがどのように使えるのかがポイントになってくる。

AUTOおよびプログラムモードではすべてがオートになるわけだが、動画設定が4K30Pではシャッタースピードは1/30s以下にはならない。これはシャッター優先モードにしても同様だ。絞り優先モードでは、ISO感度とシャッタースピードが協働して露出を制御する。

マニュアルモードでは、シャッタースピードと絞りがマニュアルで調整できるが、ISO感度で露出追従させる事もできるし、ISO感度もマニュアルで設定する事もできる。ISOダイヤルの「C」は、メニューで設定したISO感度値に固定となる。

マニュアルモードでも、ISO感度を自動制御できる

ISO感度が100まで下げられるのはSDR撮影時のみで、HLG撮影時には最低感度は400、N-Log撮影時には800となる。日中の撮影ではNDフィルタは必須だろう。

今回のサンプルは、海辺と夜景はSDRで、森のシーンはN-Logで撮影し、メーカー提供のLUTを当ててSDR化している。ニコンはまめにLUTを更新するので、今のところD780以降のN-Log撮影可能モデルにはすべて専用LUTが用意されている。

4K/30pで撮影したサンプル

Z9ではProResでの撮影も可能だったので、メモリーカードがCFexpress Type BとXQDしか使えなかったが、本機ではH.265/10bit(MOV)がマックスなので、SDカードでも速度的には十分という事だろう。いくつかビットレートを測定してみたが、4K30pで高くても181Mbps程度であった。Z9のProRes 422 HQ 10bitからすれば、およそ1/10のビットレートである。

AFの動作モードも、動画撮影ではちょっとクセがある。他社のカメラではフォーカスモードがコンティニュアスAFでも、動画撮影時には常時AFが追従するものだが、本機の場合はそれだと追従しない。顔認識で被写体は認識しているのにAFが追従しないという、予想外の動きで困惑した。実はフルタイムAFに設定しないと、動画撮影時にAFが追従しないのである。まあモードの名前どおりと言えばそうなのだが、写真と動画を両方撮る人にとってはちょっとわかりにくい仕様のように思える。写真と動画では別々のフォーカスモードが設定できるので、動画のほうではフルタイムAF固定でいいだろう。

動画のAFは、フルタイムAFにしないと自動追従しない

AF動作は、ターゲットを認識すれば迷いはないが、フォーカスポイントの移動速度を最速にしても、昨今のカメラにしてはややゆっくりめだ。

動画のAF動作

手ブレ補正モードは、「ノーマル」と「スポーツ」の2モードがある。それに電子補正が組み合わせられるという設計は、Z9と同じだ。ノーマルに比べてスポーツの方が、多少フィックスめに粘る動きがある。従って補正限界を超えた際に、ジャンプするような動きが見られる。

手ブレ補正の組み合わせ比較

電子補正を加えるとかなりスタビライズはするが、補正した部分にブレゴマが発生する。動きながら撮るというより、手持ちでフィックスを撮るといった使い方を想定しているのかもしれない。上記サンプルでは、夜のシーンはすべて手持ち撮影である。

美肌効果とピクチャーコントロール

昨今はVlogで自撮り撮影もよく行なわれるようになっているが、同時に美肌効果も厳しくチェックされるようになっている。本機にも美肌効果モードがあり、オフ、弱め、標準、強めの4段階がある。

肌色はそのままで、ディテールだけを散らしていくという機能だが、髪のディテールは残したままま肌の部分だけが処理されており、強めでも違和感はない。

美肌効果OFF
美肌効果 弱
美肌効果 標準
美肌効果 強

スキントーンに関しては、「人物印象調整」というパラメータがあり、マゼンタ/イエロー軸と輝度軸の間で自由にトーンが選べるようになっている。選んだトーンは、3つまでプリセットできる。

人物印象調整パラメータと効果例:M3.0 輝度+3.0
人物印象調整パラメータと効果例:M3.0 輝度±0.0
人物印象調整パラメータと効果例:M-Y 0.0 輝度+3.0

ピクチャーコントロールはすでにお馴染みの機能だが、動画ではSDRモードでしか機能しない。静止画でも動画でも同様の効果が得られるのは、趣味の撮影ではポイントが高い。

オート
スタンダード
ニュートラル
ビビッド
モノクローム
フラットモノクローム
ディープトーンモノクローム
ポートレート
リッチトーンポートレート
風景
フラット

音声収録もテストしてみた。集音モードには可聴音域全体を録る「ワイド」と、音声帯域を中心に録る「ボイス」の2モードがある。しゃべりを集音するなら、「ボイス」の方が良好だ。風切り音低減機能は、音質への影響はあまりないが、風切りの効果としては限定的である。

音声収録モードのテスト

本機のマイクはペンタ部分の両脇にあるが、この位置だとどうしても風音を拾いやすいようだ。屋外で音声収録する場合は、別途マイクを用意した方がいいだろう。

総論

2021年にZ fcが登場したとき、これはそのうちフルサイズが出るのではないかと予想した人は多かっただろう。それが2年後に登場したということで、タイミング的にもちょうどいい印象だ。

購入者層は圧倒的に写真ユーザーになりそうだが、昨今は動画も撮れて当たり前の時代である。その点では、動画性能に絞って評価した本レビューは貴重な資料となるはずだ。

画質的には十分で、オールドレンズでも十分な解像感が得られるのはさすがニコン。センサーの都合で4K30P以上はクロップされるのは残念なところである。

フラッグシップZ9と同じ画像処理エンジンということだが、電子手ブレ補正の挙動などはZ9から変わっていない。画像処理エンジンが同じなので当然なのだが、もう少しソフトウェアのブラッシュアップがあっても良かった気がする。

動画記録モードにはそれほどバリエーションがあるわけではなく、AFの追従性などから考えると、機能的にはちょっと古いように感じられる。動画をメインに考えている方は、違うカメラを検討した方が良さそうだ。元々写真を撮る楽しみのためのカメラではあるので、そのあたりはまた別のカメラで、ということなのかもしれない。

フルサイズなのでボディもレンズもだいぶ重いが、ニコンはこうでなくちゃという方には満足度は高いだろう。

小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「小寺・西田のマンデーランチビュッフェ」( http://yakan-hiko.com/kodera.html )も好評配信中。