“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

 

第410回:NAB 2009レポート その2

~ 大量の新製品を投入するSONY ~



■ ラスベガス名物?

 会場2日目となる本日は、もはやラスベガス名物となったモノレールのトラブルで、多くの来場者が朝から足止めを食らっている。その分ホテルと会場を繋ぐ無料シャトルバスは大変な混雑で、場合によっては2本見送らなければ乗れないような状況。いくら来場者が少ないとはいえ、数万人規模の人間が一斉に移動するわけだから、足の不便さは想像以上に深刻である。

 それはさておき、本日は、プレスカンファレンスでは詳細が触れられなかったSONYの新製品をご紹介しよう。


■ 拡張を続けるXDCAM HDシリーズ

 日本はHDのワークフローが確立するのが早く、テープベースのHDCAMが主流だったが、米国では近年テレビ放送番組制作がHDにシフトしたことから、XDCAM HDの需要が急速に高まっている。特に昨年、4:2:2に対応したXDCAM HD422シリーズのリリース以降、日本でも急速にXDCAM HDに乗り換えるところが出てきている。

23.97pモード搭載、放送局向けの「PDW-F800」

 まずカムコーダだが、XDCAM HD422ラインナップで廉価ながら23.97pモードを持つ「PDW-F800」が発表された。これまでいわゆる24pのカメラは、主にハリウッドを中心とした映画産業の需要が高かったわけだが、そちらで使う機材はある意味スーパーハイエンドクラスである。PDW-F800は、もう少し下の放送局レベルでの市場を意識したモデルだ。発売時期は今年7月で、価格は441万円。

 放送で24pなど使うのか、という疑問もあるかと思うが、北米ではスポーツは伝統的に24pで撮影するのがセオリーなのだそうである。また日本でもスポーツ協会などの記録映像は、未だフィルムで撮影していおり、これももちろん24コマであることから、このあたりの需要が見込めるということのようだ。

 さらに言えば、過去時代劇などはフィルムで撮影されていたが、制作コスト圧縮のためとハイビジョン化に対応するため、ビデオ撮影になるケースが多かった。そのため妙に生々しい=安っぽい江戸時代が出現したりして、違和感を持つ人も多かったことだろう。このカムコーダの登場で、フィルムっぽい時代劇の世界が戻ってくることを期待したい。

 冒頭に23.97pと書いたが、これは24pのドロップフレームモードであることを意味する。逆に本機では、ノンドロップフレームの24pは撮影できないことから、シネマ用途ではなく放送用途オンリーであることがわかる。

 またカメラ本体にEthernet端子を持ち、DHCPやAutoIP、UPnPに対応するため、FTPクライアントなどを使ってファイルを転送することもできる。

 「PDW-HR1」は、フィールドでの編集を意識した、XDCAM HD用ポータブルエディタ。従来この手の製品はPanasonicがDVCPRO時代に得意としてきたし、SDのみのXDCAM時代にもラインナップが存在した。やはりPCではなくハードウェアベースの編集機は、現場からの要望が強かったという。映像ファイルを直接編集してしまうわけではなく、あくまでもクリップリスト(プレイリスト)編集ではあるが、リニア編集ライクな操作性で上書きや割り込みなどノンリニア的な編集手法を実現している。

XDCAM HDのポータブルエディタ「PDW-HR1」

SxSスロットは右側に2つ

 ただ「Insert」モードがVTR編集におけるRipple Assembleを表わすなど、リニアとノンリニアの両方をやる人にとっては用語上の混同がある点が気になるところだ。またA/Vスプリット編集には対応しないほか、完成したクリップリストを1本のMXFファイルに書き出す機能もない。ニュースやスポーツなど、即時性が要求される現場ほか、ディレクターがオフライン編集に使うといった用途が想定される。こちらも今年7月発売予定で、価格は220万5,000円。

 「PDW-F1600」は、ハーフラックサイズのXDCAM HD422対応レコーダ。単体で録画機として動作するだけでなく、編集用コントローラ「HKDV-900」に複数台接続することで、再生機と録画機に分けてのリニア編集ができる。こちらはクリップリスト編集ではなく、本当に0フレーム精度でのダビング編集であるのがポイント。したがってA/Vスプリット編集なども可能。

実編集が可能なポータブルレコーダ「PDW-F1600」編集用コントローラ「HKDV-900」

 バッテリでの駆動も可能なほか、ディスクヘッドがデュアルなので、高速ファイル転送が可能。こちらも今年7月発売予定で、価格は325万5,000円。


■ ついにカムコーダが登場したHDCAM SR

 テープ記録ながらMPEG-4をコーデックに採用し、RGB4:4:4記録を実現するなどスーパーハイエンドな用途で必須となったのが、HDCAM SRである。フォーマットが登場してすでに10年あまり経つが、最高ビットレートが880Mbpsという仕様があまりにもハイエンドすぎて、カムコーダをなかなか作ることができなかった。

