小寺信良の週刊 Electric Zooma!
第1019回
8K撮影までこなす! ニコン新フラッグシップ「Z 9」を試す
2022年1月27日 08:00
予告通りのフラッグシップ
ニコンの新フラッグシップの開発がアナウンスされたのは、2021年3月だった。10月にはティザー動画が公開、そして12月24日に発売された。市場想定価格はボディのみで62万8,650円となっており、競合他社フラッグシップよりもかなり安い事になる。いや60万円超えのカメラは十分高いのだが、これ以上うえがないフラッグシップとしては、破格である。
そんなこともあってか、Map Cameraの12月ランキングでは堂々の2位。ほぼ予約だけでここまで行ったという事であろう。ただ、予約殺到と半導体不足等により、すでに1年待ちという話も聞かれるところだ。12回払いで買ってもモノが届く前に払い終わる可能性もあるわけである。在庫があるショップではなんと80万円以上というプレミア価格となっており、まさにZ 9狂想曲の様相を呈している。
これまでニコンは、キヤノンやソニーに比べると、あまり動画撮影で言及されることが少なかった。流れが変わったのは、フルサイズミラーレス「Z6」の登場あたりからだろう。そんな中でZ 9は、開発発表時に「静止画・動画ともに過去最高の性能を発揮することを目指す」と名言されていたとおり、動画性能としては8K/30p記録に対応するなど、フラッグシップらしい仕上がりとなっている。
静止画のレビューは数多く出ているところだが、動画性能をレビューしたものはまだ少ないようだ。発売から1カ月経過してしまったが、早速その実力を試してみよう。
かなり大型のボディ
まずボディだが、静止画撮影用として縦撮りにも対応できるよう、縦位置グリップ一体型となっている。そのためカメラボディとしてはほぼ正方形になっているが、ボタン配置に余裕ができたことで、非常にボタンの多いカメラとなっている。重量はバッテリー込みで約1,340g。これにレンズ重量が加わる。
Zシリーズなのでミラーレスなわけだが、物理シャッターを廃して電子シャッターのみにすることで連写性能を上げるなど、大胆な割り切りもある。
センサーはフルサイズのCMOSセンサーで、総画素数5,237万画素、有効画素数4,571万画素。動画の最大解像度は7,680×4,320/30pだが、今後のファームアップで8K/60pのRAW記録に対応するとしている。現在予定されている動画関係のアップデートは以下のとおり。
- 8K UHD/60p(12bit)のRAW動画の内部記録
- 動画Mモードでの低速シャッタースピード設定
- 動画MモードでのISO感度1/6EV設定
- 動画情報一覧表示
- ウェーブフォームモニター表示
- 動画撮影中の赤枠表示
- 動画撮影中の拡大表示倍率の切り換え
軍艦部の構成は比較的シンプルで、左肩にモード他の切り替え、右肩は表示バネルがある程度。シャッター部の一番奥に動画撮影ボタンがある。縦位置のシャッターまわりには動画撮影ボタンはない。
縦横兼用ボディなので、ジョイスティックは2つ、設定ダイヤルは裏表合わせて4つもある。ちなみにどれも縦横位置関係なく、いつでも使用できる。
ビューファインダーは1.27cm/0.5型 QVGA OLEDで、約369万ドット。モニターはタッチ式のTFT液晶で、約210万ドット。視野率はどちらも100%。
液晶ヒンジは、上に90度、下に45度だが、右方向にも90度曲がる。左方向へは約20度ぐらいだろうか。
動画記録はProRes 422 HQ 10bit、H.265 10/8bit、H.264 8bitの4タイプ。このうちH.264はHD解像度しか使えず、ProRes 422 HQは4K/60pまでしか使えない。オールマイティに使えるのはH.265だ。記録フォーマットと解像度の関係は以下の通り。
- | ProRes 422 HQ 10bit | H.265 10/8bit | H.264 8bit |
7,680×4,320 24~30p | × | ○ | × |
3,840×2,160 100~120p | × | ○ | × |
3,840×2,160 24~60p | ○ | ○ | × |
1,920×1,080 100~120p | ○ | ○ | × |
1,920×1,080 24~60p | × | ○ | ○ |
最高ビットレートは、H.265 10bitで約400Mbps、H.265 8bitで約370Mbps, H.264 8bitで約50Mbps。ProRes 422 HQ 10bitは仕様にないが、実際に撮影して測定したところ、約1,760Mbpsであった。使用可能なメモリーカードは、CFexpress Type BとXQDで、最長録画時間は125分となっている。
設定可能な階調は、SDR、N-Log、HLGの3タイプ。これはProRes 422 HQ 10bitとH.265 10bitのみ選択可能だ。HLGはディテール設定も装備しており、かなり踏み込んだ設定も可能だ。N-Log、HLG撮影時にモニターのみLUTを当てるビューアシスト機能も搭載している。
なお本機はAPS-CサイズのDXレンズも使用できるが、DXレンズ使用時は8K撮影ができない。
手ブレ補正は、レンズ側の光学補正、ボディ側のセンサーシフト補正、電子手ブレ補正が使える。ただし8Kとハイスピード記録時には、電子手ブレ補正は使えない。
端子類はすべて左側で、マイク・イヤフォン端子の横にLAN端子まである。HDMIはフルサイズで、充電や転送用のUSB-C端子を備えている。肩部分にはフラッシュ用のシンクロ端子とリモート用10ピンターミナル。右側はメモリーカードスロットだが、その下にケンジントンロック用の穴もある。
バッテリーの「EN-EL18d」はZ 9に合わせて新規開発されたもの。D4~D6で使われていた「EN-EL18c」と同型で、本機には旧タイプも利用できるが、バッテリー容量が異なる。
8Kでも十分戦える解像感
では早速撮影してみよう。今回お借りしたレンズは「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」と、Z 9と同時発売のマウントアダプタ 「FTZ II」をお借りしたので、ついでにフィルム時代のNikkorレンズも併用してみる。
まず手ブレ補正だが、ボディ内手ブレ補正にはノーマルとスポーツの2タイプがある。加えてレンズの光学補正と電子補正も加わるわけだが、8Kおよびハイスピードでは電子補正は使えなくなるので、画角が変わることになる。電子手ブレ補正はかなり領域を使うようで、70mmで比較した場合、1段違うぐらいの差となる。
手ブレ補正の組み合わせで比較してみた。撮影した限りでは、ノーマルモードとスポーツモードの違いは見た目にははっきりしなかった。電子補正はたしかに強力ではあるが、映像が上下に歪む傾向がある。使いどころには気をつけたいところだ。
AFに関しては、元々顔認識機能もあるので、顔認識さえしていれば外すことはない。一方途中から顔がフレームインする場合は、AF感度がデフォルトではちょっと遅いように思える。最速にすれば問題ない速度だが、デフォルトは遅めという印象だ。
今回の撮影では、お借りしたズームレンズとオールドレンズを撮り比べている。ズームレンズは2018年発売だが、最近のレンズならではの明るさと解像感の高さがある。一方オールドレンズは、解像感はもう一歩だが色味が深く、独特の柔らかさがある。
サンプル動画は、8K/30p/HLGで撮影したものを、4K/30p/SDRに変換している。せっかくの解像度をもったいないと思われるかもしれないが、現実問題として8K解像度のテレビは普及しているとは言えない。だが8Kを4Kにリサイズすることで解像感を上げたり、拡大切り出ししたりといった使い方では、8Kで撮影する意味はある。最終的にはHDのコンテンツでも撮影は4Kで行なうほうがメリットがあるのと同じである。
なお動画サンプル中単焦点レンズで撮影したものは、焦点距離と撮影時のF値のスーパーを入れてある。スーパーがないカットはNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sで撮影している。
夜間撮影は苦手?
動画のISO感度は、SDRだと64まで下げられるが、HLGでは400、N-Logでは800が最低となる。したがってN-Logで昼間に開放ぎみで撮影したい場合は、NDフィルタなしでは絞りが開けきれない事になる。
一方明るい方では、最高がISO 25600で、さらにその上にHi0.3~2.0の4段階で増感するモードも備えている。そこでいつものように夜間にISO感度を上げながら撮影してみた。今回はレンズの都合で、絞りF4、シャッタースピード1/30である。
サンプル動画では、最高のISO 25600ぐらいでもそれほどノイズは目立たず、使える絵に見えるだろう。だが実際4Kテレビで元映像をモニターしてみると、ISO 3200ぐらいですでにランダムノイズが目立つ。暗部だけでなく、明部のノイズも気になるところだ。センサー感度としてはそれほど良くないものと思われる。
だがサンプルのように、8K撮影したものをHD解像度までシュリンクするだけでノイズはかなり下がるので、ノイズリダクションを使わなくとも使える絵になる。一方で8Kもしくは4K解像度で夜間撮影は、かなり厳しいだろう。
撮影した映像はパソコンへ転送することになるわけだが、メモリーカードを抜いてカードリーダーで読む方法以外にも、本体を使った様々な転送方法を実装している。
まずUSBケーブルを接続しての転送は、今回M1 MacBook Airで試しているが、単にUSBケーブルで接続しただけではマウントされない。別途「Nikon Transfer 2」というツールをインストールして、このツールから転送する必要がある。
LANケーブルを使って、パソコン内に立ち上げたFTPサーバへ向かって転送するという方法もある。ただこの方法は、常時LANケーブルに接続しているようなスタジオワークに限られるだろう。
無線LANを使う方法もある。これはパソコン側に「Wireless Transmitter Utility」というアプリをインストールして、カメラとペアリングしておく。以降はカメラがWi-Fi圏内に入っていれば自動的に接続するので、カメラで再生したい画像を選んで「i」ボタンで転送、という流れだ。自動転送にも対応するが、これは静止画のみで、動画は自動転送されない。
総論
プロ業界でもZ 9は注目されているところだが、昨年11月のInterBEEではニコンが出展しなかったため、実機を確認できた人は少なかっただろう。現在も品薄であることから店頭在庫もほとんどなく、今後触れるチャンスは2月24日から開催される「CP+」ぐらいと言うことになりそうだ。
Z 9が動画フィールドで注目される理由は、動画撮影者にもニコンファンが多いものの、なかなか自信をもって動画フィールドで戦える強いモデルが出てこなかったというところが大きい。だがZ 9は現時点でも8K/HDRでの撮影が可能で、今後8K UHD/60pのRAW記録もアナウンスされていることから、「4Kの次」のカメラとして期待されている。
レンズや本体の画作りは、カリッと高解像度でクセがない。撮って出しでもグレーディングでも、どちらでもイケる。レンズ資産もZマウントのほか、純正マウントアダプタでFマウントが使えるため、フィルム時代からDシリーズまで、ほとんどのレンズが使えるのも強い。
品薄という弱点さえなければ多くの人にお勧めできるカメラなのだが、こればっかりは……というところである。