 しかし今回HDCAM SRとして初めてカムコーダが登場した。「SRW-9000」は、標準でフルHD4:2:2 10bit/24p/30p/60pの撮影が可能なカムコーダ。オプションボードを追加することで、4:4:4記録、1~60コマのバリアブルフレームレート、上位カメラであるF23、F35と同じ広大なミックレンジを実現するS-Logにも対応する。すなわちオプションボードまで入れれば、これまでのカメラで可能だった収録が、オールインワンで可能となる。

XDCAM SR初のカムコーダ「SRW-9000」カムコーダではあるが、かなり大型

 

「HKSR-5105」装着でHDMIとi.LINK端子が拡張できる

 これまで日本では、CM撮影などでF23やF35が使われてきたが、今後はより機動性の高い撮影が可能になるとともに、機材費の圧縮も期待できる。プリズムの特性など、上位カメラに対して若干違う部分はあるが、価格的にはかなり安くなるはずだという。発売時期は09年内で、発売価格などは未定。

 また、すでにリリースされているHDCAM-SRのプレーヤー「SRW-5100」用として、HDMIとi.LINK(HDV)の出力を可能にするオプションボード「HKSR-5105」も展示されていた。今後普及するであろう1080/60pとハイビジョン3D映像のプレビューなどが、民生機器で幅広く可能になる。発売は今年夏頃を予定している。



■ 久々にビデオスイッチャーの新モデルを投入

低価格マルチフォーマットスイッチャー「MVS-6000」

 ながらくスイッチャーはMVS-8000シリーズ一本だったが、小型・低価格のマルチフォーマットスイッチャー「MVS-6000」が登場した。発売は今年5月で、価格は2M/E標準装備のみで約2,400万円。

 構成としては、最小で1M/E、最大で2.5M/Eまで、0.5M/E刻みで選ぶことができる。ただしコントロールパネルは8000シリーズのようにモジュール別に分かれないので、発注時にどうするか腹を決める必要がある。また1080pには対応しない。

 プライマリ入力数は最大49チャンネル、出力24チャンネル。各M/Eは4Keyerで、DMEは標準で2DのDME 2chが標準装備、オプションで3DのDMEを2ch内蔵可能。ただしWarpエフェクトは単体DMEよりも一部機能が限られる。

 また「MVE-9000」や「MVE-8000A」のような外部DMEも接続可能で、MVS-6000のパネルからコントロールできる。

 ターゲットとしては、これからHD化を進める国やスポーツ中継用OBバンへの搭載を想定しているが、プラグインエディタにも対応しており、ポストプロダクション用途としても使うことができる。


■ 充実のモニター群

 世界中からブラウン管製造工場が消えて以来、標準のマスターモニターの入手が不安視されていたが、数年前に液晶マスターモニターBVMシリーズをリリースして以降、SONYの液晶モニターは多彩な展開を見せている。

新方式のマスターモニター「BVM-L231」

 新型マスターモニターとしては、「BVM-L231」を発表した。BVMシリーズの液晶モニターは、ブラウン管での表示に近づけるため、インターレース表示対応や黒挿入による残像低減など、様々な技術の固まりである。

 今回の新モニターは、これまでパネル上で行なっていた黒挿入を、LEDバックライトの減光によって実現する「バックライトブリンキング」方式となった。パネルでの黒挿入に比べ、黒の沈みが深く、より幅広い階調表現とダイナミックレンジが実現できるという。

 旧モデルからインターレース表示も可能なカスタムメイドの液晶パネルを使っている関係から、L231も従来モデルと同じパネルを使っているが、将来的にインターレースが不要な24p、30p、60p専用のモニターであればいろんなパネルが使用可能であり、プロ用モニターの低価格化やラインナップ拡充、さらにはコンシューマ用途にも一役買いそうな技術だ。

32インチ「PVM-L3200」はNABで初披露

 業務用モニターのラインナップとしてはLUMAシリーズがあるが、BVMとLUMAの中間に位置するのがPVMシリーズだ。今回のNABでは、23インチの「PVM-L2300」、32インチの「PVM-L3200」を出展した。

 バックライトはLEDではなく冷陰極管だが、ITU-R BT.709準拠の色域を実現する「ChromaTRU」を搭載。また3Gの信号も受けられるため、1080pの映像制作にも対応する。

 さらにフロントベゼルにあるマスクを外すことで、WUXGA(1,920×1,200ドット)のモニターとしても使える。DVI-I入力も備えているので、PCに接続すれば、ノンリニア編集時にも、ソフトウェアの編集画面上でテレビモニターに近い色味が確認できる。編集時に色をいじる機会が多い仕事の場合は、PCとビデオ兼用モニターとして、1台あると便利だろう。

 また業務用LUMAシリーズとしては、9インチのマルチフォーマット対応「LMD-940W」が登場した。こちらもChromaTRU対応で、バッテリ駆動も可能。

 入力はHD/SD-SDIはもちろん、HDMI端子も備え、3G(1080/60p)入力にも対応する。発売は今年6月で、価格は29万9,250円。

フロントベゼルを外したところ。中のパネルサイズはWUXGAなので、PCモニタとしても利用できる9インチのLUMA、「LMD-940W」

 SONYには他にも、製品レベルではないが参考出品された面白いものも多い。そちらはまた後日ご紹介することにしよう。

(2009年 4月 22日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]